「スミマセン。私……」
---------------------------------------
オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)
:第24話<数ヶ月前:2号の追憶>
---------------------------------------
(提督暗殺事件の数ヶ月前……司令のログファイルより再構成)
美保鎮守府はシナを撃破した鎮守府として他の鎮守府や泊地ほかマスコミからも取材や視察が相次いでいる。対外的な窓口のタワーを青葉にしているが案内など実務はPR部隊の吹雪が担当している。以前は県外へ出て不在がちだった彼女も近頃では美保に居る時間が多い。
今も鎮守府内では時おりゾロゾロと視察団を従えて「はい!こちらが食堂です!」とか言っている。そのハツラツ振りを見ているとついブルネイの可愛そうな吹雪を連想してしまって涙が出そうになるから困るよな。
他にも小学校や幼稚園の見学まである。こっちの担当はなぜか天龍だ。よく分からないが龍田さんの勧めらしい。本人も最初は首を振っていたのにイザやらせてみると嬉々としているし意外と要領が良い。艦娘は見かけによらないな。
今も向こうの広場で保育士さんにまじって大きな声を出している。その雰囲気は『保育士天龍先生』だよな。ちょっと離れたところで龍田さんが笑っている。
天龍といえばブルネイで救出した大井の娘の面倒も良く見てくれる。繰り返すが艦娘は見かけに拠らないものだなと思う。
さて美保は艦娘が百名に満たないコンパクトな鎮守府であるが、それでも一部の例外を除いて人間と同じ食料を消費する。日々の食料の消費量も半端ではない。最近では戦艦などの大型艦娘も増えたため、以前よりも何割かは増加したようだ。
ただブルネイの一件があってからは本省や本部の印象もよくなったのか食料や燃料に関する予算は、こちらから上申する前に枠が拡大された。
一番喜んだのは事務の大淀さんかもしれない。ブルネイ遠征期間中の留守も彼女のお陰で備蓄が増えた上に美保での演習の回数まで増えて練度が増した。一番の功労者は彼女だろう。
そんなある日、事件は起きた。
大淀さんが青い顔をして報告に来た……この気弱な雰囲気は2号の方か。
「どうした」
彼女は震える手で、まず隣に居る秘書艦に報告書を提出した。しばらくジッと見て居た彼女は報告書を私に手渡しながら言った。
「食品倉庫の在庫が著しく合わないそうです」
「はぁ?」
私は報告書の数字を追いかける。確かに数個と言うレベルではない。2桁? 単なる数え間違えという次元ではないぞ。
「最初は在庫の数え間違えかと思い担当する駆逐艦娘を交代させてみたりしたのですが誰が数えても誤差が出ます。しかもなぜか一定量で……」
大淀さん2号はプルプル震えている。いや、そんなに怖がらなくても良いんだけど。祥高さんが声をかけた。
「大丈夫よ大淀さん。こうなってくると貴女の責任ではないわ。良く報告して下さったわね、有り難う」
その言葉に緊張の糸が切れたのか彼女は立ったまま顔を押さえて泣き出してしまった。うーむ、2号さんはドロップ組だから純粋だな。祥高さんはどこかに無線連絡をしてから立ち上がると大淀さん2号を抱き寄せてソファに座らせた。
「落ち着いて。今お茶を入れたから」
「……はい」
ソファに腰をかけながら祥高さんは振り返る。
「でも司令、どうなさいますか?」
「そうだな……」
そのときドアをノックする音がして鳳翔さんが入ってきた。あれ? その後ろになぜか赤城さんが二人。もしかして?
