鬱これ:財前提督シリーズ   作:駒由李

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まだ実装されてない友軍艦隊って何だろうと思いながら。提督の陰謀が進行中 漣やっぱかわいいです。飛鷹達の艦載機の整備担当についてはそういう人がいたら嬉しいなと思って……個人的にはお爺ちゃん希望。熟練の陰陽師的な


信じていないのは

 漣の手から渡された通信文。至近の基地の司令官から出されたというそれに目を落とした彼は、最後まで読み終えると深々と溜息を吐いた。

「ウチの艦隊をひとつ貸してくれ、だそうだ」

「へぇ、いいじゃないですか御主人様。周りの基地の人達にウチの実力がやっと認められたって事でしょう」

「良くいえば、そうなんだろうけどね」

 いって、手紙を置く。そして抽斗から便箋と封筒を取り出した。同時に漣に、彼の部下のある士官を呼ぶように命令する。飛鷹達の使う「艦載機」の整備班主任の、式神使いの老兵だ。整備班は彼ひとりである。2つの行動の意図が読めずに首を傾げる彼女に、万年筆の蓋を取った司令官は事もなげにいった。

「第3艦隊に行かせる。そんで、あの人を艦隊の管理官としてつける。ああ、上にもこの事を打診しておこうかな。あそこと敵対してそうな派閥に」

「え、そんなの1番艦で充分じゃないですか。向こうにも同じ『艦』がいる訳だし、話は通じるでしょう。それに上層部って」

「あのね、漣。俺は向こうを信用してないの」

 手紙を書き付けるその手は淀みない。そしてその円らな目は胡乱そうに、司令官は出されてきた通信文を見遣った。それは、階級だけでいえば彼より上位の人物から出されたものだ。大きな目は、彼を幼く見せる最大のパーツ。だがその目が、今だけは少し研ぎ澄まされている。手紙の向こうの正体を見極めるように。

「ウチは戦果こそ、ゆっくりとしか上げてないよ。でも経験値を積んでるから全体的に皆、パラメータが高い。それは君達が負けてもいいから帰ってきてくれたのを繰り返した証だ。それを『お願い』なんていいながら上官である事を笠に着て、美味しいところどりをしてくるような奴は信用出来ないね。そもそも、あそこの基地は評判が悪いし」

「あぁ……物資の横流しとか癒着とか黒い噂を聞きますねー。まっくろくろすけですよ」

 漣も頷く。彼女が聞いたのは、演習相手の船艦の女性達からだ。普段は基地の外に出る事があまりない彼女達の情報源が演習だ。口伝えに噂で伝わってくるものばかりなので不正確ではあるものの、深海棲艦に関しての情報はそれなりに正確だ。中には上官にはいえないような事を愚痴り合う事もある。その中には「余所には内緒にして欲しいんだけど」という前置きで、とんでもない情報が潜んでいる事もあった。司令官はペン先を走らせながら、淡々と話す。

「そういう訳だ。手紙には大量にある資材を融通してくれるとかいってるけど、あそこの子達に何をさせてるのやら。上官である事を笠に着て、ウチの子達に無理をさせられたら困る。ついでだから彼に内情の偵察もさせる」

「そんな密偵みたいな真似をさせて大丈夫ですか、あの人お爺ちゃんだし」

「ご老人だから向こうも油断するよ。無理をして向こうを刺激するな、とはいっておくし。ひとまずは、ウチの子達に変な事をさせない為の抑止力だから」

「そーですか……何もないといいですけど」

 ひとまずは納得したように、手紙のインクを乾かすように扇ぐ漣は頷く。机の上で、漣の兎が耳を手入れしていた。それを尻目に、司令官は口に出さなかった事を思う。艦載機整備班の人間は皆、式神使いだ。多くが神道関係者で、その性質ゆえに人手は少ない。そして、艦載機として以外の形で式神を行使する事が出来ると知っているのは本人達ぐらいなものだ。たとえば式神に鳥や虫に扮させ、盗聴や盗撮を行う事も可能なのだ。今でさえ半ば強制的に軍に従事させられているのだ、この事を知られれば諜報員として更に危険な目に遭わさせられるのは目に見えていた。軽空母の彼女達――彼女達は兵器として特化しているゆえに、艦載機という形でしか行使出来ない――ですら知らない事実。それを彼が知っているのは、偏に彼の養父と、この基地の整備班主任が同期の友人だからだ。正確には、友人だった養父は知らない。それを新しい司令官に教えてくれた整備班主任は、年輪の刻まれた目元。その眼差しで、孫のような年の彼にいった。

『司令。貴男のしでかそうとしている事は間違っているとは、私にはいえません。ただ、おひとりでなさろうとするのだけは、おやめなさい。失敗すれば貴男だけではない、多くの艦達を巻き込む。……いざという時は、私に押し付けなさい。老兵は去るのみですから』

