R&AvsS&K 結末を変えてみた 《完結》   作:ツルギ剣

2 / 11
反則?

 

 

 騒然とざわめく会場、白熱していた戦いを中断されたことに困惑を隠せないでいる。小さいながらブーイングがこぼれていた。

 アルディは、攻撃を続けていいものかどうか戸惑っていた。振り上げていたハンマーを手持ち無沙汰にしながらも、少女たち二人を訝しがりながら睨んでいる。隣の紗夜も目を見張って、パチクリと相棒に目を送っていた。その一瞬、密かに続けていた調律の手が止まってしまうほどに。会場の中、ただ一人綺凛だけが、堂々と立っていた。全てに宣誓するかのように背筋をピンと張って、その目をアルディに差し向けていた。

 誰も現状に戸惑っていると、おもむろに、試合の実況を担当していた女生徒が声をかけてきた。

 

『……ええと、刀藤選手。ルール違反とは一体、どういう意味ですか?』

「言葉通りです。彼らの、アルディの現在の状態は、フェニクス戦闘規約第4条に違反しています。このまま私たちと試合を続けたいのなら、彼に組み込んだであろうパーツをリムシィに戻させて下さい。拒否するならば、ルール違反による敗北を要求します」

 

 会場はふたたび騒然となった。予期せぬ『規約』という単語に、皆何のことかと戸惑う。

 

(まさか、規約を持ち出してくるとはね)

 

 驚きからいち早く覚めた紗夜が、綺凛を眇めながら舌を巻いていた。口元にもうっすらと、笑みがこぼれている。

 彼女の性格/紗夜が今まで見知ってきた綺凛という女の子なら、時間を稼ぐために、アルディとの斬り合いをしていたはずだった。先に斬り結び圧倒した相手だが、性能が向上し未知の強敵となった。ふたたび対決したとしても、先のように圧倒できるとは限らない。いや、匹敵するのもままならないかも知れない。彼女の全力は先にみせた《連鶴》が全てであり、ほかに切り札はない。途轍もないスピードで学習し対応し始め、なおかつ基本性能まで向上させた今のアルディに対しては、決め手にかける。力で無理やりねじ伏せられる危険が考えられる。時間稼ぎどころが重傷を負うかも知れない。そうなれば、自分にまで被害が広がってしまう……。ただの斬り合いは、悪手だった。

 自分なら、彼我の戦力差を俯瞰して、そう判断できる。判断して別の方法が取れる。逃げ回れるだけの厚い装甲と高火力の幾つもの砲門が、ソレを可能にしてくれる。だけど綺凛は、刀一本のほぼ無防備/巌か鉄塊のような筋肉の鎧も纏っていない、そんな余裕はない。ペアの役割上前衛でもあるため、逃げを選ぶこともできない。斬り合う以外に歯止めになる方法がない=冷静に大局を見据え続けるなどできないはず。……そう、思っていた。彼女を見誤っていた。彼女は、見た目通りの気弱そうな/生まれたての子犬のような女の子ではなく、一度刀を握れば誰も触れることすらできず切り捨ててしまう剣士だった。

 

(……これなら、充分にいける)

 

 自分と鋼鉄の巨人との間に頑として立ちふさがっている綺凛、その小さく華奢な背中が、何よりも頼もしいものに見えていた。

 全てを頼れる相棒に任せると紗夜は、己の内側へと埋没していった。瞑想するかのようにはんば目を閉じ、意識を己が煌式武装へと集中させた。目に見えない想像の精神の糸を伸ばし、煌式武装の集積回路へとつなげていく……。

 父が自分のために作ってくれた最高傑作、自分の意を汲んで変造してもらった異端の兵器。この戦いに勝つためにはどうしても必要不可欠だと思った機能が、違和感なく再現されている。回路へと繋げ調律を続けるたびに、ソレを肌で感じていた―――

 

 会場中に轟く綺凛の要求。それに実況の生徒は、答えられずにモゴモゴとしていた。彼女に与えられているであろう権限内では、判断を下すことができないのだろう。沈黙したままただ、どうすべきか何をすればいいのかアタフタとしているだけ。会場のざわめきはさらに増していく。

 そんな彼女に代わるようにか、静観していたアルディが進みでてきた。

 

