勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第14話

 イレギュラーゲート門騒動の際に、彼の通う学校はモールモッドのブレードで所々破壊されてしまった。その結果学校側は休校することにした。

 彼はその間にシフトを増やし、給料を稼ごうと画策していた。先日実家に帰った時に、ふと彼の祖父の誕生日が近づいていることに気が付いたからだ。幸い今の彼にはたくさんの金を稼ぐ手段がある。今年の誕生日はあっと驚かせようと考えたのだ。

 

 彼は時計を見て、そろそろ防衛任務の時間だと確認すると部屋を出る。すると偶然にも隣の扉も開き、隣人の空閑遊真が出てきた。遊真はここ最近早い時間に外出するので、彼と顔を合わせる時間が減っていた。

 そのことに若干寂しさを覚えていた彼は、遊真に挨拶をする。

 

「……おう、おはよう。今日も防衛任務か?」

 

 彼はその問いに返して頷いて答える。

 彼は遊真に対しては緊張もせず、リラックスして応対できるようになって来た。以前三輪に対して遊真を友達と言ってしまった時はどうしようかと悩んでいた彼だったが、その時の衝撃のおかげか積極的に話すことができるようになっていた。焦っているとも言う。別に三輪にバレる前に友達になろうとか考えてはいない。

 

 彼は遊真としばらく談笑(?)しながら街中を歩く。

 途中、遊真が振り返ったり、ビルを眺めてたりするが、彼は特に尋ねることはしなかった。話す内容を考えることに必死で、余裕が無かったとも言うが。

 その後、彼は遊真と別れると今回の担当地区にある早沼支部に向かった。足取りは軽く、彼が今回の防衛任務を楽しみにしていることが伺える。

 何故なら、今回組む相手が彼にとって最も適した人間だからだ。

 

「むっ。ようやく来たようだね最上くん」

 

 早沼支部に着いた彼を待っていたのは一人の男だった。黒いコートを身に纏い、肩には三つの刀と三日月が描かれたエンブレム。そして刻まれているのは最強の部隊の証である【A01】。

 彼の名は唯我尊。太刀川隊の銃手だ。

 

「まったく、この唯我尊様を待たせるなんて信じられないよ。君もいつか()に上がるのなら、そういう社会の常識を大切にしないといけない」

 

 不遜な態度でそう言うも、彼はただ頷いて謝るだけだ。その姿に怒りや苛立ちを堪えている様子は無い。

 それどころか、唯我の前で笑みを浮かべるのを我慢するので精一杯だ。

 これからの防衛任務を思うと、笑ってはいられないのである。

 

 唯我は、彼から見ても弱い。

 とてもA級とは思えないほどの実力で、どうして太刀川隊に居るのか? と疑問に思うほどだった。後に出水から聞いたところによると、何と唯我はボーダーに最も金を出しているスポンサーの息子で、入隊の際に自分をA級に入れろと無茶苦茶なことを言ったらしい。当然身の丈に合わないことをすれば自分に返ってくるわけで、太刀川隊において彼の扱いはかなり酷い。隊長からは戦力外通告を受けるほどだ。

 そんな扱いを受けているからか、唯我は出水と太刀川、国近には頭が上がらない。しかし、年下でB級である彼にはそれが当てはまらず、こうして不遜な態度ができるわけだ。それでも他の隊員に対する態度と比べると軟化しているが……おそらく模擬戦でボコボコにしたのが効いているのだろう。

 

「相変わらず唯我先輩は自分の首を絞めるのが好きだな……」

「巻き込まれる前に逃げておこうぜ」

 

 早沼支部所属の隊員たちは、遠巻きに彼らを見るとその場を離れた。

 ちなみに彼らの反応は本部では見慣れた光景であり、本人たちは気付いていない。

 

「む、時間のようだ」

 