「お茶が入りました……あと赤城さんが司令にお話があると」
鳳翔さんが言うと赤城さんが2号の手を引いて入ってきた。その姿を見て私も祥高さんも何となく事情を悟った。赤城さんも私たちの顔を見てうなづく。
「食糧倉庫の在庫が最近、合わないと駆逐艦娘から伺いまして、もしやと思い良く聞いてみたら、この子が食べてしまっていたようです」
ああ、やっぱり。私も祥高さんもため息を付いた。大淀さん2号は呆気に取られたような顔をしている。鳳翔さんも退出する機会を失って困惑した表情だ。
「す、スミマセン。私……」
赤城さん2号もオリジナルよりは少し控えめな感じだよな。ただ大淀さん2号ほど弱々しく感じないのは、やはり一航戦のベースがあるからだろう。
赤城さんが言う。
「私からも謝罪します司令、本来は私がきっちりと躾(しつ)けるべきでした」
いや、犬じゃないんだからさ……。祥高さんが私に聞く。
「どうなさいますか? これだけ在庫が合わないと恐らく月次棚卸しの際、本省に報告書を提出する必要がありますし、原因……この場合は当事者である赤城さん2号の名前を出すことになります。そうなると……」
彼女はハッキリとはいわなかったが赤城さん2号や美保鎮守府が何らかの処分、あるいはペナルティを課せられる可能性が高い。
「そうだな……ただ、今回は2号も事情が分からなかっただけだからなあ」
思わず私は呟いた。そのとき大淀さん2号が口を開いた。
「司令……もしよろしければ時間はかかりますが、在庫調整を繰り返せば数ヶ月かけて帳尻を合わせることも可能かと思います」
意外な提案。
「それは……出来るのか?」
大淀さん2号は明るい表情でうなづく。
「原因もハッキリしていますし、もし司令のお許しがあれば……」
私は祥高さんを見た。彼女もうなづいている。今度は赤城さんたちを見た。2号は泣き出しそうだが赤城さんはため息混じりに言った。
「この子の気持ちも分からなくはありませんし……司令が宜しければ」
決まりだな。私は言った。
「分かった。この件については私の責任で処理しよう。本省には普通に報告し、実務での細かい帳尻合わせは大淀さん2号にお願いする。赤城さんにも指導のほう、よろしく頼む」
大淀さん2号と赤城さんはうなづいた。そのとき鳳翔さんが手を上げて言った。
「あの……もし宜しければ私のほうでも『指導』を兼ねて赤城さん2号に厨房とか庶務を手伝っていただければ」
これには一同、笑った。そう言った鳳翔さん自身、真っ赤な顔をしている。でも一気に場が和んだ。
「そうだな……そうしてもらおうか。休息時間が多少削れるが」
私が赤城さん2号を見ると彼女は敬礼をした。
「はい! 一生懸命、頑張ります!」
その挨拶の雰囲気は、ややたどたどしいながらも赤城さんそのものだった。
敬礼を直ると赤城さんと2号は手を取り合って喜んでいる。その2号の笑顔はとても印象的だった。赤城さん2号が振り返る。
「司令……私、何も分かりませんが粉骨砕身、全力で頑張りますっ!」
オリジナルの赤城さんとは違う、ちょっと初々しい笑顔に正直ドキッとしてしまった。こういう瞬間が時々あると艦娘って不思議な存在だなと感じる。
私も指揮官としては十分ではないが、この美保も徐々に良い鎮守府になってきたんだな……そう思わずにはいられなかった。
その後の赤城さん2号は演習の合間には庶務の手伝いも一生懸命頑張った。やがて彼女は美保鎮守府の主軸空母の補佐として、きっちり成長していった。
だが赤城さん2号はその後、美保鎮守府の初陣となる北太平洋前線海域への出撃に赤城さんと出陣。運命の『あの日』を迎えることになるのだった。
だからだろうか? この時の赤城さん2号の笑顔が未だに忘れられないのだ。それはきっと彼女自身にとっても思い出の一日となっていたに違いないだろう。私はそう信じる。
ブラック鎮守府と言われる拠点も結局は、ただ艦娘をこき使う以上に彼女たちの純粋な気持ちを踏みにじる行為がまさに『ブラック』なのではないか?
もっともそれは我々人間社会においても同様であるとも言える。
人間だって小さな存在だが、それ以上に小さいかも知れない艦娘たち。それでいて我々と同様の感情を持つ。それが人間と比べてどうなのか?
まだまだ分からない事だらけだ。
ただ艦娘を通して実は我々人間も成長出来るのではないか? いや……考えすぎか?
司令のログファイル:終わり。
--------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------------
PS:「みほ9ん」とは
「美保鎮守府:第九部」の略称です。