R&AvsS&K 結末を変えてみた 《完結》   作:ツルギ剣

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対決

 

 

 ―――アルディの双眸は力強く輝き、全身から溢れる緑色の光が青く変色していた。

 その姿は、まさしく―――

 

「が、合体した……」

 

 肩に大型パーツが増えたせいで、アルディの姿は以前よりずっと厳つく重厚に見えた。その両腕には大口径の煌式武装が一門ずつ、両足にも銃型の煌式武装らしいものがいくつか増えている。まさしくフル武装といった様相だ。

 遠距離飛行型のリムシイのモノとは別物、近接格闘型のアルディ用にカスタマイズされたのだろう。人型の堅牢な要塞、全方位にその牙が向けられ微塵もスキが見いだせない。

 

「ふはっはははは! これぞ我輩の、真の姿であぁる!」

 

 唖然とする紗夜と綺凛をよそに、アルディは誇らしげに言い放った。

 いつも通りの、大仰すぎるきらいがある豪快な声音。鋼鉄の巨人らしいものではあるが、どこか抜けている愛嬌のある声/振る舞い/雰囲気……だったが、今はただただ恐ろしげな人型兵器に見えてしまう。

 

「さあ、どうであるか? 威容を増し、貫禄を深めた我輩のこの姿は!」

 

 そう言うとアルディは、いかにも自慢そうに胸を張った。

 まるで、大きな子供が、自分で見つけたか親から貰ったかした自慢の逸品を見せびらかすかのように、ふふんと背を反らし鼻先を伸ばしている。外見からは己に対する誇り高さが見えるが、その有様からは幼稚な純粋さが醸し出されていた。……姿は変わっても、彼そのものは何も変わっていない。

 

「ぐぬぬ……。ちょーカッコいい!」

「え? ……そう、ですか?」

 

 目の前の光景を見て、対照的な反応をみせる二人。悔しそうにしながらも目をキラキラさせている紗夜とは違って綺凛は、その熱についていけず戸惑っていた。

 

「私は、さきの方が好きだったんですけど。スッキリと洗練されてて、無駄が少なくて効率的で。ああいうゴテゴテと暑苦しいのは、どうも……」

 

 何の気もなしに冷めた意見を述べる綺凛に紗夜は、じとぉーと目を細めて睨んだ。

 

「……綺凛。もしかしてそれ、私の煌式武装も否定してる?」

「え!? ……そ、そんなことは、ないですよ」

「本当に?」

 

 迫る紗夜の姿を見直してみると、ハッと顔を上げた。地雷を踏んでしまったことに気づき慌てて訂正するも、彼女の疑いの目を変わらず。ますます綺凛は、アタフタと狼狽してしまう。

 そこには先ほどの、凛々し気な剣士の姿はなかった。難攻不落だった鋼鉄の巨人にも一歩もひかず、煌式武装も使わずにして一太刀浴びせてみせた凄まじい使い手ではない。年相応の、13歳の気弱な少女の姿しかなかった。

 

「ふはははは! 見惚れるのはそこまでにしてもらおうか。―――さぁ、どこからでもかかってくるがよい!」

 

 二人の様子にも構わずにアルディは、仁王立ちのまま手にしたハンマーを軽々と振り回す。そしてその石突を、地面へと突き立てた。と―――ガンッと、たったそれだけで地面がえぐれ陥没した。

 設計上は、どのような煌式武装の破壊にも耐える超鋼素材が、いともやすやすと砕けてしまっている。見た目は先と同じハンマーに見えるが、秘められている重さと力は何倍にも増している。緩んでいた空気が一瞬で緊迫した。少女たちの顔も緊張で強張って、息を呑む。

 

「ただ単にパーツが増えただけ、というわけではないようですね」

「……そうみたい」

 

 綺凛の分析に紗夜は小さく頷くと、素早く《ヴァルデンホルト》の状態を確認した。……胸の内で、舌打ちをこぼれた。

 さきほどフルバーストで撃ったため、砲身は燃えているかのように熱い。まだまだ冷却には時間がかかる。このまま無理に撃っても、高出力のエネルギーを完全には収束しきれず銃口から出た瞬間に拡散してしまう、威力が落ちる。最悪、砲弾の威力に耐え切れず砲身が溶解し、暴発するかもしれない。連発性能よりも一撃必殺にこだわった代償だ。

 別の武器に変えるか思案するが、やめた。アルディの防御障壁を破ろうとするならば、《ヴァルデンホルト》以外の武器では通用しないだろう。強化されたであろう今の彼ならば、なおさらだ。―――このままで、やるしかない。

 内心の焦りは隠して、静かに対峙した。

 

「ふむ……こないのであれば、こちらから行かせてもらおうか―――」

 