 前の部隊と交代する時間になると、彼らは支部を出た。

 彼は目の前を歩く男の後を追い、今日は何十体仕留めることができるかな、と考える。

 彼からしたら、唯我尊はボーナスみたいなものだ。実力が無いゆえに彼の獲物を横取りすることができず、それどころか彼が狩り取ることが可能だ。他のA級隊員と組む時にはできないことだ。難点は、他のA級に余裕が無い時にしか訪れないことだろうか。

 ちなみに、唯我の彼を舐め腐った言動は、彼にとっては屁でもない。昔にイジメられていた時と比べると、悪意が無い分気が楽なのだ。

 

 そんな彼らの視界に門が映る。

 唯我はフッ……と笑みを浮かべて銃を構えると、背中越しに彼を見て呟いた。

 

「せいぜいA級であるボクの邪魔はしないでくれよ……最上くん?」

 

 唯我はそう言うと、出て来たバンダーに突っ込み――砲撃で緊急脱出(ベイルアウト)した。

 流石にこれは予想外だった彼だったが……気を取り直してバイパーでバンダーを撃破し、次々と現れる近界民(ネイバー)へと突撃する。

 今回はいつもよりも稼ぎ時のようだ。

 

 

 

 

「良いかね最上くん!? あれは君のためにあえて犠牲になったのだ! 所謂後輩のための教育だ。そこの所を良く理解してほしい!」

 

 防衛任務を終えた二人は本部内を歩いていた。

 隣でキャンキャン喚く唯我の言葉に適当に相槌を打ちながら、彼は個人ランク戦室に向かっていた。

 実は、彼はある日を境に個人戦をするようになった。いや、せざるを得なくなったと言うべきか。彼としては、人間と戦うくらいなら近界民(ネイバー)と戦えば良いと思っている。しかし、そうも言ってはいられない状況に追い込まれてしまったのだ。

 

 

 どういうわけか、A級三人――風間蒼也、太刀川慶、出水公平による英才教育が施されることになってしまったのだ。

 

 

 しかも、全員実戦形式の『体で覚えろ』と言わんばかりのスパルタ教育で、もはやイジメじゃないか! と叫びそうになった。

 今は遠征に向かっているので三人とも居ないが、彼らがこの世界に居る時はそれはもう酷かった。

 風間にはスコーピオンで串刺しにされ、太刀川には弧月でぶった斬られ、出水には弾丸で蜂の巣にされる。これに加えて週末には風間隊三人を相手に、太刀川、出水と組んでチーム戦をさせられるのだから、己との実力差を見せつけられて精神的にも辛い。負けた時など、如何に自分の動きが悪いか気付かされてしまい、帰って自己嫌悪に枕を濡らすこと数百回だ。

 

 特に太刀川との模擬戦は一番辛い。

 太刀川にサイドエフェクトの使用を禁止され、もし使ったのがバレれば旋空による一撃で真っ二つにされるのだ。

 確かにあれはズルいと彼も分かっているが、太刀川相手なら変わらないだろうと思っている。彼がどれだけ頑張っても片腕を斬ることしかできないのだ。敗北率100%だ。

 

 それでも、確実に自分が強くなっているのだから質が悪い。これでは文句が言えないのだ。

 

 さて、このように日常的に格上と戦い続ければ、確かに彼は強くなるだろう。

 しかし、隊員同士が模擬戦をすれば自然とポイントが変動する。以前の彼は、その辺りのことには無頓着で、そこまで武器のポイントが高くなかったために、三人から搾り取られる数字はそこまで多くなかった。

 だが、日本のことわざにはこんなものがある。

 

 ――塵も積もれば山となる。

 

 彼の失点は、正直洒落にならないレベルだった。しかも、バイパーと弧月はスコーピオンと違って3000ポイントだったのだから、さらにやばい。

 具体的に言うと降格するレベルでやばい。

 

