刀剣乱舞SS集(BL・NL・友情主従ごった煮)   作:駒由李
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CCP一人称語り、くりちゃん主体の家族パロのようなものでホラーっぽいの。CCPと大倶利伽羅が兄弟です。都合上へしさに前提(長谷部:父、審神者:母)。ノリは「【実録】昨日、姉が備前国の審神者に着任しました。(https://syosetu.org/novel/85874/6.html)」に近いです。
何となくここでは
父:長谷部(社畜公務員)
母:審神者(♀)
兄:CCP
弟:大倶利伽羅 と決めてます。長谷部薄め、審神者の存在感も薄め
あと今更ですが連作名を改めるのも面倒なのでくりちゃん呼びを続けます
▼小話集です。8月も終わるので投稿しました。
※pixivより転載


【とうらぶホラー】くりちゃんと僕 死地【現代パラレル】

笑い声

 

 夏風呂は熱い。ゆえに、窓をほんの少し開いて湯船に浸かるのが夏が来てからの習慣だった。以前は網戸というものがあったが、スクロール式のそれが壊れて久しい。虫が入ってこないのを祈りながらの入浴と相成る。

 さて、そうなると聞こえてくるのが向かいの家の喧噪だ。窓を閉めていても聞こえるのだ。開ければステレオが届く。

 向かいの家は3世帯家族らしい。祖父母に両親、子ども(恐らく男の子)が2人。彼らが引っ越しの挨拶に来たときは偶々席を外していたから直接の面識はない。挨拶の品として色のついたフェイスタオルをもらったので今もそれを使っている。このときも入浴するのにそのタオルを持ち込んでいた。

 僅かに開いた窓から、温度差によるほんの少しの涼気が流れ込んでくる。水道代の節約のため強制的に半身浴となる風呂で、ぼんやりと長湯する。BGMは向かいの家からの大声だ。夏ゆえに窓を開けているのだろうか。子ども特有の高い声はよく響いていた。走り回り、母親もしくは祖母に叱咤される声。祖父や父親の声は聞こえなかった。……しかし、本当に子どもの声が賑やかだ。床を駆け回る音がこちらにも聞こえる。それに微苦笑しながら湯船に浸かっていた。

 暑い夏、窓からの涼気でやや冷めた湯の中に浸かっていた自身は、ふと、洗い髪の下、頭の片隅にこんなことが思い浮かんだ。笑い声が響く。

 たしか引っ越しの挨拶を応対したのは母と兄だった。その母がその後亡くなり既に5年経つ。笑い声が響く。

 5年。5年だ。決して短い年数ではない。

 なのに、なぜ向かいの子どもの笑い声は、この5年、何も変わっていないのだろう。

 

 そう考えた途端。ぴたりと声が止んだ。

 

 浮かしかけていた腰を止める。その沈黙は、痛いほどだ。気付けば虫の声も聞こえない。のどが鳴る。

 永遠とも思える数秒間――次第に子どもたちの笑い声が響きはじめ、大人たちの制止する声が届いた。そこで嘆息し、急いで湯船から上がる。

 きっと、そういうこともある。自らに言い聞かせた。

 

 

 というような話をくりちゃんから聞かされ、僕は尚更風呂は早くに入ろうと決めた。

 

 

 

 

 

行き止まり

 

 

 今年も盆の季節がやって来た。盆といえば精霊馬、盆飾り、いつもより少し豪華なお供え物。

 そして迎え火である。

 余所の地域では知らないけど、地元では迎え火を1週間焚き続け、8日目日に送り火を焚く。つまり火の七日間+α。夏に焚き火などというと暑苦しいことこの上ないが、冷涼な地元では夜の7時ほどになると暗く涼しくなり、中々に丁度良い塩梅になる。この日は、火を点けはじめて2日目。玄関先、中々灯らない火を四苦八苦しながら点けようとするくりちゃんは、道路に背を向けていた。住宅街でまだ夜の7時前、宵の口だ。街灯が灯る。焚き火に団扇を扇ぎ続ける。

「こんばんは」

 そんなとき、声を掛けられた。くりちゃんが背を向けたのはワンテンポ遅れた。僕が先んじて挨拶を返す。

 玄関から出て左隣の家の夫人だった。年の頃は正確にはわからないが、少なくとも還暦は疾うに迎えていると思う。そんな夫人が、ゆっくり、ゆっくりと家から反対方向へと歩いていった。車1台しか通れないような狭い道路を、ゆっくりと。

