R&AvsS&K 結末を変えてみた 《完結》   作:ツルギ剣

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幕間

 

 

 

 ―――同刻、《アルルカント》アカデミー、生徒会専用の観戦ブース

 

「おやおや、まさかあれを使わなくちゃならないほど追い詰められるとはね。……ちょっち予想外だったかにゃー」

「……本当に、大丈夫なんだろうな?」

 

 椅子の上であぐらをかいてウキウキと観戦しているエルネスタに、隣でキッチリと座っているカミラが厳しい顔つきで答えた。

 がらんとしたブースの中には今、二人しかいない。幾つものモニターからほのかな光が放たれている。そこには闘技場の様子の他にも、数値の羅列やグラフが映し出されていた。二体の擬形体(パペット)たちの状況がリアルタイムでモニタリングされている。

 

「シュミレーションじゃ問題なかったし。平気っしょ」

「だといいが……。私は今でも、アレを積ませるべきではなかったと後悔しているぞ」

「ふっふーん! そんなこと言っても、こんな状況になったのはカミラの《ルインシャレフ》が力負けしたからでしょー?」

「そ、それは、そうだが……。お前の《絶対防壁》とて、彼女に破られたではないか」

「そうだね、すごいよねぇ彼女! いくら戦闘経験が足りなくて対応が正直過ぎるって言ってもさ、あんな短時間でアルゴリズム全部見抜かれるなんて。しかも、ちょっとフェイント混ぜただけで、アルディの演算機能を上回っちゃうんだもの!」

 

 カミラはムッと開き直り言い返すも、エルネスタはかまわず嬉しそうにその時を思い返していた。難問の解法を閃いた数学者のように、新しい発見に巡りあった研究者のように子供のように、目をキラキラとさせ自分の感動に浸っている。

 相方のいつもの様子にカミラは、毒気を抜かれたように呆れてしまった。いつも通り変わらぬ純粋さに、自分は少しばかり了見が狭かったと、強ばっていた肩の力が抜けていくのを感じていた。

 

「まぁ、あの沙々宮博士の煌式武装(ルークス)、ホンット威力だけはとんでもないから仕方とは、思うけどねー」

「……確かに、予想外の性能だったのは認める」

 

 最新の素材と理論をもとに作り上げた《ルインシャレフ》=現状における最高傑作、ではあった。実戦向きだと飛行性能を付与し連射性能を重視させたが、その分一撃の威力には劣っていた。自分の目的上、その設計思想は間違っているとは思えないが、実際の混沌とした戦場向きのカスタマイズだったことに気づかされた。こんな衆目にさらされた闘技場の、エンターテイメントの舞台向きではない。また、戦闘経験値の無さも問題だった。いくら自律的に稼働できる優れたAIを搭載しようとも、経験を積み重ねなければ戦術の幅は狭い。あらかじめ設定しておいたものからしか採用できない。無難な選択=最適な戦術しかとれず、賭け事ができない/心理的な駆け引きができない=せっかくのAIであろうが意味がない。まだまだ試作機であることの未熟さが裏目に出てしまった。

 

「じゃあ、勝つためにアレを使うのも仕方なし! じゃないかな、かなぁ?」

 

 エルネスタが期待の眼差しで、グイッと顔を近づけてきた。その様子は、皆の尊敬を集めている天才研究者とは言い難い、見た目以上に子供っぽい姿だ。欲しいおもちゃが手に入れられそうな予感にウキウキとしている。

 抑えと世話役に自然と落ち着いてしまっていたカミラだったが、どうにもその顔には弱い。許してやって喜ぶ顔が見たい、拒否してションボリとする顔は見たくない、どちらかに決めなくてはならない。心が揺らぐ、認めてもいいのではないか……。だが、寸前でこらえた。近づく彼女を制するように、手のひらを向けた。

 

「それとこれとは話は別だ! 私が言いたいのは、危険すぎるということだ―――」

 

 どうしても譲れない一線があった。カミラの目的または研究者としての倫理観が、降伏させろと訴えている。このまま続けれるのは危険だ、リムシィたちだけでなく敵対者たちさらには観客全員にまで被害が広がるかも知れない。ここで止める必要があった。

 

