ハリー・ポッターと幻想殺し(イマジンブレイカー)   作:冬野暖房器具

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 登場人物が少な過ぎる気がします











07 上条先生

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクシオ……呼び寄せ呪文。呪文の後に欲しい物の名前を言うと、それを引き寄せることができる。ただし強い集中力でもって、対象をイメージする必要がある……うーん、惜しいけど何か違うな。俺が向こうの世界へ引っ張られなきゃ意味がないし……うん? 所説にもよるが、一定の知能を持つ生物には効き目が弱い? 少なくともマグルを含む人間には使用不能って……ダメだこりゃ」

 

 ぐったりと背もたれに身体を預けながら、上条当麻は思いっきり伸びをした。現在時刻はお昼前、上条がいるのはホグワーツの図書館であり、生徒たちは皆授業に出ているため人目を憚ることもない。午前中はあらゆる本を積み重ね、悠々と読書に耽るのが最近の上条の日課である。

 

(今日で3日目……色々と惜しい呪文はあるが、これと言って打開策は見つからない……まぁそう簡単に見つかるなら、ダンブルドアがとっくに知ってるか)

 

 異世界へと帰る方法。それをご丁寧に書いてある書物なぞ存在するはずがない。つまり手掛かりはまったくのゼロであり、上条にできることと言えば片っ端から本を読んでいく事のみなのだ。

 

(スネイプから貰った集中薬(コンサタラム)もそろそろなくなりそうだ……検知不可能拡大呪文、だったっけ。大鍋3杯分は煎じたとか言ってたけど、一日平均大鍋1杯は流石に怒られるかも……ちょっと飲むペースを落とさなきゃな)

 

 上条の手元には、ワンプッシュで開く手のひらサイズの水筒があった。スネイプからの贈り物であり、見た目に反して大量の薬が入るように作られているらしい。魔法は水筒の内側に掛けられているために、外側をいくら上条の右手で触れても問題がないという優れものだ。そしてその中身は、先日スネイプとの勉強会の際にしこたま飲まされた劇薬、集中薬である。

 

 当然ながらスネイプはこの場にはいない。彼もまたホグワーツの教員であり、魔法薬を受け持っている身である。新学期が始まってからというもの、上条はスネイプとあまり会話という会話をしていない。「吾輩は忙しい、しばらくはこの薬を使って自習に励め」というのが最後の言葉だったと思う。いや、「使用した感想を後ほど聞かせろ」だったかもしれない。

 

 そしてこれは上条の勘でしかないが……"しばらく"というのは少なくとも3日より多いと思う。ただでさえスネイプの手持ちの魔法薬を飲み干すことに定評のある自分が、この少なくなった水筒を持っていったらどうなるのかは……あまり考えたくないなと、上条は首を振り、もしもの可能性を頭から追い出した。

 

(お昼も近いし、午前中はこれでやめるか。早いうちに大広間で昼食を取って、速攻で逃げよう……生徒に見つかる前に)

 

 新学期が始まってからというもの、上条は極端に生徒を避けていた。朝、昼、晩の食事は素早く取ってすぐさま退室、放課後は図書室から離れ割り当てられた私室へと引きこもる。それもこれも全て、ダンブルドアの「解呪に関してはワシより優秀」という無責任な発言の結果を恐れてのことだった。

 

(図書室でチラっとダンブルドアの経歴、評価を読んだけど……何が"ダンブルドアより優秀"だよ。アンタより優れた魔法使いとか、吹っ掛けるにも程があるっての!)

