「ふぅ……」
全快した雪旗は学校へと来ていた、しっかりと。休んでも良かったのだが、それだと逆に迷惑が掛かる気がするので、雪旗はしっかりと来ているのだった。
そして、今は昼休み。とある事情で異様に長引いた四時間目の所為で購買と食堂でいつも飯を食べている連中はこぞって、出遅れていたのだ。
「脱走だ! 脱走してコンビニに行くんだ!!」
誰が叫んだのか、その一言が原因で彼らを一気に動かす事になったのだ、そしてその中で蚊帳の外状態である人物。雪旗硬地は自分の持ってきたおいしそうな弁当を食べていた。
上条や青髪ピアスや土御門、そして姫神と吹寄までそっち派なのだから、大掛かりになるのはすぐにわかった事だろう。
軽く、バカバカしいと思っていた雪旗は冷めた目で冷めた弁当を食べていた。ちなみに朝早起きで弁当を作るのが日課の雪旗は当然のように持ってきていたのだ。そもそも四時間目が長引いたのだって、上条の『へー、じゃあ織田信長が織田幕府を作っていたら、日本はどうなっていたんですか?』とか言う関係ない一言が原因だったりするし、まぁ、責任を感じているらしく上条は上条で家庭科室で上条定食を作ろうとしていたらしいし、実際できてしまうのが、上条だ。まぁ、そんな事が許される訳が無いのだが。
そして、吹寄が作戦を考え、いよいよコンビニに行く事になったのだ。
(ああいうのに限って、吹寄ってかなりの力を発揮するよな……)
「あぁ? なんだ? こいつら、なんでこんなに張り切ってるんだ?」
とただいま食堂から帰ってきた麦野と滝壺とフレンダだ。コイツら今日だけ四時間目をサボりやがって、この難を逃れている。しかもそのまま食堂へ行くという事をしている。
ある意味ではラッキーだったのかもしれない。つまり、この場で誰一人できなかった事をしている訳で。
(なんというか、まあ元々真面目って感じじゃねぇしな。コイツら……)
そんな事を考えながら、弁当はすべて食べ終える頃にはもう既に作戦を終えていたようだ。そして全員がなぜか雪旗を囲む。
「…………何を考えていやがる……」
「お前の……能力が必要なんだ。陽動の為に……どうか、俺達に力を貸してくれないか?」
上条が頼み込む。どんだけ切羽詰まってるんだよ……。と軽く思った雪旗だ。しかも周り全員が真顔なのが、より一層雪旗の逃げ場を無くさせる。雪旗はため息を一つ、そして弁当をカバンの中にしまって。
「さっさと行くぞ。時間との勝負だからな!」
雪旗はさっそく陽動に行く事にした。上条、青髪ピアス、土御門、雪旗、吹寄がまず、運動靴へと履き代え、校舎裏へと急ぐ。金属フェイスを超えて、一気にコンビニまで一直線と思いきや、今、まさにファミレスから食事してきたと言わんばかりに
しまった! 雪旗達に緊張が走ったが、雪旗が一番初めに動いた。
「早く行け!!」
雪旗の一言により、全員が一気に走り出す。雪旗は逆にゴリラへと一気に飛んでいく――が、当然なのだが、相手は先生だ。ぶっ飛ばす事なんてできるはずがない。だから――。
「せんせーい!!!」
雪旗が一気に走り出す。当然、後ろの連中の時間稼ぎを少しでもする為だ。雪旗は真剣な表情でずっと時間を稼いでいた。雪旗を絞め落とそうとするような感じだが、それは避けれる。そして雪旗はなんとか、時間稼ぎに集中できた。
当然、一回でも捕まればアウトだ。その時点でおそらくこのゴリラはすぐさま、上条達を追うだろう。一応、この後の展開を知ってる身としては、このままの状況で、やれれば良いな、なんて関係の無い事を考えていた一瞬だった。雪旗が何かに引っ張られた。何に? 決まっている。
グイッと雪旗は一瞬で意識を刈り取られた。意識が朦朧とする中、雪旗は思った。
(つ、つえぇ……)
結局、
その後、上条達も無事、弁当を手に入れて、全員が食べる事ができたようだ。雪旗は教室に戻っていた。気絶した後、誰も居ないのを確認して、仕方ないので、戻ったのだ。
(はあ、疲れた……)
そんな事を思っていた。そしてこれは後から知った事なのだが、災誤先生はやはり途中で帰ったようだ。
そんなこんなで、言える事が一つだけある。災誤先生は強いのだった。早退したけど。
時間も過ぎ去り、帰宅時間だ。そして災誤先生を倒した五和に上条は衝撃の事実を伝えられた。『神の右席』である後方のアックアに命を狙われているのだ。
だが、実際、上条にはその実感というのはイマイチ湧かないかもしれない。なぜなら相手が強大すぎるからだ。そりゃ、第三次世界大戦まで巻き込むような連中に命を狙われるのだ。一介の高校生には実感なんて湧かないのも仕方ない事だろう。
(まぁ、アイツが一介の高校生であるかは別としてな……)
