僕がこの鎮守府に来てから早半月が経とうとしていた。ここでの生活に慣れつつある僕は、今日もまた本部より送られてくる書類に目を通す。
「……。ふーん」
「司令官、どうしたんですか?」
週の始めから秘書艦担当になった青葉さんが尋ねる。
「南方の海域で深海棲艦活発化か、だって。物騒だね」
その紙の二枚目を見る。
「一週間後に支部に集まって作戦会議、今後の方針について話す予定。……へぇ」
僕は手帳にその日程と場所を書き込む。
「丸一日潰れるな……」
ここからだと電車で三時間はかかると思った。一方独り言を聞いていた青葉さんは、
「ちょっとした小旅行が出来ますよねぇ。誰を連れていくんですか?あ、『誰でも良い』は駄目ですよ」
「……当日の秘書艦じゃないかな」
それは誰かを知らないけど。
「……実質同じ答えじゃありません?」
「黙秘します」
彼女は手際よく仕事をこなしていく。曰く「こういう作業も記者には必須なんです」とのこと。雑談を交えながら仕事をする。
「ほー、じゃあ月一で新聞を書いてるんだ」
「そうなんですよ。全国の青葉たちで作成し配布しているんです。そのアオバネットワークで情報のやり取りなんかもしています」
青葉新聞、というらしい。楽しみに期待しておこう。
今日の来客と言えば演習相手の一組しかおらず、その午後の演習を終えれば後はゆったりとした時間が流れる。そんな中報告書を書いている僕の隣で青葉さんが口を開いた。
「司令官、ここの数字がどうしても合わないんですぅ」
「ん? ……計算は合っているみたいだけど」
ざっと見て概算する。
「それぞれの資源が10位ずつ少ないんです」
僕は電卓を叩いて、もう一度青葉さんの計算が正しい事を確かめた後、資材倉庫へと足を運んだ。
「確かにほんの少し少ないね」
資材倉庫に保管されている資材を確認した後、僕はそう呟いた。詳細は燃料7、弾薬11、鋼材5、ボーキサイト6。……。
「何か事件の匂いがしますね~」
途端に野次馬根性丸出しになった彼女に僕は言う。
「使う際にカウントミスしたんじゃないの?」
「それは無いとは言えませんが、低いでしょうねぇ。ここは資材を多く使いませんし」
資材は百個一箱で保管されており、各々の箱の中身はさらに二十五ずつで纏められている。あまり数え間違えそうにはない。
「まあ、おやつに誰かが食べたんじゃないの?どこかの鎮守府にはボーキサイトを大量に食べる艦娘もいると聞くし」
「ああ、居ますねえ……」
僕達は資材倉庫の灯りを消し施錠したうえで執務室に戻った。
深夜、僕は一人となった執務室で椅子に座り、窓から夜景を眺めていた。
「午前の出撃のメンバーは旗艦電、僚艦龍驤、球磨、青葉、多摩、雷。午後は旗艦龍驤、僚艦鳳翔、不知火、青葉、球磨、雷。それじゃ、解散。電さんは出撃前に執務室に来てね」
毎朝行っている連絡を終え、各々が準備や支度などに向かう。僕はその内の一人に声を掛けた。
「鳳翔さん」
「何でしょう、提督」
「もしかしたら、なんですけど、大きめのタオルが足りなかったりしませんか?」
「……そう言われてみれば、足りなかった様な気がします」
「そうですか、有難うございます」
僕も食堂から退室した。執務室へ戻ったのだった。
「失礼するのです」
二十分後、そう言ってドアを開けたのは茶髪の少女。僕は連絡事項を伝える。
「今日の午前はこの海域に行って下さい。ここは前にも話した様に重巡から駆逐が主に出ます。少々戦いが厳しくなり得るから、注意を払って出撃して下さい。以上です」
「分かりました。それでは行ってくるのです!」
「その前に」
「?」
「ここから先は僕の独り言だ、特に気にしなくても良いよ。『目には目を』っていうのが僕の主義なんだけど、その否定、言うならば『沈黙には沈黙を』っていうのもまた僕の主張なんだよ」
電さんは反応に困っている。急にこんな話をされたら誰だってそうなるだろう。
「まあ、だから僕に危害を加えない者は仲間、あるいは味方として受け入れるよ。それが誰であろうとね」
時間を取って悪かったね、行ってらっしゃい、と僕は彼女を送り出す。果たして僕の席からはその艦娘の背中しか見えなかった。
僕は棚から艦娘一覧を取り出し、頁をめくり始めた。
「あれ、お兄さん読書?」
私室から出てきたキリに僕は答える。
「まあそんなとこ」
秘書艦の青葉さんが出撃している間、僕はその本を読んでいた。
二時間ほどで帰ってきた一行を出迎え、その後僕は青葉さんと仕事を片付けている。
「ところで、資材の謎は分かったんですか?」
「君はどうだったの?」
彼女の事だ、恐らく自分で調査したに違いない。そう思い逆質問をする。
「それが全然わかりませんでした。ぶっちゃけ誰にでも盗めたと青葉は思います」
この鎮守府は他に比べ一日の自由時間が多い。そのため、アリバイが証明できない時間が全員に有り得る。
「ふーん」
「……司令官、何か分かったんじゃありませんか?」
「正確には八割の確率で分かった、と言うべきかな」
「八割方、ではなく?」
「特に証拠が有るわけでもないし、僕が独断と偏見で考えたものだからね」
壁にかかっている時計を見る。昼食にはまだ時間がある。さながら謎解きはランチのまえでと言った所かな。