 

 今世紀最高の魔法使い。そんな見出しを見て、上条は倒れそうになった。学校の校長、発明家……決してダンブルドアを低く見ていたわけではないが、よもや現存する魔法使いの中で最も優秀とまで評されているとは夢にも思わなかった。「偉大なお方だ」というハグリットの発言を聞いて、まさか本当に偉大だとは誰も考えないだろう。仕事をくれた感謝の念を込めた、敬愛の表れだと上条は考えていたのだ。

 

 そんな魔法使いをも上回るという大言壮語の行く末なんて、上条にはわかるわけがない。ましてそれが魔法使いの学び舎などという特殊な環境ならなおさらである。

 

(とにかく、生徒とは接触を最小限に抑えて、ダンブルドアのあの戯言がみんなの頭から抜け落ちるのを待つしかない……畜生、なんだってこんな目に……)

 

「……不幸だ」

 

 がっくりと肩を落としながら、上条は図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

(……関わってはいけない。関わってはいけないよな、うん)

 

「トレバー、どこだよトレバー……」

 

 大広間へと向かう途中、上条は一人の生徒を見つけてしまっていた。誰もいない中庭で、ベンチの下に潜り込んでいる少年だ。顔は見えないが、背丈からして新入生だろうか。そしてその子は、誰かの名前を今にも泣きそうな声で呼び続けていた。

 

(あの子はこっちを見ていない。今なら気づかれることなく大広間へと向かえるはずだ。というかとっとこ行かねえと、生徒たちが集まる前に着けなくなる。いや、この辺に生徒がいないところを見ると、もう既に少し遅いかも……いや、今向かえば人ごみに紛れて席につけるはず―――)

 

「おい、何やってんだこんなとこで?」

 

(畜生、不幸だァァああああああ!!)

 

 不肖、上条当麻。困っている人を見捨てて、自分を優先することなど出来ない男。唯一自らの都合を優先した死闘でさえ、結局は半身をぶち抜かれた挙句に、右手を神に差し出し激励した男である。

 

「あ……えーと……上条、先生?」

 

「お、おう。先生とか言われると罪悪感が半端ねえな……まあいいか」

 

 ひとまず生徒をベンチの下から引っ張り出し、とりあえず座らせてみた。今にも泣きそうなとは言ったものの、もう既に少年は泣いていた。顔をくしゃくしゃに歪めているのを見て、関わってしまったという後悔の念は一瞬で吹き飛んだ。

 

「ネビルっていうのか。んで、一体何やってたんだよこんなとこで。もう昼食の時間だろ?」

 

「それが……トレバーがまた逃げ出しちゃって」

 

「トレバー?」

 

「うん、僕のヒキガエルのトレバー……目を離すといつもどっかに……」

 

 どこから突っ込めばいいのか、上条にはわからなかった。

 

(ま、待て。"僕の"ってことはたぶん、ペットか何かなんだろうけど……まぁ魔法使いのペットとしてはアリか……? そのヒキガエルに逃げられる? そんな事がしょっちゅうあるのか?)

 

 上条の知るところではないが、ホグワーツではペットとしてふくろう、ネズミ、そしてヒキガエルが許可されている。そしてその中ではふくろうが断トツの人気を誇り、ヒキガエルを連れて来ているネビルはそこそこ珍しい生徒であった。

 

「あー、一つ聞いていいか? なんで今日はそのトレバーと一緒だったんだ? 普段から連れて歩いてるのか?」

 

 もしそうなら、上条の魔法使いへのイメージを修正する必要がある。主にねっとりとした方向に。今後は握手も控えたいところだ。

 

「ううん、今日は変身術の授業で……マクゴナガル先生がみんなのペットを変身させてくれる授業だったんだ。卒業までに、みんなこれくらいは出来るようになりますよっていう……僕、マグカップになったトレバーを見てびっくりした」

 

「な、なるほど……」

 

 うまいやり方だな、と上条は思った。ヒキガエルをマグカップにするのはさておき、確実に生徒たちはやる気を出すだろう。授業としてもとても面白いし、今後はペットを見るたびにその授業の事を思い出す。練習したければ、マクゴナガルの手先を真似ながら自らのペットに杖を振ればいい。たぶん失敗するだろうが、その失敗から得るものだってきっとあるはずなのだ。

