R&AvsS&K 結末を変えてみた 《完結》   作:ツルギ剣

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更なる戦場へ

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりと、目を開けるとそこは、見知らぬ天井だった。

 

 シミ一つない眞白は、窓辺から差し込む光を柔らかくして降り注ぐ。ふわりと吹き込んでくるそよ風が、優しく頬を撫でる。心地の良い場所だ。

 フカフカのベッドと洗いたてなのか太陽の匂いがするシーツ。また眠りに落ちようかと目を閉じるも、疲労感は既にない。微睡みながら/それらに包まれたまま、頭は透き通って回転していた。

 ここはどこなのか、なぜ自分はここにいるのか……? 思い出せない。記憶はおぼろげで、掴みどころがない。

 ただ、焦りはしなかった。思い出せなくても構わない。ただ一つ確かに覚えているのは、やりきった達成感。力の限り/持てるすべてを出し切って終わらせた、だからどのような過程であろうとも後悔はない。

 

 ぼぉと仰向けに、うっすらと目を開けていると、声をかけられた。

 

 

 

「―――目が覚めたようだね、綺凛ちゃん」

 

 

 

 柔和な風貌の青年が、顔を覗き込んでいた。頭がまわらず誰だか思い出せない。

 呆然としていると、青年は優しげな笑みを浮かべ言った。

 

「無事で良かった。このまま目が覚めないじゃないかって、心配したよ」

 

 その声音でようやく、誰だかわかった。

 

「……おはよう、ございます。綾斗せんば―――」

 

 反射的に挨拶を返していると、自分の現状に目がいって声を失った。―――顔が一気に、真っ赤になる。

 慌てふためきながらシーツを手繰り寄せると、そこに顔を埋めて隠した。

 

「……どうしたの綺凛ちゃん、まだどこか具合が悪いの?」

「せ、せ、先輩そのぉ……、見たんですか? 私の顔……?」

「え? 顔が、どうしたの―――」

 

 一瞬キョトンとするも、ソレに気づいた。気まずそうに目を逸らし頭の後ろを掻く。そして躊躇いながらもコクリと、正直に頷いた。

 綺凛はまた、あわわっと顔を真っ赤に伏せてしまった。

 見られた。先輩に、よりにもよってこの人に、自分の寝顔を見られてしまった。……恥ずかしい。

 

 気まずい空気が立ち込める、どうにか動揺を落ち着かせようとした。……今更もうどうしようもない事実を、何とか受け入れた。

 どうにか顔や服装の乱れを直しながら恐る恐る、無理矢理顔を上げる。綾斗の方も、コホンと小さく咳した。それで二人共、ようやくほかにも目端が利くようになると、口を開いた。

 

「……紗夜先輩は? 試合は、どうなりました?」

「紗夜は別室で寝てるよ。

 綺凛ちゃんより早く目が覚めたんだけど、無理がたたったらしくてね、医者から無理やり寝かされてる。抜け出さないように、ユリスとクローディアががっちり見張ってるよ。試合の方は少し……、複雑でね」

 

 どう説明していけば、迷いを見せてきた。

 綺凛がソレに首をかしげていると、綾斗が慎重に始めた。

 

「まず試合そのものは、綺凛ちゃんたちの勝利で終わった」

「私たちが……勝った?」

 

 信じられない。というか実感がない……。その時初めて綺凛は、自分の中に試合の記憶がぼやけてしまっていることに気づいた。

 綺凛の戸惑いをよそに、さらに驚きの事実を告げてきた。

 

「だけど鳳凰星武祭(フェニクス)自体は、終わってしまったんだ」

「……どういうことですか?」

 

 自分たちが勝ったのならまだ決勝戦が残っているはずなのに、ソレがない。終わってしまった……。綺凛は眉をしかめながら、綾斗に尋ねた。

 ソレを真正面から受け止めると、苦々しさを顔ににじませながら、事の詳細を続けた。

 

「綺凛ちゃんたちのダメージが大きすぎたこと、闘技場の一つが壊滅状態になってしまったこと。そして、コレが一番の原因だろうけど、俺達はどちらも《星導館学園》の生徒だったこと―――」

 

 同じ学園の生徒同士/《星導館学園》同士の決勝戦……。綺凛は、説明され切る前に察した。

 

「運営委員会と六大企業は、これ以上フェスタを続ける必要はないと決断し、学園側もソレを了承した。綺凛ちゃんたちは瀕死の状態で、目が覚めたとしてもまともな試合になるとは考えられなかった。そういう前例がなかったわけでもないから、ことはスムーズに運ばれた。その結果……、俺とユリスの不戦勝が決まった」