「……刀藤綺凛。失礼ながら、貴君の指摘は全くの的外れだ。我輩たちは今、何一つルールに抵触するような行為はしておらん」

「本当ですか? 規約上では、『校章を破壊されたか戦闘不能に陥った場合、その本人のみならず煌式武装(ルークス)および星辰力(プラーナ)の使用の一切を禁ずる』とあります。ソレは、ペアへの譲渡も含まれると解釈できますよ」

「規約は知ってるのである。リムシィはまだ戦闘不能に陥ってもいなければ、校章も破壊されておらん。貴君の言う違反には当てはまらんのである」

 

 闘技場の端で、我関せずとスイッチも切ったかのように立っているリムシィは、肯定とも否定ともわからない沈黙でこたえた。

 確かに彼女はまだ、校章は破壊されていない。紗夜の一撃は不幸なことに、校章をつけている胸の反対側を吹き飛ばしていた。今が彼女の胸には、《アルルカント》の校章が鎮座していた。だが、その傷はもはや戦闘不能と言うしかないものだった。片腕喪失、傷跡から潤滑液らしきものが流れ落ちパチパチと火花を散らしていた。いまは緊急処置で組織を閉鎖したためか、こぼれ落ちていた機能維持に必要な物質の流失は止められていた。彼女の無表情にも、激痛に悶えている有様など微塵も見えない。だが、人間ならば間違いなく重症だ。とてもそのまま、戦いなどできない。ドクターストップで強制的に敗北させて、一刻も早く治療させなければならないことだろう。機械/偽装体であったとしても、それは似たようなもののはず。

 

「片腕が消し飛び、機能の大半は麻痺して使い物にならなくなっている彼女が、それでもまだ戦えると言えるんですか? あまつさえ、貴方に武装と装甲のほぼすべてを明け渡した今でも、戦えると?」

「無論である。我輩たちは機械であるからな、例え腕がもげようとも体を満足に動かせないだろうとも武器がなかろうとも、稼働できる限り戦い抜く」

 

 傲然と、当たり前と言わんばかりに、アルディは切り返してきた。

 会場の空気が、変わった。異様なものでも見るかのような視線を、アルディたちに向けてきた。今までどういうわけか気づいていなかった/同じだと思っていたのに、よく見れば全くの別物だった。彼らが初めてこの闘技場に姿をみせた時に向けた奇異の視線が、ふたたび降り注がれていた。綺凛に向けられていた視線まで、アルディたちへと浴びせられていった。

 

「……わかりました。それでは『今』はいいでしょう。現状が続いている限り、私の要求は取り払います。

 だが、それならば、私たちが次に狙うのはリムシィということになります」

 

 綺凛の宣言にアルディは、ぴくりと眉をあげた。不意の切り返しに、顔をムッと引き結ぶ。

 そんな巨人のたじろぎを見逃さず綺凛は、即座に追撃を放った。

 

「貴方の性能は飛躍的に上がった。二対一とはいえ、正面切って戦って勝つのは難しいでしょう。だからまずは、くみしやすいリムシィを叩きます。貴方はソレを防ぐでしょうが、私たち二人を相手取って彼女を守りぬくのは至難の技、不可能と言ってもいいでしょう。違いますか?」

「……その通りである」

 

 綺凛の追い討ちにアルディはたじろぎ、唸ってしまった。

 これから何が起きるのか、彼女がどこに話を持っていこうとするのか見えてしまったのだろう。そこは自分たちにとっての弱点でもあった、できれば秘しておきたい情報だった。戦いの最中にソレを悟られるのは仕方がないが、こんなまだ刃を交えていない状態で暴かれるのは、手痛すぎる失態だ。それなのに、もう防ぐことができない。

 

(……やられたのである)

 

 アルディの中では、全くの想定外。彼女の《連鶴》の猛攻によって自分の絶対防壁が突破されたに勝る衝撃だった。根本的な前提条件を組み直すため、コアの演算装置がフル回転で自らを書き直していく。

 

「リムシィを敗退させた後なら、さきほどの要求を飲んでもらう必要があります。その瞬間、彼女が貴方に与えた煌式武装および装甲の数々を、即座に撤去してもらいます。……その時、我々の内どちらかを排除していなければ、あなたは確実に敗北するでしょう」

 

