何かを決める為には、情報は重要な手掛かりとなる。それはもはや言わずとも当たり前の事だろう。所謂「提督の養成学校」においてある程度の知識を得てはいるけれども、それは個々のケースに重きを置かない、どこの鎮守府でも成り立つ知識でしかない。そういう訳で前日から思案していた様に情報収集をしよう。
「じゃあ行くわよ!」
「なのです!」
前の雷、電が張り切って進み始める。案内はこの二人に任せることにした。
「いやー、昨日は見苦しい所を見せてしまいました」
隣で歩く青葉さん―彼女もついてきた―が、そう言って話しかけてきた。
「僕は気にしてないよ」
「いやー、お恥ずかしい話、昨日の記憶がおぼろげなんですよ。なので改めてインタビューしてもいいですか?」
「僕に答えられる事なら良いよ」
「じゃあ青葉、司令官に取材しちゃいます」
彼女はポケットから手帳とペンを取り出し、それを構える。果たして何を聞かれるのやら。
「まず、お名前は?」
そう言えば昨日はフルネームを言ってなかったな、と白々しくも思いながら答える。
「紫野、ナジミ」
「……変わった名前ですねぇ」
「まぁ、仕方がないよ。僕もそう思う」
「年齢はいくつです?」
「二十歳。後二カ月で二十一だけど」
「じゃあ大学生だったんですか?」
「いや、学歴は高卒。その後に指揮官養成学校に入ったんですよ」
「そうなんですかぁ」
青葉は手帳にサラサラと走り書きをしていく。その後、幾つかの質問(趣味や嗜好について)を受け答えた後に彼女はこんな事を尋ねた。
「じゃあ、司令官の好きなタイプってどんな女性ですか?」
その瞬間僕の周囲の空気が二、三度下がった様な気がした。楽しく喋っていた前と後ろも急に黙ってしまった。雷・電両人は聞き耳を立てているし、後ろの不知火・キリも此方を窺っている。後ろをちらりと見た自分と不知火さんの視線がばっちり合った。視線を反らし横を見ると興味津々の青葉さん。
「うーん、あんまり考えた事は無いかな」
ここは逃げの一手を打たせてもらう。
「じゃあ隣に居てほしい人、でもいいんですよ?」
追及、或いは追究する青葉さん。
「それも同じく。……まあ、考える時間が無かった、の方が正しいかもね」
彼女はそれ以上の答えが出ないと悟ったのか、それ以上質問しなかった。期待にも応えられなかった様で、少し申し訳ないと思わなくもなかった。
「司令官、あれが工廠よっ」
そうこうしている間に最初の目的地に着いたのか、雷さんが声をあげる。僕達は工廠の鉄製の扉をくぐっていった。
ども、青葉ですぅ。今日は司令官たちと鎮守府内を散策しています。道中昨夜の歓迎会のリカバリーをしようと意気込んで、司令官に取材をしました。趣味や嗜好については少し分かったんですが……。本命の質問には上手く逃げられてしまいました。いや、逃がしてしまった、のかもしれません。
青葉より少し背が高い司令官を見上げ、本命の質問への答えを期待していると
「それも同じく」
と司令官は肩をすくめた後、急に無表情で、無感慨に、
「まあ、考える時間が無かった、の方が正しいかもね」
と言いました。青葉はその急変ぶりに言葉を窮してしまいました。司令官は“期待した答えが出なかったから青葉は諦めた”とずれた事を思ったようで、危機から脱した安堵の表情を僅かに浮かべました。
「司令官、あれが工廠よっ」
自分から逃すなんて青葉もまだまだです。そういえば電さんは『少し怖い』と言っていましたっけ。貧弱そうな外見からは微塵もそう思いませんでしたけど、確かに先ほどは怖さを覚えました。
……まだまだ彼には何か有りそうですね。記者の勘がそう告げています!
工廠、入渠ドッグ、埠頭、通信室、艦娘の私室、浴場、エトセトラエトセトラ。鎮守府の至る所を歩き回り、粗方の施設などを把握した所で昼となり、僕等は食堂に戻った。
「あら、お帰りなさい。どうでしたか」
食堂に備え付けてあるテレビを見ながら寛いでいた鳳翔さんが、こちらに向いてそう言った。
「そこそこ、広いですね」
ここは町の端の方に建っているので、山にもかなり近い。当然敷地面積も広くはなる。
「今日の昼ご飯は魚のフライだクマー」
昼食の当番(朝食、昼食は当番制らしい)である球磨と多摩が、食卓に料理を並べる。カリッと揚がった白身魚のフライは、白く光るご飯によく合う。フライにかかるソースの味付けと対照にあっさりとした澄まし汁、艶のある野菜を使い添えられたサラダもまた視覚に彩りを与える。
「おいしそうですねぇ」
「たっぷり食べるにゃ」
その言葉を聞き空腹の僕達は食事を始めたのだった。