何より驚いたのはその人たち全員がメガネでした。なんと言うか、感動しました。
「え!!おかーさんなんでしってるの?」
「わたしはあなたの母親よ?あなたのことなら何でも知ってるわよ?」
「うぅ……」
優しい美女の声に倒れたまま照れて下を向くキマ。美女さんはそれを微笑ましく見たあとこっちを見る。
「あなたがキマの旦那様ね?」
「違います」
「あれ?もうお互いに心の準備は終わってるのでわ?」
「あの……俺、キマと会ったのは今日がはじめてなんですが……?」
「?」
「いや、今日釣りをしていたら、たまたまキマが引っ掛かって吊り上げてしまったってだけですよ?」
「もう……そんな恥ずかしがらないの。釣りをしながら毎日眼と眼で会話をしていたんでしょ?」
「恥ずかしがってねぇよ。なにいってるんですか?」
「大丈夫、私が賛成してるんだから他の無粋な輩には手出しはさせないわ」
「ダメだこの人話きかねぇよ」
俺の背中をバンバン叩きながらもう~、みたいな感じでくねくねするおばさ…
「あんまり不用意なことは考えないことよ?」
「あ、はい」
……おねいさま。痛い。背中痛い。力強い。
「それに、帽子を見事に手にいれたんでしょ?だったら責任をとってもらわないとね?」
「そうだ、それです。キマからもさっきから責任をとってもらうって言う話をしてもらったんですけど、いったい俺が何をしたんですか?」
見事てに入れたってなんだよ。釣れただけだよ。
俺が聞くと少しこっちを見開いた眼で見る。
「……あら、キマからは何も聞いていないのかしら?」
「いや、何も聞いてないです」
「はぁ……全くあの子ったら、しっかりしてないんだから……」
おねいさん、ベストラさんは倒れてピクピクしてキマを見る。
「あの子の帽子、あのそこに干してあるアザラシの帽子」
部屋の窓際に干してあるキマの帽子を指差す。
「あの帽子はね、しかるべき成長を遂げると私のこの子みたいになるの」
「え、そのアザラシですか?……あの帽子が?……そのアザラシに…?」
ベストラさんは自分の乗っているアザラシを撫でる。アザラシは気持ち良さそうに目を細めて喉をならす。
……どう見ても生きてるよな?
干してある帽子を見る。
……どう見ても帽子だよな?
「あの帽子はね、いわば夫婦の絆の証。私も夫との愛をよく育んだものだわ……」
「えっと、つまり……?」
「あの帽子は結婚する人、一生を共にする方にしか手に取らせてはいけないの。あの帽子はあなたを認識したや。その時点であの子にとってはあなたが一生の相手なの。あの帽子がこうなることが大人になることの証明」
「いや、そんないきなりいわれても……何がなんだか……」
「そうかしら?」
「そんな簡単に結婚相手を決めて、キマにとっても不幸なことになりませんか?」
ようは帽子をとられただけで結婚か……。すごい種族だな…。
「ふふ、タローさんはキマのことをよく考えてくれているんですね」
「いや、別に」
「そんなあなただからこそキマが目をつけたのかも知れないですね」
「……?」
「タローさんは、キマが偶然釣り針に引っ掛かって、偶然帽子が引っ掛かって、あなたが手に取った。そう思いますか?」
「……いや、思いますか?っていうか、そうじゃないですか?」
どう考えても。
「あの子、一週間前から一人で何処かへ泳いでいくようになったの。そして帰りは夕方、あんなドジな子が一人で何処かへいくなんて私心配で心配で」
「はぁ……」
「それでこっそり後をつけてみたらあの子、釣りをしている男の子をぼおっと見ているのよ?もう私胸が一杯になっちゃったわ」
「……へぇ……」
「それでしばらく観察していたらあの子、あなたの垂らした釣り針を見て自分の帽子を見ておろおろしてるのよ!もう、いじらしくて見てられなかったわ!!」
「そうなんですか……」
「それで、今日!決めたらしく「わぁーー!!おかーさん!!なにいってらるの!!」………あら、おはようキマ」
マシンガンの如く喋り続けるベストラさんに飛び起きたキマが飛びかかる。
「あらあら、そんなにあわててどうしたの?」
「どうしたのじゃないのーー!た、タローは何もきいてないよね……?」
ベストラさんに抱きついたままこっちを伺うキマ。
「いや、ばっちり聞かせてもらったよ?」
「うわーーん!!」
バタン!!
