彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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30 周到なリレー―二日目

 不知火、曙、球磨、木曾、長門、鳳翔。加えて僕とキリ。これは交流会の前半を共にするメンバーだ。翌日から僕達は活動をし始めた。演習の予定は三日目の午前と、五日目の午後。それ以外の時間は丸々、とはいかないものの殆どがフリータイム。従って僕達八人は四組に分かれ、それぞれ鎮守府内外を見て回っていた。

「さて、早速向かいますか」

「どこに行くの?」

「ここ」

キリさんに尋ねられ、僕は壁に設置されている館内図の一箇所を指差した。書かれている文字は『第三執務室』。恐らくは彼の居る場所だろう。

 僕達は館内を歩く。やはり規模が規模だけに人数も多い。道中何人もの人とすれ違った。その中には見知った顔も有ったが、人間違いだと恥ずかしいので此方からは声を掛けない様にした。暫くすると、両開きの木製の扉が見えてくる。僕はその前に立ちドアをノックする。室内からは何の返事も無い。

「居ないみたいだね」

「そうだね。まあ、彼にも色々用事は有るだろうし、当然と言えば当然かな」

駄目元で来てみたものの、やはりそれは駄目元でしかなく。諦めて他の場所に向かう事にした。

 

 

 

 所変わって演習場。紫野の居る端水鎮守府では唯一人の戦艦、長門は、そこで行われている演習を観戦していた。

「おおっ、いけ! ああっ!」

「ふむ。今の動きは参考になりますね」

隣に座るは陽炎型駆逐艦、不知火。普段表情をあまり見せる事のない彼女も、流石に気分が高揚しますといった所か。期間中のほぼ全ての日、その朝から晩まで演習場では演習が行われる。観客は観覧室にて巨大スクリーンに映される生中継を食い気味に見ている、という状況だ。

 盛り上がっている長門の隣に、彼女と同じ服装をした女性が座る。

「久し振りね、長門」

 

 一方その頃、球磨型の姉妹は食堂に来ていた。

「おおー、間宮さんが居るクマ!」

「姉さん少しは落ち着けって」

第24支部の食堂もまた開放されていた。しかし時間や人員の都合上、外来客は間宮アイスと伊良湖最中の二種類しか頼めない。また十一時から二時までは支部の昼食の時間となる為、一般客は出入り禁止と注意書きがなされている。普段から此処では艦娘達が食事を摂っている。人数が人数な為に、半分ずつに分かれ時間をずらして食べるらしいが。

「あぁ、アイスが運ばれてくるクマぁ」

「あれは別の人のだ」

球磨ははしゃいで、木曾がたしなめる。そんな二人に近付く影一つ。

 

 鳳翔・曙のペアは街へと繰り出していた。交流会に合わせて、街では夏祭りが開催されていた。地域と一体となった、正しく一大イベントである。巨大な神輿が街を巡り、多くの露店が並んでいる。今は昼なのだが、これが夜になると明々しく賑わうのだろうと思う鳳翔。傍らの曙も目を輝かせ、周囲の景色を見ている。何とも微笑ましい。心躍る二人は、体まで踊りそうな、そんな気分に包まれていた。

 

 

 

 その後ふらっと見て回った僕は、一件の着信が有った為に、街のファミレスを訪れていた。もうそろそろお昼時とあって店内は混み始めている。手を振る球磨さんの姿を捉えたので、そちらに向かう。

「それでそちらの方が?」

「ああ。そうだ」

木曾さんが答える。僕はその人の向かいに座る。

「やあ、初めまして。私はヴェールヌイだ。等々力司令官の秘書艦をやっている」

「はあ、どうも。僕は紫野ナジミ。一応、提督を務めている者だよ」

キリさんは球磨さんの隣に座り、髪を撫でられている。僕は財布に入れてある一枚のカードを取り出し、机に置く。

「はい。IDカード」

するとヴェールヌイさんも同じくそれを取り出し渡してきた。僕はそのカードをざっと流し読みし確認した。そしてそれを返しながら、僕は早速切り出す。

「それで何の用件だい?」

「今の私達の状況を、救援者である貴方に、説明しにきた」

「! もう俺達が潜入隊だとバレたのか!」

ヴェールヌイさんの発言聞いて驚く木曾さん。しかしその姉は対照的に、

「木曾、それは違うクマ。提督があっちの提督に、暗に伝えていただけクマ」

「え、何時の間に」

「自分で考えるクマ」

妹に少し厳しい姉であった。話しを戻そう。

「まずはこれを見て」

彼女が取り出したのは一枚の紙。題が『命中率、被弾率』となっているグラフだ。

「見れば分かるように、一カ月ほど前から第3艦隊の出撃等における命中率が徐々に下がっている。同時に被弾率も徐々に、本当に徐々に上がってきているんだ」

確かに先月以前と比べると値の振れ幅が大きく、安定していない。

「……原因は?」

「……残念ながら、まだ分かっていない」

彼女は帽子を少し深く被る。まず、手始めに考えられるのは心身の不調だろう。

「身体検査は?」

「許可が下りなかった。それくらいならば誤差の範囲内だろう、と。それに私達にも特に不調を訴える人がいなかったからね」

 ちらっと彼女が時計を見た。

「私はこれで失礼するよ。それと紫野さん」

ん? と僕は視線を、立ち上がったヴェールヌイさんに向ける。彼女は小声で

「気を付けた方が良いよ。誰かに見られている感じがする」

と告げた。僕には視線を感じるとか器用な真似は出来ない。取り敢えず僕が彼女に11桁の数字を書き込んだ紙ナプキン―近くにそれしか無かった―を渡した後、彼女はその場を立ち去った。

「気を付ける、か。僕にとってそれはもう今更だよ」

僕の口から出た言葉は、果たして誰に向けた物だったのだろう。

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