雪旗は全速力で逃げていた。絹旗は殺意こそ無いが、完全に全治一ヶ月以上の怪我を負わせる気満々である。はっきり言って、そこまでの怪我を負わせられても、不死身なので、回復力はかなり早いのだが、痛いのは嫌というのが事実である。
結局、言い訳をしまくったら、なんとか怒りは収まってくれたようで、近場の飲食店に二人で入っているという状況である。一体なぜこうなってのか、理解できないが、ひとまずは腹ごしらえだろう。そろそろお腹も減る頃だし。
「何食べる? お前の活躍に免じて、奢ってやってもいいぜ?」
「超マジですか!! じゃあ、これとこれ!!」
「はいよ。んじゃ俺はどれに……」
ピンポーンとボタンを押す絹旗。
「はえぇよ!!!?」
まさか、ここまで常識知らずとは、と思いつつ、これもこれで嫌がらせの一種かもしれない、と諦める。店員が来るまであと二十秒も掛からないだろう。限られた時間で一気に思考を巡らせ、決める。こういう店は食べ物の種類が多い、だがその中でどれだけおいしそうなモノを選出できるか、それが重要である。まあ、大した差など実際には無いかもしれないが。
結果としては、店員が来るよりも先に決める事ができたのでよかった。
そして食べ物が来るまで一先ず、暇な時間がやってくる。雪旗自身は別に待っていられない人間ではないので、黙って待つ。しかし、向かえに座っている少女はどうやら黙って待っていられないようだ。
「雪旗。超ダメですね。こういう時は女性をエスコートしなくちゃ超いけないんですよ?」
「そーですか。お嬢様は一体何がお望みなのでしょーか?」
「むむっ! 超お子様扱いしてますね!? 私はこれでも大人な女性ですよ!」
「そーか、大人な女性か」
ちょっとバカにしたように、見る雪旗にさらに気分が害される絹旗。どうやらプライドだけは一人前のようだ。しかし何がきっかけで窒素パンチが来るかわからないので、できる限り激昂はさせないでおく。
「はいはい、冗談ばかり言ってないで、飯来るまで静かに待ってようぜ? 別にうるさくしてなきゃ我慢できないって歳でもねぇだろ?」
「やっぱり私を超バカにしてますね!!」
「してねぇって」
そんなやりとりをしていたら、向こうから声を掛けられる。しかも名指しでだ。
「硬地!? こんなところに居たのか!」
(…………誰?)
まったく見覚えの無い人物だった。しかし、名指し、年齢、今の状況を鑑みるに、おそらくこの人は自分の父親である事が予想されるだろう。それに隣には女性も居る。おそらくその人が自分の母親だろう。父親はダンディーな感じで母親はどちらかと言うと、ほんわかーという感じだ。
「どうした? 硬地?」
「え、いや……なんでもねぇよ。父さん。それよりどうしたんだ?」
雪旗は何食わぬ顔で言う。演技力自体はそこそこ身に付いただろう。そんなすぐにバレはしないと思う。こういうのは堂々としてる方が逆にバレないモノである。
「あぁ、もしかしてお邪魔だったかなー?」
「なっ……!」
自分の父親はこういう話が大好きなのだろうか、まさかこんな話をいきなり振ってくるとは、普通ここら辺は触れないでおくべきだろう。思春期だぞ、こっちは。と思いつつ、雪旗は絹旗を紹介する。
「彼女は絹旗最愛。俺の友人だ」
「またまたー。親にバレたくないからって、嘘はよくないぞー」
このテンションがはっきり言って、見た目とギャップがありすぎて笑える。しかし状況が笑えない。実の父親から彼女のこういうのを触れられるのは、実際は嫌だろう。それはもちろん雪旗だって例外ではない。だが、絹旗は彼女ではなく友人。彼の中の認識はそうだ。だからこそ、雪旗は淡々と言い放つ。
「だから、嘘じゃなくて、コイツは本当にただの友人なんだって、悪いな絹旗。俺の親がさ」
「そうですよ。あなた。いい加減にしなさい」
「ごめんなさーい」
もうキャラが掴めない。しかし力関係がわかった瞬間である。おそらくこの中で最も力が低いのは硬地で間違いないが、最も強いのは母親だろう。
「はあ、それで母さんと父さんはどうしたんだ? この時間帯に来たのか? 来るなら連絡ぐらい……」
「いやぁ、驚かそうと思ってな」
(本当だぜ、まったく心臓に悪い)
結局、二人と会話してる間、絹旗は間には、入ってこず、何か言いたそうにこちらを見るだけだった。それから料理が運ばれ、二人も同じ席に座り、四人で食事する事になった。父親は相変わらず、雪旗と絹旗の関係を勘繰ってるようだが、本当にそういう間柄ではないので、仕方ない。
(そういや、本名知らないな……)
両親の本名を知らないとか、とんだヤツだな。と思いつつ、どうしようか本当に困ってる。しかしここで救世主の如く、絹旗が聞く。
「あの、超不躾かもしれませんが、お二人に名前とか聞いてもいいですか?」
「ん、ああ、そういえば君にはまだ自己紹介してなかったね」
「そういえば、そうだったわね」
(絹旗ッッ!!!! 愛してるゥゥゥゥううううううううううう!! 超大好きだぜ!!! これほど、お前に感謝した日はきっと後にも先にもこれが最後だと思うゥゥゥゥゥうううううううううう!!!)
と心の中で感謝だがなんだがわからない感情が渦巻いていると、自己紹介が始まった。
「私は雪旗
手を差し出し、握手する。
そして、次に母親が言う。
「私は雪旗
「超よろしくです……」
なんだが、畏まった絹旗は見たのは初めてで、少し動揺する雪旗。両親の名も知る事ができ、もっと言えば両親と初めての対面だ。少しだけ感動に包まれながら、食事を口に運ぶ雪旗だった。
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