緋弾のアリア   交渉科のアジテーター   作:車輌科ャー・スミス

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交輔視点では一人称視点。

それ以外は三人称視点と、地の文を少し変えて書いていきます。

読みにくいかもしれませんがご了承ください。


2頁

[倉木交輔。尋問科(ダキュラ)。20xx年東京武高校入学。

 入学直後より学年問わず他の生徒への挑発、嘲り行為を以て問題視される。

 同年夏頃より教務課へ通う姿が目撃されるようになり、夏休みが明けてから自分の所属を”交渉科(ネゴス)”と自称するようになる。

 翌年2月にローマ武偵高へ留学。その後北京、サンフランシスコ、シドニー、モスクワ、メキシコシティと各地の武偵高を役2年半かけて周り、東京武偵高に戻った時点で2年生のまま進級せず。

 単純な実力は平均的卒業生(卒業時)を上回り優秀であると推察されている。

 留学時を含め複数の科の授業を受けているようで、武偵としては珍しく万能型である。

 特筆すべき点として”現場尋問”と呼ばれる行動がある。これは犯行現場に強襲し犯人との戦闘中に言葉巧みに情報を引きずり出す手法である。

 ”現場尋問”中に彼は犯人の素性、動機や微細な情報すら言い当てることがあり、一部では超能力捜査研究科(SSR)にも出入りしていた事も有り超能力(ステルス)所持者ではないかとも言われている。

 彼は逮捕できる状況でも他の武偵に手柄を譲り、あるいは単独であった場合に取り逃がす事例もあり、この為進級できないものと推察される。

 

 

 奇抜な行動故目立つ為に彼に興味を抱いた後輩へ。

 私個人として彼には進んで関わるべきではないと評する。

 同時に此処に記した以上の情報は容易に手に入らないことを記しておく。]

 

 

 神崎アリアは寮の自室で倉木交輔について校内のイントラで調べたデータを読んでいた。

 

「本当にふざけてるわね」

 

 もっともマトモだったものでこれであり、他は酷いを通り越して武偵の記すデータとして認めることを拒絶するほどのモノだ。

 

[先輩から後輩になった変人。からかうだけからかって逃げる変人]

[だいたい人を馬鹿にして飽きたらどこかへ行っている。時々ちゃんとした先輩みたいでうっかり感心させられてしまう]

[蘭豹先生をおちょくらないでください死んでしまいます]

[同じクラスになったら諦めて一年耐えろ]

[綴先生の尋問の後スキップしてた]

etc

 

 痛くなった頭を押さえるアリアに後ろから声がかかる。

 

「大丈夫ですかアリア先輩?」

 

「あまりにも馬鹿らしいと眩暈がするのね、知りたくなかったことだわ」

 

 声をかけたのはアリアの戦姉妹(アミカ)間宮あかり。後輩の一年生で横には大きなキャリーケースがある。

 あかりはアリアの持つ紙資料に視線を落として露骨に不快な表情を見せた。

 

「倉木先輩なんて調べてどうしたんですか」

 

「問題はあっても実力はあるみたいだからね」

 

 アリアは自身が動揺していたとはいえ、教室で簡単に接近を許した事などから一部(・・)評価をしていた。総合評価ではキンジの方が上だが戦力としてのつながりは多い方がいいのだ。

 

「ちょうどいいわ、あかり。コイツについて知ってること教えなさい」

 

「え~っと……」

 

 あかりは中々に難しい顔をして。

 

「生徒、犯罪者、それに先生も関係なくからかう人で学校で騒がしい時の半分くらいは倉木先輩が関わってます。あと先生や犯罪者相手の時は確実に誰か巻き込まれて酷い目に会ってますね。それでいて倉木先輩は難を逃れる事が多いので結構な人数に嫌われてます。教務課に逃げ込むんで他の先輩たちも手を焼いてます……」

 

 これだけの報告であかりの顔からは疲れが伺え、間違いなく被害にあった時の大変な記憶を掘り起こしていたのだろう。少し悪いことをしてしまったと思ったアリアは立ち上がりあかりの頭を撫でてあやしてやる。

 

(普通に調べて出てくる情報が少なすぎる、結局手に入ったのは学校内を中心とした目撃情報ばかり。まるでイ・ウーの犯罪者たち並に情報が隠匿されてるなんて、一体アイツに何が隠されてるっていうの?)

