血まみれの兵と汚いファンタジー   作:仕舞獅子舞

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借金まみれは銃を取る

以前、北海道には不死身と噂される伝説の部隊がいた。北海道独立戦争及び、栃木群馬間戦争において、圧倒的な武力とともに戦場を駆け回った、反面ジャックオーランタン(かぼちゃのおばけ)、反面髑髏の部隊証をつけた部隊。

 

戦場に現れる死神、戦場をさまよう亡霊。様々な呼ばれ方をしているが、彼らは実在していた部隊である。

 

だが栃木群馬戦争後、部隊は解散。構成員の中で戦争に 飢えたものは銃を取り、平和を望むもには実家に帰り、金がないもには職を探して道をさまよう。中には晴れて独立を果たした隣の国、台湾へと密入国を果たしたものもいる。

 

そんな中、チームの中心人物だった松倉は二人のチームメンバーとともに警備会社を立ち上げる。彼らの警備会社はやばい仕事を積極的にうけ、その名を業界へと轟かせたのであった。

 

 

 

 

だが、彼らが拠点にしていたのは、東京だった。

東京は日本の中でもトップクラスの大都市。だからこそそういう会社も多く、県内の他のチーム以外のことを気にしている余裕はなかった。

 

そう、隣の県、神奈川県で昔の仲間がチームを組んでいたことなど、知る由もなかった。

 

「松倉のやつ、どうしてるかな」

 

横浜にあるとある倉庫の中で、男はそう呟いた。顔の老け方から見るに四十代くらいだが、その体つきは二十代のそれに近く、日本酒を瓶からそのまま飲んでいるのに酔っていないのを見るに、かなり酒には強い方なのだろう。

彼がいる倉庫の中は、ソファやらテレビやらが持ち込まれていて、もはや倉庫というより家に近い物になっている。キッチンやシャワールーム、トイレまで完備されているのだから、倉庫であった面影は一切ない。

 

「ただいまー、加賀さん、今戻りました!」

 

両手に食材が大量に入ったスーパーの袋を持って、若い男が倉庫内へと入ってくる。倉庫の出入り口は1箇所だけで、シャッター1枚となっている。

加賀と呼ばれた、日本酒を飲んでいた男は、瓶を床に置いて手を振る。

 

「おう、おかえり、宮崎」

 

宮崎はレジの袋を持ったまま、倉庫の端にある台所へと向かう。

 

「宮崎、シャッター閉めてくれ。野良猫が入ってくるだろ」

「あっ、駒場さんからさっき連絡があって、すぐ来るそうですよ。あの人、鍵持ってないから……」

「なら仕方ないな。ったく、外出るなら鍵持ってけよ……野良猫が来ないようにガスでも撒くか」

「猫どころか僕らも危ないんでやめてくださいね」

 

袋から野菜や肉を取り出す宮崎。その様子を日本酒片手に見守る加賀。今日の夕飯はカレーになりそうだな、と加賀は呟く。

 

「そういえば、他の二人はどうしたんすか?」

「クソビッチは家で寝てるか、そこらへんの男と一発やってんだろ」

「うわぁ、本当にやってそうなんだよなぁ、あの人……加賀さん、まな板どこにしまいました?」

「下だよ。2段目。一昨日あたりに駒場さんが使ってた。……何の話してたか、そうだ、もう1人の話だな」

 

空になった日本酒の瓶を床に起き、ソファの上で横になる。

 

「あいつはきっと、家でいつものだろ」

「いつものっすか」

「今日の仕事に、あいつらは使えそうにないな」

 

加賀はおもむろに立ち上がり、台所へと向かう。ちょうどジャガイモを切っているところだった。

今から数時間後には銃を持ち、命のやり取りをするとは思えないほどの緊張感のなさ。その精神の図太さが、今まで生き残ってきた証でもある。

 

「そういえば、加賀さんとあの二人って、昔同じ部隊にいたんですよね」

「だいぶ前のことだよ。お前が銃を取る前、栃木群馬紛争の時の話さ」

「栃木群馬の時にはもう、撃ってましたよ」

 

たんたんとニンジンを切りながら訂正する宮崎。加賀は棚からカイエンペッパーを取り出し、コンロの横に置く。続いてお皿を三枚用意。

 

