ハリー・ポッターと幻想殺し(イマジンブレイカー) 作:冬野暖房器具
オリジナル要素がありますです。
(……ッ!!?)
紅蓮の閃光が放たれた瞬間。上条は己の右手をかざそうと考え、そして逡巡してしまった。
(しまった、手袋―――)
その一瞬の迷いが致命的だった。上条がかざした右手は間に合わず、失神光線は上条当麻の胸に直撃する。足が痺れたような感覚が胸から全体へと広がっていき、そしてその感覚が上条当麻の右手に届いた瞬間―――上条はその感覚が霧散していくのを感じた。
「ぐ……ゴホッ……一体、何がどうなって……?」
咳き込みながら上条は目の前の二人を見た。困惑顔のスネイプと呆れ顔のダンブルドアを。
『セブルス。ワシは浮遊呪文を試すように言ったはずじゃが』
『……全身に効くならば同じでしょう。魔法を打ち消すという校長の言を確認するのならこちらの方が適切かと。そのちぐはぐで無様な手袋に、校長の『反対呪文』が仕込まれていないとも限らない。失神呪文が効けば、彼をマッチ箱に詰めてホグワーツ特急に運び込もうと思っていたのですが』
『……悪かったの、ちぐはぐで』
『…………おっと』
当然だが、彼らの言語は英語である。二人の会話は上条には伝わるはずもなく、上条の目の前にはしょんぼりとした老人とやっちまったという顔をした男がいた。
「あのー、ダンブルドアさん?」
『とにかく、これでわかったじゃろう。彼の右手には特異な力があると』
「もしもーし」
『ええ、まぁ。我輩の知らない未知の魔法か、我輩の気づかぬ間に反対呪文を……校長が唱えていなければの話ですが』
「……おい」
『はぁ……とことん信じる気にはならんか』
『貴方ならやりかねませんからな。それとも、彼には巨人の血でも入っているのですかな?』
『……ああ、なるほど。セブルス、君はワシを困らせたいだけか』
「おいてめえら!!」
痺れを切らした上条が叫び、険しい表情の二人がこちらに顔を向けた。
「おお、すまんすまん忘れておった。少々手違いがあってのう……彼に注意をしておったのじゃよ」
「忘れて……!? ……手違い? いや、まぁそれはさておいて。さっきのアレはなんだったんです?」
「ん? アレか、アレは……ふ、『浮遊呪文』じゃ。モノを浮かべたり出来る魔法でな。スネイプ先生は君の右手の事を確かめたかったのじゃよ」
「……浮遊?」
「左様、浮遊じゃ」
そう言われてみれば、さっきの気持ち悪さは某英国の某空中要塞から飛び降りたときのモノに似てなくもないか。そんな事を考えながら、上条はスネイプを見た。仏頂面で、眉間に皺をよせている彼を見るに、試しはしたがあまり納得はいってないのだろう。
(すてゅーびふぁい、だったか。これが浮遊呪文の詠唱なんだな)
「さて、では次の段階に入ろうかの。上条君。コレを」
「……帽子?」
ダンブルドアから上条に手渡されたのは、手品師が被っていそうなシルクハットだった。おそるおそる中身を覗いてみたが、ウサギやハトは入っていない。しげしげと眺めた後にダンブルドアを見ると、何故か彼はそわそわしていた。
(……まぁ、被れってことだよな。これは)
なんとなくこの帽子を見ていると、伝染系カーボン魔術師であるサンジェルマンを思い出す。アレは強敵だったなぁとどうでもいい事を思い出しながら、上条は帽子を浅く被った。
「どうかね? 被り心地は?」
「……どうと言われましても。これが何か?」
「……なるほど。成功のようですな?」
つまらなそうなスネイプの発言を聞いて、上条は驚愕した。
(日本語話せたんかい!! ……でも、口の形と声が一致してないような)
「それは『翻訳ハット』じゃ。被った者の言葉を英訳し、聞こえてくる言葉をその者の母国語へと翻訳する。ワシの自信作……じゃった」
「おい待て、何だ今の不吉な語尾は」
「いや、大したことではない。作ったはいいが、結局ワシには必要の無いものだったのじゃ。ワシが相手に合わせればいいのじゃからのう。それに、大抵は英語で事足りるのでな。まぁ、魔法省の知り合いに一度貸したくらいか」
ほっほと笑うダンブルドアを見て、上条は言葉を失った。
(……この爺さん……天然か? やっぱオルソラ枠? 結構これって凄い発明じゃないか? というか魔法省ってなんだ?)