そんな事を思いながら、雪旗は若干の乾いた笑みを浮かべていた。そんなこんなで上条の寮の部屋に五和が行くのだ。おそらく『天草式十字教』の連中は五和を応援してるのじゃないだろうか。五和は上条に少なからず好意を持っているだろう。それは雪旗でもわかる事だ。というか見て一発でわかる程、なのにどうしてわからないのだろう。と雪旗は純粋に疑問を浮かべる。
いやまぁ、一応、高校生らしい心情を持っているはずだ、上条でも。
放課後になり、自室に篭りっぱなしの雪旗。ベットに横になりながら、思案していた。一人でテレビを見ながら。
(確か、新しくできた第二十二区のレジャーお風呂があったはずだ。そこが戦いの場か……正直、アイツに勝てる気がしない。単純な身体能力ではまず圧倒されるだろう。俺も一応、身体能力向上系だが、あっちには絶対に勝てる気がしない。そもそも音速で動けるような連中と対等に戦えるような身体能力を俺は持ってないし。まあそれを補って余りある、魔術があるからな。俺には)
そんな事を考え、ひとまずまとまった。自分がやる事は一つ。さっさと終わらせる事だ。なんというか、この世界に来てから、いろいろと変化させてしまっている。こういうのって、どうなんだろうか。結構、後々から危険になってしまわないだろうか、と雪旗はかなり心配していたが、してしまった以上、もう元には戻せないので、雪旗は突っ走る事に決めている。あの三人と一匹の行く場所も変わらないだろうし、問題は無いだろう。
と考えを一通りまとめて、やっと一段落ついた雪旗は眠る事にした……。
バッと目が覚め、時間を確認する。八時二〇分。サァーと血の気が引いていく思いをした。雪旗はすぐさま部屋から出る。上条の部屋は既に無人。すぐさま能力を開放し、一気に二十二区へと急いだ。時間も時間な為、交通は既に止められている。ならば走っていくしかない。時間的に間に合わない危険性があるが、間に合わないのならば、間に合わないで問題ない。そういう緊張感とはかけ離れたモノを感じていた、だってそうだ。自分がこの世界に来ても来なくても、上条が死ぬなんて事はなかった。だったら大丈夫、大丈夫だ。
それが雪旗を安心させる。そう、この場に自分が行かなくても、大丈夫なんだ。大丈夫なはずなんだ。
携帯で時間を確認する。八時五十五分。もうそんなに経つ、急がなくては。そんな中、一つの影が。
「ん? アイツ……」
雪旗が走っていると、唐突に後ろから声をかけられた。雪旗が振り向くとそこには垣根帝督が立っていた。怪我が全快しているようでいつものホストっぽい格好をしている。
「何してんだ?」
「悪い、今急いでるんだ……あとでにしてくれ」
「はぁ? 急いでるって……?」
その疑問には答えず、雪旗はもう既に走り出していた。能力を使っている為、かなりのスピードだ。レベル4であるからこそのスピードだろう。大能力者であり、身体能力を強化させる、これがなかったら危ない場面もいくつもあった、なんとも頼もしい能力の一つだ。
そんなこんなで雪旗のスピードは常人の非ではない、そうして、やっとの事、二十二学区に辿り着く。時間を調べてみると、九時四十分。なんとか間に合ったようだ。
「……ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
息がすっかり切れており、もう走る気力すら無い。こんな事なら、垣根に頼んで、翼でここまで運んで貰えば良かったと思った雪旗だった、確かにあの時は少し焦りすぎていた。
(はぁ、大丈夫だろうが……)
そんな事を考えながら、この辺りをウロウロしていると、近くに人が乱雑に倒れてるのを発見した。そしてその中心に立っていた男に見覚えがあった。茶色い髪色。ごつい顔つき。ゴルフウェアを彷彿とさせる服装。そして屈強な体つき。
後方のアックアだ。
「……むっ? 誰であるか」
「お前が後方のアックアか?」
「そうであるが、貴様には用は無い。私が用があるのは上条当麻、ただ一人である」
「そうかい、だがこっちには用があるんだよ。悪いけど、ここでアンタには退場させてもらうぜ!!」
雪旗からの先制攻撃。それをアックアは悠々と避ける。
「その程度であるか? 笑わせるな」
ゴッ!! と雪旗の顔面をしっかりと捉え、凄まじい勢いのパンチが飛んできた。雪旗は避ける事すらできずに、一気にぶっ飛ばされ、跳ねながら、地面へと叩きつけられた。
「ガッ……!!? ゲホッ! ガハッ……!!!?」
背中を強く打った事で咳き込んでしまう。なんとか立ち上がる事ができたが、それでも相手の底が見えなかった。
(み、見えなかった……嘘だろ……?)
