勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第21話

 基地周辺から南西に向かっているラービットのことを知った修と遊真は、避難誘導している千佳達C級隊員のフォローをするために基地へと向かっていた。

 そんな中、人型近界民(ネイバー)の情報が、戦場に居る全部隊に通達された。

 

「人型が最上のところに……!?」

 

 そしてその情報は当然修たちに所にも届いており、三人の近界民(ネイバー)が秀一の元に進行していることに彼の身を心配してしまう。

 遊真も思うところがあるのかその表情は険しく、トリオン兵を葬る力が知らず知らずのうちに強まっていた。

 

『敵は、どうやらシュウイチを確実に殺すつもりのようだ』

「どういうことだ、レプリカ?」

「……簡単なことだよ。ブラックトリガーを殺すならブラックトリガーってことだ」

『加えて、相手は二本のブラックトリガーを彼に投入している。このまま真面に当たれば――彼は死ぬ』

 

 聞かされた話に思わず修は顔を青くさせてしまう。

 ブラックトリガーの力の凄さを彼は知っている。

 精鋭と呼ばれるA級部隊を返り討ちにしたあの時の遊真にはまだ余力があった。修のことを心配して、殺さずに戦闘を終わらせようと手加減してあれだ。

 

(その力が、最上に対して、しかも全力かつ二つも……!)

 

 だからといって彼のもとに援軍を送り込むことができるかと言えば否だ。

 ラービットの群れ。

 死兵と化したトリオン兵。

 戦力を二分化させてようやく対応できている現状では、どうすることもできないでいた。

 

『それに、ブラックトリガーに緊急脱出(ベイルアウト)機能は無い。敵もそれが分かっているから、今回のように彼に過剰な戦力を当てているのだろう』

「そしてシュウイチが負ければ、必然的におれ達が不利になるな。その上、敵の目的も判明していないから結構やばいかも……」

「……」

 

 千佳の元に向かうために走っていた修は、突然足を止めてその場に立ち尽くした。

 それに気づいた遊真も足を止める。

 

「オサム?」

「……空閑、頼みがある」

 

 どこか悩んでいる表情を浮かべている修だったが、一度深く息を吸い込んで――吐き出した。その時の彼の眼には、迷いはなく、ただ遊真を真っすぐと見据えていた。

 

「――最上のところに行って助けてやって欲しい」

「……何言っているんだ。それじゃあチカ達の方が危ないぞ?」

「それなら大丈夫だ。――宇佐美先輩」

『――ほいほーい。どうしたの修くん?』

「今、烏丸先輩たちは――こちらに向かっていますか?」

『お、よく気が付いたね~。その通り! 今レイジさんたちが車で向かっているところ』

 

 修は迅が秀一に風刃を渡したことを、そして使い方を教えているのを風間から聞いていた。その時は自分たちのためにしたのだと思っていたが――今分かったことが一つある。

 それは、迅がこのことを知っていたのだ。

 だから、この日のために彼を鍛えていた! どれだけ強大な相手であろうと()()()()ように!

 

「こっちにはレイジさんが居る」

 

だから――。

 

「お前は、自分がそうするべきだと思っていることをするんだ」

「――!」

 

 そう言って、修は強く拳を握っている相棒の胸を軽く押した。

 

「……隊長直々に命令されたんじゃ、仕方ないね。おれが近界民(ネイバー)ってバレるよりはマシか」

「……あ! いや、違うぞ! 別にそういう意味じゃ……!」

 

 一転して慌てて弁解する修に、遊真は吹き出した。

 初めて会った時は頬に冷や汗を垂らし、常に驚いていたような人間が、今では自分を顎で使うほどの太々しい態度を取っている。しかし、芯にある彼らしさは変わらず、やはり面白い奴だと遊真は思った。

 彼が笑ったことでからかわれたことに気が付いたのか、修はムスッと顔を顰めた。

 それに遊真が謝ると、彼は別に良いと返す。そして通信を忍田に繋げる。

 

「忍田本部長! 玉狛の三雲です! これから空閑を最上の元に――」

『――よし、分かった。許可を出そう。迅も進言していたしな』

 

 顔を綻ばせる三雲。

 

『――一つ、良いかね』

 

 そんな彼の耳に一人の男の声が響く。

 城戸司令だ。

 

「……はい、何でしょう」

『君の立場を考えると、最上秀一という人間はこの先必ず壁となる人間だ――そんな彼を、君は何故助ける?』

「――彼は、敵ではありません。同じボーダーの仲間です」

『……』

「それに……」

 