 ポイントを失って訓練生に逆戻りした隊員は、今の所存在しないが、このまま放っておけば自分がその記念すべき一人目になるのは明らか。冗談ではない。

 焦った彼は、手っ取り早く個人戦に赴き(正隊員だからか常時ログイン状態で、黒いボタンが無かった)ポイントを取りまくった。まるで飢えた獣のように。

 その結果も合って、彼の弧月は9000、バイパーは8500、スコーピオンは10000と大きく変動した。弧月とバイパーは3000以下だったので、物凄く疲れたのを彼は覚えている。

 

 しかし、油断をすればあの三人にポイントが流れていくので、彼はこうして定期的に個人戦に赴いている。

 加えて、遠征部隊も帰ってくるので大目に取っておく必要がある。

 

 今日は緑川は居るだろうか、と考えつつ歩いていると、進行方向に二人の男が現れた。

 

「……最上、話がある」

 

 最近物凄く機嫌の悪い三輪がそこに居た。その隣には奈良坂が居り、神妙な顔をしている。おそらく三輪を刺激しないように注意しているのだろう。彼だって同じ気持ちだ。

 

「み、みみみみみみみ、三輪先輩!?」

「お前には用はない――失せろ」

「お疲れ様でしたーー!!」

 

 ちなみに、親のコネでA級に上がった唯我は三輪に嫌われている。それも仕方の無いことだ。唯我は明らかに正義感からボーダーに入隊したわけではないのだから。

 鋭い眼光と共に放たれた言葉は、氷よりも冷たく刺々しかった。

 唯我は脱兎の如く逃げ出し、彼はそれに続いてこの場を走り去りたかった。

 唯我が居なくなると、三輪は彼を見て……沈黙した。頭痛を堪えるような表情を浮かべ、口を開いては閉じ、瞳に怒りの炎を浮かべたと思えば水をかけられたかのように収まる。

 簡潔に言うと酷く不安定だった。

 三輪に緊張した彼は気付かなかったが。

 

「最上、最近友達ができたようだな。米屋と三輪から聞いた」

 

 気まずい空間が錬成されていくのを見かねて、奈良坂が口を開く。

 すると、三輪の体温が一気に燃え上がり、反対に彼は急降下した。

 

「確か、名を空閑遊真と言っていたな」

「っそうだ。おい、最上、そいつは――」

 

 もしかしてバレたのだろうか?

 そんな風に焦った彼は三輪の言葉を遮って、空閑は友達だと言う。

 正しくは思っている、が正しいが。

 

 彼は先日祖父にこのことを話し、どうしたら良いか相談した。

その結果、次のように提案された。矢継ぎ早に空閑の良い所、特徴を話し、向こうが質問をする前に答えて潰せば良い。何なら会話の内容を話し、自分の感想を言えば、まるでその人と友達のように思われるだろう、と。

 

彼はそれを実行し、話している途中は空閑のことを本当に友達のように思えた。しかし全てを言い終えると、嘘を吐いた罪悪感から心が挫けそうになる。

 

 彼は恐る恐る三輪を見て――驚いた。

 三輪のこちらを見る目が、彼を憐れみ、悲しんでいる――それが良く分かる見慣れた瞳だった。

 ……もしかしてバレている?

 そう思った彼が三輪の名を呼ぶと、先ほどまで浮かべていた表情を引っ込めると……。

 

「……そうか」

 

 その一言を最後に、三輪は彼に背を向けるとその場を後にした。奈良坂は三輪を見て、彼を見て……何故かため息を吐いて三輪の後を追った。

 

 ……一体何だったのだろうか。

 

 そう思うも、彼がどれだけ考えても答えは見つからず時間が経つのみ。

 ゆえに、彼は考えるのを止めて、なるべく三輪の機嫌が治るように願った。

 

 ――その時に、焼肉でも奢ろう。

 

 何となくそう思った彼は、進めていた足を再起動させて、個人戦へと向かった――。

 

 

 

 

 ――数日後。

 

 

「最上秀一。君を本日付でS級隊員に任命する」

 

 会議室に呼び出された彼は、城戸司令にそう言われて……目の前が真っ黒になりかけた。

 


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