彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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39 鳥獣疑牙

 青葉、幸運にも摩耶さんから伝え聞いたお客さんに会う事が出来ました! あまつさえ取材もさせていただけるなんて!

「どうも、お時間を取ってすみません」

「いや俺たちからも聞きたいことが有ったからな、丁度良かったぜ」

「では早速。お二人は『提督養成学校』の教師という事ですが、司令官とはいつ頃知り合ったんです?」

「そもそも俺たちは最初から、ナジミが入学する時からあいつの事は知っていたんだ。ほら学校で子連れってあいつらしか居なかったから」

考えてみれば確かに目立ちますね。

「だから、問題は何時から紫野さんが私達の事を知ったかで~。遅くとも入学から3カ月くらいかな~」

「何かあったんですか?」

すると天龍さんが話し始めました。

「俺たちの担当科目は『近接戦』で、その講義には勿論実践も含まれているんだ。それで始めの方で、俺か龍田と全員が対戦したんだよ。当然生徒は素人が大半で、一応竹刀を持たせているものの、てんで動きがなっちゃいないのが多数だ。中にはそこそこやる奴も居たが、そもそも俺たちは地力が違う。だから余裕とはいかなくとも俺たちが負ける事は無いだろう、と油断してたのも有ったんだろうな。恥ずかしい話なんだけどよ、俺、その時あいつに負けたんだよ」

最後の方は頬を掻きながら言う天龍さん。

「え、司令官が強かったんですか」

青葉が見る限り、あの人にそんな力とかがあるとは思えませんが。

「いえ、彼は全然弱いわよ~? 実技科目の評定は軒並み中の下だったし~」

と何処か間延びした声で答える龍田さん。だとするならば……。

「もしかして、不意討たれました?」

「ああ、正にそんな感じだったぜ。で、その後何やかんやで親交を持ち始めたってことだ」

そこで出撃を終えた木曾さんが話に加わりました。

「まああの提督なら臆面も無く奇襲をかけそうだな」

「あ、お帰りなさい木曾さん。補給も済んだんですか?」

「ああ、全員ほぼ無傷での帰投だったからな。時間はそれ程掛からなかった」

どうやら艦隊が帰投したようですねぇ。

「今度は私から質問良いかしら~?」

「もちろん構いませんよ」

「此処での生活はどんな具合かしら?」

青葉と木曾さんはその問いにこう返しました。

「伸び伸びとやらせて貰っています。元々前の司令官が自由に生活する事を方針としていたのを、そのまま継続している感じですね」

「俺はこの鎮守府は良い所だと思っている。前の所が酷かったのもあるがな。そうだな、敢えて言うならばもう少し出撃の回数を増やして貰いたい」

龍田さんは変わらぬ笑顔で、それは良かったです~、と呟くように言いました。

 

 

 

 げっ。しまった。

 艦隊の帰投とそれに伴う作業を終え、執務室の椅子に座りペンを手に取ろうとした。その時不意にヲ級の事が脳裏によぎり、そんな言葉が出そうになった。幸いにして秘書官の摩耶さんにはその動揺は気付かれなかった様だ。取り敢えず目の前の報告書を拙速に書き上げ、そして天龍達かヲ級のどちらかに合流すべく部屋を出て行く。

「摩耶さん、ちょっと留守番宜しく」

「え? あ、おい」

 

 

 

 うっ、しくじった。

 私は内心冷や汗をかいている。表情にその感情を一厘も出さずに、見知った人たちに挨拶をする。

「久しぶりですね、天龍さん、龍田さん。あと後ろのお二人もこんにちは」

この現状で最も会いたくなかった二人に遭遇した。海辺から戻り、鎮守府の玄関に入ったらこれである。ついてない。

「おっ、キリか。また背が大きくなったな」

「久しぶり~」

「お兄さんに急用でもあったんですか?」

「いや、旅行のついでに寄ってみようと思ったんだ」

「じゃあ今は夏休みなんですか」

「ええ、そうよ~。今年の夏はゆっくり過ごせるから、ちょっと遠出してみたの~」

私はちらりと龍田さんを見る。相変わらず表情が読めない。その笑顔のまま龍田さんが口を開く。

「ところで―――その後ろの子は誰かしら~」

「サキさんです。ここでは私の姉という事にしてます」

「ドウモ、ハジメマシテ」

憮然とした表情で挨拶をするサキ。そんな彼女をなめる様に観察する龍田。

「ふーん?」

「しているっていう事は何かが有ったのか?」

そんな天龍の問いに、予め用意していた言葉を並べる。

「彼女、ある日海岸に漂着していたのを保護したんです。何の所持品も無かったし、おまけに記憶喪失だったので」

それを聞いていた木曾さんが

「そうだったのか」

と言ったのが聞こえた。

「じゃあ、私はこれで」

とキリさんを連れて歩き始める。青葉さんがすれ違いざまにウインクをしてきたので、肩を竦めてそれに応える。

 鋭い視線が背中に突き刺さるように感じるが、意に介さずその場を離れた。一つ目の角を曲がるとお兄さんが居た。

「助かったよ、キリさん。ナイス機転」

「あー、疲れた。相変わらずおっかないね、あの人は」

「モシ私ガ一人ダッタラト考エルト、ゾットスルナ」

「一応、二人が帰るまでは用心しといてね」

と言い残し、お兄さんは天龍さん達の所に向かって行った。

「じゃあ部屋に帰ってアイスでも食べよっと」

と執務室の方向へ向かう私の後ろで、

「全ク、神経ガ図太イトコロマデ似テイルナ」

とのヲ級の呟きはあえて聞かなかったことにした。……まあ普通二年も一緒に居たら、どこかが少しは似通うと思うけれどね。

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