「……というのが今回の真相です。これからどうするか、それを決めるのは貴方達の領分です」
僕は当然の如く、病院のベッドの上。その周りには総勢11人が集結している。キリさん含む端水鎮守府勢7人、秦野総司令及び秘書艦赤城、そして等々力司令と秘書艦ヴェールヌイ。
昨夜救急搬送された僕は、深夜に緊急手術を行い、早朝に病室に運ばれた。時間帯を考えての事なのか、他に誰も居ない病室に入室させられた。僕が目を覚ました時には別行動をしていた一行も既に来ていた。鳳翔さんやキリさん達から昨夜の行動や経緯を一通り聞き、時刻は午前六時。その後病院に秦野さん、等々力さん等を呼び付けて事情説明。今に至る。
「一応物的証拠と傍証はそこそこ集めておきました。ここからの犯人捜しはご自由に行って下さい」
先程引き渡した実行犯。彼も証人の一人なのだが、思った通りに何も知らなかった。事情聴取もどきの事をした時に、彼が何者かに脅迫などをされてそれを行った事は分かったが、生憎黒幕の顔は知らないとも分かった。まあ、しかし、それでも。調査を続ければ誰かしらが怪しいとなるだろう。僕はそれに興味は無いけど。
「さて、僕は送迎に行かなくてはいけませんから」
とベッドから立ち上がる。刺された箇所が痛い。
「まだそんな状態だろう。代わりの人間にさせるか?」
と秦野さん。
「いえ、痛みを堪えれば何とかなりますし、大丈夫ですよ」
それを聞き、どう思ったのかは知らないが、等々力さんが立ち上がり言った。
「……じゃあ僕たちはこれで失礼します。お大事にしてください」
「ダスビダーニャ、紫野ナジミ」
と病室を出て行く。しかし入口で俄かに立ち止まり、とある質問をしてきた。
「……紫野さん。貴方は、誰が黒幕だと思いますか?」
ふむ。
「情報不足な僕の、偏見と偏重と偏屈と偏奇に偏った、推測とも言えない当てずっぽうで良いなら言おうかな。ずばり、『第四司令官』」
顔も見た事の無い―いや、そう言えば有ったっけ、じゃあ、一度しか有った事の無い人を挙げる。名前すら知らない人間を犯人に祭り上げる。
「そうですか」
と今度こそ出て行った。
「じゃあ、我々も行くとするか」
秦野さんと赤城さんも退室する。
「紫野司令官、すまなかったな」
去り際に放った一言に、僕はこう答えよう。
「気にする事は有りませんよ。貴方の命令が有っても無くても、結局は変わりませんから」
遭っても亡くても換わらない。とどのつまり、そういう事だ。
僕はまだ部屋に残っている残りの人達にも言葉を掛ける。
「ほら、皆も一旦外に出て。着替えるから」
さて、僕達は一週間振りに鎮守府に帰って来た。まあ、僕はとんぼ返りになるけれども。どうやら誰かを通じて状況が知らされていたらしく、帰るなり青葉さんを筆頭とし、質問攻め等々に遭った。まあ今回については特に隠し立てする様な事は無いけれども。だから僕の知っている範囲の事は教えた。
一週間程の長旅による疲れと、若干貧血気味(当然である)な体たらくな為に、その日は泥の様に眠った。
翌日、僕にとっては昨日まで滞在していた所に再び舞い戻ってきた。既に内部調査と言う難題は丸投げした為、この後はのんびり過ごす事が出来ると思う。出来たら良いな。
「ふぅ」
そして幾許か後のある日、先週に引き続き利用している旅館の一室で、僕はこの二週間の報告書を取り纏めている。生憎と怪我しているのは右腕―そう言えばこの前も右腕だったっけ―であり、僕は左利きなので問題無く文字は書ける。紙を抑える力が弱くなって書きづらいという点を除けば、では有るが。
ふと前を見ると、青葉さんも何か書き物をしている。ちらっと見えた『第24支部の闇を見た! ―事件解決の立役者に独占取材―』という文字に、ああつまりはそういう事かと思いながらも僕は口は出さない。自分の作業に戻り集中する。
どっぷり日が暮れて。
「このたこ焼き、おいしいなぁ」
「りんご飴も美味しいのです!」
「司令官、私、あれがやりたいわ!」
僕達は夏祭りに来ていた。僕もゆっくりと回って見た訳ではなかったので、皆の申し出を渡りに舟と、街へ繰り出している。
「良いよ。じゃあ移動するよ」
「射的かぁ。あたしも一丁やってみっかな」
「龍驤さん、そのたこ焼き一つ貰えませんか?」
「アッ、外シテシマッタ」
賑やかに賑わしく祭りを楽しんでいると、ふと声を掛けられた。
「紫野さん」
果たして浴衣を着た等々力さんとヴェールヌイさんが、そこには居た。
僕は射的に興じる皆を見ながら隣の彼と話す。
「で、何の用?」
「報告をしようかなと思いまして」
ふーん。
「あなたの読み通りに、手を引いていたのは蓼科第四司令でした」
犯人も見つかって万々歳と言う事かい?
「……一応決着は着いた、と言っておきます」
そう言えば、君の所にも何かしらの追手が来たんだって?
「ええ。幸い僕たちは無事でしたけど」
どうやら鳳翔さん達も、あの後のキリさん達も襲撃を受けていたみたいで、しかし結局怪我人は僕一人か。何か恰好つかないな。
「体は大丈夫なんですか?」
傷も薬物も、安静に過ごせばOKだって。幸い依存症状が有る様な薬では無かったみたいだし。そこはラッキーだったよ。
「……強い、ですね。貴方は」
急にどうしたの。
「今回の一件で僕は自分の無力さを痛感させられました。僕は何も出来なかった。その事がたまらなく悔しいんです。だから例えば、貴方の様な胆力が自分にもあればと思ったりしています」
……、別にそのままでも良いと思うよ。長所短所は表裏一体、利点欠点は一心同体。強いことが弱い事ともなるし、弱いことが強い事にもなる。そこに有るのは自分の判断だけだ。君は僕に無い強みを持っている。だから、無理して強さを得なくても良いんじゃない?
「……」
納得出来ないって顔だね。僕は自分が強い人間だと思った事は一度も無いよ。全くもって弱い。弱々しい。当然『胆力』なんて大した物は無いよ。これは単に慣れ、或いは麻痺の結果だ。今までの人生が割かしこんな感じだったからね、強かったらこうはなっていないと確信出来る。……まあ、何が言いたいかと言うと、強さじゃなくて強みを探したら? 仲間と一緒にさ。
視界に、等々力さんに手を振り招くヴェールヌイの姿が入る。彼は立ち上がり、僕に向かって一礼した後、少年らしく年相応に、駆けて行った。僕はその場に佇んだまま空を仰ぐ。夏の大三角が夜空に辛うじて見えた。