彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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8 謎、推理、窓辺にて

 僕がこの鎮守府に来てから早半月が経とうとしていた。ここでの生活に慣れつつある僕は、今日もまた本部より送られてくる書類に目を通す。

「……。ふーん」

「司令官、どうしたんですか?」

週の始めから秘書艦担当になった青葉さんが尋ねる。

「南方の海域で深海棲艦活発化か、だって。物騒だね」

その紙の二枚目を見る。

「一週間後に支部に集まって作戦会議、今後の方針について話す予定。……へぇ」

僕は手帳にその日程と場所を書き込む。

「丸一日潰れるな……」

ここからだと電車で三時間はかかると思った。一方独り言を聞いていた青葉さんは、

「ちょっとした小旅行が出来ますよねぇ。誰を連れていくんですか?あ、『誰でも良い』は駄目ですよ」

「……当日の秘書艦じゃないかな」

それは誰かを知らないけど。

「……実質同じ答えじゃありません?」

「黙秘します」

 彼女は手際よく仕事をこなしていく。曰く「こういう作業も記者には必須なんです」とのこと。雑談を交えながら仕事をする。

「ほー、じゃあ月一で新聞を書いてるんだ」

「そうなんですよ。全国の青葉たちで作成し配布しているんです。そのアオバネットワークで情報のやり取りなんかもしています」

青葉新聞、というらしい。楽しみに期待しておこう。

 

 今日の来客と言えば演習相手の一組しかおらず、その午後の演習を終えれば後はゆったりとした時間が流れる。そんな中報告書を書いている僕の隣で青葉さんが口を開いた。

「司令官、ここの数字がどうしても合わないんですぅ」

「ん? ……計算は合っているみたいだけど」

ざっと見て概算する。

「それぞれの資源が10位ずつ少ないんです」

僕は電卓を叩いて、もう一度青葉さんの計算が正しい事を確かめた後、資材倉庫へと足を運んだ。

「確かにほんの少し少ないね」

資材倉庫に保管されている資材を確認した後、僕はそう呟いた。詳細は燃料7、弾薬11、鋼材5、ボーキサイト6。……。

「何か事件の匂いがしますね~」

途端に野次馬根性丸出しになった彼女に僕は言う。

「使う際にカウントミスしたんじゃないの?」

「それは無いとは言えませんが、低いでしょうねぇ。ここは資材を多く使いませんし」

 資材は百個一箱で保管されており、各々の箱の中身はさらに二十五ずつで纏められている。あまり数え間違えそうにはない。

「まあ、おやつに誰かが食べたんじゃないの?どこかの鎮守府にはボーキサイトを大量に食べる艦娘もいると聞くし」

「ああ、居ますねえ……」

僕達は資材倉庫の灯りを消し施錠したうえで執務室に戻った。

 深夜、僕は一人となった執務室で椅子に座り、窓から夜景を眺めていた。

 

「午前の出撃のメンバーは旗艦電、僚艦龍驤、球磨、青葉、多摩、雷。午後は旗艦龍驤、僚艦鳳翔、不知火、青葉、球磨、雷。それじゃ、解散。電さんは出撃前に執務室に来てね」

 毎朝行っている連絡を終え、各々が準備や支度などに向かう。僕はその内の一人に声を掛けた。

「鳳翔さん」

「何でしょう、提督」

「もしかしたら、なんですけど、大きめのタオルが足りなかったりしませんか?」

「……そう言われてみれば、足りなかった様な気がします」

「そうですか、有難うございます」

僕も食堂から退室した。執務室へ戻ったのだった。

「失礼するのです」

 二十分後、そう言ってドアを開けたのは茶髪の少女。僕は連絡事項を伝える。

「今日の午前はこの海域に行って下さい。ここは前にも話した様に重巡から駆逐が主に出ます。少々戦いが厳しくなり得るから、注意を払って出撃して下さい。以上です」

「分かりました。それでは行ってくるのです!」

「その前に」

「?」

「ここから先は僕の独り言だ、特に気にしなくても良いよ。『目には目を』っていうのが僕の主義なんだけど、その否定、言うならば『沈黙には沈黙を』っていうのもまた僕の主張なんだよ」

電さんは反応に困っている。急にこんな話をされたら誰だってそうなるだろう。

「まあ、だから僕に危害を加えない者は仲間、あるいは味方として受け入れるよ。それが誰であろうとね」

時間を取って悪かったね、行ってらっしゃい、と僕は彼女を送り出す。果たして僕の席からはその艦娘の背中しか見えなかった。

 僕は棚から艦娘一覧を取り出し、頁をめくり始めた。

「あれ、お兄さん読書?」

私室から出てきたキリに僕は答える。

「まあそんなとこ」

秘書艦の青葉さんが出撃している間、僕はその本を読んでいた。

 二時間ほどで帰ってきた一行を出迎え、その後僕は青葉さんと仕事を片付けている。

「ところで、資材の謎は分かったんですか?」

「君はどうだったの?」

彼女の事だ、恐らく自分で調査したに違いない。そう思い逆質問をする。

「それが全然わかりませんでした。ぶっちゃけ誰にでも盗めたと青葉は思います」

この鎮守府は他に比べ一日の自由時間が多い。そのため、アリバイが証明できない時間が全員に有り得る。

「ふーん」

「……司令官、何か分かったんじゃありませんか?」

「正確には八割の確率で分かった、と言うべきかな」

「八割方、ではなく?」

「特に証拠が有るわけでもないし、僕が独断と偏見で考えたものだからね」

壁にかかっている時計を見る。昼食にはまだ時間がある。さながら謎解きはランチのまえでと言った所かな。

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