 くりちゃんは、いつの間にか本調子になっていた焚き火をじっと眺めていた。そしてぽつり、呟いた。

「今の人……」

「隣のご夫人でしょ」

「……」

 くりちゃんは答えない。ただ代わりに、火の消えかかった炭を弄り回すだけだった。

 そしてこの日の迎え火を終えて火の始末をする。後片付けを終えて家に戻ろうとしたところで、ふと気付いた。

 家の前の通りは、先述の通りに狭い。そして何より短い。我が家の右隣の家があるだけで、最奥の家は空き家になって久しい。そしてなにより、あそこは行き止まりではなかったか。

 いや、抜け道もあったかも知れない――そう思おうとする僕に、淡々と薪の片付けを終えるくりちゃんの態度が思い返される。

 彼は「隣の夫人だろう」という断定を、決してしなかった。

 あれは誰だろう。

 

 

 

 

 

 

 これはくりちゃんが近所のスーパーに買い出しに行ったときのことだ。

 炎天下、というほどではない。都心に比べて30℃に達することが珍しい地域だ。近年は35℃を記録することもあるが、本当にそれは稀だ。日差しはきつくとも日陰に入れば涼しい。そういうからっとした暑さだった。

 車通りの激しい、緩やかな下り坂。スーパーを囲う塀の背が高い。

 ふと、視界に入ってきたのは影だった。夏らしい、くっきりとした黒い影。被った帽子の鐔すら縁取られていた。

 日差しが強い証拠だろう……くりちゃんはそう考えながら、1歩踏み出した。

 影は動かなかった。

「……?」

 振り返る。影はそこにいた。

 顔を戻す。また1歩踏み出す。今度はついてきた。そのまま歩き出しつつもちらちらと影の様子を窺ったが、まるで何事もなかったかのようにしれっとくりちゃんの足元に縫われたままだった。

 

「涼しい方とはいえ、連日暑かったからな」

 

 まるで畑の様子を語るかのように、くりちゃんはそんなことをいうのだった。

 

 

 

名前

 

 

 初春のことだった。

「■■」

 名前を呼ばれて目を覚ました。

「……?」

 頭を掻きながら辺りを見回す。自分がいるのは蒲団。寝る前と変わらない部屋。時計は朝7時。ごく普通の朝だった。

 否。普通ではないことがあった。

(頭が痛い……ような……)

 頭の奥が鈍い重さを持っているように感じた。蒲団の中から這いずり出る。何はともあれ朝食にしなければ。

 しかし、朝の席で顔を合わせたくりちゃんに言われた。

「光忠。お前、顔が赤いぞ」

 いわれて、自分の頬に触れた。たしかに熱かった。

 ……朝食を摂ったのち、くりちゃんに引き摺られて病院に行った。先生の診断はインフルエンザ。帰ってくると蒲団に押し込められて、その日はくりちゃんのお粥を食べることになった。

「スポドリを飲んで寝てろ」

 くりちゃんがスーパーで買ってきたスポーツドリンクのペットボトル。コップが隣に置かれる。そうしてくりちゃんは部屋を出て行った。それを見送ったのち、言われた通りにスポーツドリンクを飲むと、蒲団に入り込んだ。

 熱に浮かされながらも暇になった。そこでふと思い出す。

 今朝、自分を起こした声は母の声だった。もうすぐ命日だった。

 

 ひょっとしたらあれが最初で最後とは限らない。あれからインフルエンザや風邪には罹っていないので。

 

 

 

 

 

 くりちゃんと僕の生活リズムはややずれている。僕は早ければ8時に寝てしまうこともあるが、くりちゃんは宵っ張りだ。最近こそ0時に寝るようになったけれど、これは夏だからだ。朝になると暑くなって目が覚めてしまうし、その目の覚め方が不快だからだそうだ。暑くなる前に目が覚める僕にはわからない感覚だったけども。

 そんなくりちゃんは炊飯係である。家事の大半を請け負うくりちゃんは料理も担当している。そして毎晩、朝に炊きたてのご飯を食べるために予約の炊飯を設定しておく。

 その日の晩も、くりちゃんはひとりで米を研いでいた。テレビで観た「美味しい研ぎ方」を参考にして研いでいるという。研ぎ終わり、うるかす(方言らしいが標準語での表現がわからない)時間を計るためにタイマーを取ろうとした。