 

「……んで、そのヒキガエルのトレバーに逃げられちまったと」

 

「うん……」

 

 話をして少し落ち着いたのか、ネビルは意気消沈しながらも答えた。

 

「いつもはいなくなっても、グリフィンドールの寮の中だからすぐに見つかるんだけど……今日は……」

 

「捜索範囲はホグワーツ全域か……この城無駄に広いからな……」

 

 聞けば、この中庭を捜索していたのも特に根拠があってのことではないらしい。変身術の教室から一番近い、緑の多いところを探していたのだとか。

 

(発想はいいけど、今回ばかりは外れだな……手分けして探すか? だけどそれじゃ根本的な解決にならない気がするしなぁ)

 

 うーん、と天を見上げながら、上条はない頭を捻った。

 

(一番いいのは、この子がもうヒキガエルをなくさない事だけど……いや、たぶんそれどころか、ヒキガエル以外の物もしょちゅう無くしてそうな子だ。無くし物を無くす魔法……んなモノあるわけねえか。無くし物を探す魔法……あ)

 

 あった。ついさっき上条が読んでいた本に載っていたのだ。アレなら今の状況にぴったりだ。あの魔法を習得できれば、この少年の悩みを一気に解決することができるのではないだろうか?

 

「ネビル。呼び寄せ呪文、って聞いたことあるか?」

 

「……?」

 

「物を呼び寄せる魔法だ。人間には効かないんだけど、ヒキガエルのトレバーなら大丈夫だな。呪文はアクシオ。それに続いて呼び出したい物の名前を付ける……この場合は アクシオ、トレバーだな。これが出来るようになれば、今後はトレバーを探す必要もなくなるぞ」

 

 さぁやってみろ、とノリノリな上条に対して、ネビルはどこか引き気味だった。

 

「せ、先生……あの、多分僕じゃ出来ないと思う」

 

「え?」

 

 明確にできない、と言われて一気に上条の表情が硬くなる。

 

(出来ないって……もしかして魔法の習得には制限でもあるのか? よくあるゲームのレベルとかスキルみたいに? いや、いやいや、この3日間でそんな話は見てないが……?)

 

 杖の振り方や発音など、呪文の発音に重要視されるファクターは多岐にわたる。上条が目を通したモノの中には、幸福な気持ちで心を満たさなければ発動しないなどという特殊な魔法もあった。だがしかし、"習得不可能"とされる呪文は未だ知らず。更に言うなら、この呼び寄せ呪文に必要な条件は"高い集中力"だったはずだ。

 

「僕、ドジで……簡単な魔法でも、いっつも失敗するんだ……」

 

 そんな少年の言葉を聞いて、上条は安堵した。どうやら敵は、上条が未だ知らぬこの世界独特のシステム……というわけではないらしい。どこの世界でも、誰しもが戦っている敵だ。それとの戦い方ならば、上条も人並みには経験しているつもりである。

 

「……なぁ、ネビル。俺はお前の事をよく知らないし、あんまり偉そうな事は言えないんだけどさ……最初から失敗するって、そんな事出来ないって決め付けるのはよくないぜ。それをずっとやってたら、お前はこの先色んなことを諦めちまう。損しかしないじゃねえか、そんな生き方」

 

 上条自身も、自分がそんな偉い事を言えるような人間じゃない事は理解している。それでもこの少年には、そう言わざるを得なかった。

 

 ただ呪文を唱えるだけ。リスクも何もない、こんな状態でさえ躊躇してしまうのは流石に見過ごせない。たくさん挑戦して、たくさん失敗する事こそ、今のこの子には必要なはずなのだ。失敗は出来るうちにしておかないと、後で必ず後悔するハメになる。挑戦を遅らせれば遅らせるほどに、この子の時間は失われてしまう。

 

