勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第12話

 三雲修は近界民(ネイバー)と接触している可能性が極めて高い。

 そう判断した三輪は、監視をしつつ三雲修について調べていた。

 

 

 家族構成は父と母で、兄弟姉妹は無し。彼の両親も近界民(ネイバー)と関係のある仕事や接触している証拠は見つからなかったことから、三雲本人が関わりあると断定。

 友人関係を調べるも、元々自己主張する性格ではないためか深い関係にある人間は居ない。ただ、先日のラッド騒動の際に、彼が行った救助活動によって変わりつつある。結果、人間関係から近界民(ネイバー)を洗い出すことは難しい。

 私生活からは証拠を見つけることができなかったものの、ボーダー隊員としても三雲修という存在は酷くチグハグであった。

 彼の成績を見るも、そこにあった記録は平均以下であり、とても訓練用トリガーを使用して戦闘用トリオン兵モールモッドを撃破したとは思えないものであった。入隊時に行われた対近界民(ネイバー)仮想訓練では、制限時間の五分以内に倒せず失格となっている。

 このことから彼自身には大した実力は無い可能性がある。または、実力を隠し、何らかの目的のために今のいままで訓練生として己を隠していた。三雲修が最上秀一と同じ時期に入隊していたことを踏まえると、彼を隠れ蓑にしたことも考えられる。

 また、玉狛支部所属のS級隊員、迅悠一が彼を庇っている節があり、近界民(ネイバー)友好派の動きには注意する必要がある。

 

「……やはり、直接現場を抑える必要があるな」

 

 調べれば調べるほど不自然な点は見つかる。

 だが、それだけだ。

 これらを証拠に取り押さえようにも、向こうが白を切れば三輪に修を捕らえる権限は無い。

 三輪は先に修を尾行している米屋の元に向かおうとするが……。

 

「よう、秀次。どこに行くんだ?」

「……迅……さん」

 

 それを邪魔するように迅が現れ、三輪は思わず声に力が入る。

 以前、ラッド騒動がまだ起きていた際、三輪は修を尾行()けていたが、その時も彼によって邪魔されてしまった。

 恐らく未来視のサイドエフェクトを使って三輪の行動を読んでいるのだろう。

 

「ふん、なるほど……裏切り者のあんたのことだ。三雲もお前と共犯(グル)で、何か企んでいるわけだ」

「おいおい。確かにおれは暗躍が趣味のエリートだけど、あのメガネくんに関しては少し違うぞ。ただ、お前がこのままメガネくんを追いかけても、面白くないことが起きるだけだ」

「面白くない……か。貴様はそうやって未来を見て笑っていれば良い」

「いやいや……おれにそんな悪趣味は無いよ……」

「ふん……悪趣味、か……。あいつの……最上の未来を見たお前がそれを言うか?」

「――」

「……俺は、あの時のことを忘れない。

 そのことを良く覚えておくんだな――迅さん(・・・・)

 

 それだけ言うと、三輪はその場を立ち去った。

 一方、迅は遠ざかる三輪の背中を見ながらため息を一つ。

 

「……おれだって、本当は――」

 

 しかし、それ以上の言葉を迅は言わなかった。

 言うべきではないし、言ってはならないことだからだ。特に、未来視のサイドエフェクトを持っている迅は……。

 彼は三輪と同様にその場を去ると、目的の場――弓手町へと向かった。

 そこに一つの分岐点があるのだから。

 

 

 

 

 米屋と合流した三輪は、修にバレないように後を尾行けていた。他の二人――三輪隊の狙撃手である奈良坂と古寺はバッグワームを起動させて射撃ポイントを移動しつつ、彼らに続いていた。

 

 米屋と合流して三十分。ようやく修に動きがあった。

 

「この方向は……弓手町か」

「らしいな。それにしても、やっとかー。尾行なんて暇すぎて肩が凝るぜ。

 なあなあ秀次。最初の五分だけでも良いからさ、一対一(サシ)で戦らせてくれよ?」

「バカを言うな。大型を一撃で仕留める奴だぞ」

「そんなの当たんないって――あれ? おい、秀次、あれって……」

 

 などと雑談をしていた二人だったが、突如米屋が進行方向先を指差す。三輪は怪訝に思いながらもそちらへと向くと――そこには最上秀一の姿があった。

 何故あいつが此処に?