見えなかった。今までの攻撃で相手のパンチが見えないなんて経験がない雪旗にとって、それは普通以上に恐ろしいものだった。自分の持っている能力は『肉体強化』。つまり自分の身体野力を上げる能力なのだが、それすらも通じないという感じをさせた。
「つまらぬ、本当に私を倒しに来たのか? その程度で?」
「調子に――乗るんじゃねぇ!!!」
凄まじい威力で蹴りを放つ。普通に人間ならば、喰らえば間違い無く骨を折るどころか、そのまま内蔵を破壊する事だってできる威力の蹴りだ。だが、それをアックアは腕でガードし、そのまま足を掴み、雪旗の体を持ち上げ、雪旗の体を一気に飛ばす。
十メートル以上飛ばされ、再び、地面へと叩きつけられるかと思いきや、スタッと綺麗に着地する。さすがにそれに驚いたのか、一瞬、関心を示したような感じを出したアックア。その隙を当然のように突く雪旗は飛び蹴りを食らわそうとする。だがそれすらも、読まれていたかのように避けられ、背中に重たい衝撃が来る。
「ぐゥゥゥああああああああ!!?」
痛みが走り、思わず叫んでしまう雪旗。ほとんど満身創痍の雪旗は今にも倒れこみそうなのをグッと堪えて、立っている。ほとんど気力で立ってると言ってもおかしくない状況だ。
「相手にならんな」
(スーハー……冷静になれ、俺。あれ……使うか? でもあれを使って、俺は勝てるのか? やべぇ、ちょっとずつ冷静になると相手の強大さがわかってきた。クッソ……どうする? マジでキツいぞ……)
血の気が抜け、冷静になると、やはり恐怖というのがくるモノで雪旗の体を芯から少しずつ確かに震えさせている。いくら死なないとは言え、それでも恐怖というのは絶対にくるモノでガタガタと軽く体が震える。
(落ち着け、落ち着くんだ……)
雪旗は静かに目を見開き、そして雪旗は地面を強く踏み、前へ突進するように突き進む。アックアは別に特に何もしない、ただ待ち構えるだけだ。強者の風格、それでいて自分を嘗めているというのがすぐにわかる仕草だった。そんな挑発染みた行動だが、雪旗は怒りに飲まれない。どちらかと言うと、より冷静になり、そしてその隙を突こうという気になれた。
「ぶっ飛ばす!」
「かかってくるのである」
凄まじい激突が繰り広げられている。聖人の力がある上にアックアは傭兵上がり、戦闘技術でも自分の上をいってる。つまり身体能力のごり押しもできなければ、戦闘技術でも自分より勝っている敵なのだ。雪旗にとってはやりづらい以上に自分をあっさりと超えている存在という認識の方が強いだろう。というよりも、まず前提として勝つ事がほぼ不可能な敵だ。
だが、それはあくまで『能力』だけでは――――である。雪旗にはこの能力以上に今までずっと使ってきた『兵器』がある。
『竜王の息吹』。これならば、おそらくこの勝負は一瞬でけりがつくのではないのだろうか。いや相手も一応は戦闘のプロ。何かを察知してどうにかできるかもしれない。おそろしい力を発揮するアックア。雪旗では明らかに分が悪かった。
「……ゼェ、ゼェ……」
激しい激突を繰り広げ、雪旗はもう体全身が震えていた、膝が笑い、小突かれただけでももしかしたら倒れるかもしれない。そんな状態でも雪旗は立って、戦っていた。目は虚ろで格好もボロボロ。それでもなお雪旗は立って戦っていた。
「い、一体なぜそこまでするのであるか!?」
「……と、もだち……が殺されそうに……なっているんだ……見捨てれる……かよ……」
「友達……」
感慨深そうにそう呟くアックア。そしてアックアは何かを決心する。
「あと一日待つ……それまでに決めておくのである。自分か……上条当麻か」
アックアがそう言うと、どこかへと消えてしまった。その姿をやはり目では追えなかった。
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