「強制はしない。結局の所どうするかはお前次第だからな。でももし……お前が変わりたいと思うのなら、コレを最初の一歩にしてみろよ。失敗したっていいさ。がむしゃらになって挑戦してみろ。諦めるのは、それからでも遅くねえはずだ」

 

 それでも、どんな選択をしてどんな生き方をするのか。結局の所、それを選ぶのは自分自身だ。上条(他人)に出来るのは、ただその手を差し伸べることのみ。今までもこれからも、自分に出来ることはそれしかない。

 

「でも、もしダメだったら……」

 

「その時は、別の方法を俺と考えようぜ」

 

 にっこりと笑いながら、上条はネビルに拳を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然ながら、ネビルの魔法習得は困難を極めた。

 

「アクシオ、トレバー!」

 

 既に数を数えるのはやめた。あれから火のついたように呪文を連呼するネビルではあるが、今の所ヒキガエルが飛んでくる気配はない。

 

(……うーん、たまにネビルの杖先からヒモみたいなのが見えるけどすぐ消えちまうし……アレがトレバーに繋がってるのか?)

 

 その先を追えばヒキガエルは捕まるかもしれない。だが今のネビルに練習を中止するとは言い辛いし、もはやトレバーは目的と言うより指標だ。クリア報酬が欲しいのではなく、それを得られる実力を付けようとしている最中である。ここでトレバーをのこのこと探しに行っては興ざめというものだ。

 

「頑張れネビル。そのヒモを切らないように集中するんだ」

 

「アクシ……え? ヒモってなんですか?」

 

「なんですかって……呪文を唱えた時に杖先から出てるだろ? その光のヒモのことだよ」

 

 上条がそう告げても、ネビルは首を捻るばかりだ。どうやらネビルには見えてないらしい。

 

(魔法を唱えてるヤツには見えないのか?)

 

「い、いや、なんでもない。この調子で続けよう」

 

「はい! アクシオ、トレバー!」

 

 見間違いではない。確かに光のヒモは出ている……詳しい原理はわからないが、今集中するべきはコレではない。上条は再びネビルの魔法習得に意識を戻した。

 

(ネビルは魔法全般が苦手って言ってたっけ。どの本にも載ってたけど、基本魔法ってのは意識の集中が必要らしいし……たぶんネビルはそれが出来てないんだ。まぁ11歳の少年に集中しろってのも酷な話のような気がするけど)

 

 加えて、ネビルには自信がない。魔法を唱えても、未だ心のどこかでは失敗するのではないかと恐れている。集中力に次いで必要なのは、成功のイメージだ。物を浮かせる魔法でも、水を出現させる魔法でも。その程度は唱えた魔法使いのイメージ次第なのだ。

 

(って基本呪文集の前書きに書いてあったなぁ……インデックスじゃあるまいし、ここまで読んだ内容を記憶できるなんて、やっぱスネイプの薬はすげぇ……あ)

 

 思わず上条は、懐に入れてある水筒を見た。集中薬(コンサタラム)、その効果はここ3日間で実証済みだ。今ホグワーツで最もこの薬が必要な人間は、間違いなく杖を振り回している目の前の少年に違いない。

 

(よし、やってみるか。薬で集中力はなんとかなるはずだし、後は成功のイメージさえ付けばいけるはずだ。一度魔法を成功させれば自信にも繋がるはずだしな)

 

「ネビル、ちょっといいか? ……あーいや、そんな悲しそうな顔するなよ。ちょっと休憩するだけだって」

 

 不安そうな顔をするネビルに慌てて言葉を告げると、心底ほっとしたような顔を見せた。上条が痺れを切らして、呆れてしまったのかと思ったらしい。上条はネビルの肩に手をやり、再びベンチに座らせた。

 

「よし、ネビル。今の練習でかなり上達したぞ。もうすぐトレバーは飛んでくるはずだ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「おう。よく頑張ったな、もう一息だ。案外、次であっさり成功するかもしれないな」