「とにかく。君の右手との兼ね合いが効くかどうかが問題じゃった。これならもう大丈夫そうじゃな」
くるりと身を翻し、ダンブルドアは客室の出口へと歩いていく。
「ワシは忙しいのでな。これからしばらくの間留守にする……セブルス、彼を頼むぞ」
「へ?」
「……校長」
「拒否権は無しじゃ。では、またな上条君」
そう言うと、ダンブルドアは客室を後にした。後に残されたのは、不機嫌そうな英国人と、奇妙なシルクハットを被った学生服の東洋人の二人だけ。
しばしの沈黙。その後、スネイプは重々しく口を開いた。
「……着いて来い」
「……はい」
連れて来られたのは地下の教室だった。
(……なんか、滅茶苦茶ジメジメしたところだなここ。薬品の匂いも大量に漂ってるし……これ、吸っても大丈夫か?)
ぐつぐつと煮える大なべを通り過ぎたところでスネイプは停止する。ここに来るまでに、彼は一度も口をきいてはくれなかった。ダンブルドアと違い気難しそうな人である、という上条が最初に抱いた印象はどうやら間違ってはいないらしい。
「……校長の破天荒振りは今に始まった事ではない」
重々しく、上条に背を向けたままスネイプは口を開いた。
「だが聡明な方だ。世間で語られている以上に賢く、意外にもそれ以下に容赦や慈愛は持ち合わせていない……故に、一見して意味のない行動にも必ず理由が存在する。校長は理由なしに、訪れた謎の来訪者を自分の城に
遠まわしで、難しい言い回しだった。その言葉には一切の感情がない。まるでスネイプ自身が自分に言い聞かせるように。確認事項を確かめているような、そんな口調だった。
「同じく、君を我輩に預けたのにも理由があるはず。ダンブルドアは私の性格も把握している。私が今しようとしている事は、校長も予測済みのはずだ」
たらり、と。上条当麻の頬に冷や汗が垂れる。
「……えーと。つまり、今から何かやらかしますがあの爺さんは了解済みのはずだから大丈夫! ……ってことでせうか?」
「左様。校長は優しくも、君がホグワーツで暮らしていけるよう便宜を図れと仰った。この学校で最も、その役目に相応しくないこの私に」
(……あ、自覚あるんだ)
「君のような得体の知れない者の世話などやりたくはない。だが頼まれた以上はやらなくてはならない……故に、我輩は我輩のやり方で客人をもてなそう。最初に言っておくが嫌ならばそう言いたまえ。校長に相談するまでもなく、この学校の敷地から放り出してやる」
上条へと振り返ったスネイプの表情は、苦々しいの一言だった。先ほどまでの言葉が、一字一句違わず彼の本音であることが伝わってくる。なんとなく、上条と協力を強いられたときのステイルに似ているな、というのが上条の感想だった。
「えー……まぁ、やり方に関しては口は出さない……です、はい」
「……よろしい。では早速だがこれを飲んでもらう」
スネイプが出したのは小さな小瓶だった。
「ベリタセラム、真実薬だ。たったの一滴、これを口にするだけで如何様な人物でもその秘密をべらべらと喋り倒す。まずは君が、信用に足る人物か否か、見極めさせてもらおう」
「は……? ま、まさかの自白剤!? なんでそんな物騒なもんが学校にありやがる!!?」
「我輩の私物だ」
「ああそうですか……って、なるか! 新学期初日の理科教師が持ち合わせていいもんじゃねえだろ!! それの本来の使用用途はなんだ!!?」
「我輩とてコレを使いたくはない。調合に使われる素材も、調合に費やす時間も馬鹿にはならん。だが、魔法が効かない以上、一番有効なのはこの薬だ。校長もおそらく同じお考えのはず」
「答えになってねぇぞ! そしてんなわけあるか!! あの優しそうな爺さんの思考を勝手に捏造してんじゃねえマッドサイエンティスト!!」