 タイマーは、冷蔵庫に逆さまにくっついていた。1度取り外したあとで戻すときに逆さまにくっつけてしまったんだろう。くりちゃんはそう思いながら触れようとした。

 その瞬間、「00:00」が「88:88」になった。そして鳴った。

『あああああああああああ』

 タイマーの音は電子音である。しかしそれはどう聞いても人の悲鳴だった。

 くりちゃんは動転した。動転しながら、タイマーを掴み、引っ繰り返して上下正しく貼り直した。

 ぴたり。泣き声は止んだ。表示も「00:00」に戻っていた。

 

 そんな音は聞こえなかったし、僕がヤカンで茶を沸かすときに使ったときはごく普通だった。ただ、それはタイマーの上下が正しかったからかも知れない。

「逆さまになって血が上ってたのかもな」

 くりちゃんがそんなことを言うので、僕はこのタイマーを決して逆さまに貼り付けないように心懸けることにした。

 

 

 

 

 

 風呂場の脱衣所兼洗面所の扉。そこにはドアノブに札が引っ掛けられている。「入浴中」というごく単純な札だ。勿論使用目的はただひとつ。誰かが風呂に入っていることを知らしめるためにかけるのだ。

 特にくりちゃんは家族にも肌を見せたがらず、他の家族が稀にかけ忘れてもくりちゃんだけはかけ忘れない。生前の母だけはごく稀に風呂場に突入したが、亡くなってからはからはそれきり。父も干渉してこないのでくりちゃんは以来ずっとひとり風呂だ。僕も敢えてそこにはつっこもうとはしなかった。嫌なものは嫌なんだから仕方ない。

 そんなくりちゃんが、ある夜、脱衣所のドアの前に立っていた。僕にとっては既に就寝時間を過ぎていたが、偶々トイレに起きてきた。くりちゃんはそんな僕に構わず、そっとドアに耳を欹てていた。

 ……くぐもった水音。それは丁度、脱衣所と浴室のドアを2枚挟んで聞こえる、風呂場で湯を使う音だった。湯船からお湯を汲む音。

 見れば、札が下がっていた。「入浴中」となっている。だから僕は首を傾げた。

「父さんが入ってるんじゃないのかい」

「親父は鼾を掻いてたぞ」

 そして母は既に亡い。そう考えた刹那、背中に氷が落ちる。

 誰が入っているんだろう。

 硬直する僕の前で、くりちゃんは、札をじっと見つめていた。そしてそれの紐を手に取ると、引っ繰り返した。無地。「誰も入っていない」という証。

 途端。水音は止んだ。

 驚く僕に、くりちゃんは嘆息した。

「風呂を上がったら、ちゃんと札は引っ繰り返しておけ」

 僕は肯くしかなかった。

 

 翌朝になって、そういえば風呂のお湯は捨てていたことを思い出したのが今回のハイライト。

 

 

 

 

猫の手

 

 くりちゃんが洗濯物を畳んでいたときだった。

「ん」

 洗濯物の山から、猫の前足が出ているのが見えた。

 いつものことだった。年少の飼い猫が乾いた洗濯物を好んだ。ハンガーから外すときにその真下で洗濯物が降ってくるのを待機し、また置きっぱなしにしようものならいざ畳もうと思ったときにこうして潜り込んでいることはよくあった。このときも、ハンガーから外したのちに少々席を外しており、飼い猫が潜り込む隙はあった。

 潜り込むのは構わない。しかし、問題は、潜り込んでいるときの飼い猫は非常に興奮している。うっかり手を出そうものなら引っ掻かれたり囓られる。だからこのときのくりちゃんも、そっと猫の上の位置にあるだろう洗濯物を手に取った。

 

 そこには何もいなかった。猫の前足だけが、タオルから生えていた。

 

 くりちゃんは取り上げた洗濯物を再び被せた。今度は前足を全て覆うように。

 次に取ったときには、前足は陰も形もなかった。

 

「たしかにあの前足はウチの猫だったんだがな」

 くりちゃんはコーヒーを飲みながらそう語った。

 

 

 

 

 





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