「今日一緒に仕事するのって、皆さんの元チームメンバーなんですよね。一体どんな人達なんすか?」

「頭が切れるリーダー、頭のネジが抜けた派手好き女、頭の出来が悪いポンコツ。おい、宮崎、カレールーの銘柄がいつもと違うやつじゃねぇか」

「実家で使ってたカレールーはこれだったんすけど」

「カレーにこだわりある奴がうるさくなるな。まぁいいか。スパイスぶっこんで味誤魔化すぞ」

 

鍋を取り出し、コンロの上に乗っけた加賀はたまたま冷蔵庫にあったコーラを持ってソファへと戻る。

昔の仲間と仕事をするのが、楽しみではあるけれど、今の仲間が全員揃わないのが少し寂しい。松倉達に誰一人として欠けていないことを、見せてやりたかった彼だったが、そればっかりは叶いそうもない。

 

ペットボトルのコーラを開け、口をつけようとした時に加賀のケータイが震える。

 

「加賀さん、電話っす」

「分かってるよ。こんな時間に電話かけてくんのは、山田さんか駒場さんだろ。……はい、もしもし」

 

ケータイの音量を上げ、台所でも聞こえるようにする。

 

『おっ、加賀か? 俺だよ、駒場だ』

「駒場さんか。どうしたんだ」

『いやぁ、ちょっと道に迷っちゃってさぁ。加賀のところの倉庫って、カーナビにも表示されないからさぁ。……住所入力? 住所教えてくれないのになに言ってんだよ。お前、さては酔ってるな? 頼むから誤射と被弾だけはしないでくれよ?』

「仕事はしっかりするさ。今から水飲みまくって酔いを冷ます。そういえば、駒場さん、飯はどうするつもりだ?」

『お前のところで食うつもりだったけど?』

「そんなこったろうと思ったよ。ご飯いつも通りでいいな」

『おっと、加賀、言い忘れてたが、お前が探してた借金地獄にはまってるガキ、見つかったぞ』

 

駒場のその一言に、切り終わった具材を鍋に入れていた宮崎が眉をしかめる。

 

「加賀さん、またガキを使うんですか?」

「俺らの仕事はVIPの暗殺が多いからな。殺せるガキの一人や二人、抱えといたところで損はしない。駒場さん。今そのガキは?」

『俺の車の中』

「今すぐ連れてきてくれ。すぐに使う。それじゃあ俺が迎えに行くんで、いつものコンビニで会いましょう。じゃあ」

 

そう言って通話を終わらせた彼は、立ち上がって床に落ちていたコートを羽織る。倉庫の裏に止めてあるハマーの鍵は、運転席に置きっ放しだ。

 

「加賀さん、後から入ってきた俺が言うのもなんなんすけど」

 

調理がひと段落した宮崎が、外へ出ようとしていた加賀に声を掛ける。

 

「未成年のガキを使うのは、ちょっと気が引けるっす」

「稼ぐためには仕方ねぇ。それに、こんな仕事に手出すようなやつだ。拾ってやんねぇと時間切れで処分される」

 

借金まみれの子供、特に女は銃を取るかまたを開くかのどちらかの選択肢を迫られる。そんな中、銃を取る方を選んだにもかかわらず、雇い主がいなくて臓器を売る羽目になる子供もおおい。

 

「借金まみれのガキに情抱いてんじゃねぇよ。それよりてめぇの心配でもしてろ」

 

どうせ数週間もたたずに死ぬんだ、と加賀は悲しそうに呟いた。数週間だろうと、仲間が死んで悲しまない人間はいない。とくにこの加賀という人間においては。

不死身と称される部隊にいて、死というものを何処か遠くに感じていた彼にとって、仲間が死ぬというのは自分が銃で撃たれることよりもつらい。

 

止めてあったハマーに乗り込み、エンジンをかけるとともに舌打ちする加賀。

 

「簡単に死なれたら、こっちが困るんだよ」

 

排気ガスを撒き散らし、男を乗せた車は夕方の街へと繰り出して行った。

 

 

 

 

 

「よぉ加賀、元気そうだな。って、酒クサッ! 飲酒運転か? 勘弁してくれよ」

 