「先の覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)の暴走は知ってるだろ? 適正ある星辰脈世代(ジェネステラ)であっても扱いきれなかった、純正煌式武装(オーガルクス)にはまだまだ未知の部分が残っている。ましてソレを我々は、パペットに使わせているんだぞ? シュミレーションと実戦だってちがう、現状は想定外のことだろうが」

「だからこそ、自分で判断を下せるようにしたじゃない。人では成し得ない正しい判断を、ね。その彼らが、必要だと判断してアレを使った」

「この試合に勝つためだ。彼らの最優先事項は勝利すること、自壊する危険よりも上位に設定した。そうだろう?」

「その勝利条件には、『自分のコアを守りきってね』て書き込んでおいたよ。……そもそも、自壊してでも勝利するって矛盾しているよ。それじゃ相打ちになっちゃう」

 

 エルネスタの言い分にカミラは、顔をしかめさせられながらも理解できてしまう。言葉が出てこない、彼女の余裕な態度を崩すことはできない。でも、納得はしきれていなかった。それでも自分の意見を曲げるつもりはない、その意志を込めてエルネスタを見た。互いに無言で見つめあう。

 意地の張り合い、どちらが正論かよりも信条の違いからくる摩擦だ。対立してとことんやり合うしかないのだが、自分たちは今手を取り合っている、これまでもずっとそうだった。だからこれからも、そうできるとの強いつながりが二人にはあった。

 静かなせめぎ合いは、エルネスタの溜息とともに破られた。

 

「……カミラは、自分が作ったあの子達を信じられない?」

「まだ早い。信じきるには何もかも、足りなすぎる。特にアレを使うのはな。……あの子達はまだ、やっと一人で立てるようになったばかりなんだぞ?」

「そう? 私には、あの子達にはもう乳母車なんて必要ないと、思うけどねぇ。自分たちでソレを払い除けてみせたんだし」

 

 見解の相違は解消せず。エルネスタの放任主義は、カミラにとっては無責任過ぎると映るのみ。その逆もしかりだろう。

 どうすべきかと、カミラは腕を胸の前で組んで考えていた。何か妥協点はないものか/こうなったら無理矢理でも降伏させなければならないかと、思案を巡らしていた。すると、コンコンと、扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「―――失礼します。《エルネスタ・キューネ》様と《カミラ・パレート》様は、御在席しています?」

 

 扉の向こうから聞こえてくるのは、若い女生徒の声。フェニクス実行委員会の役員の一人だ。観客の誘導やら闘技場の売店の管理やら諸々の業者との調整など、運営に必要な雑用を任されている。

 何かしらよからぬ企みでも出てきたのか……。カミラは身構えて探るように眇めていると、エルネスタが何の警戒心なく返事をした。

 

「二人共いるよぉん!」

 

 気の抜けるような声に唖然とさせられるも、後の祭り。失礼しますと、女生徒がブースへと入ってきた。

 

「……何の用だ?」

「お二人に電報が届いております。お受け取り下さい」

「デンポウ……? なんだソレは?」

「へぇー、今のご時世珍しい。なかなか古風だねぇ。……面白そぉ、見せて!」

 

 差し出された紙片をエルネスタは、ひったくるようにパッと手に取ると、折って閉じられていたソレを開いた。

 

「どれどれ―――ッ!?」

「どうしたエル?」

 

 カミラが脇からのぞき見ようとすると、先に見たエルネスタの横顔が強ばったのが見えた。驚かされた。ヘラヘラと掴みどころがなくいつも楽天的に見える彼女を、一瞬にして鋭くさせる何か……。

 興味を深くすると、ソレを確かめる―――。目に映った瞬間、カミラもまた顔を顰めさせられた。

 

 

 

‘アルルカントが誇る天才技術者、エルネスタ・キューネ並びにカミラ・パレート両名様へ

 貴女方は研究者としては一流だが、親としては三流。まだまだ修行が足りない。貴女方の作ったデグ人形如きでは、私の娘とその友人を倒すことは不可能だろう。彼女たちの当て馬になってくれたことを感謝する。……ご愁傷様’

 

 

 

 機械が打ち込んだその文字に、個人を特定するものはない。だがこの文章は、あからさまな挑発だ。ごまかしようもなく喧嘩を売ってきている、書き手の自分たちに対する戦意がにじみ出ていた。

 

