次回は結構話が進む予定です。
スキルの話をしよう。
この世界におけるスキルとは、冒険者カードによって習得可能な特殊技能のことを言う。
スキルは使用すれば使用するほどにスキルレベルが上がっていき、そのレベルに応じて効力や成功率などが上昇していく仕組みになっている。魔法なら威力が高くなる、支援魔法なら上昇値が上がるといった具合だ。
スキルを習得するのは簡単だ。冒険者カードに記されているスキルを『習得しよう!』と意志を持って指でなぞるだけだ。
ただし、力の源泉やそのスキルの仕組みなどの知識を持って行うと魔法は効力が上がったり、きちんと修行をして剣術を修めた者の剣士スキルの威力は普通より高くなったりと、修行や研究は普通に効果を発揮する。何もレベルを上げてスキルを習得するだけで成長できるわけではないのだ。
スキルを覚えるためには『スキルポイント』が必要だ。強力なスキルほど習得コストが高く、逆に初級魔法のような簡単なものはコストがとても低い。
スキルポイントを得る方法は二つ。一つはレベルアップにより手に入れる方法で、もう一つはクラスを決める際に割り振られる初期ポイントだ。潜在能力値というか、才能がある者はレベルを上げる前から初期ポイントが人より高い。
例えば冒険者にしかなれないほど潜在能力値が低いカズマの初期ポイントは10。
それに比べて、女神であり最初から全ての上級職になれるほどの能力を秘めたクリスの初期ポイントは800を超えている。
例が極端すぎるので言っておくと、標準的な初期ポイントは20〜30であり、最初から上級職になれる者であれば70〜80の初期ポイントを持っている場合もある。初期ポイントが60を超えていれば文句無しで天才認定されるであろう。
カズマはその初期ポイントで、取り敢えず腐らなそうな片手剣スキルと、盗賊スキルである
このスキル群は酒場で酔っ払った先輩冒険者に教えてもらったものだ。受付嬢が言っていた『幸運は盗賊職以外死にステータス』という言葉を聞いていたカズマは、唯一高い幸運を活かすためには盗賊職のスキルを極めよう、と思った訳である。
クリスは取り敢えず全てのプリースト系スキルと
長々と話をしたが、結論から言うと……
「アレだ。このパーティには火力が足りない」
あのあとカエルたちから命からがら逃げかえり、今は自分たちが持ってきたカエルの唐揚げを食べている。淡白だが、鶏胸肉のような味がして結構美味しい。
「確かに、それは私も実感してますけど……」
「だろ?酒場で教えてもらった俺の片手剣スキルだけじゃジャイアントトード5匹なんて無理ゲーだ」
クリスは一応近接攻撃スキルである
「じゃあ、仲間を募集しますか?それなら募集用の掲示板に……」
「いや!その必要はない。既に目星は付けてあるんだ」
「……?」
冒険者が仲間を募集する際に使用する掲示板、仲間を探している冒険者はそこに張り紙を貼るのが一般的なのだが、カズマはある可能性を危惧し、これを避ける。
(クリスは俺のメインヒロインだ!他の野郎なんざパーティに入れる訳ねーだろ!)
そう、自分より有能なパーティメンバーの男がいれば、クリスがそっちに靡く可能性がある。それを阻止しようと言うのだ。
それに、候補がいると言うのは本当だ。
カズマは酒場の端の方に座る少女を指差した。クリスもそちらを見る。
そこには端正な顔立ちのお下げの女の子が居る。赤い服にマントを羽織り、杖を持っているその姿はまさに魔法使いといった感じだ。
「……ほら、あそこに魔法使いっぽい女の子がいるだろ?実はあの子、この一ヶ月でギルドに登録したんだが、まだパーティを組んでなくてずっとソロで活動しているんだよ。しかも何故か掲示板に募集をかけてないんだ」
「……なるほど、確かに私たちのパーティメンバーにぴったりな人のようですが……」
「どうした?」
「カズマさん、なんでそこまであの子の事を知っているんですか?ギルドに登録した時期まで……
あの、なんで目を合わせないんです?ちょ……ま、待ってください……」
「……」
「……」
クリスの提案で、まずはあの少女を観察してみることに。クリスは俺があの子を自分の好みだけで決めたのだと疑っているようだ。
だが、そんな考えはすぐに覆される事になる。
それでは、彼女の1日を観察してみよう。
馬小屋で目を覚まして身支度を済ませると、冒険者ギルドへ向かう。もしかしたら挨拶をしてくれるかもしれないと考えながら、すれ違う冒険者たちをチラチラと見つつ受付のカウンターまで歩き、今日も誰1人声をかけてくれなかったな……と肩を落としながら1人でクエストを受ける。
彼女が今日受けるのは
クエストから帰ってきた彼女の服は汚れていた。攻撃を受けた訳ではないが、攻撃を避けた時などに転んだらしい。
服を着替えて酒場に向かい、注文を聞きに来た店員に夕飯を注文する。1人で4人掛けのテーブルに座りながら夕食を食べ、偶に近くの席に座っている冒険者たちの話に耳を傾け、別に話に入っている訳でもないのに、彼らが笑うと彼女も釣られて軽く笑ったり、同意を求めるネタに頷いたりしていた。
酒を頼もうと思ったが、自分から話しかける勇気が無いので店員が近くに来るのを待つ。その間に、話をしていた彼らは席を立ってしまった。それを少し寂しそうに見た後、食器を片付けに来た店員が運よく彼女に話しかけてくれたのでクリムゾンビアーを一杯注文する。
それを1人で煽り、軽く酔ってきても変わらずそこに佇んでいる。もうBGMとなるような話をしている冒険者も居ないので、只々無表情で少しずつジョッキのクリムゾンビアーを……
「ちょ、暴れんなクリス!今行ったら俺らがストーキングしてたのがバレる!」
「離してくださいカズマさん!もう……もう……!早く彼女をパーティに加えてあげましょうよ!なんで今まで放っておいたんですかこの鬼畜!」
「俺だってここまでとは思ってなかったよ!よく1人でクエスト受けてるなーってだけで!」
見ているだけで涙が出そうになる彼女の1日を観察したクリスは、必死の形相で涙を流すというおかしな状態だ。かく言う俺も何か変な汁が滲み出そうなのを必死で抑えているのだが。
「明日!絶対に彼女をパーティに加えましょう!わかりましたかカズマさん!」
「だから俺がそう言っただろ⁉︎」
1日を無駄に過ごした俺たちは、明日彼女をパーティに誘う事を固く決心したのだった。
ゆんゆん「めぐみんかと思った?残念!私でした!……あの、謝りますから、お願いですからそんな目で私を見ないで……」
という訳でゆんゆんです。めぐ民な皆様には申し訳ありませんが、めぐみんが出るのはだいぶ先になるかと……