 たて続けの綺凛の攻めは、喉元に切っ先を突きつけるまで迫っていた。アルディは何もできない、ただ黙っているしかない。

 それでも、彼の胸の中にあったのは、悔しさや怒りとは別のものだった。今まで感じたことのない深い感動、目の前の敵に対する畏敬に近いがもっと身近で激しい。コンコンと止めど無く胸の奥底から湧き上がってくるソレを彼は、どう言い表せばいいのか知らない。新たなコードは、その言い知れぬ感動を基盤に組み立てられていく。中心が未知の空白であることに若干不安を覚えるが、それに倍するほど正しいことだという確信があった。いつ・どこでそんなものが生まれたのか/書き込まれたのか、わからないのに……。

 

「それでも戦うというのなら、どうぞご自由に。我々は一向に構いません。―――容赦なく叩き潰す」

 

 そう宣告すると綺凛は、刃にも等しい鋭い視線を差し向けてきた。一切の濁りのないあまりにも透明な、世界を峻別する苛烈さに満ちた瞳―――

 アルディは思わず、胸に手を当てた……当てていた。まるで視線が実体化したかのように、絶対防壁も装甲もファイヤーウォールも突き抜けてアイデンティティ境界を直接揺さぶってきたかのように、かき乱されていた。

 理解不能な衝撃に戸惑わされると、ハッとなって身構えた。注意散漫のアラームががなり立てていた。

 何か/どうやったかわからないが、攻撃を受けたのではないか? 訝しる。ありえないが、ウイルスのコアプログラムへの侵入を許してしまったのかもしれない。有線でも難しいのに無線で、ソレも現行最高のエンジニアであるマスターが作ったファイヤーウォールを一切刺激せずに伝染させるなど、不可能なはずだが……。すぐさま検査プログラムを走らせた。

 結果は……、何もない。どこにも異常は見当たらなかった。己の行動こそがエラーではないかと、なぜ無駄な行為をするのかとの返答があるのみ。

 

(先から一体、なんなのであるか? なぜ、こうも落ち着かなくなっておるのだ……?)

 

 アルディにはわからない。彼に入力された情報とネットワークにアクセスして引き出した情報、それに短いながらも稼働してきた経験の中には、適当な表現が見当たらない。

 

(いや、すでにわかっている……のである。喉元まで出かかっているのにでてこない。言葉にできないだけなのだ……)

 

 いつもなら即座に外へ出してしまうのに、今は胸の内で木霊させている。らしくない。彼を彼たらしめている人格プログラムでは、選びそうもない逡巡が選択されていた。

 クラリと、その場でよろめく/寸前でどうにか堪えた。

 己と己の内側との乖離に気づき、不安定にさせられていた。機体の骨格から、稼働の振動とは別の微震が引き起こされているのが検知された。アラームがふたたびがなりてるも、意識を集中させることができない。

 

『……ええと、刀藤選手。監査委員会から通達がきましたので、お伝えします―――』

 

 乖離の原因究明で混乱していると、実況の生徒の報告で止められた。

 

(……そうだ、何を迷っているのだ我輩は。わからんことはいくら考えたところでわからん! 必要ならばいずれ、答えの方からやってくるであろう)

 

 キッパリと『自分』らしく中断すると、そちらへ注意を回し直した。

 

『『貴方の要求はごもっともですが、彼らには当てはまらない。リムシィ選手が敗退した後も、アルディ選手は現在の行為を止める必要はない。彼らは何のルール違反も犯していない』……です』

 

 会場がどよめいた。なんだソレは/一体どういうことだと、口々に不満が吹き出てくる。

 

「……納得できません。説明をお願いします」

『は、はい! ……え、えぇとですねぇ―――

 『アルディ選手の現在の状態は、彼本来の姿。リムシィ選手が分け与えたものではなく戻しただけ、元々彼のパーツを彼女が代わりに運用していただけです。規約第4条に抵触することはない』……です』

 

 再びどよめかされた。今度は、裏を勘ぐった悪意が混じったものが聴こえてくる。また《アルルカント》の奴らが委員会に何かしたのか/横槍を入れさせるなんて汚いと、不平がこぼれていた。

 

「信じられませんね。あれだけの性能が、ただアルディの力のみで成し遂げられていたなんてことは。……彼らの明細な設計図とプログラムコードを開示してもらいたい、今ここで」