十字路に位置するコンビニの駐車場に、その男は立っていた。黒いSUVの横でタバコを吸っている、グレーのスーツの男、駒場。体格はわりといかつく、スキンヘッドであるがためにとてつもなく目立つが、顔つきは穏やかなので体格とのミスマッチがどこか滑稽にも見える。

 

「駒場さん、生きてたか」

「おいおい加賀。そんな物騒なこと言うんじゃねぇよ。ここは平和の国、日本だぜ?」

「銃器の所持が合法になって、武器が生産、輸入できるようになった時点で、平和の国は終わったんだよ」

「確かにその通りだな、ハハハ。でなきゃこんなガキ見つかんねぇよ」

 

後部座席の扉を叩く駒場。きっとそこに未成年の借金持ちがいるのだろう。親の借金を背負わされ、返済するために銃を取るかまたを開くかの二択を迫られる未成年が、ここ数年で急激に増加した。借金持ちの子供は、駒場のような荒事に足を突っ込んでる人なら、誰でも雇うことができる。

 

「今回のガキは、どっちです?」

「今回のは女だよ。しかも処女だ」

「珍しいな。処女の一発目は高い額で売れるんだろ? 借金持ちの女なら、よろこんでまた開くと思ったんだが……」

 

未成年の処女が百万で売れたという話もあり、加賀は驚きを隠せない。

 

「純粋な恋を求めてんのか、おっさんにヒィヒィ言わされんのが嫌なのかは知らんが、そういうガキもいるってことさ」

「なるほどなぁ。で、そのガキ、見せてくれねぇか」

 

スモークが貼られ内部が見えないSUVの窓を叩く加賀。

駒場はタバコを地面に落とし、踏み潰して火をもみ消す。

 

「いま見せてやってもいいけど、せっかくなら宮崎がいるところで見せてやろうや」

「別に急いでないからいいが、どうしたんだ。そんなに渋って」

 

SUVの運転席を開け、乗り込みながら彼は答える。

 

「今回のはかなりいいんだ。だから期待してくれよ」

「ほう、そんないいのが見つかったのか。あのあんたが出し惜しみするほどのが」

「あぁ、正直に言ってここまでのが見つかるとは思ってなかった。山田のやつも羨ましがってたよ」

「あの人のことだ、未成年のガキとやりたいだけだろ?」

 

丸々と太った、荒事仲介業者の男を思い出しながら、少しだけ微笑む加賀。

 

「否定できないな。……おい、加賀。早く連れてってくれよ。お前のところのカレー、早く食べたいんだよ」

「了解した。それじゃあ、帰るか」

 

ハマーに乗り込み、エンジンをかける。

二台の車が、縦に連なって猛スピードで横浜の街を疾走する。警察は追ってこない。この時間帯、警察が見回りをする時間帯はとっくに超えていた。

 

「それにしてもメスガキか。久しぶりだな」

 

信号を無視し、平然と十字路を突っ切りながら加賀は呟く。

以前彼のチームにいた女子高生は、横浜で行った、麻薬密売船の物資強奪の際に至近距離でショットガンをくらい、助ける余地もなく絶命している。

少女は長生きしない。それが彼の経験に基づく結論。

下手すれば今夜の仕事の時に、流れ弾に当たって死ぬ可能性もある。

 

「宮崎とか部隊の連中と違うからなぁ」

 

実際に戦場を経験し、なおかつ生き残ってきた彼らと違い、借金持ちのガキは戦場を知らず、簡単に心が折れるアマちゃんばかり。ガキを殺す仕事をしただけで、再起不能になるやつもしばしばだ。

 

後続車にSUVをバックミラーで確認しながら、加賀は考える。

 

「駒場さんのことだから、処女くらい問答無用で売らせそうなのにな」

 

よっぽど本人が拒んだか、それとも駒場が処女を売らせる必要がないと判断したか。

 

「どのみち俺には関係ないことか」

 

余計なことに首を突っ込んで、無駄に恨みを買うのは愚か者のすることだ。そう判断した彼は、気分転換のために音楽を流す。

足元のスピーカーから流れ出すデスメタル。眉をしかめる加賀。クラクションを鳴らさなかったのは奇跡とも言える。

 