 鞄を持っていることから、市外に行くことは分かる。

 しかし、何故三門市に――修の向かう先に奴が居た?

 この時、三輪は迅の言葉が頭に浮かぶ。

 

 ――面白くないことになるぞ。

 

 飄々とした態度で告げられたその言葉を、三輪は信じる気は無い。

 ただ、目の前の彼が無関係であると断じるには――最上は修との接点があり過ぎた。

 近界民(ネイバー)を匿っている可能性のある修。

 近界民(ネイバー)を憎んでいるであろう秀一。

 あの二人は、同時期に入隊し、同じ中学校に通っている。

 嫌な予感がする。

 それらを抑えつつ、三輪は最上に話しかけた。

 

「何故お前が此処に居る、最上」

 

 動揺を隠すために放たれた彼の言葉は、有無を言わさない鋭さがあった。

 隣に居た米屋が思わず三輪を見るほどで、それは目の前の最上も同様だったのだろうか。彼の言葉はいつもよりも主張の弱い、いささか覇気の欠けた物であった。

 しかしその答えは三輪の知りたいものではなく、彼は思わずいつものように最上の頭を掴んだ。

 三輪が聞いたのは、何故最上が弓手町――というよりも、修の向かった先に彼が居たのか、ということ。

 それを知りたい三輪の思考は、次に放たれた最上の言葉によって止まった。

 

 ――最上は、友の頼みで此処に来ていただけであった。

 

 それを聞いた米屋は割と酷い驚き方をしているが無理も無い。

 彼は近界民(ネイバー)を殺すために人の感情を捨てた、と言われるほど他者との関わり合いが少ない。以前のチーム戦以降彼を誘う部隊はぼちぼち居るが、それでも彼は独りであり続ける。

 そんな最上から友人という言葉が出てきたのだ。通信で聞いていた狙撃手二人も唖然としており、オペレーターである月見蓮など記録(ログ)を何度も確認して、機器の故障ではないのか確認している。

 しかし、すぐさま復活した三輪は最上に尋ねた。

 

 その友人とは三雲修ではないのか? と。

 

 もしそうなら、これほど残酷なことはない。

 最上が友だと思っている人間は、実は近界民(ネイバー)を匿って何か企んでいることになる。

 

(それが事実なら、俺は――)

 

 冷静では居られないであろう。

 しかし、三輪の浮かび上がった考えは杞憂だったようで、本人から違うとしっかりと否定された。

 

「――そうか」

 

 そのことにホッと安堵しつつ、三輪は最上の話に耳を傾けた。

 その友の名は『空閑遊真』と言い、隣の部屋に引っ越して来た同い年の少年らしい。

 最上はその少年と先ほどまで遊んでいたが、電車の時間が来たためにこうして急いで駅に向かっているとのこと。

 そこまで言うと最上は一言「失礼します」と言うと、駅に向かって立ち去って行った。

 二人はそんな彼を見送ると、再び修の尾行を開始するべく歩き出した。

 しかし、米屋の浮かべる表情は先ほどの強敵と戦う前の戦士の顔ではなく、一歩前へ進んだ弟分の成長を喜ぶ兄のような顔であった。

 

「……嬉しそうだったな」

「ああ」

「……良かったな」

「ああ」

「……もし、そのクガって奴がボーダーに入ってくれたら、あいつ喜ぶかな?」

「――さあな。ただ……」

「ん?」

「もう勧誘に悩むことも無くなるのかもしれないな」

「――だろうな」

 

 米屋と同じ表情を浮かべた三輪の言葉に、彼はニカッと笑って同意した。

 彼らの足取りは先ほどよりも軽く――だからこそ、気付かなかった。

 空閑遊真が三門市に引っ越して来た人間だと。

 空閑遊真が最上と同じ学校に転校して来たことを。

 空閑遊真が――修と同じクラスであることを。

 

 彼らがそのことに気付かされるのは――驚くほど早かった。

 

 

 

 

「動くな、ボーダーだ」

 

 やはり自分の予想は正しかった。

 

