ハリー・ポッターと幻想殺し(イマジンブレイカー)   作:冬野暖房器具

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 ちょこっと短いです


10 一人きりの少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっば……上条先生、フレッドの鼻が……ッ!」

 

 それからと言うもの。なんだかんだで上条の日常は平穏そのものだった。

 

「ジョージ、お前毒ツルヘビの鱗の枚数を間違えやがったな!? 上条先生、ちょっとこの耳が伸び過ぎちゃって……」

 

 相変わらず継続されるスネイプの魔法薬学の助手も、特に大きな失敗も無くこなせていた。当初は『質問が飛んで来たらどうしよう』と怯える日々ではあったのだが、蓋を開けて見ればその気配もない。飛んでくるのは双子の兄弟だったり、その鼻だったり、耳だったりである。

 

「何だ、今の爆発は!?」

 

「シェーマスが鍋に何かを……」

 

 当然、双子の兄弟以外にも訪問者はあった。だがそれも質問者などでは決してなく、魔法薬の誤った調合、使用による被害者達である。中には上条の右手ではどうしようもない子達もいたため、その場合はスネイプが不機嫌そうな顔(上条の推測ではおそらく真剣な顔)で対応に当たっていた。

 

「先生! 上条先生! ウィーズリー兄弟の鍋が爆発しました!」

 

「げっ、あいつらとうとう……二人は無事か!?」

 

「はい! ……でもモンテギューが横でのびてます」

 

「………なんでスリザリンのアイツがグリフィンドールの机にいるんだ?」

 

 時折不可解な事もあったが、どうしようもない瞬間とは無縁な生活。むしろ、こんな事をしているだけでいいのだろうかと首を傾げてしまうほどに。不幸を自称する少年の胸中は複雑だった。

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだけども。どうでございましょうか、閣下?」

 

「…………それは我輩に言っているのか?」

 

 現在、地下牢の教室にて。この不機嫌なコウモリ男への警戒心は虚空の彼方へと消え去って久しい上条当麻は、スネイプの横で同じく腕を組み、首をもたげながらそんな事を呟いた。

 

「いやだってさ。この前『お給料じゃ』とかなんとか言って、ダンブルドアからずっしりとした袋を貰っちゃって。通貨の価値とかわかんないからその場で『ふくろう通信販売』っていう通販雑誌を見せてもらったのはいいんだが……」

 

 のほほんとした様子で世間話を続ける上条と、眉をひそめ訝しげな表情のスネイプ。そしてそんな二人の会話に聞き耳を立てている周囲の生徒達は、いつ魔法薬の先生が苛立ちで爆発するのかとそわそわしながら見守っていた。

 

 そう、現在ここはまさに魔法薬の授業中……グリフィンドールとスリザリンの1年生たちが、四苦八苦しながら課題をこなしている最中である。

 

「……つまりチョコレートに換算すると、上条さんが3年生き延びられるくらいの給料って事になるわけですよ。聞けば他の教職員の8割相当って話らしくてさ。大した仕事もしてないのにコレはまずいでしょって。でも自分から給料を値切りにいくのも変な話だなとも……で、どう思いますか閣下、とこうして尋ねているわけなんだけど」

 

 不肖上条当麻。白い悪魔を養ってきた根性は伊達ではなく、3日にチョコレート菓子1個計算の異常さに彼自身はまったく気がついていなかった。

 

「貴様のチョコレート工場の話はいい。重ねて問うが……その『閣下』という呼称は我輩に言っているのか?」

 

「へ? そうだけど?」

 

「何故だ?」

 

「え? うーん……雰囲気、かな。なんか独裁者っぽいし、このポーズ」

 

 この上条の一言で、とうとう耐え切れなかったのか生徒の一人が噴き出した。唾やらなんやらが隣の黒髪の少年にかかったようだが、その子自身もそんな事は気にせず肩を震わせて笑いを堪えている。

 

 そして、それに呼応するようにスネイプも肩を震わせていたが、こちらは笑いではなく怒りのためだった。

 

「次に我輩を『閣下』と呼んだら。今夜、貴様の夕食に毒薬を盛ってやる」

 