「なんとでも言え。それで、飲むのか、飲まないのか。飲まないのであればとっととここから出て行きたまえ。出口までは案内してやろう」
うっ、と上条当麻は後ずさった。意味不明な怪しい薬を出されて、ほいほいと飲む奴は頭がどうかしている。だが飲まなければ追い出されるという。正真正銘のどうしようもない二択である。
スネイプは何も言わない。目を細め見下すように、あるいは見守るようにこちらを睨むだけだ。もはや問答は無用、という意思の表れでもある。
「不幸だ……畜生ォォォォォォ!!!」
半ばヤケクソに、上条は小瓶に口をつけ一気に煽った。
「おや校長。おはようございます」
「うむ、おはようニコラス」
ホグワーツのとある廊下にダンブルドアは来ていた。別段その場所に用があるというわけではない。探していた人物をようやく見つけたのだ。ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿、ホグワーツに住む、グリフィンドール寮のゴーストである。
「今日は待望の、可愛い新入生たちがこぞってこの城にやってくる日ですな。いやはや、ホグワーツはいつも楽しい場所ではありますが、やはりこの日が一番の楽しみですよ。そしてささやかながら、願わくば彼らこそ、私を名前で呼んで欲しいものです」
ちなみに。生徒の間では、彼は『ほとんど首なしニック』と呼ばれている。処刑される際に首をきちんと切り落とされなかった事に由来するらしいのだが、なんと斧を振り下ろされること45回。斧がよほどのなまくらで、処刑人がかなりの貧弱物で、ニコラスの首が余程頑丈でなければ成立しない神業である。そうでもなければ普通は即死するはずであり、首がほとんどなくなる前にゴースト化していなければおかしい。
この割とどうでもいいミステリーは、ニコラスの処刑理由にこそ鍵があるのではないか。そんな事を、ダンブルドアはなんとなしに考えていた。
「うーむ……生徒達は純粋じゃからのう。別段、彼らも悪意があって君をそう呼んでおるわけではないという事を、理解してくれると助かる」
「いえいえ、名前で呼んで欲しいというのはまさしくその通りなのですがね。生徒達と仲良くなるためには、このあだ名は実に都合がいいのもまた事実……やはり最初が肝心ですからな。歓迎パーティでこの首を晒すのも、もはや恒例行事となっております」
「……ほどほどになニコラス。去年はそれで生徒が一人吐いたからのう」
「そうですね、お陰で彼女は1年間、私をニコラスと呼んでくれました」
ニックは反省も後悔もしていないようだった。まぁこれもまた試練か、とダンブルドアも止める気はさらさらない。ホグワーツ最初のご馳走のテーブルに、彼の首の断面図が晒されるという悲劇は今日も繰り返されるらしい。
「ところでニコラス。少々尋ねたい事があるのじゃが、良いかな?」
「おお、校長が私にですか。なんなりと聞いてください。私の首についてでしょうか?」
「いや、君の首はもういい。ワシの記憶が正しければ、大体一ヶ月ほど前のことじゃったか。ここホグワーツに、新しくゴーストが住み着いたと風の噂で聞いてのう」
その言葉を聞いて、ニコラスは少ししょんぼりとした様子を見せた。
「嗚呼、なんと。校長の耳にまで届いてしまいましたか! 彼はかなり錯乱していて……まぁゴーストになった者というのは大抵最初は錯乱するのですが。私も最初の50年くらいはそうでしたし……ですがアレはかなりの重傷でして」
「そうじゃろうな。ゴーストになる者というのは、大抵が死に対して心の準備が出来ておらん者じゃ。言葉にすると簡単ではあるが……おそらく想像を絶する絶望なのじゃろうて。して、彼はいま何処におるかのう?」