 炊飯器のような物体を視界に収めつつ、三輪は修と共に居る二人の人間を見る。

 どちらも背の低い少年少女だが、油断する気は彼らには無かった。

 本部に言葉少なく報告すると、三輪と米屋はトリガーを起動させてトリオン体へと換装する。

 米屋は槍型の弧月を、三輪は拳銃型のトリガーを手にゆっくりと距離を詰める。

 

「さて、近界民(ネイバー)はどいつだ?」

「今、そのトリガーを使っていたのはそこの女だ」

「うっわマジかー。初の人型が女かよ」

「油断するなよ。姿形が俺たちに似ていても、近界民(ネイバー)は人類の敵だ」

 

 三輪の殺気が含まれた視線が少女へと向くと、米屋も削がれたヤル気を戻しつつ槍を構える。

 

「違っ――この子はっ」

「ちがうちがう。近界民(ネイバー)はおれだよ」

 

 しかし、そんな彼らを止める者がいた。

 白髪の少年は臆することなく二人の前に立ち、近界民(ネイバー)は己だと言う。

 それを受けて三輪の殺気は少年へと向く。

 

「……その言葉に偽りは無いな?」

「本当だよ」

 

 ――三輪の殺気が膨れ上がった。

 彼はすぐさまトリガーを目の前の近界民(ネイバー)に向けると、全力で発砲した。

 それを見た修は青ざめ――叫んだ。

 

「何しているんですか!?」

近界民(ネイバー)と名乗った以上、そいつは我々ボーダーの敵だ」

「――おいおい、おれが一般人だったらどうするんだよ」

 

 しかし、修の心配は杞憂だった。

 三輪の放ったアステロイドは盾によって防がれており、彼本人にダメージは無い。

 ほぼ至近距離で防いだその手腕に米屋は驚き、三輪は苛立つ。

 

 

 

 

 

「――空閑!」

 

 ――それも、次に修の放った言葉で吹き飛ぶことになるが。

 

「――何だと」

「!?」

 

 無事だった白髪の少年――空閑遊真に安堵していた修は、すぐ近くで沸き起こった殺気と……それを遥かに上回る怒気の含んだ声に振り返り――思わず息を飲んだ。

 

「――近界民(ネイバー)。お前にいくつか聞きたいことがある」

「……なに?」

 

 三輪の眼には既に修は映っておらず、そこにあるのは目の前の近界民(ネイバー)であり、彼の憎むべき存在であり――先ほど弟分が言っていた友と同じ名を持つ少年。

 遊真も、目の前の男の変化に警戒してか、すぐに立ち上がりトリガーを起動させる。

 

「……お前の名は空閑(クガ)遊真(ユウマ)か?」

「そうだよ、良く知っているね」

「……数十分前まで、最上秀一と会っていたか?」

「うん。ジテンシャの乗り方を教えてもらってた」

「……最後の質問だ。

 ――あいつに、近界民(ネイバー)であることを話したか?」

「――いや、言ってないよ」

「――そうか」

 

 ――来る!

 

 遊真が後ろに向かって跳ぶのと、三輪が振り抜いた弧月で斬り付けるのは同時だった。

 首を狙った剣筋は遊真にとっては見えやすく、避けることは造作も無い。

 修は、再び襲われ始めた遊真の心配をするが、そんな彼に対して三輪の冷たい声が飛ぶ。

 

「空閑!」

「他人の心配をしている場合か三雲。近界民(ネイバー)を匿っていたお前が、今後ボーダーに……いや、三門市に居られると思うなよ」

 

 修は、その言葉に絶句した。

 最上の存在により、近界民(ネイバー)を憎む人間のことを多少は理解していた修だったが――それを改める必要がある。

 

「空閑遊真。お前は今此処で確実に始末する」

「……できるなら、やっても良いけど。

 でも良いの? シュウイチには何て言うの?」

「――簡単なことだ。あいつには近界民(ネイバー)が怖くなって引っ越したと言えば良い」

「――つまんない嘘つくね」

「――それを貴様が言うか、近界民(ネイバー)ァアアアアアアアア!!」

 

 怒りと共に振るわれた刃を避けながら、遊真は心の中で毒づいた。

 

 ――そんなこと、おれが一番分かっているよ。

 

 百戦錬磨の遊真は思う。

 この戦い……今まで以上にやり辛い、と。

 




この後は原作と同じように三輪さんは緊急脱出しました
怒りで我を忘れた相手に、遊真は負けません。

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