彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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1 提督が鎮守府に着任しました。

 四月。桜の花が真っ盛りに咲いている時期。年度の始めであり、人によっては新たな環境下での生活が始まる季節。まだ見ぬ世界を思って心を躍らせたり、あるいは陰鬱な気分になったりするかもしれない。そういった例に漏れず僕も今新天地を目指している。船舶、電車、自動車、もしくは徒歩で、出発地からいくばくの時間を要して僕はある施設へ赴いている途中だ。春の陽気が暖かく、桜が向こうの山々に咲き誇り、海特有の所謂磯臭さが風に乗って届いてくる。そんな中、慣れない長旅で疲労が溜まった僕の視界に一際目立つ建造物が現れる。

「あれか……」

 果たしてそれはこの長旅の目的地であり到着地。そこから数分の時間を要し僕は門の前に辿り着く。門の脇に「端水鎮守府」と書かれた木製の板が掲げられている、目の前の建物の敷地に、僕達は這入った。

 

 

 

 今日から新しい司令官さんがやってくるということで、鎮守府は朝からすこしあわただしいのです。あわただしい、というよりも落ち着かない、と言ったほうがいいかもしれません。

「どんな人が来るのか楽しみだクマー」

と球磨さんが言っていました。ここは設立してまだ一年しかたっていないので、今日くる司令官さんで二人目なのです。だからちょっとだけ不安なのです。前の司令官はやさしかったので、次もそうだといいなとおもいます。

「電、そろそろ時間じゃない?」

お姉ちゃんにいわれて時計を見ると、予定の時間が近くなっています。

「では行って来るのです」

電は正門に向かって歩きはじめました。新しい司令官さんをおむかえするために。

 

 

 

 詰所の憲兵さんに挨拶をした後、傍らにいる人の手を引きながら鎮守府の建物に向かおうとすると、前から一人の少女が走ってきた。

「端水鎮守府所属の、駆逐艦電です。司令官をおむかえに来ました」

髪は茶髪でセーラー服―恐らくは―を着ている少女は、そう名乗った。しかしこうして目の当たりにすると現実味が段違いに感じられる。百聞は一見に如かず、ある種のイマジナリーさえ抱く存在がリアリティーを伴って現れる。

「ご丁寧にどうも。聞いている通りに今日からここに着任となった者です。これからよろしくお願いします」

 僕はそう言って軽く頭を下げ、目の前の少女、電を何とはなしにじっと見る。電は僕を視て、僕が連れている人を見て、僕に恐らく尋ねるために口を開きかけ、しかしながら一拍置いて、

「では鎮守府を案内するのです」

結局はそう言った。四月の始めであろうと長時間外にいると汗ばむ位の陽気、僕たちの長旅による疲れ、諸々を考慮した結果ならば、彼女は意外と頼りなくはないのかもしれない。

 その後電に案内されたのは執務室、食堂、水場といった、どちらかと言えば生活区域と言える場所だった。緊急に必要でない場所は後日に回すそうだ。それも僕達にとってはありがたかった。

「では、夕食の時間の前に呼びに来ます。それまではゆっくりしていて下さい」

そうして僕たち二人は電と別れた。さて取り敢えず荷解きをしないといけないな。

 

 

 

「そんで、どうやったん?新しい司令官は」

「うーん、何ていうんでしょうか……」

「なんや、奇人変人の類やったの?」

「いえ、普通の方だったのです。でも……」

「でも?」

「ちょっとだけ、なぜか怖いと思ったのです」

「……いわゆるコワモテゆうやつかいな?それとももっと別の、例えば、身長が五メートルあったとか?」

「それ最早人間じゃないのです……」

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