 もう少しだけでも時間を稼ぎたかったが……、そうも言ってられないようだ。アルディがハンマーを構えたのを見て、紗夜は腹を括った。

 ちらりと、リムシィのほうへ視線を向ければ、リングの縁で静観しているだけ。アルディに自分の煌式武装と装甲を明け渡した後は、ほぼ丸裸の無防備だ。完全な非武装状態になっており、戦闘に参加しようとする様子はない。

 

(なら、二対一の有利を活かしてまずは……)

 

 紗夜がそこまで考えていると、次の瞬間―――

 

「―――なっ!?」

 

 突然、目の前に黒い巨体が、壁のように現れた。

 

(疾い……ッ!)

 

 さきまで立っていた場所にまだ、残像が焼き付いている。くるはずの風圧も轟音も置き去りにしていた。まるで瞬間移動でもしたかのように瞬きの暇もなく、一足飛びで間合いを詰めた。

 奇妙なことにも、時間感覚が撓んでいた。高らかにハンマーを振りかぶっているアルディの姿が、今にもその鉄槌を振り下ろさんとする姿が、視界すべてを占領している。スローモーションでソレを捉えているのに、体は全く動かない。間に合わない、回避できない、倒される―――

 

「フン―――ッ!!」

「紗夜さんッ!」

 

 叩き潰される寸前、横から飛び込んできた綺凛が抱え込み押しのけた。

 地鳴りのような強烈な破砕音とともに、地面に大人一人分はあるクレーターと亀裂が走り抜けた。粉塵と小さな瓦礫が舞い上がる。平衡感覚が揺さぶられ上下左右がわからなくなるが、頬にぶつかるその感触で何とか繋いだ。……間一髪、ギリギリで躱せた。

 振り返ることもせず。そのまま二人は距離を取って体勢を立て直すと、揃って大きく息を吐き出した。

 

「……すまない綺凛、助かった」

「いえ、それよりもあの動き……先程までとはまるで別物です」

 

 綺凛は注意深く《千羽切》を構えながら、訝しげに続けた。

 

「ただ、見た様子では太刀筋が変わったわけではないようです。単純に、速度やパワーが段違いになっているというか……」

 

 その言葉に紗夜は、ハッとしてアルディを見た。

 肩の部分に追加されたパーツは飛行ユニットだったはず。ソレを推進力として使っているのであれば速度が上がったことにも説明はつくが、自分たちと同じ程の体格のリムシィならともかく、いかにも重量のあるアルディの巨体を跳ばすには効率が悪すぎる。そもそも空を飛ばずに、推進力のみを使って速度を上げたいのなら、あのユニットは腰か脚部に付けるべきだ。肩では腕の可動を制限してしまいあの大槌を上手く操れなくなってしまう、移動速度のために攻撃力を制限してしまっては本末転倒だ。彼らの創造者/天才と謳われているエルネスタ・キューネが、切り札でもあるソレにそのような不始末をするはずがない。肩のユニットは推進力というよりも、重力制御で自重を軽くさせているのかもしれない。

 他に取り付けられた煌式武装や装甲も、リムシィにあった時とは別の用途に書き換えられているのだろう。それも、ただの武器や道具ではなくもっと根源的に、スペックそのものを引き上げられるようなモノとして。新しい変換器か、動力としての……。

 

「綺凛。推測だけど、なんとなくタネがわかった」

「タネ、ですか?」

「あいつらは並立制御された複数のマナダイトを動力にしている。リムシィは自分のマナダイトのいくつか、あのデカブツに分け与えたんじゃないかと思う」

「あ……」

 

 それならば、速度やパワーといった基本スペックだけが強化されたことにも、納得がいく。本来の用途や武器としても使えないことはないだろうが、近接戦闘タイプで設計されているであろうアルディにはどれも使いこなせるものじゃない。スペック強化以上の効果は望めないだろう。

 

「だとしたら―――、今のデカブツには何か欠陥があるはず」

「欠陥?」

「デカブツが問題なくそれに耐えられるんだったら、あんな面倒なシステムは必要ない。最初からそういう装備とスペックにしておけばいいだけの話。そうしていないということは、何か不完全な部分があるから……だと思う」

「なるほど、道理ですね」

 

 真っ先に思いつくのは、使用に時間制限があるというケースだ。アレほどの高スペックに耐えられる駆動系や神経回路を作り出せるとは思えない。人体のように代謝促進で無理やり再生させ続けるのならともかく、機械では難しいだろう。戦闘に耐えられるほどの計算能力と人格をもっている精密機械なら、なおさらだ。だからと言って下手に生体素材を使えば、機体の指揮系統が乱れて可動そのものが難しくなる。今の形が本来の姿だったとはいえ、リムシィにも使えるようにカスタマイズされていることは、なおのことマイナス要因だ。何らかの不具合が生じないはずがない。