「あの野郎、俺が嫌いなこと知っててこんなCD入れやがったな。人の車のミュージックライブラリ弄るとか、勇気あんな、あいつ」

 

カーステレオの電源を落とし、車外に向かって唾を吐き捨てる。きっと家でにやけているであろうチームメンバーのことを思うと、無性に腹が立ってくる。

ロックやJポップを嫌う加賀にとって、クラッシック以外の音楽は吐き気を催すほどに最悪な物。そんな毒とも言えるものを好んでいる仲間がいるのだから、よく撃ち合いの喧嘩になることは言うまでもない。

 

「今度一緒に仕事する時、どさくさに紛れて一発撃ってやる」

 

不死身の部隊ジャックオーランタンとドクロの部隊証を持つ伝説の部隊には、固い絆や思いやりといったものはほぼ皆無だ。皆が皆、己の為に戦い、己の為に動く。加賀がそうであるように、他のメンバーもまた。

 

二台の車はすぐに倉庫へとたどり着いた。加賀は車を止めるなりSUVに近づき、その運転席の窓を叩く。

 

「駒場さん、早く倉庫に入ってくれ。シャッターを閉めたい」

「相変わらず心配性だなぁ、お前は」

「溜まり場の入り口を好んで開けとく奴なんていねぇよ。グレネードでも放り込まれたら溜まったもんじゃねぇ」

「経験者は語るってやつかい? ハハハ」

「いいからさっさと倉庫に入ってくれ。駒場さんのカレー、米無しにするぞ」

「おいやめろ。炭水化物なしでカレーとか、耐えられん」

 

急いでSUVの扉を蹴り開け外へと飛び出してくる彼に、冷たい視線を送る加賀。

その先は彼の顔から、後部座席の扉の方へと移る。

 

「未成年を下ろしてくれ、駒場さん。まだ飯食わせてないんだろ?」

「どうして分かったんだい?」

「あんたが食ってないなら、そのガキも食ってないんだろ? もし飯食うならあんたも一緒に食ってるはずさ」

「まぁ当然分かってるよな。お前は武闘派じゃないからなぁ」

 

運転席からおりてきた駒場はすぐさま扉をスライドさせ、後部座席に座る少女の姿を彼に見せる。

 

黒が基調となった制服に、青色のリボン。黒い髪は肩までの長さで、黒縁のメガネとあいまって大人しい少女というイメージを作り出している。

突然ドアを開けられた上に知らない人が立っていたせいか、少女は肩をびくりと震わせた。

 

「あっ、どうも……」

 

おどおどした少女から出てきたのはそんな言葉。思わずかがの口からため息が漏れる。

 

「始めましてだな。俺は加賀。駒場さんから何か聞いてるか? えっ、何も聞いてない?」

「はい……ただ、私を雇いたい人がいるとしか……それに、食事と寝るところも提供してくれるって」

 

なんだか保護欲が掻き立てられる声。銃を撃ち人を殺すとは思えない外見。年は高校生くらいなのだろう。それくらいがちょうどいい、と心の中でつぶやく加賀。

 

「衣食住は提供してやる。おっと、衣服は駒場さんのほうで用意してくれるんだろ?」

「もちろん。なにもかもお前に丸投げする訳にはいかないさ」

「そういうことだ。取りあえず飯は食わせてやる。アレルギーは?」

 

少女は首を横に振る。アレルギーがあっても同じ物を出すつもりだった彼は、適当に頷いて彼らを倉庫内へと案内する。

 

倉庫の中では、料理を終えた宮崎が半裸で腕立てをしていた。引き締まった筋肉は見事な物だが、男勢は顔を歪め、少女は顔を真っ赤にして目を背ける。

 

「そのグロテスクなバズーカをしまえ、宮崎」

 

なぜか下半身裸で腕立てをしていた彼は、すぐさま立ち上がり、満面の笑みで彼らを出迎える。

 

「おかえりっす、加賀さん。駒場さんもお久しぶりです」

「相変わらずいいもの持ってるね、宮崎君は」

「ありがとうございます。毎日筋トレしてますからね。そりゃあ自信もーー」

「筋肉の話じゃなくて肉棒の話だったんだけどね。とりあえず、宮崎君、何か履こうか。女の子もいるわけだからさ」

 

