彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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12 彼と彼女達のプロローグ

 それは彼女の溜息で始まった。

「どうしたの? 疲れた?」

「まだ仕事始めたばかりで疲れてないにゃ。……今日も来なかったにゃ」

今日は多摩さんが秘書艦である。姉の球磨さんと同様にマイペースな性格で、日の当たる所で寝るのが日課らしい。まだ僕は見たことがないけれど。多摩さんは今郵便物の整理をしている。ここに届く大半は軍関係の書類で、後は個人的な手紙やダイレクトメールなど。

「誰かからの手紙を待っているみたいだね」

「木曾からの手紙にゃ。月の始めに送ってくるのに、今月はまだ来てないにゃ」

 木曾。そう言えば球磨と多摩がいつか話してくれた。彼女達五人姉妹の末っ子で男勝りな性格、だっけ。

「確か二つ隣の鎮守府に居るんだっけ?」

彼女らの話を思い出しながら、そう答えた。

「うん」

 今日は五月十三日。じわりじわりと夏の陽気に近づきつつある日差しが肌を刺す、これから緑が増えていくそんな季節だった。

 

 僕は三十分後、ある所に電話をかけていた。

「ええ、是非我が艦隊の強化の為に貴方の力をお借りしたいのです! 些か我が艦隊は力不足が否めませんので。……はい、分かりました! では……いえいえ、態々こんな辺鄙な所にご足労頂くわけには参りません。私の方が頼んだ事ですから、こちらから参らせていただきます。お時間はそちらの都合の良い時で構いません。……はい、では二日後ですね。重ね重ね感謝申し上げます! それでは失礼致します」

 五分ほどかけて演習の申し込みをした。相手は例の鎮守府。この辺りでは五本の指に入る実力と聞いたので、ついでに演習を取り付けたのだ。

「……普段との変わり様に少し引いたにゃ」

「引かないでよ。まあ、これで会えるでしょ」

演習の為に赴いて、その時に直接会えばいい。偶には姉妹の交流も必要だろう。

「ていうか提督、さりげなく腹黒いクマ」

午前は出撃が無く執務室に来ていた球磨さんもこの電話を聞いていた。

「そこそこに持ち上げて、日程も向こうに自由に決めさせる事で優越感をあたえる。さらに向こうは移動しなくていい。条件は破格。これで相手は断りにくい。昔お兄さんが教えてくれた」

他の場所には誰もいないためここに居るキリさんが、そう言う。

「正解」

「いや、何をキリに教えてるにゃ」

 僕は紙を一枚机の上に置き、ペンを握る。『木曾』と書きその下に文字を連ねていく。

「何してるクマ?」

ソファに寝転がる球磨さんが聞いてきた。

「色々想定している」

と僕の代わりにキリが簡潔に答えた。僕は開きかけた口を閉じ、いつも通りのルーチンワークを進めていく。

 

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