雪旗の当面の目的は垣根の撃破だ。もしも、こんな目に遭っていなければ、今頃、上条が一方通行のどちらかに参戦してやろうとでも思っていたのだが、今回はそちらは見送ろう。どう考えても間に合うはずがない。
夜、雨が降っている。電気系統の能力を使われると非常に面倒な状況だ。もしも、仲間にそういった連中が居たら、非常に厄介だが、それでも負ける程ではないし、それに向こうも本当にそういった連中を連れてこれるか微妙だ。垣根の仲間でイメージが最も強いのはあの心理定規だ。若干ギャルっぽいが、それならフレンダも負けてない気がする。
「……さてと、どうしてやりましょうかね?」
とりあえずどうしたら良いか、考える。病院から離れる事は最優先だ。おそらく依頼の事よりも俺に執着してくるだろう。性格的に一番が好きそうなヤツだしな。それを理由に一方通行に喧嘩を売ったぐらいだし、依頼を邪魔するヤツには容赦しないヤツだったはずだ。
病院から離れながら、と思ったが、どうやら向こうさんの方が早かったようだ。
「……よぉ、待ってたぜ?」
「あら、この子が? じゃあ、まずは距離単位は二○で」
(これが、心理定規か……厄介なヤツを連れてきやがって――ッ! どうする? くそ……コイツを殴る事ができねぇのが腹立つ!)
「ハッ、手も足もでねぇか? 弱いものイジメは好きじゃねえんだけどよぉ!!」
ズガンッ! と強烈な衝撃が襲いくる。一方的な攻撃だ。何度も何度も、繰り返される。
「調子に乗ってるんじゃねぇよ! テメェ程度のヤツがよぉ!!!!」
意識が徐々に朦朧としてくる。このままでは自分がやられる。自分が少しでも意識を失ってしまえば、コイツは俺の興味が消え去って、すぐにあの二人を消しに行くだろう。それはダメだ。雪旗は気合だけで、体に鞭打ち、そして立ち上がる。
「……悪いな、テメェを殺すのに、躊躇は無くなったよ――ッ!!」
と攻撃をしようとした、瞬間。目の前に心理定規が現れる。ピタッと拳が止まったと思ったら、垣根が少し宙へと浮かび、翼でこちらの体にダメージを与える。吹っ飛ばされ、近くの街路樹にぶつかり、その場で止まる。体の方はいくら限界が来ようとも、どうとでもなるが、精神面はどうともならない。ここでやられたら、『アイテム』がやられる。これを考えるだけでも恐ろしい上に腹立たしいのだ。向こうに命令を下したのは上だとしても、コイツらにムカつくところもある。立ち上がり、とりあえず服の埃を払う。
「……ふぅー」
少しずつ、クールさを取り戻していく。心理定規と垣根帝督。この二人のコンボは非常に厄介だ。厄介な上に面倒臭い。だがやる事はやるしかない。まずやる事とすれば、二人を引き剥がす事だが、そんな事が可能とも思えない。
「あぁ、雨って嫌ねぇー。ねぇ、さっさと終わらせてよ、私帰りたいんだけど」
「はいはい……ったく我が儘な女だ」
「何よ、協力してあげないわよ?」
「ボロボロなんだ。お前の手なんて、もう必要ねぇんじゃねぇか? まぁ一応、居とけよ」
少しずつ、近づいてくる。立ち上がった雪旗の表情は見えない。ただ立っているだけだ。もう戦意喪失か? と垣根は思っただろう。だがそれは間違いだ。雪旗は好機を手に入れた。
垣根がたった一人でこちらに来る。あの女の能力は今の状況では厄介ではあるが、彼女自体に脅威は無い。彼女があそこに立ち止まってる以上、すぐにこっちに来る事はできないだろう。
「どうしたぁ? 戦意喪失とか、つまんねぇぞ?」
六本の翼で一撃を喰らわそうとした――その瞬間だった。翼を掴んで、凄まじい力で翼を引き千切った。六本すべてを、だ。
「なっ!? テメェ!!」
「――舐めるな。端っから、俺とお前とじゃ勝負になってなかったんだよ」
閃光が迸る。ボロボロの体に鞭打つ一撃だ。放ったと同時に血が噴水のように噴出し、倒れこみそうになるのを我慢して、最後まで放ち、垣根にトドメを刺した。だが、威力は弱めており、死んでないだろう。最後の最後まで甘かった雪旗だった。
「ハァ――ハァ――……ぐっ……こりゃ、マジで死ぬ……」
頭から、口から、内臓から、様々な場所から血が出てる。修復に大分時間が掛かりそうだ。
「ちょ……嘘でしょ……」
「はぁ――。さっさと病院連れてけ……死んでねぇから……よ」
明らかに自分の方が重症なのに、相手の心配をする彼を、どう表現したら良いのだろうか、先程まで、ずっと殺し合いしていた相手を心配するなど、どういう事なのだろうか。
「……ハッ、あんた変人だね」
そう言って、血だらけの垣根を連れて、『心理定規』は姿を消した。降り続いていた雨もだんだんと弱まっていき、どうやらもう止んだようだ。
「……ふぅ、雨、上がったな」
そう呟き、雪旗はひとまず、病院へと戻った。
「……あ、雪旗――って超ボロボロじゃないですかッ!?」
「んー。大丈夫、大丈夫。俺ってば、結構、運が良いみたいだぜ? 撃退完了ってな」
フッと体の力が抜けた雪旗が絹旗にもたれ掛かる。
「ちょっ!!?」
「あー、悪い悪い……ちょ、殴るのは勘弁な、今やられたら、冗談抜きでヤバいから……やめてくれよ」
「さ、さすがにそんな超酷い事しませんよ……とりあえず、超連れて行きます」
もう意識も朦朧としていたため、気絶してしまった。
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