そう困ったように駒場が言うと、宮崎はその視線を後ろにいた少女の方へと移す。そのまま、彼はゆっくりと歩き出す。

 

「駒場さん、この子が今日からの仕事仲間ですか」

「うん、そうなんだけど……なぁ宮崎君。とりあえず下を」

「へぇ。ねぇ君、名前はなんて言うの? 苗字だけでもいいよ。一緒に仕事をする上でぇッ!?」

 

彼の言葉を断ち切ったのは、加賀が放った蹴り。ピンポイントで金的を狙った攻撃は、一発で大の男をノックアウトさせる。

 

「取りあえずなんか履け。なんでがん立ちなのかはこの際問わないが、そのブツを見せつけられんのは不愉快だ」

「かっ、加賀さん……つま先で、玉狙いって、本気じゃないっすか。痛い、クソ痛いっす。しかも、不意打ちって……気配消して後ろから、とか……」

「痛みを感じるのは重症じゃない証拠だ。飯にすんぞ。さっさとパンツ履け」

 

冷ややかな視線を浴びながら、宮崎は近くに脱ぎ散らかされていた衣服を拾い集める。靴を履いたまま蹴られたせいか、彼は痛みを必死に堪えているようだ。

ようやくリビングから汚らしいモノが消え、ようやく飯が食える環境になったと判断したのか、加賀は着ていたコートを脱ぎ捨て、台所へと向かう。あらかじめ用意されていた皿とは別に、新しい皿を一枚用意。そして量が均等になるように炊飯器から米をよそっていく。

 

「駒場さん、米の量は?」

「大盛りで頼むよ。今日はこれ以上働かないから、ガッツリ食ってガッツリ寝たいんだ」

「そういうことなら留守番お願いしますよ。ソファで寝てるだけでいいんで。宮崎は?」

「いつも通りで。……いや、少し少なめで。玉やられたんで、いま食いすぎたら吐きそう。」

「分かった。吐くならトイレで吐けよ。で、そこの……名前わかんねぇ」

「すっ、硯美緒です。書道で使うすずり、美しいに糸偏に者で美緒(みお)です」

 

硯美緒ねぇ、とつぶやく二人。駒場は飯にばかり気がいっているのか、ずっと加賀の方だけをみていてなんの反応も示さなかった。

 

「美緒ね。いい名前だね。美緒ちゃんって呼んでも?」

「宮崎。ナンパするのはいいが、それで仕事の質が落ちたら後ろから撃ち込むからな。それで、硯はどんくらい食うんだ?」

「えーっと、少なめでお願いします。これから、仕事するんですよね」

 

食べ過ぎで消化が間に合わず、体の動きが鈍るという話はそれなりに知られているが、加賀の周りの人間は皆たくましい胃袋をもっていたため、少なめがどれくらいかがわからなくなってしまっていた。動きが鈍らない程度というのはわかるが、一合炊いた飯もペロリとたいらげる宮崎が基準だと、いくら飯を持っても動きが鈍らないということになってしまう。

 

「わるい、硯。ちょっとこっち来て自分でよそってくれ。少ないがどれくらいかわからん」

「えっ、量の配分はお任せしまーーって、なんですかこれ!?」

 

文字通り山盛りにされた米は、テレビの大食い選手権で見かけるようなそれ。カレーをかけたら零れかねない量の白米は、見ているだけで吐き気がするほどだ。

一つだけ普通に盛り付けされた皿があったが、それでも米の量は多い。

 

「加賀さん、これは一体……」

「見てわかんないのか? 米だよ」

「それは分かってますよ! 私が聞いてるのはこの量ですよ。こんなに食べたら消化が間に合わないんじゃーー」

「あぁそんなことか。駒場さんはどうせもう動かねぇし、宮崎は怖いくらい燃費は悪いが消化はいい。自然とこのくらいの量になっちまうのさ」

 

そのせいで食費がやばいがな、と彼の口から愚痴がこぼれ落ちた。当の大食いたちはスプーンを握りしめ、メシマダァという謎の呪文を連呼している。

 