「厨房に押し込めております。珍しく血みどろ男爵が協力的に動いてくれましてね。自分以上に血みどろな彼がいては自分の沽券に関わるとかなんとか……いやはや、なにしろ話が通じないものでして非情に苦労させられました。ま、あそこは基本屋敷しもべ妖精しかいないですからな。彼らもピーブズ避けとして重宝しているようです」
グリフィンドールのゴーストたるニックは、スリザリンのゴーストたる血みどろ男爵とはすこぶる仲が悪い。そんな彼らが協力して事に当たるぐらいには、そのゴーストには手を焼いたのだろう。ホグワーツ最凶のポルターガイストを退けるとは大したゴーストだ、とダンブルドアは感心した。
「そうか、厨房か。ありがとうニコラス」
「いえいえ……ところで校長。その、彼とお会いになるのですかな? 新学期でお忙しいのでは?」
「まぁの。新学期の準備はミネルバに任せておるから大丈夫じゃ」
「そうですか……まぁ、彼女なら安心ですな。しかし御言葉ですが、新学期の準備よりも大切なのですかな? ゴーストの彼と話すのは。言っておきますが、彼には時間が足りていない。錯乱状態でとても話が通じるとは思いませんよ? まだ彼は意味不明な言葉を並び立て、神とやらに嘆きを訴えている段階です」
「ううむ、そうかもしれんがのう。じゃが、至急確認せねばならぬ案件が出てきて、新学期どころではなくなってしまったのでな」
「確認……?」
ダンブルドアはのんびりと歩き始め、それにニックも追従していく。どうやら彼は付いて来てくれるらしい。ダンブルドアとしても断る理由もないので、特に何も言う事はなかった。
「ワシがこの話を聞いたのは厨房の屋敷しもべ妖精からでな。変わった事があれば報告せよと申し付けておったのじゃ」
「なるほど、そちらから校長の耳に入ってしまいましたか」
ニックはなるほどという感じで頷いていた。
「そして彼についての報告の際に二つほど、質問を受けた事があってな」
「質問ですか。それは珍しい……して、その内容は?」
「一つは、小麦粉とぶどう酒を少々余分に使ってもよいか、というものじゃった。そのゴーストが欲しがっておったようじゃからな」
その言葉を聞いて、ニックは首を傾げた(その瞬間、ズリっと首が落ちそうになる)
「ぶどう酒はさておき、小麦粉単体を希望するとは変わった奴ですな」
「たしかに。ワシもそう思い、小麦粉を何に用いるのか尋ねてみた。すると、言いよどみながらそのしもべ妖精はこうかえしてきたのじゃ」
やがて、洋梨の絵が描かれた絵画の前に着いた。厨房への入り口を開き、そこへと足を踏み入れながら、ダンブルドアは言葉を続けた。
「……校長、十字教という魔法は存在するのですか? 魔法に使いたい、とゴーストが言っているのですが、とな」
意外とあっさり飲み干したな。と、スネイプはそんな事を考えていた。
「お前の名前は?」
「上条当麻、です」
気持ちが悪そうな顔をしながら、つんつん頭の東洋人は答えた。一滴で十二分であると教えたはずが、何故か真実薬の小瓶を丸々一つ空けた渾身の大馬鹿野郎だ。今なら初恋の相手から自ら最大のトラウマまで、コイツは何を聞いても躊躇なくベラベラと喋り倒すだろう。
「何が目的でホグワーツを訪れた?」
「自分の意志じゃありません。上里翔流という男に飛ばされました」
「……誰だそれは?」
「
正直に言って、上条が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。まぁ元々コイツは異世界からやって来た、という触れ込みであったか。と、スネイプは考え直す。それが本当なら理解できるはずがない。