 

 綺凛の要求に、会場中が瞠目した。

 ソレは、ありえない事だった。証明のためには必要なれど、公開などできるわけがない。《アルルカント》にとっては、強いては彼らの支配下にある全ての企業にとっては、認めることなどできない。せっかく心血注ぎ多大な資本を投入して作り上げた最新兵器を、無料で世界中にばら撒くようなものだ。そんなことになるのなら、ここで敗北したほうがマシ。この試合の趨勢と重要機密を天秤にかけてきた。

 誰もが、次の言葉を待っていた。予想外に膨れ上がった要求にウキウキとしている。本来この戦いの当事者であり闘技場にいる偽装体たちの製作者、ゴリ押しで彼らの参戦を認めさせ自身は高みの見物をしている研究者たち。彼らの返答を/言い訳を/慌てぶりを、固唾を呑んで待っていた。

 ……だが、期待に反して、何の反応もない。返ってきたのは、実況者の伝達だけだった。

 

『……それについても、返答があります。

 『監査委員会で確認しましたので、問題ありません。我々が保証します』……です』

 

 短くも一方的な返答に、落胆の空気が広がった。なんだソレは強引すぎる/証明になってないぞ/ちゃんと答えたらどうだと、ブーイングが鳴り響く。

 そんな彼らの気持ちを代弁するかのように、綺凛が再度口を開きかけると、紗夜の制止の声が響いてきた。

 

 

 

『―――綺凛、もう充分だ。調律は完了した』

 

 

 

 後ろで控えていた紗夜の声だが、エコーがかかっているかのような音で耳に届いた。聞こえたというには、鼓膜を震わされた感触が少ない。鼓動や歯軋りと同じ、体の内側から響いてきたかのような声音だ。

 聴きとりはんば振り返り、視界の端に紗夜を入れた。するとそこには、静かに佇んでいる少女の姿があった。

 騒然とざわめいている会場の中でも、そこだけは清らかな静寂が保たれていた。立ったまま微睡み中にいるかのように、半分ほど開いたままの瞳を虚空に放下したかのように、深い瞑想に入っているかのように。精巧に作られた等身大の人形か悟りを開いた覚者か、常人とは思えぬ厳かな雰囲気を醸し出していた。

 ほんの少し風が吹いただけで、バタリと背中から倒れてしまう。それほどまでに脆そうなのに、決してどんなことがあろうとそんなことは起きないだろう予感がある。絶妙なバランスが保たれていた。

 

『最後の確認。……本当に、いいの?』

 

 紗夜は口元を動かさず、顔すら微動だにせず言った。ただほんの少し、体がユラリと揺れただけ。

 その声がハッキリと聞こえたかのように、綺凛はコクりと力強く頷いた。とうに覚悟はできていると、無言のうちに含ませて。

 アルディは二人の、特に綺凛の奇妙な行為に首を傾げていた。彼には紗夜の声は聞こえていなかったのだ。彼だけでなく、会場中の誰にも聞こえていなかった。ただ綺凛にだけ、その声が届けられた。

 彼らにとって今の紗夜は、存在していたことを忘れていた案山子だった。今しがたようやくアルディの意識の端に、思い出されたほど。この場の空気に溶け込み見えなくなっている。さきほどの戦闘であれほどの高火力の砲撃をぶっぱなしたというのに、特徴的な煌式武装を身に纏い稼働させ続けているというのに、誰も―――

 

「…………わかりました。委員会がそこまで言うのなら、信じましょう」

 

 振り返った綺凛は、不承不承と言わんばかりに承諾した。

 観衆は彼女とは違って、飲み込み難いと言わんばかりに不平を垂れ流していた。不平等だ/委員会は《アルルカント》の肩を持つのか/もっと責めたてろ、と。だが、当事者である彼女が認めてしまった以上どうすることもできない。不完全燃焼の不満で澱んだ空気が、会場に広がっていた。

 そんな暗いピリピリとした空気にいたたまれなくなっている実況の生徒は、コホンッと気持ちを新たに、仕切り直しを宣言した。

 

『それでは、試合再開……で、よろしいですか?』

 

