彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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28 悠長な姿勢―木曾の場合

 僕達は例の鎮守府に来ていた。

「さて、そこそこに頑張りましょうかね」

「少しは気張ろうとしろよ」

「木曾、それは言っても無駄だクマ」

 

 遡る事九日、つまりは支部の総司令官から指令―スパイというか隠密というか―を受理した日である。曙さんと共に鎮守府に帰った後、今回は経緯を皆に公表する事にした。当然の如く、僕が行った一部の行動について鳳翔さんに怒られた。というより叱られた。或いはたしなめられた。それは横に置いといて、翌日種々の資料が秦野さんから送られてきた。内容は個人情報、戦績、人事といったデータベース上で軍内に公開されているレベルの物だった。なので適当に適当に読み流した。同封されていた手紙には僕達に向けた注意、警告が書かれていた。

 ここで事情を少し説明しよう。これは皆にも言った事だが。手紙が秦野さんの知人の元に届いた後、彼は知人と話し合いをした。現状我々が不信を持つのはその手紙の内容に拠っている。しかしそれは第三者の視点からは確信的、核心的な疑惑にさえなりはしない。しかも自分達位の地位の者が変に動けば感付かれる。従って誰かしら密偵を送り込むしかない、との結論に至ったらしい。

 ここで事情を推測してみよう。これは言っていない事だが。多かれ少なかれこの任務の遂行は容易くない。どうして知人の息子は普通の手紙を装ったのか、即ち直接助けを求めないのか。また、どうしてそれを父親に送ったのか。ここで僕の考えを述べるのは止めておこう。口に出した事が誠になる、と言うし。

「出発前にも言ったけど気を付けるんだよ? 色々な人が居るんだから」

「それは十分に分かっているぞ」

 ここで現状に軽く言明しよう。秦野支部総司令官の計らいにより、隣県の支部と交流会が開かれる運びとなった。会場は隣県の支部で行われ、二県の鎮守府がそこに集結する。期間は十五日。勿論各々の都合や安全上の理由により全員が期間一杯参加する訳ではない。これは前々から計画されていた事で、正に渡りに舟であろう。そういう訳で僕は隣県、第24支部まで赴いている。あくまで交流会という事なので、普段の提督の業務も遂行しなくてはならない。当然演習もその中に含まれる為、僕は六人の艦娘と同伴している。

 僕達がバスから降り、受付を済ませる。その僕の前に誰かが歩いて来る。背丈は僕より頭半分位低く、少しだぶついた白軍服を着ている。傍らには恐らく秘書艦だろう艦娘(名前は分からない)が。

「初めまして。第24支部第3艦隊司令、等々力 悠馬です」

その人は海軍の内で最年少の提督、年は十六歳の少年であった。

「端水鎮守府司令官、紫野ナジミです。でも僕達は初対面じゃないよ?養成学校で何回か行動を共にしてるよ」

「そうでしたか?」

「うん。調理実習のハンバーグ作りとか、花火大会とか、後は君の弟も一緒に参加した肝試し、とかさ」

彼は思い出したかの様に目を僅かに見開き、そしてこう言った。

「そうでしたか、それは失礼しました。ではこのイベントを十分に楽しんで下さい」

後続の来客の邪魔となるので僕達はその場を後にする。ちらりと見ると彼は来客一組一組に挨拶をしていた。どうやら誠実な性格みたいだ。

 

 

 

 俺達一行は宿泊場所である、付近の旅館に荷物を置きに来た。

「ふぅ」

提督が一息入れる。窓からは町並みが一望でき、遠くの山々まで鮮明に望める。座席に座り置かれていたお茶を飲む。

「それでこれからどうするんだ?」

俺はそう言って、テレビを眺めている提督に尋ねた。

「どうする、と言われてもねぇ」

彼はいささか気の抜けた声で答えた。

「実際に出来る事なんて限られているんだし、気楽に行こうよ。気楽に」

「そうですね。折角の旅行と言えますし、提督も無理をなさらない様にして下さい」

鳳翔がそれに同意する。

「それは状況に依りますよ、鳳翔さん」

この部屋に流れる穏和な空気に、つい言葉が口を突く。

「ったく、こんな悠長にしてて大丈夫なのか?」

「焦っても何も始まらない、とも言うし、少しキリさんを見習ってみたら?」

キリ(提督の養子らしい)は今テレビを見ている。流れているのは報道番組。一応この子も今回の事情を聞いているが、全く緊張感も無く頬杖をついている。誰に似たんだか、と思い同じポーズで寛いでいる二人を見る。鳳翔はそんな二人を見て微笑んでいる。数分程テレビを眺めていると部屋のドアがノックされ、声が掛かる。

「不知火です。失礼します」

隣室の不知火達も集まった所で、提督は話をし始めた。

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