翌々日、僕は車を運転していた。車と言っても小型バスだけど。各鎮守府は移動用に備品としてバスを所有しているらしい。一様海軍の養成学校で運転の講義を受け、形式的に免許が発行されてはいるが、運転は今回が初めてである。出発前にそれを伝えたら皆顔が引き攣っていた。戦々兢々としながらハンドルを握っている僕と、その後ろで意気揚々としている他の面々。総勢十一名が乗り込んだバスは車輪を回転させている。
「しっかしヲ級まで連れてきて大丈夫なん?」
運転席の後ろの席で龍驤さんは言う。
「一人で残す方が危ない。それで見つかったら打つ手無し、だ。まだ連れてくる方がマシだよ」
「キリちゃんも連れてきた理由は?」
「一人で残るっていうのは寂しいものなんだよ、龍驤さん」
「……まあええわ」
今度は電さんが話しかける。
「司令官さん、大丈夫ですか?」
「運転の事を言っているなら、全然大丈夫じゃないよ」
内輪差や重量が普通車と全然違うから運転しにくい。
「それだけ喋れれば大丈夫だクマー」
それは僕の中に有るなけなしの見栄を張っているだけだよ、球磨さん。
何回か脱輪しかけたが何とか無事に到着できた。本当に危なかった。僕達がバスから降りると、相手側の提督と秘書艦が出迎えてくれていた。
「初めまして、寺内だ。本日は宜しくお願いするよ」
恐らく三十後半の、熟練した雰囲気を醸し出している人物。顔立ちも整っており洗練された身のこなしをしている。
「初めまして、紫野です。今日は胸をお借りして頑張らせて頂きます!」
なるべくテンションを上げて笑顔で挨拶を交わした。
「はは、そんなに堅くならなくて良いよ。今日はお互いに最善を尽くそうじゃないか」
「有り難うございます!」
全員が荷物を持ったのを確認した寺内さんは、
「では、部屋に案内しよう」
と言って歩き始めた。その間世間話をする。
「僕の所では些か人数が足りないんですよ」
「建造はしているのかい?」
「ええ、しかしどうした事か艤装しか出ないんですよ」
既に一定範囲内(そこそこ広範囲)に同じ艦娘が居るならば、工廠ではその艦娘の艤装しか建造されない。という建造に関するルールが有る。但し理屈は不明。そのため建造の半分は艤装が出ると言われている。しかし僕の場合一週間連続で艤装が出たので、その時点で諦めた。
「それは運が無いな」
「ええ、本当に困ったものです」
寺内さんはある部屋の前で立ち止った。
「ここが待機場所だ。時間までゆっくりと寛いでいてくれ」
「了解しました。では失礼致します」
僕は部屋に這入り、他の皆も続いて入って来る。最後の青葉さんが部屋のドアを閉めたのを見て、僕は笑顔を張り付けるのを止め表情を消す。
「急に無表情になるなクマ。びっくりするクマ」
僕はそれに答えず、壁にかかっている時計や絵画を観察する。
「提督、どうしたんですか?」
それどころか壁を凝視し始めた僕に鳳翔さんが声を掛ける。一通り部屋を物色した後で
「いや、何でもないよ」
と声を発する。
「いや明らかにおかしいやん」
それをスルーして僕は今回の作戦を指示する。
「今回の戦い、狙うは戦術的敗北だ」
「定時になりましたので、これより演習を開始します」
というアナウンスが演習場に響く。今回の演習は鎮守府正面の海で行われる。雷電姉妹、ヲ級、キリは第二管制室に一緒に這入り、演習場の艦娘に指示を与えている。モニターには両陣営の様子が映っていたようだ。こちらの艦娘は百五十メートルほどの間隔で横陣形をとる。開始時お互いの距離は七キロほどだったらしい。
開幕の航空戦が始まる。こちらの航空劣勢でスタートしたのは予想通り。
「不知火さん、後ろに五メートル!」
「青葉さん、左へ五メートル!」
「龍驤、右へ五メートル」
「球磨、多摩、前に五メートル」
相手は戦艦三隻、空母三隻。どう見ても叩き潰すという意思しか見えてこないだろう。残り二十五分。
「不知火中破」
と報告が有ったのは残り二十分辺りの事。そこから五分間で鳳翔小破、球磨中破、多摩小破と立て続けに被害を被ったようだ。残り十五分。
お互いの距離は最初から保たれており、こちらも避けながら時折砲撃を撃つよう指示していた。この開始から続く均衡を破ったのは相手側だった。残り十分を切り距離を縮めてきたらしい。こちらは左右に展開し距離を取ろうとする。相手との距離は六キロ程だろうか。
残り五分。完全に左右に展開した多摩・球磨・龍驤、青葉・不知火・鳳翔。その間に距離四五〇〇メートルまで詰められていたみたいだ。多摩及び青葉が雷撃を開始する。丁度挟み撃ちの様な陣形となっており、水面下を魚雷が進んでいく。数分後に両陣共に全力を尽くした一斉砲撃が行われたようだ。最後の水柱が上がった所で時間切れとなり、演習終了となった。
結果 轟沈判定:球磨 大破判定:不知火 中破判定:龍驤 小破判定:多摩、鳳翔 損傷軽微:旗艦青葉 ―戦術的敗北 C