「…………コレ、宛名が書いてないけど、誰からの?」

「すいません、わからないんです……。昨日委員会まで届いて、今日のこの時間にお二人へお渡しするようにとだけ、言いつけられたものです」

「ふーん……」

 

 要領の得ない女生徒にもエルネスタは、振り向くこともせず気のない返事を返しただけ。その視線は瞬きもせず、渡された紙片に定められたまま。

 近寄りがたい、嵐の前の静けさのように空気が張り詰めている。緊迫感で息をのまされた。女生徒は落ち着かずオロオロと、どうすればいいのか戸惑っていた。

 

「―――あ。もう行っていいよ、バイバイ」

「し、失礼します!」

 

 慌ててお辞儀をすると、そそくさとブースから退室した。

 再び二人になると、ようやく、エルネスタの顔にも人間らしさが戻っていた。

 

「……沙々宮博士から、だろうね」

「随分とあからさまな挑発だな。……ミュンヘンからご苦労なことだ」

「『親として三流』てどういう意味だろう?」

 

 鼻で笑い飛ばそうとするカミラと違いエルネスタは、紙片を握り締めたままつぶやいた。

 

「あの子達がデグ人形てどういうことなんだろう? 倒せないってなんでわかるんだろう? あの子達の性能を知りもしないで、なんでこんなこと言えちゃうんだろう……? ただ威力があるだけの煌式武装しか作れない人が、どうして私たちにこんなこと言える? なんでこんなものを届けてきたんだろう? なんで今、なんで私に? なんで、なんで―――」

 

 エルネスタは誰に言うでもなく、「なんで?」と繰り返し呟き続けた。感情を込めずただ、エラーを警告する機械のように正確に、人形のように。

 その異様は、カミラをして戸惑わせた。

 

「……おい! 大丈夫かエル―――」

「ねぇカミラ。こんなこと言われちゃァ、引き下がれないよね?」

 

 ニコリと口元には笑顔が浮かんでいるが、目は据わったまま、輝きも見えない。強弁されているわけでもないのにカミラは、圧倒され押し黙らされた。

 

「おかしいよね、コレ? 間違ってるよ。あの子達が、私たちの最高傑作がデグ人形なんて? 勝てないなんて……ありえない。わけがわからないにゃ―――」

 

 口調は穏やか笑顔も浮かべている、いつも通りの陽気なエルネスタに見える。だけどその内心は……推してしかるべき。内面が溢れ出てコントロール不能になっていた。

 

「カミラもそう思うでしょ? 笑っちゃうよね。そうだよね、そうでしょ? ホント、何をどう考えたらそうなるのよ。負けるなんてそんな、ありえない……。あるはずないよね? ね」

 

 笑顔で強制してきた。カミラの意見など聞く気はない、イエス以外の返事は一切求めていなかった。

 そんな強引な相方にカミラは、深くため息をついた。

 

「―――はぁー……。わかった、このまま続けよう」

 

 これ以上は正論だろうと無駄だと、悟っていた。長年の付き合いから、相方のことはよく知っている。いつもの些事は自分に決定権が委ねられているけど、重要な決断は彼女がする。ソレが例え自分の信念と違ったものであっても、彼女の意志を優先する。……それが、第二の人生をくれた彼女への、せめてもの恩返しだった。

 『降伏する』という選択は、カミラの中から消えていた。

 

「ありがと! カミラならそう言ってくれると思ってた」

「私とて、試合には勝ちたいからな。……危険なことは変わりないが」

「大丈夫だよぉ、暴走なんて起きやしないってば!」

 

 何を根拠にそう言い切れるのか、暴走した後こそが問題なんだ……。愚痴がこぼれそうになったがこらえた。代わりに苦笑を漏らした。

 

「―――さぁて、沙々宮博士。あなたの傑作とやらの程を、見せてもらいましょうかね」

 

 拳を鳴らすようにそう言うと、モニターに向かい直った。

 幾つもの砲門を備えた煌式武装から、奇妙な浮遊輪とドレスを纏う姿へと変わった沙々宮紗夜。立ったまま眠っているかのような、案山子のような茫洋さで佇んでいた。ライトアップされた闘技場には不釣合いな、そこだけ静謐に包まれているかのような異様。

 おもむろにゆっくりと、その両手が持ち上がっていった。胸下まで挙げられると、口が開かれる―――。

 

 

 

 次の瞬間、天使の音色が響き渡った。

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

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