本題に戻ろう。聞かなければならない案件はこっちではない。スネイプにとってこの少年の出自は大して重要ではないのだ。
「……お前は
「質問の意味がわかりません」
「闇の帝王、ヴォルデモートの部下かと聞いている」
「ヴォルデモートという人物を知りません」
「ハリー・ポッターという人物を知っているか?」
「知りません」
「……ふむ」
どうやら本当に知らないらしい。忘却術が掛けられている可能性もあるが、その線はおそらく薄いだろう。魔法を無効化するこの男の右手をもってすれば破るのは容易いはずだし、そもそも記憶を吹き飛ばしてまでホグワーツに潜り込むメリットがない。
「お前の右手について説明しろ」
「
頭痛がした。まず超能力という言葉の意味がわからない。なにやら想像の斜め上のスケールの存在らしい上に、確定ではなく伝聞系である。つまるところこの少年にも確かなことは言えない代物という事だ。
ひとまずスネイプは質問を取りやめ思考に浸る。この男は有用だ。あらゆる魔法を打ち消す右手は、ハリー・ポッターを護る最強の盾となるだろう。服従の呪文は効かず、あらゆる呪いを打ち払い、破壊困難な闇の品を一撃で粉砕できるなど反則もいいところだ。
闇の帝王も知らない無敵の存在。それが要らないと言えば嘘になる。これをホグワーツ特急に乗せてロンドンに送り返すのは馬鹿げた行為だ。
……だが、懸念もある。この男の右手は最強の盾であると同時に最強の矛としても成立するのだ。タイミングも悪い。賢者の石という伝説級の代物を匿っているホグワーツに来るとはなんとも
「……ダンブルドアは君に何を頼んだ?」
「ここで働いて欲しい、と言われました」
これは質問と言うより半ば独り言であった。ここで自分が巡らせた思考など、校長は全てお見通しだろう。リスクを承知でその結論にダンブルドアは思い至ったはすだ。これはただの確認作業に過ぎないし、それも終わった。これ以上の質問は必要ないだろう。
真実薬の解毒剤を手渡し、飲むように促す。上条は迷いなく、またも一気に飲み干した。こちらも1滴で十分なはずだが、そもそも飲んだ真実薬の量がアレなのだから適正なはずだ。これを調合し直すのに一体どれだけの手間がかかるのか。想像するだけで憂鬱になる。
「……薬の分は働いてもらうぞ」
「ぶふぅ!!? いくらなんでも横暴過ぎるわ! 飲ませた薬代を俺に押し付けるんじゃねえ!!」
「想定以上の支出を出した君の責任だ。我輩は確かに一滴で問題ないと言ったはずだが?」
「えっ……あ!」
不幸だーっ!! と上条はうなだれた。そんな上条の様子を見て、ふとスネイプの頭には疑問が振って沸いて出た。
「嫌に元気だな……頭痛、発熱、吐き気。その他体調に不調はないか?」
「不調?……いえ、特にないですけど?」
けろっとしている上条を見て、スネイプは眉を寄せた。真実薬ほどの劇薬を一瓶飲み干したのだから、それなりの副作用があるはずだと考えていたのだが。どうやら当てが外れたようだ。
「そうか……まぁいい。薬の件はさておいて、君には至急やってもらう事がある」
え? という疑問符を浮かべる上条をさておいて、スネイプが無言で杖を振るといくつかの本が現れた。
「聞くところによれば、君は魔法について殆ど無知であるらしいな。ここホグワーツで働くのであれば、そのようなふざけた存在は許さん」
学校のどこかで、ネコを抱えた管理人が盛大にくしゃみをした。
「我輩の学生時代の教科書だ。少々古いが、我輩が書き込んだメモも残っている。基本呪文集、闇の魔術大全、変身術入門。まずはこの辺りから覚えて貰おうか」
「げっ、勉強か……」