 機体の耐久値を削って、捻り出した力なのだろう。そう考えるのが妥当だ。本来の耐久力以上の出力を無理やり引き出しているのだとしたら、それほど長くは持たないはず。……勝機は、そこにある。

 

 

 

「―――だとすると、紗夜さん。こちらも『アレ』を、使わなければならないですよ」

 

 

 

 静かな綺凛の提案に紗夜は、眉をひそめた。

 

「……まだ、そこまでする必要は無い。情報を集めて弱点を探るのが先」

「いいえ、ソレはすでにわかったようなものです。逃げて持久戦に持ち込めば、私たちが有利だということは」

 

 綺凛の指摘に紗夜は、とっさに答えられず口をつぐむしかなかった。

 調べる必要は無い、確信が深まるだけであって変わることはない。出てきた推測は頭の奥深くまで根が伸びているもので、それゆえに簡単には変わらない/正しいと感じられるものだ。この直観を信じて動いても、戦局が有利になるだけで何の問題もない。綺凛の指摘は正しい。前衛と後衛の思考方法の違いなのだろう。自分は少々、臆病になりすぎているのかもしれない……。

 ただ、ソレが正しいことを認めたとしても、『アレ』を使うことは躊躇われた。リスクが大きすぎる。コレがまだ準決勝だと思えば、次の決勝には確実に悪影響が残り、満足に戦えなくなるかもしれない。自分だけでなく綺凛にも、多大な負荷と代償を強いてしまう。使えば勝率は上がるだろうが、そこまでは踏み切れない。そのことを無言ながら、視線に込めて綺凛に訴えた。

 

「今、一番問題なのは、彼が捨て身でかかってきたということです。アレには何かしらの重大なリスクがあるんでしょう。ソレを背負い込んででも、この戦いに勝とうと賭けに出た―――」

「どうしたのであるか二人共? 折角スキをみせたというのに、攻めて来ないとは」

 

 のっそりと振り向くとアルディは、地面に撃ち込んだハンマーを肩に担ぎながら煽ってきた。

 

「……まさか、この一撃だけで臆したのでは、あるまいな?」

 

 嘲るかのようなセリフに二人は、心外だと言わんばかりに睨み返した。だけど、アルディから返ってくるのは純粋な戦意だけ、安心したとでも言いたげに小さく頷いた。

 本人はただ、訝しんでいただけなのだろう。今の自分に対する傲慢なまでの自信、からではなく、その力でどれほどのことができるのか試したかった。己の防御性能を試してみたかった。機械であるから顔色は伺えないが、声音の調子からはそんな、己が手にした未知な道具にゾクゾクしている子供が垣間見えた。

 

(あいつ、自分の性能を把握しきれてないのか……?)

 

 アルディの様子から、紗夜の頭にそんな直感が降ってきた。

 今の自分たちにとってはプラスの情報だ。簡単に信じてしまうのは危険だけど……、そうでない理由は見つけづらい。見た目と戦闘力と言葉遣いで騙されてしまうが、アレはまだこの世に生まれて1年も経っていないはず。機械と人間の尺度が同じなのかわからないが、ソレだけの経験しかないのならその精神は、やっと歩き始めた赤ん坊レベルとみて間違いないだろう。ハッタリや腹芸など考えることすらできないはず。ソレを戦いに組み込もうとする思考そのものがないは、先までの撃ち合いで証明されている。

 有利な情報に肩の荷がほんの少しだけ軽くなると、綺凛に向かい合った。

 

「……それの何が、問題?」

「覚悟です。私の戦う意義が問われているからです。

 刀藤流の継承者として、たとえ勝利のためとはいえ、逃げるわけにはいかないんです。あの強敵を前に、惨めに背中を晒すわけにはいかない」

 

 静かにも力強く不退転を宣言すると、綺凛は、その刀にも勝るような鋭く研ぎ澄まされた視線で敵を見据えていた。その姿はとても、13歳のあどけない少女とは思えない。数々の死線をくぐり抜けてきた剣豪の、対峙するだけで震え上がってしまう武威が放射されている。

 紗夜はそんな彼女の豹変に驚くも、胸の奥底では喜びが湧き出してくるのを感じていた。冷静さと眠たげな無表情の奥に隠していた獰猛な笑。それが内側からこみ上げて、にじみ出てこようとしている。止められない、留める理由などどこにも……ない。

 彼女もまた自分と同じ気持ちなのだ。託された想いを形にしたい、ソレが何よりも素晴らしいものだと世に知らしめたい、この強敵を倒してソレを証明してみせる。言葉を交わさずとも、ソレがハッキリと伝わってきた。―――ようやく、一つのペアに成れた。