 

 

***

 

 

 春眠暁を覚えずって言うけど、昼過ぎでも昼寝は素晴らしいな。

 高校生なのに青春のほとんどほっぽり出して訓練やら調査やら、お兄さん心配だぞ、っと。

 そのおかげで屋上でのんびり昼寝ができるのには感謝しておこう。

 

 適当に時間を潰そうかとも思ってたけど、面白いお客さんだ。

 

「コーちん発~見! そんなところで何してんのー?」

 

「白々しいなあ峰理子よ。見て分からんか? 崇高なるお昼寝タイムだ」

 

「またまたーかわいい理子の事待っててくれたんでしょ? そうでしょ!」

 

 まあこのまま乗ってやって茶番に付き合うのもいいが、ちょっち雰囲気が違う感じか?

 

「そのままこっちに来てお洒落スカートの中を見せてくれるなら、そう言うことにしていいぞ」

 

「きゃーコーちんのケダモノー!」

 

そろそろ本題に入ろうか(枕はこんなもんでいいか?)

 

 スッと峰理子が纏っているおバカな雰囲気を一変させて歩いて俺の隣にやってきて座る。三角座りでガードか、分かってるな相変わらず。

 

「先に言っとくぞ、顔見せ目的で獲物を奪う気はない」

 

 流石と言うべきなんだろうな、溢れかけた敵意を一瞬で仕舞い込んだ。そうそう、一応学校だしなあ。今の時間だと教務課で呑んでるか吸ってるかしてるだろうけど。

 そっち以上に俺を量りに来たって感じだな。

 

「何のことか理子わかんなーい」

 

「おいこら探偵科(インケ)A。まあいいや」

 

「……本当に言ってる?」

 

「お前が失敗してからちょっと借りるぐらいはするだろうけどな」

 

「コーちんは理子が」

「”失敗すると思ってるの?”だろ」

 

 峰理子の”台詞”を奪ったが驚いてはいない。俺ができるのを知ってるし、何より今の文脈は素人でも分かるヤツは分かる。それよりも俺が峰理子の計画を知ってること、受け入れてるのか探ってるのか。

 

「断言するぞ、”失敗する”。”しなくちゃ救われない”」

 

 流石に峰理子でもこれはキレるか。

 

「なんで」

 

様式美(テンプレ)として決まってる。そういうもんだから。何もかも順調の順風満帆で行けるのなんかおたくのボス位なもんさ。でなきゃこうしてクラスメイトになるまでだらだら武偵高生やってねえよ」

 

「……」

 

 ちょっとは冷静になってくれたか。峰理子は優秀だ、仲間とまで行かずとも協力関係は結びたい。

 これから巻き込まれる運命の奔流の中に確実に居る存在だろうしな。

 

「コーちんの目的って何?」

 

 座ってた峰理子が俺と同じように寝転がってきた。

 

「ハッピーエンド」

 

「何それ」

 

「悲劇になる結末をひっくり返すことさ」

 

「私には失敗して悲劇に墜ちろって?」

 

「”人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ”」

 

「チャップリンだね」

 

「ああ。それに俺は峰理子の物語では端役でしかない、お前を救う王子様じゃないからな」

 

「理子は王子様なんて求めてない。理子は、理子は自分で理子になる」

 

「求めてなくても突然物語に介入して、勝手にヒロイン(お姫様)を救っちまう。それが主人公(王子様)って存在だ。まぁこれも様式美(テンプレ)の一つなんだけど」

 

 まあ複雑だよなあ。今まで独りで耐えて戦ってきて助けを求めることもできなかった。それなのにいきなり出てきたヤツに助けられてしまうってのは。

 

 こうしてのんびりと流れていく雲を眺めながら過ごせるのはいい。峰理子は肩肘張らずにいられるから楽だな。

 

「コーちんの物語ってどんなの?」

 

「あいにく俺は主人公(王子様)って配役(ガラ)じゃない」

 

「え~、自分だけ秘密はずるいよー!」

 

 ぷんぷんがおー入りました。

 

「ホントの事だ、さっきも言ったがこの年まで待たされたヤツが主役な訳がないだろ」

 

「でもハッピーエンドにするために待ってたんでしょ? 物語の開始を」

 

「まあな」

 

「仕方ない! コーちんと理子の仲だし特別に手を貸してあげてもいいよ!」

 

「それもいいが、大事な時に邪魔しないって約束してくれる方が嬉しいな」

 

「何それひっど~い」

 

 普段の(・・・)峰理子に戻った。

 頭のいいコイツならその時(・・・)になったら察して邪魔しないで(協力して)くれるだろう。

 

 


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