若干の嫌な顔をした上条だが、すぐにそれはまずいと思い直し表情を戻した。働かせて貰う以上、この程度の事はこなさなければならないだろう。むしろ教科書を用意してくれたスネイプ先生には感謝しなくては。
「わかった。で、まずはこの3冊でいいんだな? ちなみにいつまでに覚えれば―――
「今日中だ。生徒達の歓迎会が始まるより前に覚えてもらう」
「ああ、今日中……え?」
こぽこぽと、スネイプはまたしても怪しい薬品を取り出し、コップに注ぎ始めた。
「コンサタラム、集中薬という。名前の通り飲んだ者の集中力を上げる薬だ。副作用として異常に疲れるという点があるが、端的に言ってそれしかない。これを飲み続け、夜までには全てを覚えて貰おうか」
無茶すぎると考えていた上条だったが、淡々と告げるスネイプを見て、もしかしたらこれが魔法使いのスタンダードなのかもしれないと思い直した。
「……すげーな。魔法使いって、こんな薬を飲んでまで勉強するのか」
「ああ、我輩も学生時代によく飲んだものだ」
主に試験前に、とか。飲んでも1ヶ月に1杯だけ、とか。そんな言葉は告げず、ほくそ笑みながら飲むように促す。この薬は自分が学生時代に口にした粗末な集中薬とはわけが違う。自らが改良に改良を重ねた渾身の一作だ。新年度にやらかした生徒へ盛ろうと考えていたのだが……ここにきて良い被検体がやってきたものだ。
「……よし、やります!」
グイっと一息。集中薬をあおった上条を見て、スネイプは心の中でガッツポーズを決めていた。
「ああ、神よ。何故私をお見捨てになったのですか……」
「校長」
「うむ、あやつか」
生徒達の歓迎会に向けて、厨房は上へ下への大忙しであった。そんな中でも屋敷しもべ妖精達は校長であるダンブルドアの来訪を快く歓迎し、お菓子を大量に持って来てくれた。その中にはダンブルドアの大好きなレモンキャンディーも入っており、ダンブルドアはそれらをほくほく顔で抱えながら、件のゴーストのいる厨房の奥へと歩みを進めていた。
「しかし、本当に血みどろじゃの。一体彼に何があったのじゃ?」
「柱で叩き潰された、と伺っています。まぁ、それが真実かはわかりませんが」
なにしろ相手は、素手で柱を振り回したらしいのです、とニックは言葉を続けた。その言葉の裏には、"ありえないでしょう?"という彼の本音が透けて見える。
「名前は……というらしいです」
「ふむ。そうか」
名前を呼ばれても、そのゴーストは振り返らない。厨房の隅にうずくまり、こちらに背を向けたままだ。そんな彼にダンブルドアは一言。とある単語を口にした。
「……
瞬間、ゴーストは動きを止めた。そして、まさかという表情で振り返り、ダンブルドアを凝視する。
「やはり君は、上条当麻君の知り合いかね」
ぐっしょりと血に濡れた緑の司祭服。凶悪な面構えの男だが、大粒の涙のせいでそこまで威圧感は感じない。
「アレを、知っているのですか?」
「うむ、最近知り合ってな。今は少しでも情報が欲しい。なんでもよい、少し話を聞かせてはもらえぬか」
ダンブルドアが杖を振ると、厨房のイスが3つ飛んで来た。自分と、ニコラスと、そしてこの男の分。本来ゴーストには必要は無いが、これが最低限の礼儀であるとダンブルドアは考えていた。
「ワシの名はアルバス・ダンブルドア、この学校の校長を務めておる。どうかよろしくのう……左方のテッラ君」
上条「ステュービファイ……失神呪文?」チラッ
スネイプ「……」プイッ
マクゴナガル「先生! ダンブルドア先生! 何処に行かれたのですか!?……おや、コレは……?」ペラッ
『後は頼んだ』っ猫缶
マクゴナガル「…………」ゴゴゴゴゴゴゴ
ちなみに集中薬はオリジナル……のはずです。もしもどこかに存在していたらごめんなさい。