四日目。ここで一先ず皆から聞いた話を纏めてみる。僕はあれから等々力さんと電話をして、現状を詳しく聞く事にした。結果、命中率が下がるのは主に主力メンバーで、しかしそれは七日に一日程度の頻度でしか無い事。その主力は特に不調を訴えていない事。誰かの視線を感じる事。等々、本人が気付いた事を聞いた。
「あ、そうだ」
「何ですか?」
「ぶっちゃけ他所の命中率はこれより低いのが多いよね。なのに何でこの位で助けを求めたの?」
「……僕は、彼女達に『戦ってこい』と言う立場です。しかし自分は安全な場所でのうのうと椅子に座っている」
「……」
「だから、せめて彼女たちのために僕が出来る事、それを全力でする事が、僕の責務だと思っています」
「……その言や良し、なんて言える程偉くは無いけど、そうだね、君はそれで良いと思うよ」
「……紫野さん、あなたはどう考えていますか」
「――――――」
これは一昨日の電話の一部。僕が疑問に思っていた事に、彼は自身の想いで答えた。少なくともそれは本心の様に思えた。
次に長門さん達。彼女は第三艦隊の演習も見ていたらしく、その時は特に異変は見られなかったそうだ。さらに彼女の妹と会話をしたらしく、上機嫌でその事を話してくれた。鳳翔さん達は夏祭りの様子を報告してくれた。二人とも楽しんでいる様で良かった。球磨さん達は食堂でアイスを食べたらしい。それはそれは美味しかったそうな。その日二人が心なしか光っている様に見えたのは、多分気のせいだろう。
はぁ、と息を吐く。結局四日目になっても何も分かってはいない、と湯に浸かりながら憂う。問題は艦娘達に自覚症状が無い事だ。だから露見しない。まあ、何も分かっていないという事も情報になり得るから悲観する程でもないが。
浴場から部屋へと戻る。部屋には球磨さんと、木曾さんと、長門さんが居た。トランプで遊んでいる。僕は座椅子に座り改めて考え始める。机にヴェールヌイ経由で手渡された書類を広げながら。考える、推測する、勘案する。しかし結局は前日に思い付いた事しか、選択肢が残らない。ふと視界に茶色の髪が映ったので顔を上げると、球磨さんが何時の間にか隣に居た。
「えっと、何かな」
球磨さんはじっと僕の顔を見た後、こう言った。
「何か分かったクマ?」
「いや、何も?」
「嘘だクマ」
何故か確信を持って答える球磨。思わず心の内で舌打ちをする。球磨さんの言葉を聞きつけた二人も騒ぎ出す。そこに運悪く残りの四人も帰って来た為、僕にとって悪い展開が待っている事は容易に想像がついた。
五分後。
「提督、どうか私達にお話し下さい」
と真摯に頼む鳳翔さん。
「ほら、話すクマ。話さないと終わらないんだクマー」
その隣で、優しい声色で話し掛けてくる球磨さん。
「お前、ここで言っておいた方が身の為だぞ……?」
身を乗り出し低い声で僕に伝える木曾さん。近い、近いって。あと怖い。
「司令官、何か此処で仰ることの出来ない理由が、私達にも言えない訳が、あるのですか……」
そう言って悲し気に目を伏せる不知火さん。
「やはり相互の情報共有は重要だと、私も思うのだが」
落ち着いた普段通りの声音で進言する長門さん。言外のプレッシャーが凄い。
「言わないと後々困るのはクソ提督よ!」
最後に、僕の後ろで首襟を掴んでいる曙さん。
宥めてすかして脅して、情に訴え心を揺さぶり、期待と忠言と罪悪感とを巧みに使って迫って来る六人。視線でキリさんに助けを求めるが、拒否される。結構精神的に追い詰められているが、僕にも矜持という物は有る。
「じゃあ、こうしよう。僕の考えはまだ確信が無いから言えない。けれども今後の残りの日程は僕を見張っていても良い。それが嫌なら、僕が推測を言う代わりに、この後の僕の行動に口出ししない。最大限譲歩できるのは、ここまでだ」
僕の提案に、今まで色々言っていた六人はぱたりと口を噤み、集まって話し合い始めた。そこに何故かキリさんも加わる。おいキリさん僕の味方をしてくれても良いじゃあないか、と思わなくもない。暫くすると、代表して鳳翔さんが僕に意志を伝えた。
「私たちは前者を選びます。だから全てが終わった後には、きちんと正直に話して下さいね」
見ようによっては悲しみを含んだ笑い顔を浮かべながら。
僕はそれ位なら、と答えた。
そして五日目に至る。