演習終了から三十分近く経った頃、僕達はまだ帰ってはいなかった。と言うのも演習で使用したペイント弾は水で落ちにくく(じゃないと演習で使えないが)、落とすのに時間がかかるらしい。その間僕は雷と電の遊び相手になっていた。部屋のドアが開く。青葉さんと龍驤さんだ。二人は何故か薄ら笑いを浮かべながらこちらにやって来る。龍驤さんの腕が僕の首に回された。左に軽空母、右に重巡。二人は電と雷にちょっと借りるわ、と言って僕を部屋の隅に引っ張る。
「何ですか?」
「君には色々聞きたい事が有るんや」
小声で言葉を交わす。
「手短にお願いしますよ」
「じゃあ早速。司令官、あの演習は何だったんですか?」
「え、普通の演習だったでしょ」
僕は表面上は何を言っているのか分からないという態度をとる。
「キミ演習中ずっとどこ行ってたん」
「この鎮守府内をぶらりと散策。何で気付いたの?」
「三十分間ずっと指示出してるのがキリちゃん達だけだったら、普通分かるで。それと散策だけやないやろ」
それもそうか。流石に僕の指示が無かったのは不自然か。
「……司令官、何か隠していませんか?」
右側の灰髪の少女が尋ねる。
「別に君達に隠しているつもりはないよ」
隠すべきは他に居る。
「じゃあ何でコソコソ行動しとる?」
という質問に対しては、
「詳しくはこれ読んで」
三日前から考え続けていた事を纏めた紙を手渡すという事で答えとする。二人はその紙を眺め始める。
「…………は?」
三分かけて内容を読んだ二人の口からそんな言葉が漏れた。僕は説明をする。
「ここに来たそもそもの目的は、手紙を送ってこない妹に多摩さん達が直接会っちゃおうって事。それでそこに書かれているのは、もしかしたらの想定、用心。僕としては一番目、そうでなくとも二番目であって欲しかったよ」
「ということは」
「三番目。一番最悪なパターンだね」
僕はあっけらかんと言い放った。
「さらに付け加えるなら、ここの憲兵はかなりの確率で買収されているだろうから、僕達がここで死んでも無かった事にされるかもね」
空気が重くなった様な気がした。
「でもそれは、うちらが下手に動いた時の話やない?」
現実はそうもいかないよ。それとそれはもう無理と考えた方が良い。
「じゃあ龍驤さんは今の話を聞いた後で相手に警戒心や恐怖心を悟られることなく、不自然さや不信さを見取られることなく、あくまで平常に平気に平然に過ごせるんだ」
「ぐ、ちょっち無理かなぁ」
「後、寺内さんだっけ? あの人も結構警戒していたからね。僕が動いてた事はもうバレてるかもね」
それでも警戒されている僕が自由に動くにはあの三十分しか無かった。それと例えばの話だが、動かなくても同じ結果になっただろう。だから結局は時間が前倒しになっただけ。
「じゃあこれから青葉たちはどうすれば……?」
「一応援軍は呼んでおいたけど、到着するまであと一時間かかる。だからバスのエンジンをかけて艤装を装備して乗っておいて。いざとなったら僕を置いて逃げて良いよ」
僕はそう言い放った。二人は渋い顔をした。