 思い返すのは、玉狛支部で行ってきた訓練の日々。

 何度も何度も首を撥ね飛ばされ、その度に修は()の力をその身に刻み込んでいた。

 

「――一方的な借りを返したいから」

『……そうか。では、健闘を祈る』

 

 城戸はそれっきり沈黙した。

 三雲の判断に反対しないということなのだろう。

 それを察した二人はお互いに背を向け合い、それぞれの戦場へと視線を向ける。

 

「――そっちは任せたぞ、オサム」

「――ああ。分かった」

 

 二人は、その場を後にした。

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 

 基地南西部のトリオン兵を殲滅するべく、風刃を片手に捨てられた街を駆けていた秀一は、ふと進行方向の空に三つの影がこちらに向かっていることに気が付いた。

 初めはバドかと思っていた彼だったが、しかしその影のシルエットがトリオン兵のそれではなく人であることが分かった。

 三つの影――アフトクラトルの精鋭たちは、秀一の前に降り立つ。

 

「見た目はただのクソ猿だが……」

 

対峙する彼を見て、エネドラは秀一の体を下から上までジロジロと観察をする。

その視線には、先ほどの茶野隊に向けていた格下に対する傲慢は無く、己を脅かす『敵』を見る――それだけの警戒があった。

そしてそれはヴィザとヒュースも同様であり、それぞれに既に己のトリガーを起動させていた。

 

「油断するなよ、エネドラ。もし()が来れば、我々は終わりだ」

「雑魚に言われずとも、そんくらい分かってるよ」

「いやはや、相変わらず二人とも心強い。しかし、急いては事を仕損じると言います。

 ここは、三人で確実に首を取りに行きましょう」

 

 歴戦の戦士としての余裕からか、何処か緊張している二人と違ってヴィザはいつもと同じように柔らかい笑みを浮かべている。

 それだけ己の力に絶対の自信があるのだろう。

 彼は、まるで散歩をするかのように二人の前に出て、秀一との距離を徐々に縮めていく。内部通信か何かで指示を受けていたのか、エネドラとヒュースはその場を動かない。

 いや、動かないのは彼らだけではなかった。

 

「ふむ……肝が据わっている」

 

 俯いていて表情は伺えないが、近づいても動かない秀一にヴィザは笑みを深める。

 アフトクラトルの精鋭三人を前に、ここまで堂々としている戦士はなかなか居ない。

 今まで下して来た国の戦士たちにも立ち向かって来る者たちや、または呆然と立ち尽くして戦意を喪失している者は居た。しかし、ここまで平常心を保ってきた者は居なかった。

 戦闘を行う以上、何らかのアクションを取るのが普通だが、目の前の少年にそれは無い。

 

「だが――それは少し傲慢ではないでしょうか?」

 

 ――星の杖(オルガノン)

 

 国から譲り受けた秘宝の名を呼び、その力を解放する。

 上からのオーダーは確殺。ゆえに、初めから全力でその命を取りに行った。

 常人なら認識することすら不可能な高速斬撃。

 周囲の建物が斬り裂かれ、空間に幾つもの線が走る。

 一瞬の間を置いて、星の杖の餌食となった哀れな家やビルは重力に従ってズレ、そして大きな音を立てて倒壊する。

 

「初見でこれを見切った者は居ませんが――」

 

 ブシュッとトリオンが噴出する音が戦場に響いた。

 

「――よもや、反撃をするとは思いもしませんでした」

「……くっ」

「ちっ」

 

 ――ヴィザの後方から。

 

 左足を切断されて冷や汗を流すヒュース。股下から頭、右腰から左肩まで斬り裂かれたエネドラ。

 彼らは秀一に戦慄していた。

 クロノスの鍵と聞いて十分に警戒していた筈だった。ブラックトリガーにも警戒していた。

 しかし、彼らの認識は甘かった。

 

(ヴィザの斬撃を躱した上に、俺らに奇襲しやがった……!)

 

 加えて。

 

(――しかも、俺のコアを狙っただと!?)