「へいへい、もう呼びませんの事よ……呼ばないから、今ので笑った奴に罰則とかはやめろよな」

 

 手を振りながら離れていく上条を苦々しげに睨みつけながら。教科書を片手に持ち、つかつかと歩いて数歩。いつまでも腹を抱えて笑っている赤毛の生徒に、スネイプはその教科書を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 ……平和だった。少なくともこの日までは。上条が溜息をつきながら壁にもたれ掛かった瞬間に、その脅威はやってきた。

 

「上条先生」

 

「うん?……えーと」

 

 目の前にいたのは、グリフィンドールの生徒だった。ボサボサの栗色の髪に、髪と同じ瞳の色をした女の子である。

 

(あ、そうだ……この子、スネイプが質問をした時はいつも真っ先に手を挙げてる……名前はたしか)

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです。上条先生、質問があるんですけどいいですか?」

 

「………………な゛っ?」

 

 いいですか、と言われても全然よろしくない。完全に白目を剥き硬直した上条だったが、それを無視して彼女は口早にまくし立てる。

 

「先生がネビルに教えた『呼び寄せ呪文』、アレをどうやって教えたんですか? あの高度な呪文を1日で習得させるなんて、普通じゃ考えられません」

 

「……え、それが質問なのか? そんな事ならいくらでも教えてやれるけど」

 

 そう呟きながら、上条は懐からスネイプ特製の集中薬入り水筒を取り出した。

 

「何回かネビルに呪文を練習させて、その後に俺が普段飲んでるこの『集中薬』をぐびっと一口。俺がやったのはこれだけだぞ?」

 

「『集中薬』? ……先生、その薬は飲んだ後にとっても疲れる薬では?」

 

「おう。ヒキガエルのトレバーが飛んできた後にぶっ倒れちまってな。あの後ダンブルドアに怒られたから、申し訳ないがこの薬はやれないぞ?」

 

「ふぁ、ふぁみひょうふぇんふぇー」

 

 不意に、そしておそらく上条の名を呼ぶ声があった。上条が振り向くとそこには、なにやら気味が悪いほどに口周りが膨れ上がったグリフィンドール生が。

 

「噂をすれば…………ネビル、だよな? 何で越冬前のリスみたいになっちゃってるんだお前は」

 

「ふふひがふいふぁふぇふふほべあふぉを──

 

「すまん、聞いた俺が悪かった。何言ってるか全然わかんねぇ。いやしかし、コレは俺が治せるやつなのか? ダメだったらスネイプ先生のとこに……」

 

 スネイプ先生と聞いて泣きそうな表情を作ったネビルだったが、上条が右手を触れた途端、しゅるしゅると空気の抜けた風船のように元の顔つきに戻っていく。

 

「あ、ありがとう上条先生。薬がついた手袋で顔を拭っちゃって、気づいたらこう……」

 

「おう、次からは気をつけろよ」

 

 チラリ、と上条が視線を戻すと、未だハーマイオニーはその場に留まっていた。何やらぶつぶつと呟きながら考え込んでいるご様子である。これ以上質問されても上条には特に答えることも出来ないし、万が一教えを乞われても今回は『集中薬』も使えない。

 

 はてさてどうしたものかと思った上条だったが、自分の横で不思議そうにハーマイオニーを眺めるネビルの様子を見て、とある名案が浮かんできた。

 

「なぁハーマイオニー。もし『呼び寄せ呪文』を覚えたいなら、ネビルに教わればいいんじゃないか? ……ネビル、あの後『呼び寄せ呪文』はうまくいってるのか?」

 

「え、うん。上条先生に教わってからは、一度も失敗した事ないよ」

 

 それならば何の問題もない。上条にはわからない細かなコツやイメージも、ネビルならば問題なく教えられるはずだ。そう思ってハーマイオニーを見るが、彼女は気難しそうな顔でぱったりと硬直してしまっている。

 

「あれ、どうした? おーい」

 

「失礼します」

 

 そう短く告げて、ハーマイオニーは去っていった。

 

「……なぁネビル。俺、何か悪い事したのかな?」

 