 元気をだして言ったものの、最後はビクビクと確かめるようになってしまった。

 綺凛もアルディも、何も言わない。無駄なことはしない。ただ互いだけを見据え、間合いを計り続けているだけ。―――二人の間ではすでに、戦いは再開していた。

 観衆もソレを悟ってか、弛緩していた空気が一気に緊迫したものに変わった。

 

「……貴君には驚かされてばかりだ。まさか、このような手があろうとはな」

 

 アルディは静穏に称賛を告げると、ゆっくりと周囲を見渡した。先程までとは違い、険悪な視線が混じった空気が漂っているこの場は、彼にとって敵地と言ってもいい。一人闘技場の中央に立っている彼は、いまだ巨人といえども目に見える以上のオーラは見えてこない。

 

「我輩達が作ってきた観衆の認識は、初期値に戻されてしまった。我輩たちはふたたび、異物としてこの場に立つことになった。この闘技場と観衆たちが作り出しているプラーナの共鳴場から、はじき出されたのである。それは微弱ながらも、この場で戦う者たちの身体や星辰力にも影響する。時にソレは、戦局を左右する力にもなりえる―――」

 

 誰に向かってでもなく一人呟いていると、突然、その顔に喜悦が浮かんだ。

 

「ふ……ふっふっふ、フハッハッハッハッ! 

 嬉しいぞ刀藤綺凛!! これほどの窮地はまたとないのである。やはり貴君は、我輩にとって最高の師だッ!」

 

 感に耐えないとばかりに、哄笑し続ける。内側から止めど無くこみ上げてくる歓喜が、高笑いをさせていた。

 そんなアルディの豹変に綺凛は一瞬、目をパチクリとさせられてしまった。呆然と、警戒も解いてしまう。だが、すぐに気持ちを引き締めなおした。眉をキッと結び直すと、睨みつける。

 

「……窮地という割には、堪えているとは思えないんですけど?」

「だからこそ、なのである! 我輩今、舞い上がってるのであるよ。やっとこの胸の滾りを表す言葉がわかったのである! 何と素晴らしく、清々しい気分なのだ―――」

 

 胸に手を当て仰ぎ見ると、小さくフルルと打ち震えていた。瞳を煌めかせながら獰猛な笑みを浮かべている。機械であるので見た目の表情は変わることなどないが、視界に映っているその顔は確かに、歓喜に震えさせられているものになっていた。

 そんな彼と対峙している綺凛は、唖然と戸惑ってしまった。今度こそ言葉を失っていた。このやり取りだけで彼の中に何が起きたのか、わからない……。

 

「―――だが、それはさておき、だ……。

 随分とあからさまな時間稼ぎだったではないか、刀藤綺凛。……この遅滞に見合うだけのものは、用意できたのであるか?」

 

 再び向き合うとアルディは、煽るようなセリフとは裏腹に穏やかな調子で言った。これから立ち向かう死闘を前にしても揺るがず、迷いは一切かき消え晴れ渡っているというかのように、微笑みまで浮かべて。

 見せつけられた静穏に綺凛は、慌てて気持ちを引き締め直した。だがすぐに、ハッとさせられた/気づかされた。先の演説で心理的な主導権を握ったと思ったのに、取り返されてしまっている。彼の行動や感情に引きずられている、反応してしまっていた。背筋にドッと、冷や汗が流れ落ちた。

 だが表面上は、動揺を微塵も見せず。代わりに目の前の強敵にもました、不敵な笑みを向けた。

 

「ええ。度肝抜かしてみせます―――」

 

 チラリと後ろの紗夜に視線を送ると、《千羽切》を胸の前で横に構えた。そしてその鍔元に、片手をそっと添えた。

 やんわりと刃を握り包むと、納刀するかのように腰元へ据えた。居合をするかのように重心を落とすと、一つ、深く息を吹き出した。その息を吐き出し終えるとゆっくり、刀を抜き出していった。ぷちゅりグチュリと、添えた掌から血を噴出させながら。真っ赤なソレを刃に塗りつけながら、染め上げるかのようにして―――。

 鋒まで抜刀すると厳かに、正眼に構え直した。

 

 

 

「―――刀藤流奥義・血刀《朱羽》」

 

 

 

 小さく、作り出した妖刀の名前を告げた。名を呼ばれたソレは、産声を上げるかのように/主に応えるかのように、炯々と紅い煌きを放ってきた。




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。