 

 そわそわとするネビルの肩を叩き、無理矢理に笑顔を作る。ここで悟られてしまっては全てが水の泡だ。

 

「何回も呪文を練習して疲れただろうし、疲労回復の薬をやろう」

 

 ネビルに水筒を手渡すと、彼は疑うことなく一気に中身を煽った。これで集中薬の在庫は無い。新しくスネイプに頼まなければならないと思うと、上条は気が重くなる。だが全てはこの子のためと思えば、この程度の事は手間の内に入らない。

 

 次の瞬間、ネビルはカッっと目を見開いた。その豹変っぷりに驚いた上条だったが、最初に飲んだときは自分もこうだったなと思い直す。視界はクリアになり、肌に触れる空気の流れを鋭敏に感じるようになる。その他にも耳に入ってくる音全てを聞き分ける事が出来るようになるなど……とにかく五感が鋭くなるのだ。

 

「……あー、ネビル。大丈夫か?」

 

 こう尋ねても、コクコクと首を縦に振るだけだ。そして何故か不敵な笑みを浮かべつつある。誰だコイツと思わなくも無いが、自信たっぷりなのは願っても無いことなのでひとまず置いておこう。

 

「まぁ、大丈夫ならいいんだ。薬が効き過ぎてる気もするけど……さて、じゃ行くぞ。1、2、3―――」

 

「アクシオ、トレバー!」

 

 彼がそう唱えると、上条の目にははっきりと緑色のヒモが見えた。今までのどのヒモよりもはっきりとしたソレは、途切れる気配もなく繋がったままだ。そして―――

 

「トレバー!」

 

 不気味な緑色の両生類がくるくると回転しながら飛んでくる。どうやらアレがトレバーのようだ。ヒキガエルはそのままネビルの手元に収まると、不満そうに「ゲコ」と鳴いた。上条は、ヒキガエルってそんな鳴き声だっけ、などというアホらしい思考を頭の片隅に追いやり、ネビルに声をかけた。

 

「やったな、ネビル!」

 

「ありがとう上条先生! 僕、僕、こんなに上手く魔法が成功したの初めてで……」

 

「俺は大したことはしてないさ。ネビルが諦めなかったから出来たんだ……間違いなくお前の実力だよ」

 

 感極まったのか、ネビルは再び鼻水をすすりはじめた。目には涙も浮かべてはいるが、その表情はとても嬉しそうだ。

 

(よかった……しかし、このヒキガエルに逃げられたのか……思ってたより小さいな)

 

 上条の想像ではもう二回りほど大きかった。これならポケットに収まる大きさだ。知らないうちにポケットから飛び出してしまうのが原因なのかもしれない。ならボタンでも付ければ、脱走は防げるのではないだろうか?

 

 そんな事を考えながら再びネビルを見ると、様子がおかしい。なにやら気分が悪そうに見える。そして―――突然、ネビルが白目を剥き、その場に崩れ落ちてしまった。

 

「ね、ネビル!?」

 

 慌てて肩を掴み呼びかけるが返事は無い。ローブの上からでもわかるくらいに、ネビルの身体はもの凄い高熱を発していた。ピクリとも動かない彼を見て、上条の頭に絶望が広がっていく。

 

(い、一体何がどうなって……? とにかく助けを―――)

 

「……原因はスネイプ先生の薬じゃな」

 

「なっ!? ダンブルドア、先生!?」

 

 いつの間にか、上条のすぐそばにはダンブルドアが佇んでいた。上条には音も気配も感じさせることもなく、である。半月型のメガネを光らせながら、注意深くネビルを観察していた。

 

「上条君、ロングボトムに飲ませた薬の名前は?」

 

 滅茶苦茶に驚いた上条だったが、今この状況下では渡りに船だ。ホグワーツで彼以上に頼りになる人はいない。何故ここにいるのか、そしていつから居たのかという疑問を飲み込み、質問の答えを搾り出した。