 

 綾斗は、感傷を交えることなく事実のみを告げていったが最後、申し訳なさそうに目を伏せた。戦わずして勝ったのに、ソレが何よりも不本意だったと悔しがっている。

 

「……そう、ですか。先輩達が優勝したんですね」

 

 反対に綺凛は、落ち着き払っていた。戦えなかったことに悔しさがないわけではないが、それ以上に納得していた。この結果は自然な成り行きだったと、腹の底にすっと収まっていた。

 ソレを見た綾斗は、抑えていた思いを漏らした。

 

「俺もユリスも、この結果には納得いってない」

「いいえ、結果は変わらなかったはずですよ。戦えばきっと、私たちの負けでした」

「そんなことは―――」

 

 ない……。諦めきっている綺凛を焚きつけるよう言い募ろうとしたが、やめた。

 下手な慰めは逆効果だった、綺凛の言ったことは多分に事実でもあった。人の良さそうなぼんやりとした見かけとは逆に、頭の中では冷徹な計算ができる綾斗には、ソレがわかった/わかってしまった。ゆえに何も言えず、黙るしかなかった。

 振り上げた拳を下げようと堪えていると、ソレを慰めるかのように綺凛がそっと尋ねてきた。

 

「《アルルカント》の二人組、対戦相手の方々はどうなりました?」

「どうなった、て……。覚えてないのかい?」

 

 綾斗は問いながら初めて、その可能性に気づいた。わかって当たり前のことだった。気づいてやるべきことができず、さらに顔をしかめる。

 そんな彼を見て綺凛は、申し訳なさそうに顔を伏せると言った。

 

「はい……。途中から、アルディが地面に巨大なクレーターを作った所までは覚えているんですが、そこから先のことは朧げで……覚えていないんです」

 

 あの大破壊の衝撃波を避けれたことは、今自分が五体満足で生きていることが証拠だ。だがその時から、意識も同時に消し飛ばされたかのようで、記憶がない。体中激痛と疲労で悲鳴も上げられなかったのに、ソレすらなかった。その時間が空白であることだけしか、わからない。

 

「……ごめん綺凛ちゃん。俺たちもそこから先の戦いは、わからないんだ。

 アルディの攻撃は、闘技場の撮影装置まで壊してしまったらしくてね。会場からでは君たちの姿が見えなくなった。だから現地まで駆けつけたんだけど……、その時にはもう、終わってた」

「私が、彼の校章を斬り落とした、ということですか?」

「それだけじゃ、無いみたいだったけどね」

「……無事、じゃないんですか?」

 

 壊して/殺してしまった。自分の一刀は、彼の命ごと奪ってしまった……。

 仕方のない結末。そうするより他なかったことは、消えている以前までの戦いの記憶で推測はできる。綺凛もその時までは、この試合に勝つには彼を殺すしかない/負けるときは自分が死ぬと覚悟していた、そのことは覚えている。互いに正々堂々と死力を尽くしていた。だから結果がそうならば、納得し受け入れられるが……、一抹の悔恨があった。贅沢なことかもしれないが、そうでない勝利を願っていた。

 綺凛の不安を確かに/願いを否と言うかのように、綾斗は説明した。

 

「アルディの方は、損傷は激しいけどなんとか無事だ。復元するのも可能らしいよ。だけどリムシィの方は―――、コアが破壊されていた」

 

 驚いて顔を上げると、目を丸くした。案に相違した現実、どうしてアルディではなくリムシィの方が……。すぐにその仕組みに思い至ると、再び顔を伏せ黙ってしまった。

 身代わりになった。自分がアルディを殺す一撃を放った時、彼女がソレを代わりに受けた。どのようにしてできたのかわからない、だけどそうだとしか考えられない。自分の刀が彼らを殺してしまった事実に、変わりはなかった。

 責めることはもちろんのこと、慰めの感情も抑えながら綾人は、平静さを保って続けてきた。

 

「そのことで、《星導館》と《アルルカント》とでひと悶着あった。けど、試合中の不慮の事故ということでカタをつけた。壊されたくない大事なモノならそもそも試合に出さなければ良かった、て強引に、クローディアがね。……まぁ、それで相手が納得してくれたのかどうかは、わからないけど」

「……そう、ですか。すいま―――」

「ソレは表の、公表されてる理由」

 

 再び目を丸くさせられた。キョトンとしながら、綾斗を見つめる。

 