『しかし』

『どうか、先行き短い年寄りに、後腐れなくあの世に逝けるように機会をください。私は、あの時。貴男のお養父上の力になれなかった。せめて、彼が守った、貴男の力になりたいのですよ。自己満足ですが、そうしないと死んでも死にきれない』

(「ついていけ」っていう指令を出せば、あの人は俺の意図をわかってくれるだろう。向こうに行って式神を行使した方が確実だ……予めいっておけば、無茶はしないだろうけど)

「まあ、何もなければ、単純に恩を売れるけどね。そもそも正規の話じゃないから、何があってもこっちに分があるよ。その辺のフォローは任せなさい。勝てば官軍っていう素晴らしい諺が、世の中にはあるからね」

 その事実は胸に秘め、司令官は不敵に笑む。幼顔の、普段は人の好い程に温和な彼が、那智などに「とんだ狸だ」と評される所以だ。漣は「さすが御主人様。口八丁手八丁、舌先三寸で白を黒と言いくるめられる人ですもんね! 頼もしい!!」と笑う。

「ははははは、もっと褒めてくれてもいいんだよ。そういう訳だから、彼と第3艦隊に通達は宜しく」

「あれ、もう決定でいいんですか」

「第3艦隊を送りはするよ。管理官は、ウチの子達を向こうにとって運用しやすいようにする、飽くまで『厚意によるおまけ』だからね」

 眼を瞬く漣に、人の悪い笑みを浮かべる。しかし、それは次第に、労るような優しいものへと色を変えた。

「それに根回しもしておくから、もし向こうの黒い噂について不安を訴える子がいたら俺が必ず助ける、ってフォローしといて」

 その変化があまりに急だったから、漣は戸惑う。駆け引きから、人情への移行。理性と感情の変遷。彼女は戸惑いながらも頷いて、そして、いう。苦笑しながら。

「それにしても、管理官をついていかせた本当の意図がばれたら、信用してないっていう事が丸わかりですね」

「いっそばらしてしまいたいところだ。仕事がやりづらくなるから、そういう訳にもいかないけどね。俺も、これから余所から人手を借りる事があるかも知れないし、その時の為にもコネは作っておかないといけないのが辛いところだ」

 万年筆の蓋を閉める司令官はあっさりとしたものだ。そして溜息を吐く。

「本音をいえばね、どうせ俺は上から問題児扱いされてるんだ。貫いてやりたいよ。上に信用されたくて君達に無理をさせるのは嫌だしね。それに君達と信頼関係を築いてこそ軍に貢献出来るんだよ」

「……御主人様は、私達とは信じ合いたいのに、同じ軍の仲間の事は信じられないんですね」

「彼らに、信じて欲しいとも思ってないからね。それに、漣」

 彼はいった。あまりに何気ないように。

「君達の事をそうだとは思っても、軍の皆を仲間だと思った事は、ないよ。友人はいたし、今はそれなりに信用出来る人達も出来たけどね」

 嘲りも怒りも、そこにはなかった。無関心と呼ぶのが相応しい、それは無表情だった。

 漣は、彼の中に根差している何かに気付いた。だが、それの正体を見極める事は、今の彼女にはまだ難しい。だから、代わりに、思った事をいう事にした。彼の、そのあまりに寂しい言葉に対して、感じた事を。封蝋の準備をする彼に、漣は兎を抱き上げながらいう。僅かに、労るように微笑んで。

「御主人様。私達を信じてください」

「……?」

 顔を上げる、彼は不審そうだ。ワックスのケースを片手に見上げる。そんな彼に胸を張って、漣はいう。

「貴男が育てた艦隊ですよ。そんじょそこらの奴にどうにか出来るとお思いですか。貴男の小賢しさや小狡さを受け継いでるんです。ちょっとやそっとのトラブルだったら自分達で何とかしちゃえますよ」

「……うん、そうだね」

 同意する、司令官の顔は、それでも苦渋が満ちていた。漣はそれを見て、少し、彼の蟠りの正体が見えた気がした。

 不安なのだ。信じ切れない。どんな事が起きるかわからない。だから常に、この人は怯えている。誰より、自分の采配を信じていない。自分を信じていないのだ。原因はわからないが、この軍の中において、彼は常に不信を抱いていた。だから、漣はいった。

「私達は御主人様を信じてますよ、口では何といってても。だから、司令も信じてください。お互いに」

「……優しいね、漣は」

 直ぐには頷かなかった、彼の微苦笑に、傷を感じた。それでもいつか通じると、漣は信じた。

 信じたかったのかも知れない。

 

 

(信じて貰う為には、自分が信じる事。それがあまりに遠く)

 

「あの艦隊が来たら、入れ替われ。お前はここの生活から脱せられるんだ。良い取引だろう」

 

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