「そういうわけで、お前のいう少なめってのがわからないんだ。だから呼んだ」

「これは……感覚が狂いそうですね……」

「狂いそうってか、狂ったんだよ」

 

ため息をつき、米がもられた皿にカレーをよそっていく。カレーが少しだけ皿からはみ出たが、彼は気にしない。

そんな彼の様子をみながら、硯美緒は皿に飯をもっていく。

 

「そういえばお前は、どうしてこの仕事に手を出したんだ?」

「えっと、シャレにならないほどの借金背負っちゃって、親も逃げちゃって……身体売るのは、抵抗があるからできれば避けたいので……」

「それは内臓って意味か? それとも貞操の方か?」

「両方です」

大抵の借金は、処女を売り、内臓を全て売れば白紙に戻すことができるが、命までは保障されない。子供の、特に女子高生の場合は股を開き、残った債務の額がまともになったら内蔵を売り、なんとか返済するというのが王道だ。だが、人によってはそういう道を拒む物もいる。

 

「銃握ってもすぐに借金が返せるわけじゃないが、まぁせいぜい頑張れ。あっ、お前の皿のカレー、どんくらいよそったらいい?」

「えっと、加賀さんと同じくらいで」

 

山盛りにされた二枚の皿を加賀が持ち、他の二枚を硯が持つ。リビングの中央にある大きめのちゃぶ台を囲むようにして、四人が床に腰を下ろす。ちゃぶ台の上にはいつの間にか福神漬けや麦茶などが並べられていた。

 

「じゃあ飯食う前にお祈りでもするか」

「えっ皆さんキリスト教徒なんですか?」

「違うよ」

 

満面の笑みを浮かべる宮崎。駒場と加賀は目を瞑り、早くもお祈りの大勢に入る。

 

「僕らのはお祈りというより宣言みたいなものなんだ。仕事の前に飯を食う時は、毎回やってるんだよ」

「おい宮崎。さっさとやれ」

「せっかちだなぁ、加賀さんは」

 

目を瞑り、胸の前で手を合わせる宮崎の真似をし、硯も目を瞑る。

 

「我らが父よ。このクソッタレな人生を僕たちに押し付けたことを、心の底から恨みます。いつかその脳天に弾丸撃ち込むので、頭洗っといてください。ファッキュー」

 

縁起でもないお祈りが終わると同時に、男たちはカレーに食らいつく。ただただ神を罵倒したお祈りもどきに、硯は某然とするも、周りが食事を始めるのをみて、遠慮気味に飯を口に運ぶ。

 

「こんなことして、罰が当たりますよ……」

「元はといえば、ここにいない二人のチームメンバーが始めたんだが、それ以来被弾率が一気に下がってな。それから景気付けがわりにやることにしたのさ」

「他のチームメンバーって、どんな人なんですか、加賀さん」

「クソビッチとサノバビッチだ」

「加賀ぁ、それじゃ紹介になってないぞぉ。硯さん、いまいないけど、1人は女性でね。地味なことが好きな変態。もう1人は銃握ると人が変わる、ストレスまみれのおっさんだよ」

 

あまりにもざっくりし過ぎていて、彼女の疑問は後から後から湧いてくる。しかし周りが一心不乱にカレーをかきこむのを見ると、なんだか水を差してはいけない気がして、喉元まででかかっていた質問を飲み込むことにした。

 

「そういえば、加賀。非合法で高く稼げる仕事が見つかったんだが、どうだい。受けてみないかい?」

「悪いな駒場さん。まずは目先の仕事を片付けてからだ」

 

加賀は一足先に食事を済ませると、倉庫の隅にある小さな部屋の方へと向かった。

倉庫には幾つか、簡易的な板で仕切られた部屋があり、加賀が入った部屋の隣には、現代人注意と書かれた謎の看板がぶら下がっている。

 

加賀の次に飯を終えたのは硯美緒だった。早く食べ終わったからといって、彼女にはやることがなかった。初めて連れて来られた場所だ、やることを見つける方が難しい。とりあえず台所で食器を洗おうと考えたが、加賀がまだ食器を下げてないのを見ると、これからまた何かもられるかもしれない。

辺りをキョロキョロしていると、食事を終えた宮崎がおもむろに立ち上がる。

 