「実は、綺凛ちゃんたちに壊されたリムシィのコアは、彼女のモノではなかったんだ。《アルルカント》製の擬形体(パペット)のモノではある。けど、彼女の製作者であるカミラさんの刻印がなかった」

 

 冷静を保ちながらも深刻さの色を滲ませて言った。

 頭は切れるが腹芸はあまり得意でない綾斗。それで綺凛にも、冗談を言っているのではないことを理解した。

 居住まいを正すと、口元に手を当て考えを巡らした。そして、恐る恐る確かめるよう問いかけた。

 

「……取り替えられた、ということですか?」

「俺とユリスか《アルルカント》の研究者たちよりも早く、君たちの下にたどり着いた誰かがね」

 

 その『誰か』が、リムシィからコアを抜き取り別物とすり替えた。戦いで疲弊していた自分たちでは、その『誰か』の相手ができなかった。されるがままに彼女は、そいつに……。

 自然と綺凛は、眉をしかめていた。腹の底から言い知れぬ熱が煮えたぎってきた。

 

「幸いなことに、《星導館》が盗んで隠蔽してるんじゃないかって疑いは、されていないよ。まだね。

 クローディアもハッキリと否定してくれた。ユリスの一件からだけど、技術共有と共同開発をしてきた《アルルカント》をあからさまに怒らせるメリットがない。そもそも、もし盗んだのなら《星導館》が真っ先に疑われるから、リスクも高すぎる。……綺凛ちゃん達が彼らを停止させた後コアを抜き取って別物に変えたんじゃないか、て言われるからね」

「そ、そんなこと無理です! 出来るわけなかったですよ!」

「一番近くにいたのは、戦っていた綺凛ちゃんたちだから可能性が高い。もし六学園の議会にまで問題が上がってきたら、そういう見解に落ち着くって話しさ。―――そうなれば本当に、《星導館》と《アルルカント》は仲違いせざるを得なくなる」

 

 事の大きさに綺凛は、ようやく気が付いた。自分たちは今、どれだけ危険な状況であるかを。

 《アルルカント》の最新技術を手に入れながら、ソレを糾弾されない。逆に、《星導館》へ罪をなすりつける。そうして、関係を強めようとする二つを引き剥がし敵対状態に貶める。一石二鳥の策略。それがコレを仕掛けた「敵」の狙い、すべてを成功させるにはコレしかないタイミングだった。

 こんなことができる奴は/集団は誰なのか? それだけの目的と力と知恵を持っている「敵」とは? 綺凛は思考を巡らす、体はまだ満足に動かないが頭は透き通っていた。考えられるのは、一人だけ―――

 

 

 

「―――悪辣の王(タイラント)の仕業、ですか?」

 

 

 

 綺凛の指摘に綾斗は、目を丸くした。

 

「……凄いね綺凛ちゃん。よくこれだけで言い当ててみたね」

「いえ、そんなことは……。大体の陰謀は彼に繋がっているものだと、当て推量です」

「俺は《アルルカント》の内輪もめかと言って、エルネスタさん達に否定されちゃったよ」

 

 手放しに褒める綾斗に綺凛は、慌てて謙遜した。

 アスタリスクで起きる全ての陰謀は、悪辣の王(タイラント)につながる。彼はそうやって血まみれの王座に君臨している。それが、悪辣の王(タイラント)の所以である。……都市伝説に近い噂話だが、根も葉もないわけではない。煙が立たない場所には火も起きない。ただ、明確な証拠がないだけ/疑われ続けているだけ。覇道を是とする《レヴォルフ黒学院》のトップは、そうでもなければ務まらない。

 

「おそらく。彼の仕業ではないかと、睨んでる」

「何のためにそんな事を……」

 

 こぼしてから気づいた。意味のないボヤキだった。

 彼らがそうするだけのメリットは、多分にある。《アルルカント》の最先端技術を盗み取ることができる。彼らにはそれだけの能力もある、最適な機会でもあった。そしてかの悪辣の王(タイラント)ならば、それだけの策略を事前に用意していたとしても、不思議ではない。いくつかある計画の一つを採用したに過ぎない。

 全て彼の手のひらの上だった、あの死闘すら全て……。ソレを突きつけられると、先ほどの怒りがまた沸き上がってきた。

 

「現在、《星導館》と《アルルカント》とで彼女のコアを捜索している。けど、まだ見つかっていない。アスタリスク中探しているけど、手がかりがほとんどないんだ。……だから綺凛ちゃんも、起きて早々なんだけど、質問攻めにされるかもしれない」

