洞窟、それはおどろおどろしい気配と冒険の匂いに満ちた天然の迷宮、しかし、俺が今立っている場からは浪漫のカケラも感じられず、ただ其処に残る血痕や形容しがたい人間性の否定の跡はひたすらに吐き気を催す物ばかりだった。
「ヒドイものだな…まるで獣じゃ無いか。」
俺がポツリと呟くとそれを聞いたセラーナさんはその美しい顔を歪めて酷く落ち込んだように見えた。
「ああ、すまない。」
「いえ、良いんですの。同族である私も気分がいいとは言えませんから。」
【まぁまぁ、久しぶりだからってシリアスムードなのはいいですが今は生き残りの人々やこの惨状を引き起こした犯人の成敗をしに来たんです。入り口で立ち止まっていても仕方ないですよ?】
・・・まあ、そうなんだがね?と言うか久しぶりだからってってなんだよ、アレだぞ!ちょっとセーブして何ヶ月か神ホを使って某型月系ソシャゲとか、や、やってねえし(震え)
「生体反応多数…不死系反応も多数、おそらく生体反応は住人らでしょうが吸血鬼特有の魔法で操られている可能性が大きいです。あと主人殿?課金は控えるのですよ?」
「ああ、無課金は俺の誇りだぜ?」
まあ、ぶっちゃけると人死にもなれきってしまい、てか俺自身がしにまくってたし慣れる他無かったし、現状味方がリーシャ以外全員人外だ。故に死体程度では感傷的な気分になるのが最高でそれ以上の感情といえば魂の安寧を祈るのみである。
この世界に染まっているといえばそうなのだが、まあ致し方ない。
「う、ぐえ…」
あまりの酷さに耐え切れなかったのか、それとも彼自身の経験の中でこう言ったことがなかったのか、地面に向かい吐瀉物を撒き散らす田中、それを咎める者は誰もいなかった。
ちなみに結構なスプラッタ状態である。田中氏の名誉の為に言っておくが酷い有様だ。まだ乾ききっていない肉と血そして臓物の異様な臭気と何処を取っても正常な形を残していない正に肉塊と言う無残な有様を見て動じない方がどうかしている。俺は彼等の冥福を祈り死者を送り出す為の鎮魂の意を込めて火炎の魔法を発動、できるだけ火力を上げる為にと工夫して出来た青白い炎は全てを灰へ変え、灰はソブンガルデとはいかなくともどこか天上にある安息の地へと向かっていくようにさらさらと飛んで行った。
「大丈夫か?田中氏。」
祈りを捧げ死者を送り出した俺は田中氏に声をかける。他の皆は動きたそうにしているが恐らくこの少人数でで行けばとり逃がす場合もあるだろうとリーシャとアウラは魔法による閉鎖と中の空間の再確認、セラーナは意外と言うか人間らしいと言うか死者に祈りを捧げ、かく言う俺も中の吸血鬼を一匹残らず駆逐する為にこっそりとマグナスファ◯ネルを飛ばしていた。
少なくとも誰もが冷静を装い、そして静かな怒りを抱いていた。中の生体反応は動きもないが生命力の減衰も無く非常に安定していた。それを確認したからこそ全ての元凶を粉砕しようと工夫を凝らし、怒りを燃やし、田中の再起を待っている。少なくとも純粋な人間は彼しかいないのだから。俺やエルフであるリーシャ以上にこの惨状を、これを作り出した相手を、何よりもきっと…
「なんで!なんで俺はいつもこうなんだ!村が無くなった時も!今だって!あああぁぁぁ!」
「落ち着け、田中、お前は悪く無い、力があっても、時が戻せても、守れない物は、壊れてしまう物はあるんだよ。だから今は冷静に、嘆くのでは無く怒るんだ。」
「・・・!っ!」
田中氏はまだ若い、高校生くらいだろう、それにここにきてそこまで経っていない様だし、人死に関わったのも数回なのだろう。しかしながら俺は今も涙は流すものの先ほどや昨日よりもずっと強く磨かれた彼の眼光はやはり若さとそして純粋にまだ人間らしい事の象徴なのだと俺は思うよ。
「行くか。」
「ええ!ちょっと私も冷静で入られそうもありません!」
【斬殺の用意は良いの?と言うか今回はちゃんと私の刀使ってくれるんでしょうね!】
「私も気分が良くありませんのよ。」
「やりましょう。確実に。」
隠密を全開で、更に巧妙な偽装魔法を幾重にも、恨みはないが怒りはあるぞ?俺たちは気づかれぬ様にしかし迅速に内部へ侵入した。
内部には洞窟の中だというのに立派な砦が建造されていた。マグナスファ◯ネルからの情報によると敵は大体一個大隊程度、空間の広さは正統なドラゴンがゆったりと過ごして余りある様な巨大さだ。特筆すべきは僧侶の様な男がなにがしかの装置に閉じ込められている点、そして警備が面白いほどにザル、トドメに人間は全て同じ部屋に閉じ込められている上思考と行動の自由を完全に奪われ・・・ッチ!在ろう事か手を出してる奴も居やがるな。
「さて、作戦は簡単で、かつ最も過激なものだ。」
「そうですね!それが良いです!」
俺の声に賛同するリーシャ、それ以外の皆も基本人間やめてる系なので同格以下を倒す時連携は取るだけ無駄だ。
【「「「正面から一人残さず叩き潰す!」」」】
「セラーナさん、彼らは彼らでやってもらいましょ?ね?」
「そうですわね…」
若干引かれて悲しみにくれる俺氏!だが作戦は決定した!さあ行くぜ?闇に紛れて襲うのがお前らの特権だとは思わない事だな。
「行動開始!リミッター解除!ファ◯ネル完全制御モード、鋸刀!行くか。」
【フハハは!久々の我が刀は血に飢えておるわ!】
もちろん、敵を倒すなら塵も残さず徹底的にだ!是非もないよネ!
洞窟の奥地、任務を終え大量の奴隷を得た上目的の物も手中に収めようとしている彼らの最後はあまりに呆気なく、そして一方的だった。
「誰だ!…あ!?」
認識する前に斬り刻まれ
「囲め!この下等種族を殺せ!」
数で囲み押しつぶそうとも
「・・・」
男が刀を一振りすれば不死を突き破って殺し尽くした。
「あ、アレはなんですの!?」
不死身というのはなかなか死なないものだ。それこそ外傷では全く死ぬ気配を見せることはない、普通ならば、という前置詞がつくが。
「たかが不死身程度で図に乗んなよ?ヴァカが!」
肉体的に不滅であるドラゴンを魂を刈り取ることで殺すドラゴンボーン、しかし彼がその力を十全に使うことを試していない訳もない、魂の吸収、それをする前段階の魂を肉体から引き剥がすという部分、それを応用した物がこの不死狩りの斬撃だ。触れる物を切り裂く事はもちろんその肉体と魂を分離しそれを切り刻む、仮に肉体が元に戻ったとしても魂を直接斬り刻まれた生物は死ぬしか無い。
「そもそも死んでも構わないとか舐めすぎなんだよ!」
死を終着点としないケールムにとってそれは自戒でもある。そして同時にこの技はそもそも自分を殺すために作ったのだ。この世に抜け殻の様な残骸を残す事なく逝ける様に、と。
「フン!」
しかして彼は終わる気はさらさらなくて、使えるものは使う主義なので、格下だろうがなんだろうが一切合切を切り刻むその姿はまさにデイドラを一つ消し、世界を救うだけの気迫があった。