笑顔で返すとキマは大声をあげて玄関から飛び出していった。
「あ………」
予想以上にキマは力持ちだったらしい。ぶち開けたドアが一部壊れている。あれ閉まるかなぁ…。
「あらあら、ごめんなさいね。すぐに直しに越させるから」
「いや、大丈夫です。からかった俺も悪いですし」
「そう?ごめんなさいね」
ベストラさんはそういうと壊れたドアから手を離して俺の両肩を掴む。
顔が近い。
「え、えっと……?」
「それで?結婚式はいつにするかしら?」
「気が早すぎませんか?」
「年を取るのは一瞬なの。今を逃したら機を逃す。それが私の持論よ」
「なんか無駄にカッコいいですね」
「いいじゃない?あの子にとっても、一目惚れした人と一生を共にできるんだから」
「いや、俺になんかメリットありますかね?」
ミシッ
「あら?うちの子をお嫁に出来ることになにか不満が?」
「いや、大丈夫です。嬉しいです。はい」
「ほら、お互いに特しかないでしょう?」
武力弾圧ってやつだよなこれ。
「いや、ほら、やっぱり結婚するなら料理のできる人かなーー、なんて……」
「………」
「俺って基本的にグータラなんでそこら辺をカバーしてる人がいいじゃないですか?やっぱり」
「………」
「キマに不満があるわけじゃないんですけど、このままだとかなりグータラな生活になりそうで怖いんですよね」
「……それも、そうね……。今のあの子じゃお嫁さんとして出すのには少し恥ずかしいわね」
俺の肩から手をはずしてむーん、と考えるベストラさん。どうでもいいけどそういう行為もやけに様になるなこの人は。
「うーん………。そうだわ!花嫁修行をさせましょう!」
「花嫁修業、ですか?」
「ええ、そしてタローさんのお嫁になっても恥ずかしくない。そう判断できたときに結婚。それはどうでしょう?」
「いや、別に……」
どうでもいいです。
「そうだわ!!ついでにクイミの花嫁修業も一緒にやってしまいましょう!あの子も最近キマが構ってくれないからすねてたわね」
「クイミ?」
「クイミはねキマのお姉さんなの。でも、最近キマが可愛いくなったでしょ?」
「最近っていうか、昔を知らないんで」
「それでクイミは嫉妬しているのよ。やっぱり恋をしてると女は変わるのよ!私もそうだったわね……あの人との燃え上がるような熱い愛を……」
「…………」
「あの日は確か月のきれいな雲ひとつない夜だったわね。昔の私は今よりももっともっと幼くて、癇癪持ちだったの。眼に入るものすべて、触れるもの、気に入らないと思ったもの全てを目の敵にしていたの。その日も喧嘩を終えて自分の住み処へ帰っている途中だったわね。ふと海の上に顔を出したらそこにあの人がいたの。私もキマのことを悪く言えないわね……私も一目惚れ、だったのよね……。あのとき岩に腰かけて月を見つめていたあの瞳に私は恋をしたのよ!!あー!恥ずかしいわね~!!もうもう!あの人、かっこよかったのよーー!!そこから私の猛烈なアピールの始まりよ!女はね、愛を奪って美しくなるの。毎日毎日同じように月を見上げるあの方、私がいくら話しかけてもうんとも寸とも言わないのよ!!私おこって遂にやっちゃった☆」
「………」
「仕方ないよ、あのときは私もやんちゃだったわね~いやいや、それでも大分我慢した方なのよね……そるからそれから……」
「…………」
なんか、年取ると人って会話が長くなる……会話というか自分語りが長くなるよな……年にたいして話の長さが比例するというならこの止まらないマシンガントークを続けるお姉さんの年齢は………。
「あの人も最初は戸惑っていたわ。でも、私の嘘偽りない気持ちをぶつけた結果無事に私の帽子を受け取ってくれたの。あのときの私の気持ちの昂り、ついつい張り切っちゃって何回戦までいったかわからないわ!それから………」
「…………」
もう日も傾いてきたよ……。
読んでいただきありがとうございます。とりあえず結婚式くらいまではパーっていきたいかな~っておもいます。
お付き合いいただけたら嬉しいです。