「硯さん、銃の扱いは? できないことだけ言って」

「えっと、狙撃はできません。RPGは実射はしてませんけど、触ったことは。それ以外のことは一通り」

「ふーん、じゃあこないだパクってきたAKでいいか。硯さんついてきて。君に銃を渡すよ。本当は加賀さんのを借りたいんだけど、あの人ケチだから」

「宮崎くん、次の仕事場所的に考えて、AKじゃなくてP226の方がいいよ」

 

驚異的な速度でカレーを食べ終えた駒場が、『ぶきこ』と書かれた扉の奥へと姿を消した宮崎に声を掛ける。

 

「えっ、P226はもうあまりないっすよ。加賀さん、そっちにあります?」

「ここは俺の作業場だぞ。そんなもん置いてあるわけないだろ」

「でも加賀さんの銃とか全部そっちにありますよね」

「俺はP226なんて買った覚えねぇよ。……あぁ、こないだのやつが持ってたのあったろ、あれのことじゃねぇか?」

 

扉越しに男二人が話す。どちらもリビングからは顔が見えないため、駒場と硯は話にわりいるタイミングをつかみづらい。

 

「でもあれ貸すの、気が引けますね。悪いものがついてそうで」

「じゃあグロックでいいだろ。予備が2丁あったはずだ。駒場さんはP226って言ってたが、ようはハンドガン持たせろってことだろ」

「そういうことさ! バカ撃ちされたら経費がとんでもないことになるってのもあるからね。そんなに火力がいらない相手なら、拳銃で十分でしょ! はははは!」

 

豪快に笑う駒場。何が面白いのか硯には理解できていないが、なんだか楽しそうだと言うことは知れた。それと同時に、自分がバカにされているということも分かった。

この仕事に着くために、ほぼ毎日銃に触り、己の技術を高めてきたのにそれを見もせずにバカにされる。子供だからとバカにされているようで、硯は無性に腹が立った。

 

ぶきこと書かれた部屋から宮崎が出てくる。その手に握られているのはレッグホルスターとそこに挿しっぱなしになっている、ハンドガン。

 

「安心と信頼のグロック19だよ、美緒ちゃん。弾は9・19。加賀さんの昔のお仲間が良心でカスタムしてくれたらしくて、金属製のフレームが使われてるけど、気にしないで」

「それって、グロックの特徴が……」

「わざわざパーツ買うのもめんどくさくて、プラスチックフレームを買いなおす気にならないんだって。それに、僕らは使わないし」

 

そう言う彼のベルトにはガバメントが刺さっている。その肩からぶら下がるAKを見ると、渡されたグロックでは少し心細くなる硯。

 

「そうそう、言い忘れてた。間違ってもマガジン捨てないでね。マガジンだって高いからね。予備のマガジンと弾もちゃんと渡すけど、絶対に無駄撃ちしないでね」

 

そう口早に告げた宮崎は再び扉の中に姿を消す。それと入れ替わるようにして出てきたのが加賀。

肩からぶら下がっているスリングについているのは、大型のサプレッサーがついたM4カービン。そして背中にはパンパンに膨れ上がったバックパック。

彼は硯の手の中に収まっているレッグホルスターを見ると、ため息を一つ。

 

「駒場さん、硯にレッグホルスターつけてやってくれ。初めてじゃ慣れないはずだ。それと、車借ります」

 

了解、と大げさに敬礼する駒場を横目に、彼は倉庫のシャッターを開け、外へと出て行った。

 

「加賀さん、なんか楽しそう……」

 

そんな硯の呟きは、誰に聞かれることもなく消えて行った。




こんにちは、仕舞獅子舞です。
一話目は日常のシーンとオリ主登場で終わってしまいましたが、次回からは原作キャラ、および名前すら出てこなかったキャラが続々と出てきます。そして原作並にヤヴァイネタを入れていこうと思っているので、楽しみにしていてください。
最後に、私は銃に関しては思いっきり素人です。作中での描写にミスがある可能性が高いので、ここ間違ってるぞ、ここはこうした方がリアルだぞ、という意見は大歓迎です。

原作を知らない人でも楽しい二次創作を目指して、頑張らせていただきます!
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