「……ああ私って本当は」
------------------------------------------
オトナ「艦これ」「提督暗殺」(みほ9ん)
:第5話<数日前:面接3>
------------------------------------------
しばらくの沈黙のあと、大井は口を開いた。
「参謀って新人で何も分からないから、私にもあれこれ押し付けてくるんだなって……それは分かっていたの。だけどやっぱり、すごく嫌だったの」
ああ、心が痛いと提督は思った。しかし秘書艦の祥高は表情をあまり変えずに大井の話を聞いている。
大井は淡々と続ける。
「だからあたし何度も思ったわ……北上さんみたいに自然に参謀と接することが出来たらどんなに楽だろうって。でも分からない。参謀の前に立つだけで怒りに似た嫌な気持ちが湧き上がって来るの」
ここまで話すと彼女はテーブルの珈琲をすすった。しばしの静寂。時おり美保湾から演習の砲声が聞こえてくる。
やがて彼女は続ける。
「でも……なぜだろう。司令とは私が舞鶴で沈んだ後も何度かお会いした気がします」
大井は改めて、提督を見詰めた。彼は答えた。
「ああ、私もそんな気がするな……」
彼は何度か見た悪夢や幻での大井(仮)のことを思い出した。しかし祥高の手前、それらの話はしなかった。何となく秘書艦もそのことには気づいている感じもするのだったが……それでも特に彼女からの突っ込みは無かった。大井は続ける。
「記憶がおぼろげで良く分からないけど……私、この美保鎮守府にも何度か来たような気がするの。もし本当なら多分敵の姿で攻撃していたでしょうね……ゴメンナサイ、そうだったら謝罪します」
急に立ち上がって、二人に深々と頭を下げた彼女だった。提督と祥高は顔を見合わせた。なるほど深海棲艦になっているときの記憶はハッキリ残っていないのか。それに答えるように彼女は続けた。
「ううん、でも私の娘のこととか参謀……いえ、司令のことだけはハッキリと覚えているの。でも不思議とそれだけで……後のことは全然分からない。何でかな……」
彼女は立ち上がったまま窓の外を見詰めた。応接室からも時おり艦娘たちの艦載機が飛んでいるのが見える。大井は静かに続けた。
「でも、美保湾かどこかの海で北上さんに何かを言われた言葉は覚えているの……そこで私、初めて気付いたの」
その言葉を聞きながら提督は珈琲を口にした。ややうつむいて大井は呟くように言った。
「……ああ本当は私、司令のことが好きだったんだなって」
「ごほっ!」
提督が吹いた。
「大丈夫ですか!」
慌ててハンケチを取り出す祥高。
「だ、大丈夫だから」
提督は手を振る。しかし彼の内心は穏やかではなかった。いきなりここでそれを言うかな?
だが提督が自分のハンケチで珈琲を拭きながら正面を見ると意外にも大井は窓枠を背に振り向いて笑っていた。すべての重荷を解き放ったようにスッキリした彼女……逆光の窓辺で初めて見る大井の自然な笑顔に彼はドキッとした。
「うふ……ごめんなさい司令。でも今なら貴方のそういうドジなところも自然に受け入れられるの。舞鶴の頃だったら、ただ嫌悪感しかなかったわね」
「そうか……」
大井も変わったんだなと彼は思った。
だが彼女は再び寂しい表情になって窓の外を向いた。
「出来ればそのまま、ずっと沈まないで……艦娘のままで今の私になれていたら良かったのに……そうすれば北上さんや司令とだって……」
大井はそこで詰まって窓枠に手をかけてうなだれた。それを聞いた祥高はソファから立ち上がると大井の隣に立ち彼女の肩に手を置いた。
「誰しもがそう思うわ。だけど過去は変えられないの。今の貴女を形作っているのも、そういう全ての過去が積み上がって出来たものなのよ」
「はい……それは分かるんですけど」
うつむく大井の手を、祥高はやさしく包んだ。
「でも嬉しいわ。あなたの心の想いを話してくれて本当に有り難う。私はこの鎮守府では壁は作りたくない。何でも話し合える関係を作りたいの。艦娘同士、あるいは司令が嫌いだったらそれでも良いのよ」
秘書艦は少しかがんで、大井の顔を見詰めた。
「でもその想いも含めて、お互いに認め合える関係……皆が一つのファミリーでありたいと思っているの。私たちは家族なのよ」
大井は肩を震わせている。どうやら泣いているらしい。祥高は大井をソッと抱き寄せた。
「あなたの気持ちは分かるわ……私も以前、向こう側へ行ったことがあるから」
それを聞いた大井は一瞬、ビクッと反応した。でも大井を見詰める祥高の眼差しは母親のようだった。
「誰も貴方を責めないから安心して。いつまでも私たちは一緒よ」
再び大井は祥高にしがみ付くようにして泣き始めた。そんな彼女の背中を両手で抱き寄せながら祥高は続ける。
「私の方こそゴメンナサイね大井さん。あなたをブルネイで救出してから、まだ一度もキチンとお話していなかったわ……もっと早く、無理してでも時間を作るべきだった。これからは何か困ったいつでも良いから私に相談してね」
提督は黙って窓辺で抱き合う二人の艦娘を見詰めるだけだった。ただこれで大井の心が少しは解放されたことを信じるばかりだった。
だが改めて彼は、秘書艦のお陰でまた助けられたと思った。
艦娘たちは様々な過去を抱え、戦いながらも精神的には常に苦悩と葛藤の狭間に居るのだ。それは大井一人に限ったことではないだろう。青葉も言っていたように、あの強気の霞だって何か重い過去を引きずっているのだ。だからこそ無理に強がるのだろう。
いや普段から、あまり強く出てこない電チャンだって遠慮して何かを我慢しているかも知れない。だからこそ彼女たちの心の壁を突破して一つになって行くこと。それが指揮官の務めである。そんなことを思う提督だった。
そのためには仲間の兵士のために命を落とすくらいの覚悟は必要かもしれない。
「兵士とは死へ向けた行軍だ」
彼はかつての恩師ともいえる指揮官の言葉を思い出していた。
--------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------------
PS:「みほ9ん」とは
「美保鎮守府:第九部」の略称です。