 

 綾斗は心配そうに綺凛を見つめた。

 大切な研究成果を、よりにもよって《レヴォルフ》に盗まれた。《アルルカント》の、特に彼女の設計者たちは気が気ではないだろう。一刻も早く、何としてでも取り戻そうとする。綺凛が重傷人だとしても、そんなこと構ってくれないだろう。

 重要な設計コードはファイヤーウォールで守り、暗号化で隠しているだろう。だけど、時間と手間を惜しまなければいずれ破られる。先の試合でも『自爆して勝つ』という選択肢がなかったことから、自らのコアにある重要機密を守るため自爆するということは無い確率が高い。どれだけ強力な防壁も隠蔽でも、それ以上の力をもってすれば破られてしまう、綺凛と紗夜はソレを証明した。そして当然、《レヴォルフ》にはその用意がある、綺凛たちにはできなかった物量戦も仕掛けることができる。全てのコードを奪い取ったのならリムシィは用済みになる、《アルルカント》も最先端技術を守りきれなかったことにある。……時間は、あまり無い。

 気遣いがこそばゆく、話題を自分からずらした。

 

「紗夜先輩は、されたんですか?」

「紗夜も綺凛ちゃんと同じで、変性意識の副作用があった。記憶が飛んでいて答えられなかった。そのことは紗夜から先に言ってもらっているから、まだ完治してない中でウンザリさせられることはないとは思うよ」

 

 ということは、紗夜先輩はウンザリさせられたんだ。あの何にも動じなさそうな彼女が……。綺凛は少し、紗夜のその姿を見たかったと口元を綻ばした。

 

「ただ紗夜の場合、煌式武装(ルークス)に記録装置が内蔵されているらしいんだ。躯体の使用と損傷状況を記録しているモノで、次の煌式武装(ルークス)製作に役立てるために使われている。だから映像記録なんてない、て説明したけど、ソレを解析すれば空白の時間を再現できるらしいんだ。《アルルカント》にはソレができる解析・再現装置があるとのことだよ。現場は荒れ放題で犯人の跡もキレイに消されてる、万能素(マナ)の変異状況を調べれば解るんだろうけど時間がかかりすぎる。

 彼女の煌式武装(ルークス)が唯一の目撃者。だから見せろって強要されてて……、参ってる」

 

 当然だ。ソレは、紗夜の父親が彼女に渡した最新技術の結晶だ。技術者でもある彼女には、ソレを他人に明け渡すことがどれだけの損失かわかる。まして、父親が精魂込めて作ってくれた煌式武装(ルークス)だ。ライバルでもある《アルルカント》に渡せば、拮抗していた技術がさらに離されてしまう。助けるためとはいえ、容易には首を振れないだろう。……綺凛は、彼女が困惑している姿をありありと思い浮かべられた。

 ソレに思いを馳せると、また一つ疑問が浮かんできた。

 紗夜の煌式武装(ルークス)を見せることは、《星導館》にもマイナスになる。《アルルカント》に協力することはあっても、身を削ってまですることではない。そんなことになればミイラ取りがミイラになる、《星導館》が一番損を被る事になる。だからそんな提案など突っぱねてしまえばいい、無理強いしてきたのなら協力関係を切ると脅せばいい、あくまでコレは慈善行為なのだと訴えること。……それだけキッパリと割り切れない何かが、あるのだろう。

 

「どうして《星導館》は、搜索に協力を?」

「疑いを払拭するためと恩を売るため、かな。《レヴォルフ》が《アルルカント》の技術を手に入れてしまったらさらに彼らとの差が開いてしまう、ていうのもあるね。

 それで差を開かれたら、鳳凰星武祭(フェニクス)での優勝だけでは補填しきれない。《星導館》はもともとビリだったからね。不戦勝での優勝なら尚更さ。アレは強さを証明したよりも、不祥事を起こしたマイナスの方が大きい。だから《星導館》としては、そういう思惑もあるかも知れない。少なくとも、妨害するためにやっているわけじゃないよ」

「……そうですか」

 

 ほっと一息、安堵の吐息を漏らした。

 とりあえず《星導館》は、敵にはならない。ある程度協力も見込める。これから自分がやることを邪魔することは、ないだろう―――。

 

 やるべきことが定まると、周りを見渡した。必要なものはこの身と、もう一つだけ……。

 

「そういえば、《千羽切》はどこにあります? 近くには見当たらないんですが―――」

 

 脇のテーブルの上にあったソレをみて、息を飲まされた。

 