 

「―――綾斗たち用にとっておきたかったけど、そうも言ってられないみたい」

 

 ふっと、観念したかのようにそうこぼすと、微笑が浮かんだ。

 迷いが完全に消え去ると、やることは一つ。何をすべきはわかっている。ソレに向けて紗夜は、全力で頭を回転させていった。―――飛行・砲台型にしていた《ヴァルデンホルト》を、別のモードへとシフトさせた。

 《ヴァルデンホルト》は、瞬く間に組み替えられていった。

 敵に幾つも向けられていた砲は本体から分離し、その砲門を天井に向けながら周囲をゆっくりと旋回。纏っていた装甲も分離するとそれぞれ別の形に組み替えられる、砲門が描く円の内側に二つの金属輪として回転。ジャイロスコープのように紗夜の周りで浮遊していた。

 背中と肩に取り付けていた推進翼も変形し、腰部と胸元へと移動。薄くスライドしながら伸ばされたソレらが、上から下から同時に彼女の体を覆う。胸の中心で合流すると青く澄んだ小さな宝玉が現れた。ソレが楔として一つに編み上げると、腰元にあった翼が鳥の尾羽のようにピンと、花弁のようにフワリと膨らんでは幾重にも重なっていく。―――全ての工程が終わるとそこには、スラリとしたドレスを身に纏った紗夜が、悠然と佇んでいた。

 

「ちょっと調律に手間がかかる。……綺凛、少しでもいいから時間を稼げる?」

「わかりました。やってみます」

 

 綺凛は頷くと、《千羽切》を脇構えにとって呼吸を整えた。いつでも切りかかれると、鋭い剣気を飛ばす。

 

「ふふん、作戦会議は終わったようであるな。―――やはりまずは貴君がくるかな、刀藤綺凛」

「くるのはそちらからですよ、アルディ。私に斬られたことをもう忘れたんですか?」

「ムッ。……そうであったな。失念してたのである」

 

 ふっと、微かに自嘲するとアルディは、向けられた剣気もそよ風のごとく無造作に、むしろ心地よいと言わんばかりにズカズカと踏み込んできた。

 

「貴君は、我輩にとってよい師匠である。貴君と対峙しているだけで、我輩の未熟な部分が訂正されていくのが分かるぞ」

「らしいですね。でも、少々多すぎますよ。この試合だけでソレを訂正しきるのは、無理でしょうね」

「はっはっはっは! 弱い犬ほどよく吠えるというのは、今の貴君のようなものなのだろうな」

「……すぐにソレ、改させます」

 

 無用心極まりない歩み、目の前の剣士を小馬鹿にするかのような/試合開始前の無神経さに戻ったかのように近づいて来る。

 紗夜は調律を進めながらも、そんなアルディの有様に眉を顰めた。いくらなんでも舐めすぎているのではないか、力が増したことで余裕をカマしているのか、所詮はその程度の学習能力だったのか。だとしたらもう一度、その間抜けな鼻っ柱は折ってやる……。だが、綺凛の間合いに入る寸前、ピタリと止まった。

 肩に担いでいたハンマーを握り直すと、やや前方に重心を落とした。膝を柔らかく撓め力を集中させる、機械なので実際には見えないが小さな呼気をこぼし心も研ぎ澄ました。力が増大したことによる慢心を払拭するかのように、ただ一つの砲弾として撃鉄を待つかのように。次の激突に全身全霊を込めるために、その確かな予感に観衆も全てが、息を呑んだ―――

 

「それでは―――……、いざッ!!」

 

 気合を放つと、一足飛びで斬りかかってきた。先ほどと同じ、あの巨体と重量にも関わらず、音も振動もたてずにまっすぐと跳んでくる。

 そんなアルディを迎え撃つ綺凛は、急に構えを解くと……、高らかに手を挙げた。

 

 

 

「―――審判、ならびにフェニクス監査委員会に質問があります!」

 

 

 

 大音声の宣言が闘技場を満たし、反響した。

 

「な、な……、なんとッ!?」

 

 出鼻をくじかれたアルディは、素っ頓狂な声を上げると、その場でたたらを踏んだ。転びそうになるのを何とか踏みとどまる。

 闘技場の空気も同じ。呆然とした困惑が広がっていく。

 その中心にいる綺凛は、周囲のことなど構わずに続けた。

 

「リムシィとアルディ、彼らの現在の行為は重大なルール違反です。即刻元に戻すか、さもなくば敗北させることを要求します!」

 

 二度目の衝撃に今度は、全てが騒然とざわついた。

 

 

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

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