「わかんない……けど、僕がハーマイオニーに何かを教えるなんて想像できないよ。ハーマイオニーってとっても頭がいいから」

 

「……そっか」

 

 ひっそりと、誰ともお喋りする事なく黙々と課題に取り組むハーマイオニー。真面目で勤勉な、生徒の見本のような姿だが、上条にはそれがとても寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーマイオニー? 誰だっけ、そいつ」

 

「ロニー坊やの同級生だろ。1年生の、談話室で本ばっか読んでるやつ」

 

 時は変わって、昼食をはさみ午後は3年生の授業だった。もはや当然のように上条の所にやってきては、何やら怪しげな物品の破壊をお願いにきている双子の兄弟たち。しかもここに来る口実として、フレッドは耳たぶをだるんだるんに伸ばし、ジョージは鼻毛を大量に生やしてのご登場である。

 

「あー、アレかぁ。まさしく本の虫だったな。『ホグワーツの歴史』なんて重たい本を借りてくるやつ初めて見たぜ」

 

「アンジェリーナが言うには、女子寮でもずっと本を読んでるってさ。でも最近は『呼び寄せ呪文』の練習にご執心だとか」

 

 それを聞いて、フレッドが振り回す耳たぶを右手で叩き落としながら、上条は頭を抱えた。

 

(練習してるって事は、やっぱり『呼び寄せ呪文』を使えるようにはなりたいって事だよな……うーん、じゃああの時は何で帰っちまったんだ?)

 

「あれ、元に戻らないな……って事は、俺が飲んだ薬の効果は完全に消えてるって事だから……」

 

「変身じゃなくてマジででっかくなってるんだな。あの素材のかけあわせだとこういう効果がでるのか。『レデュシオ──縮め!』」

 

 ジョージが杖を振ると、フレッドの耳は掃除機のコードを巻くように戻っていった。

 

「……自分で治せるならここにくる必要ないんじゃないか?」

 

「いやいや、薬の効果を確かめるためには必要なんだよなー」

 

「上条先生の右手で治るのは、『呪い』とか『変身』とかそっちの効果なんだよね。見た目にはわかんない部分もわかるってのはすげーと思うぜ? 実際」

 

「なんか知らない内に分析までされてやがる……」

 

 何度も上条の元へ足を運ぶうちに、彼らはあろう事か上条の右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)の特性についておぼろげながらに把握しはじめていた。上条にはわからないが、幻想殺しで判定できる性質は彼らの『作品製作』にかなり貢献出来ているらしい。

 

「これで次の段階に入れそうだ。この分だとハロウィンは相当派手にぶちかませるぜ」

 

「おい、程ほどにしておけよ。この前のモンタギューみたいなのはやり過ぎだからな?」

 

 この前、というのはモンタギューがこの双子の鍋の爆発に巻き込まれたときの事である。そんな上条の忠告を聞いて、双子は顔を見合わせるとにんまりとしながら語り始めた。

 

「いやいや、アレは事故だって。なぁフレッド?」

 

「ああ、そうだぜ上条先生。親愛なるモンタギュー君は、我々の『毛生え薬』の効果をまろやか( 、 、 、 、)にしてくれようと、気を利かせて鱈の目玉を増量してくれたようだが」

 

「残念な事に、何故か( 、 、 、)それが原因で極めて揮発性の高い薬品へと昇華させてしまったと」

 

「結果として爆発。薬を浴びた彼は全身脱毛に成功してしまいましたとさ。めでたしめでたし」

 

「めでたくもなんともないわ!!」

 

 へーいとハイタッチをかます二人を見て、上条はがっくりと肩を落とした。この双子は恐ろしい事に、モンタギューがちょっかいをかける事を予見してあの薬を調合し机を離れていたらしい。仕掛けられるいたずらを予測しての反撃、これを責める事は上条どころかスネイプでも無理な案件である。

 

「なんつーか、たくましいよな。お前ら」

 

 そう呟いた途端。上条たちとは少し離れたところで爆発が起きた。肩をすくめる上条だったが、それとは対称的に双子の兄弟、フレッドとジョージは目を輝かせてそちらを振り返る。

 

「おっと、どうやらまた( 、 、)不幸な事故が起きたようで」

 