 

 

 そこには、刀の残骸が置かれていた。

 

 

 

「……ゴメン。回収できたのはそれだけだよ。刀身のほとんどは粉々になって、消えてしまった」

 

 すまない……。綾斗は、我が事のように頭を下げていた。

 彼も、門派は違えど剣士である以上、愛用の武器が壊れたことの重大性は心得ていた。刀のみしか使えない綺凛にとってその喪失が何を意味しているのか、わからずにいられない。……もう彼女は、満足に戦うことができない。

 痛ましそうに見る綾斗とは違って綺凛は、壊れたソレにそっと手を添えるだけ。まるで今でもそこにあるかのように、刀身があった部分を撫でてはんば砕けている鍔に触れた。そして、結びはほつれながらも形は保っている柄まで指先が流れると、つぶやいた。

 

「―――全ては、私の未熟ゆえのことです。まだ至らないことだらけなのに、無理矢理に力を引き出したから……、身代わりになった」

 

 そうでもしなければ倒せない相手だった。自分の身だけの犠牲で勝利を掴むつもりだったのに、ソレができるだけの力と想いがあることを証明するための戦いだったのに、結局は全て《千羽切》が背負った/押し付けてしまった。

 胸の中は悔恨でいっぱいになって、何もかもぶちまけたくなっていた。だけど、言葉にも顔にも一切出さず/出せず。身代わりになった刀の前では、そんな弱さを見せることすら罪に思えた。

 

「だったら、《千羽切》もソレを譲ってくれたお父さんも、本望だったんじゃないかな。綺凛ちゃんが信じる、綺凛ちゃんだけの道を進む力に成れたのだから、後悔なんてないはずだよ」

「……そう、ですね。私もそう感じます」

 

 ありがとうございます、綾斗先輩……。

 教えてくれた通り刀からは、ボロボロでありながらも胸を張っているような姿が垣間見えた。誇りを持って逝ったのだ。だから、哀れむことはお門違い、ただ自分が未熟であるだけだ。―――まだ自分が、ソレに頼っていることの証拠だった。

 触れていた手を、ぐっと握り締めた。

 

「ただ、今はまだ、無事な姿であって欲しかった―――」

 

 未練を断ち切るように刀から視線を外すと、ベッドから床に立ち上がろうとした。

 足を床につけいざ立ち上がろうとした時、思うように力が入らなかった。よろめいてそのまま倒れる。

 崩れ落ちる寸前、綾斗がなんとか抱きとめた。

 

「綺凛ちゃん、何してるんだ!? まだ動いちゃダメだよ!」

「すいません綾斗先輩、でも行かないと……」

「行くってどこに―――、どうして綺凛ちゃんが!?」

 

 行かなきゃならないんだ? 助けに行く理由がどこにあるんだ? こんなにボロボロで、もう戦えないのに……。

 いいからそのまま寝ていろと、叱りつけるように睨んできた。そんな綾斗の制止を倍するように、まっすぐと力強く見据えた。

 

「私、まだ勝っていない。終わっていないんですよ」

「終わっていないて……、何を―――!?」

 

 宣言にたじろいだ隙をついて、綾人から離れた。

 再びよろめくもしっかりと足に力を入れる/何とか一人で立った。それだけで全身の力を全て使い切ってしまったかのようで、息は荒く鼓動も乱れた。だけど、その極度の倦怠感と体に焦げ付いた苦痛が思い出させてくれた。

 忘れていた熱と力が再び、灯っていく。

 

 顔を上げるとそこには、気弱な少女の姿はなかった。

 

 

 

「―――横取りされたままでは、終われない。終わらせない」

 

 

 

 静かにそう告げると、一歩踏み出した。新たなる戦場へ/病室の外へ、歩み出ていく。

 

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 これにてこの物語は、一旦幕を下ろさせてもらいます。投げっぱなしなような形で申し訳ありませんm(._.)m。
 続きは考えてはいるんですが、話がでかくなって着地点が見えなくなってしまうから/小難しい権力闘争を深く絡めざるをえなくなるから/場所の枠が拡大し続け登場人物も増えていくから/このままでは原作主人公の綾斗が脇役になってしまいそうだから(私的には綺凛とアルディのペアがそうあってもいいんじゃないかと)/準決勝の内容と結末の書き換えが目的でソレは果たせたから―――です。ちなみに続きというのは、リムシィのコアを救出するために、敵同士だった綺凛とアルディが協力してレヴォルフ一同に喧嘩を売るというものです。

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