 

「は……えーと、集中薬と言って……」

 

「なるほど、道理で。最近あやつの機嫌が良い理由はこれじゃな。して、上条君はその薬を常用しておったのじゃな?」

 

「え、ええ。まぁ……」

 

 少ない情報から、ダンブルドアは最速で答えを導き出す。上条は続く言葉を発せず、口をパクパクとするばかりだった。

 

「せ、先生。これがスネイプ先生の集中薬のせいなら、俺もこうならないとおかしくないですか?」

 

「その疑問が答えじゃよ、上条君……いや、もう上条先生とお呼びするべきかもしれんのう。先ほどの個人授業は実に素晴らしかった」

 

「え、いや……そんな事より、ネビルは大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫じゃ。流石のスネイプ先生も、万が一にも人が死ぬような薬は調合しないじゃろう。それに、治療法も目の前にある。上条先生、右手の手袋を外してもらえるかの? それで彼の……この場合はおでこに触れば治るはずじゃ。ホグワーツの結界なら、気にする事はないぞ? この中庭であれば、校長権限で一時的に結界を解除する事が出来るのでな」

 

 その言葉を聞き終わる前に、上条は手袋を外していた。ホグワーツの魔法のことなど気にも留めてはいない。ネビルが助かるのなら……その一心で、彼のおでこに手を触れる。

 

 パチ、という静電気のような音が鳴った。上条の知る幻想殺し(イマジンブレイカー)の破壊音とははるかにかけ離れているが、どうやら効果はあったらしい。ネビルの熱が瞬時に収まったことを確認すると、上条は大きく溜息をついた。

 

「危機は脱したようじゃの」

 

 大量に冷や汗をかいた上条と違って、ダンブルドアは冷静だった。この人がいなければどうなっていたことか。そんな「もしかして」を考えるだけで、上条の背筋に冷たいものが走る。

 

(まさか集中薬にこんな副作用が……でも、俺はいくら飲んでもこんな事にはならないんだけど……魔法使いが飲んではいけない薬? いや、んなもんスネイプが調合するはずが……)

 

 ぐるぐると混乱しながら、上条はネビルをベンチに横たわらせた。するとダンブルドアはひょいと杖を振り、鳥かごを出現させる。気がつけばその中には、ネビルのトレバーが入っていた。

 

「さて、上条先生。色々とお話があるので一緒に来てくれるかのう」

 

「え……今すぐですか? ネビルは―――」

 

「じきに目を覚ますじゃろう。ワシの予想では、おそらく昼食を食べ損ねるような事はないように思える……ああ、そうじゃ。今しがた君が彼にした所業( 、 、)についても、ついでに話し合っておこうかのう」

 

 ネビルにした所業、と聞いて上条はギクリとした。即ちそれは、無駄に生徒を焚きつけた挙句に怪しげな薬を飲ませ、昏倒させたことに他ならない。どう考えても上条の落ち度だ。生徒を危険に晒した教師に下される罰なんて、上条は一つしか知らなかった。

 

(……クビ、かな。それだけの事はやっちまった気がする……不幸……とは言えないけど)

 

 大事そうにトレバーのカゴを抱えるネビルを見て、上条は微笑んだ。先生と呼んでくれた少年は、確かな自信(戦果)を得たのだ。願わくば、この一件が彼にとってプラスになるようにと上条は思う。

 

「ゴメンな、ネビル。ダメな先生で」

 

 そう一言呟くと、上条はダンブルドアの後に続いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













トレバー「これで私が動物もどき(アニメーガス)という可能性はなくなったな」

スキャバーズ「じゃ喋っちゃダメだろお前」

トレバー「……ゲコ」




 呼び寄せ呪文の制限はオリジナルです。少なくとも人間は呼べないと思いますが、生物に効くかどうかは微妙なところ。どうか御容赦下さいませ。
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