「はからずも、またもや我らの成果を皆々様にお見せ出来るとは。モンタギュー君には頭が上がりませんな」

 

 爆発の中心はやはりというか。結局この双子の机だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーむ……」

 

 授業も終わり、上条は少々行儀悪くも机に腰掛けて物思いに耽っていた。

 

「おい、何をしている?」

 

 顔を上げると、教室をぐるりと回り、後片付けを終えたスネイプがそこにいた。

 

「いや、ちょっと考え事というかなんというか」

 

「余所でやれ。授業は終わったが、我輩にはまだ仕事が残っている」

 

「ここ、誰もいないからゆっくり出来て居心地いいんだよな」

 

「誰も? 我輩が目に入らんのか貴様は……まぁいい。騒がないというなら好きにしろ。その代わり、後で貴様の右手を借りるぞ」

 

「うーい……」

 

 そう言うと、スネイプは自分用の机に座り、調合の準備に入った。何を作るかはわからないが、手馴れた手つきを見るに普段から作っているモノなのだろう。

 

「何を作ってるんだ?」

 

「…………………『真実薬』だ」

 

「すいませんでしたッ!!」

 

 完全にやぶ蛇だった。反射的に土下座を敢行した上条を一瞥し、スネイプはフンと鼻を鳴らす。

 

「ようやく在庫が出てきたところだ。コレは調合に1ヶ月はかかる代物だからな」

 

 そう言って、スネイプは作業を再開した。素早い手つきで、且つ正確に調合をする手際のよさは、素人の上条から見ても流石と言わざるを得ない。

 

「あのさ、一つ質問していいかな?」

 

「……貴様は黙っている事が出来んのか」

 

 ジロリと睨みをきかせるスネイプだが、NOとは言わないらしい。それを確認した後に、上条は言葉を続けた。

 

「もしも、頑張ってもなかなか習得できない呪文があったとして」

 

「ふむ」

 

「それを使える魔法使いがいるとする」

 

「……ふむ」

 

「で、その魔法使いからさ。コツとかイメージを教われば、やっぱり上達に一歩近づくよな?」

 

「…………そうだな。まぁ、我輩なら絶対にやらんが」

 

「へ?」

 

 コトリ、とスネイプは傾けていたフラスコを机に置いた。

 

「我輩がグレンジャーの立場なら、ロングボトムになんぞ絶対に教わらんと言っているのだ。貴様の悩みとはこの事だろう。我輩が何も見ていないとでも思ったのか」

 

「げっ、知ってたのかよ……」

 

「当たり前だ。あの甲高い声は教室にいる者全員に聞こえていた。我輩としても、また貴様が『集中薬』を生徒に飲ませないかどうか見張る必要があった」

 

「言われなくてもんなことしないって……それで、教わらないってのはどういう事だ? 上達するなら、それで何の問題もねえじゃねえか」

 

「そんな屈辱を味わうくらいなら、いっその事習得できない方がマシだと言っているのだ」

 

 そっけなく言い放つと、スネイプは魔法薬の材料棚に向かって行ってしまった。

 

「……屈辱? ってことはつまり、矜持(プライド)の問題なのか……?」

 

 ぽつんと孤立したハーマイオニーの姿。脳裏に浮かんだその光景は、なんとなくだが。それは違うと上条に告げていた。

 

 

 

 

 

 

 







 
 
 



医務室


スネイプ「……コイツをどう思う?」

マダム・ポンフリー「凄く……つるつるです」

モンタギュー「助けて下さい」
 
 
 
 



談話室


フレッド「おい、ジョージ。アンジェリーナがあの脱毛薬譲ってくれってうるさいんだけど」

ジョージ「かわりに増毛薬でも渡しておこうぜ?」

双子「「あっはっはっはっはっは!!」」



 
 
 


クディッチ競技場


ウッド「……アンジェリーナ」

アンジェ「なによ」

ウッド「君はチェイサーであってビーターではないんだが」

アンジェ「知ってるわよ」

ウッド「…………ついでに言えば、それはブラッジャーではなくウィーズリーたちだ」

双子「」チーン

 
 
 



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