彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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25 急遽な召集令―紫野ナジミの場合

 それは梅雨も明け、暑さも増していこうかという六月の終わり。何時もの様に書類仕事をしていると、机の上に置いた電話が急に鳴る―まあ、電話は急になる物だけど。

「はい、もしもし。こちら端水鎮守府です」

僕は受話器を手に取り応じる。

「私は第25支部総司令官の秦野だ。紫野ナジミ君だね。急の電話で申し訳ないのだが、今から此方、支部に来て欲しい」

「はあ、確かに急ですね。何故ですか?」

「……先月の事件に於いて疑問が浮かんだので、その確認の為にだ」

「そうですか。……予定も無いので、今からそちらに向かうとします」

「分かった。では後ほど」

「失礼します」

と僕は電話を切る。

「何の電話だったの?」

「至急支部に来い、だって」

「何かやらかしたの?」

「いや、一カ月前の事件の確認だって」

と僕は通信室兼放送室となっている、執務室の隣室に這入る。

「ええっと、今の時間鎮守府に居るのは……」

頭の中でメンバーを思い出す。館内アナウンスのスイッチを入れる。

「館内放送です。軽巡球磨、駆逐艦不知火は執務室に来て下さい。繰り返します、球磨・不知火は執務室に来て下さい」

さて、僕も準備をしますか。僕は執務室で仕事をしている秘書艦に言った。

「曙さんも出掛ける準備してね」

「分かってるわよ、クソ提督」

 とは言ったものの、特に準備する物が有るという訳でもなく、ほんの数分で終えてしまった。そこにタイミング良く現れる二人。

「提督、何の用だクマ?」

「不知火に御用命でしょうか」

「うん。先程支部から電話が有って急遽そこに行く事になったから、球磨さんに代理、不知火さんに代理補佐を頼みたいんだ」

僕は二人に呼んだ理由を話す。

「分かったクマー。球磨に任せるクマ」

「了解しました」

「何か有ったら連絡してね。あとそこに残ってる仕事はやらなくてもいいから。午後の出撃は休止。放送を使ってもいいから忘れずに皆に伝えて」

僕は端的に伝達事項を伝える。そこで曙さんが

「クソ提督、行くわよ」

と執務室に戻って来たので

「それじゃあ」

と言って出発する。

「行ってらっしゃいクマー」

「司令官、お気を付けて」

球磨さんと不知火さんの言葉を背中に受けながら。

 

 前回の会議に向かった時とは違い、今回は車で向かう。現在の鎮守府や支部、総司令部は八割方が最近建てられた物で、広大な敷地を有している訳はない。よって人が多数集まる機会には公共交通機関で向かう様に予め通知されている。それが前回電車を使った理由で、今回自動車で行ける理由。

 僕はカーナビゲーションの指示に従い軽自動車を運転する。車内には出発時から沈黙が流れている。両者とも一言も発しないため、カーナビの音声とラジオの音声が一際大きく聞こえる。曙さんの方は兎も角、僕は沈黙が苦にならない気質の為、どうしようかと思う事も無い。平日の為に比較的空いている道路をひた走る。

 ここで木曾さん長門さんに十日ばかり遅れてやって来た二人について述べよう。一人は今斜め後ろに座る、駆逐艦曙。もう一人は重巡洋艦摩耶。曙は元岩水鎮守府―五月にお取り潰しとなった例の鎮守府―に所属していた様だ。そして摩耶の方は元々支部に所属していたみたいだ。というかよくよく思い返すと僕が撃たれたあの時に会っていた様な気がする。異動が遅れた理由はなかなか人事が決まらなかったから、と青葉さんが語っていた。例のアオバネットワーク(つまりは青葉の会)で知ったのだろうか。それは兎も角として、二人がやって来て既に一カ月。前述の二人と合わせた新参組とも言うべき四人は、すんなりと此処での生活に馴染み始めている様だ。僕の方も、彼女らの性格が薄らぼんやりと分かり始めたので、何とかのらりくらりと頑張っている。

 ハンドルを右に切り、交差点を曲がる。一カ月前にも訪れた建物が視界に入った。

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