彼の双眸に映る景色は   作:sophist

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9 Double mind / Humble kind

 この部屋には今現在二人の人物がいる。僕と青葉さんだ。キリさんはどこかに出かけている。僕はこの部屋のもう一人に向かって語り始めた。

「本当は誰にも言いたくないんだけどね、特に青葉さんには」

「青葉だって言うか言うべきでないかの区別はつきますよ、司令官」

「そうは言っても、人の口に戸は立てられぬと言うからね。まあ、でも結局は同じことだ。じゃあ始めますか」

 僕は彼女に聞く。

「昨夜どの位少なくなっていたっけ」

「燃料7、弾薬11、鋼材5、ボーキサイト6ですよ」

彼女は彼女の手帳を見ながら言う。

「ここから分かる事は何かを考える。まず、資材が少なくなっている」

「当たり前と言ったら当たり前ですけど」

「次にWhyを考える。この場合だとどんな事が有り得るかな?」

「そうですねぇ、数え間違いと盗難と紛失、ですかね」

「その内、数え間違いは毎日僕と秘書艦が確認しているし、防ぐ仕組みもあるから無いとして」

 具体的にはどれだけ使ったのかをマジックで紙に書いてもらっている。ちなみに補給といわれる行為は各艦の妖精(僕には見えないけど)が行っている、らしい。あとその補給の時には僕も立ち会っているし。

「屋内にあるし、紛失もない。そもそも紛失ならこんな事態は起こらない」

と断言する。彼女はすかさず反論する。

「報告したくなかった、バレたくなかったとも考えられません?」

「実際その場合、君ならどうする?」

彼女は暫く無言になった後、そういうことですかと呟いた。

「その時は自分の実際の補給量を減らしますね」

そういうこと。あと四種類の資材の全てで紛失を起こす人はあんまり居ない。

「そもそも犯人は僕達の内の誰かだとは判ってたんだよ」

「……何でですか」

「一、無くなった量が少ない事。二、ボーキサイトまで盗まれている事。三、現金が盗まれていない事。四、昨日は来客が一組居たけど目を離していない事。五、昼間は鎮守府の警備がまあまあ厳重な事。六、夜間資材倉庫は閉まっている事」

僕がそう思った根拠を列挙していく。外部犯なら資材をピンポイントで四種類全てを少量ずつ盗む事は、有り得ないとは言わないがまず無いだろう。リターンよりも断然リスクが高い。あと燃料とかは兎も角、ボーキなんて何に使うんだよ。

「以上の事から僕達の中に犯人が居ましたとさ」

ちゃんちゃん。

「いや司令官、ちゃんちゃんじゃなくてですね、結局誰がそうしたんですか」

青葉さんがじとー、とこちらを見る。

『誰が』(フーダニット)は言わないけど、『何故か』(ホワイダニット)は言うよ。僕の独断と偏見に基づいた回答は『死に体の敵空母、恐らく空母ヲ級を保護したから』だ。解答は知らないけど」

彼女はそれを聞いて数秒停止し、その意味を理解したらしい。

「……空母ヲ級、ですか。……彼女、らしいですねぇ」

どうやら青葉は推察能力も長けているようだった。

「司令官、でもどうしてその結論に至ったんですか?」

「そもそも資材って建造と開発と補給にしか使わないでしょ。後は、あの量しか一度に運べなかったのではないかと考え付いたから。あとボーキサイトを使うのは空母系。まあこれが違うとなると『少しずつへそくりとして貯めている』とか、それこそ『つまみ食い』っていう線しか思いつかなかったからだ」

恐らく、彼女は傷ついたヲ級にどこかしらで遭遇した。彼女が近づいても動かない、動けない状態だったのなら―それは少なくとも一日で回復はしないだろう―何かしてあげようと思ったのではないか。しかし深海棲艦の手当ての仕方など詳しくは分からない。少なくとも資材は必要かもしれない。気づかれても何とか言い訳が出来る位の量を持っていく。他には例えば消毒液や包帯―――夜の寒さを凌ぐ為の大きめのタオルとか。

 その言葉の後、そうそう、と言って僕は話を締めた。

「ここまでの事は詭弁まがいのこじつけだから、あまり信じない方が良いと思うけどね」

こうして僕の推理の様な何かは閉まった。

 

 今回の後日談。敵は討つべきという意識と敵も助けたいという意思の板挟みにおかれた彼女は、ダブルバインドに陥らなかった点で賢明であり、彼女の理念に則ったその行為は決して責められるべきものではない、と彼女には伝えた。結局の所、他者は攻めるが、責めるのは自分なのだ。謙虚な親切者と表現できうる彼女は、確固たる自分の意志を貫いたのだがそれと同時に自責も感じていたのかもしれない。それは僕の知る所ではないが。

 果たして、空母ヲ級がこの鎮守府に連れられた。

 

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