スマホを弄ってメールを送る。
『バスにて基本待機。僕達は多分一晩合流しないから、そのつもりで。何処かに行くとしても団体で行動して下さい。
まあ、暇だと思うのでトランプとかで遊んどいて下さい。しかし警戒は怠らずに』
そしてホーム画面に戻し、ついでに時間を見る。現時刻は午後三時半。第25支部総司令官秦野殿が到着するのは明日の朝七時。何とか頼んで予定を早めて貰った。元々は明後日に来訪する日程だったので、これでも善処してもらった方だ。さて残りは十五時間三十分。取り敢えず大通りに面したコンビニに這入った。
連日の祭りの為に街には人が多い。そして明日からは土日となる為に、もっと夜は混雑するだろう。
「はい、お兄さん」
キリさんと不知火さんがペットボトルを五本持って来たので、それをカゴに入れる。そして丁度目の前に並べられていた虫除けスプレーも入れる。
「不知火さん、ここら辺にショッピングモールみたいな所って有る?」
「ええ、あります。歩いて二十分ほどの所に」
「じゃあそこで夜まで時間を潰しますか」
カゴにライターを入れながら、僕はそう決めた。
「そう言えば、司令官」
「ん?」
「司令官には拳銃と軍刀が支給されていますが、持って来ていないのですか」
「うん。刀は提げると歩きにくいし、射撃が下手だから銃は別に要らないと思って」
「しかし、やはり携帯した方が良いと思います」
「ああ、俺もそう思うぞ。前の時も、それがあればもう少しマシになったんじゃないか?」
「さあ、どうだかね。だけどこれまでそんな物が無くとも何とかなったし、何ともならなかったんだ。木曾さんの言を借りるなら『やれ拳銃だ刀剣だ、そんな物は要らないな』って事」
「……司令がそう仰るならば、不知火は何も言いませんが……。キリさんはどう思いますか」
「もう今更って感じ」
夜八時。
避暑がてらに世間話や事情聴取まがいの事をして涼んだ僕等は、いよいよ日が沈み暗くなっていく街に出て行く。夕食は既にフードコートで済ませているが、祭りの露店や屋台が立ち並び、食べ物の匂いが鼻孔をくすぐってくる為に、皆の目はついついそれを追う。
はたと立ち止まる。
「どうした?」
「いや、ちょっと立ち眩み」
また歩き始める。しかし賑やかしい。予想通り人は多く、うっかりすると直ぐにはぐれそうだ。横目で木曾さんと不知火さんを見る。
「……。木曾さん、不知火さん」
「お、おう。何だ?」
「何でしょうか」
「二人で決めて何か買って来たら?」
何故こう言ったのかは、まあ、言わないでおこう。察しはしても言わない方が良い事が、この世界には有るのだ。
「い、いや? 俺は別にたこ焼きとか綿菓子とか見ていないし?」
「ええ。不知火も何も見ていませんが。何か落ち度でも」
「いや別に良いんだけどね。これから結構先は長いから何か買っておこうかな、と」
あと木曾さんは語るに落ちている落ち度に気付いているのだろうか。
結局軽く夜食を買った後、僕達は街を流れる川の河川敷に来ていた。流石にこの時間になると人通りも殆ど無く、灯りは道沿いに林立する街灯のみ。暗夜に浮かぶは照らされたベンチ。そこに僕達は陣取った。
「早速頂こうぜ」
と木曾さんがビニール袋からたこ焼きを取り出す。
「あー、僕はお腹減ってないから皆で食べちゃって」
と僕は言う。キリさんは僕の顔を見て僅かに顔をしかめるが、何も言わずにたこ焼きを一つつまむ。対照的に不知火さんは、
「司令官、顔色が悪いですが大丈夫ですか」
「うん。まだ、ね」
僕は少しばかり目を閉じる。僕の低確率高配当の賭けは運の良い事に、或いは運の悪い事に大当たりした様だ。あー、頭痛い。
そんなこんなで談笑とかをしていると、空に大きな一輪の花が咲く。そして聞こえる打ち上げ音。どうやら夏祭りには花火も用意されていたらしい。赤に黄色に橙色、青と緑と入り乱れ、次々に花開いていく。それに見惚れ続けていたいが、そうは問屋が卸さないらしい。
「危ないです、司令!」
「えっ」
隣に座っていた不知火さんが、僕に縄で繋がれている実行犯ごと、僕を押し退ける。大の大人二人を纏めて押し退けるとは意外と力が有るな、と今更な事を考えながら地面に倒れる。直後立ち上がり確認すると、見慣れぬ人が三人。手には小振り大振りのナイフが握られている。
「じゃあ手筈通りに」
「お前、無事に帰って来いよ」
僕がそう言うと、木曾さんとキリさんは犯人を引き連れて、その場から走り去る。襲撃者と反対方向に。闇夜に紛れて姿が見えなくなったのを視認し、改めて対峙する。
「さてと不知火さん」
「はい、司令官」
いよいよ距離を詰めてくる三人―もう三メートル程だろうか―に対し、僕は懐に手を入れ、不知火さんは昼に買った虫除けスプレーとライターを構える。そして僕は懐から手を出し拳銃を構えるポーズをする。この暗がりの中でそのブラフは功を奏した様で、内二人の動きが固まる。その一瞬を突き不知火さんが即席火炎放射器を発射。その炎に相手方が怯んだ隙に正面突破をした。
そして暫くつかず離れずの距離を保ちながら走った後、暗く細い―それこそ幅が二メートル位しかない様な―路地裏へと身を隠した。
「はぁ、疲れた」
息を整えながらその場に座り込む。頭痛が酷くなった。加えて視界にもやがかかった様な感じがする。さながら半身創痍くらいだろうか。まだ満身ではないので何とかなるだろう。そう考えると何だかやれる気がしてきた。うん、気分も高揚してきたし多分アドレナリンが分泌され始めたのかな。体の中から力が溢れてきた気もするし、今なら万事が上手くいくと思うな。というか何で逃げてるんだっけ? 返り討ちにすればいいじゃん。高々ナイフだし、多分大丈夫でしょ。
「! 居たぞ!」
丁度此方に向かって来る人が居るみたいだ。僕はその方に向かって歩き出す。
「司令!?」
誰かが何か言ったような気がする。目の前の人はナイフを振りかぶる。僕はそれを手ではらって、そいつののどを思いっきり殴りつける。一瞬のちに、今度は股をけりあげる。そしてうずくまった所で、改めて首をふみつける。まずはひとり。そしてぼやける目で残りのふたりのほうを見ると、こっちに近づこうとしていたので、ふむ力を強くする。するとうめき声が大きくなる。
「司令官、助太刀致します」
いつの間にかよこに来ていた、ももいろのかみの子が、僕に向かってそう告げる。ぼくはうなずいて、走りだす。ねらうは、みぎがわの人間。ももいろの子は僕より速くはしって、ひだりのやつに先制をくり出した。ぼくはあいたいする人をとにかく捕まえるために、ふよういにちかづく。なにか刺げきがあるが、そんなのは関係ない。にじむ視野のなか、かくじつにそいつを掴まえる。捕まえる。とりあえずそれをかべに押しつけ、いっかい頭突きをする。そして足をひっかけてころばせ、馬乗りになる。そして男のうでを、せ中がわに、ひねり上げる。さらにもっとずっとぐいっとぎゅっと。するとぼきんと音がしたので、反対がわも、おなじようにする。するとそれはうごかなくなったので、ぼくはたちあがりました。