不知火と曙の携帯型端末が音を鳴らしたのは、私達がホテルに一度戻ろうかという時だった。不知火がそれを操作して、
「司令官からメールです。『全員、支部食堂に集合。』だそうです」
……何かあったのかな。
「あたしも確認したわ。……此処からだと十分くらいかしら」
「一応、返信しておきましょう」
私達三人は、今来た道を戻り始めた。
食堂に入るとそこには大勢の人がいた。多分ほとんどが食堂に来た客で、お兄さんがどこにいるか分からない。
「ったく、クソ提督は何処にいるのよ」
と曙が悪態をつく。
「隣だよ」
いつの間にかすぐ近くまで来ていたお兄さんは
「全員居るね」
と確認し、少し離れた『STAFF ONLY』と書かれた扉まで歩く。そしてその扉を開けて入っていく。後に続いて私達も入る。そして休憩室であろう一室のドアをノックし、中に這入った。そこには既に全員が揃っており、他に一人、両手を後ろ手に縛られた男が長椅子に座っていた。
「さて、これからの行動を指示したいと思います」
部屋の入口近くに立つお兄さんが話し始める。
「その前に状況が分かりませんが」
不知火が発言する。
「簡単に言うと、そこの人間が実行犯。それで僕達が捕縛した。そして今から明日の早朝まで匿い続けなければいけない。詳細は後で球磨さんにでも聞いて。さてこれから四人ずつに別れて行動する。一つは撤収班、もう一つはそいつの護衛班。撤収班は鳳翔、長門、曙、球磨。ホテルから荷物をバスに運ぶ。残りは護衛班、そいつを最低限死なない程度に護衛する」
大まかに概要を説明した後、
「事は一刻を争う。はい行動開始。先に撤収班は出て行って」
と早速行動を促す。多分だけど相当猶予が無いと感じる。半分言われるがまま退出する撤収班。その際に、
「あの、キリちゃんは」
と鳳翔さんらが尋ねる。
「私なら大丈夫だよ」
と手を軽く挙げ、その返事をする。何人かと視線が合うが、私はその場にとどまる。人数が半分になった部屋で、お兄さんの声が響く。
「さてと、死なない程度に頑張りますか」
その口ぶりからは、猶予は無くとも余裕を感じられる。いつもの調子で―だから私はどこか不安なんだけど―彼は肩を竦めて、そうつぶやいた。
それから十分位経って、私たちも動き始めた。どこに向かうのかとお兄さんに問うと、ノープランとの返事をもらった。ちなみに縛られていた男は、腰縄を着けて歩いている。流石に後ろ手は目立つから。
「改めて経緯を聞きましょうか」
不知火さんが司令官に聞く。
「ええっと、今回の事件は結局『食事に薬を盛られていた』というのが真相。経口だし、艦娘は人間より頑丈だから、その薬の効果が現れ難かった。それが『表面上不調ではないが異変が起きている』という摩訶不思議な現象を引き起こしていた訳だ。で犯人は食堂に居て、その他の条件から配膳を担当する人間が一番怪しい。だから三人で食堂に行ったんだ。そして食堂で働いていたその人を捕まえて、虚々実々詭弁流言言い包めて、今連れ回しているって感じ」
ふーん、そうなんだ。
「そう言えば、球磨姉さんが機嫌悪かったぞ。お前何かやったのか?」
木曾が思い出した様にお兄さんに訊く。
「あ、それは多分僕のせい」
悪びれることなく言うお兄さん。こんな感じで緊張感無く、だらだらと街を歩いていった。
思うに、お兄さんは隙が多い。それは多分そういう性格なんだろうけど、それに気を付けないからいつも怪我をしてばかりなんだと思う。だから、今回も、多分、多分に。私は十中八九そうなるだろうと感じている。