ヲ級騒動(命名青葉さん)から一週間が経ち、僕は会議の為に支部に向かう事となった。ここの鎮守府から支部の鎮守府までは結局五時間かかるそうで、僕と不知火さんは朝食を頂いた後直ぐに出発した。
「こんな朝早くからごめんね」
「いえ、それも秘書艦の務めです」
会議の開始が正午。余裕をもって、出発したのは朝六時の事だった。見送りをしてくれた龍驤さんと鳳翔さんに、お礼と幾つかの助言を残しつつ敷地を出た。
どうも他の皆さんは小旅行みたいなものだと思っているらしく、お土産を要求してきた。流石に球磨さんの『間宮アイス』は変えてもらったが。溶けるし。
「最近皆の様子はどうかな?」
「どう、とは?」
「僕が来て一カ月。何か問題が起こったりしてないかな?」
「いえ、問題は有りません」
「なら良いんだけど。ヲ級の様子はどうだい?」
「大分馴染んでいます」
例のヲ級は言葉を話せたので、最近は専ら知識を教えている。現代のこの国において日常生活をスムーズに送る為の知識だ。例えばスーパーでの買い物の仕方とか、箸の使い方、はたまた電話の使用法等々。ちなみに僕に対してはまだまだ警戒している。
バスを降り駅構内へと進んでいく。僕の服装は上下白の軍服だから目立つこと目立つこと。斜め後ろを歩く不知火は制服を着ている。改札を抜けプラットホームに立った僕等は明らかに浮いていた。そんな周囲の視線を気に留めず、自販機の前に立ち僕は不知火さんに聞く。
「飲み物、何が良い?」
「……オレンジジュースをお願いします」
財布から二人分の硬貨を取り出しボタンを二回押す。出てきたオレンジジュースを渡し、僕はカフェオレの蓋を開けて飲む。うん、甘い。
電車に揺られること四時間強、予定時刻通りに最寄り駅に着く事が出来た。その後駅前の繁華街で早めの昼食を摂り、僕達は支部へと向かった。
「さすがに広いな」
そう呟きながら建物内に這入っていく。誘導された会議場は既に八割方埋まっており、僕と不知火さんは後方の席に陣取った。さて、大層に退屈な御講義の始まりだ。
開始二十分で睡魔が襲ってきた二時間半の会議を何とか乗り切った。内容は、南方海域における深海棲艦の活発化について、大規模作戦時の各鎮守府の担当について、ブラック鎮守府に関する本部からの通達、が主だった。ところで隣の不知火さんも会議中、時折うつらうつらしてハッとこちらを見て
「不知火に何か落ち度でも」
と鋭い目つきで言ってきていた。その度僕は視線を反らしていた。まあ、うん、あれだ。朝が早かったから仕方ないね。
その後は要求されたお土産を買いに、町を巡った。今は雑貨店に居る。ここでは青葉さんからのリクエスト、手帳とペンを買おうと思っている。店内には思ったより色々なものが並べられていた。そんな中僕の後ろを歩く不知火の目線が、ある棚に釘付けとなった(様に見えた)。……僕は何気ない風を装い話しかける。
「そうだ、不知火さんも欲しい物が有ったら買ってあげるよ」
隣の桃髪の少女に言う。
「いえっ、そんな」
と予想通り遠慮したので、それを遮り
「一人だけ買ってあげないのも体裁が悪いし、鳳翔さんや雷さん達に怒られそうだなぁ」
と彼女に最も効くだろう理由を与える。彼女は暫く黙った後で
「お気遣いありがとうございます」
と言った。もしかしたらその時僅かに笑顔だったのかもしれない。僕は見ていなかったが。
熊の置物、鯖缶、手帳とペン、お揃いのブレスレット、菓子、割烹着、ぬいぐるみ、ドーナツ。全部買うのに結構時間がかかった。それこそ商店街を一巡した位には。祭りの列を横目に見ながら僕達は帰路についたのだった。
午後九時。再び列車に揺られ、帰ってくる頃にはそんな時間になっていた。僕は全員に買ってきた物を渡し終え、不知火さんと夕食を食べた。龍驤さんと鳳翔さんの報告を聞きながら、僕は焼き魚に箸をつける。
「二人に留守を任せっきりにしてすいません」
「かまへんよ。そんな忙しいわけでも無かったしなぁ」
「それに他の皆さんも手伝ってくれましたから。それよりも」
「? なんですか?」
「提督のお部屋、見させて頂きました」
「入ったことは別に気にしませんよ?」
雷さん達も入って来ているから今さらだ。
「そうやなくて、色々物が少なすぎやない?」
「そうですかね」
確かに必要最低限しか置いていないが。
「キリさんだって年頃の女の子なんですから、もうちょっと服とかに気を配った方が良いですよ」
「とは言ってもですね、僕はそういうの分かりませんよ?」
というこの言葉を切っ掛けに、後日皆で買い物に出かける事になったのはまた別のお話し。