 

 常に流動させているエネドラのコアのすぐ近くを、秀一の斬撃が通っていた。

 もしこれが少しでもズレていれば――エネドラは戦う前にやられていたことになっていた。

 

「良い目を持っている。これは骨が折れそうだ――ヒュース殿、エネドラ殿。()()()本当に三人で行きますぞ」

「――はい」

「――ああ」

 

 彼らの目に油断は無い。

 確実に殺すという、シンプルで強い意志がこもった三つの戦意が秀一に叩き付けられる。

 それを一心に受けた秀一は、口角を上げて心の中でただ一言呟いた。

 

 

 ――誰か、タスケテ。

 

 

 

 

 ブラックトリガーは強い。

 そのことを身を以て知っている彼は気が付かなかった。

 S級隊員は基本ぼっちで隊を組むことは無い。

 ぼっち道を極めている彼は、当初これまでと変わらないと思っていた。それどころか強力な武器を貰えるのだからむしろプラス、と。

 現に、今回基地南部に現れたトリオン兵達は彼の敵ではなく、破竹の勢いで蹴散らしていった。

 ブラックトリガーつえー。てかもしかして俺つえー?

 そんなことを考えながら風刃をぶん回していた彼の元に三人の男が現れた。

 というか、近界民(ネイバー)だった。

 それも、上から聞かされた話が本当ならブラックトリガーが二本。

 

「――ちっ! ガスブレードの射程距離に入らねえ……!」

 

 こんなんと真面にやり合っていたら、命がいくつあっても足りない。

 しかもそのブラックトリガーの性能がおかしい。

 一つは周囲の物を粉微塵にする頭のオカシイ衛星斬撃。

 もう一つは何回斬っても無限に再生する鬼畜仕様。

 最初の攻防で彼は実感した。どうやっても彼らに勝つことはできない。

 よって彼は緊急脱出(ベイルアウト)しようとしたのだが――ブラックトリガーにそんな機能は無く、泣く泣く走って逃げる羽目になっていた。

 

「私の星の杖(オルガノン)の射程も既に読まれていますな……」

「これだけ離れていると、蝶の楯(ランビリス)も届きません」

 

 しかし敵はどういうわけか彼を執拗に追いかけ続ける。

 ゆえに彼は風刃を使って足止めを図るが……三人目のトリガーで尽く防がれる。

 

「チマチマとうぜえ……」

「やれやれ……我々三人を相手に足止めをするとは……これは、覚悟しなくてはなりませんな……」

 

 彼はなるべく視界に三人が映るようにしながら、これからどうしようと頭を悩ませる。

 こうして基地に向かっているが、よくよく考えれば彼の行動は不味いのでは?

 よく漫画で敵前逃亡をした兵は射殺されたり左遷されたりする。

 しかも、彼はブラックトリガーを貰ったのだから、上から『良い武器上げたのに何遊んでいるんだ』みたいなことを言われるのかもしれない。彼だったらそうする。

 というか、三人の人型を引き連れてくる馬鹿なんて迷惑以外の何物でもない。

 しかし、それでも彼は基地に逃げる。だって怖いんだもの。

 でも生き残っても後が怖い。

 なら倒せば良い話だが――生憎既に彼の中にそのイメージは無い。

 トリオン兵相手に無双して気分を良くしていただけにその落差は酷く、心なしか彼の視界が色褪せている。

 

『――秀一くん無事?』

 

 そんな彼の元に一人の女性が話しかけた。

 彼は近界民(ネイバー)を警戒しつつ応えた。

 三輪隊のオペレーターの月見蓮に。

 

『そう、良かったわ。――さて、何故かあなたは敵に狙われているけど……何か心当たりとかある?』

 

 当然ながらあるわけが無い。それどころかこの大規模侵攻が始まる直前まで近界民(ネイバー)が自分たちと同じ人間だとは知らなかったくらいだ。

 もし相手が彼が今まで斬り刻んできたトリオン兵と同じなら、仲間の仇くらいには思われていただろう。防衛任務に出る度に倒しまくっていたのだから。門が開いたと同時にメテオラをブチ込んだこともある。

 でも、見る限りそうは見えない。

 

 しかし、彼は一つ気にかかることがあった。

 

『気になること?』

 

 敵は、彼のことを『クロノスの鍵』と呼んでいた。

 恐らくそれが原因だということは、いくらアホな彼でも察することができた。

 彼のその言葉を聞いた月見は、すぐさまその情報を忍田本部長に送り、自分は彼のサポートに努める。

 

『……今はそのことは置いておきなさい』

 

 彼は彼女の言葉に従って動きの鈍い体を後ろへと退がらせた。

 そしてすぐさま風刃を放って牽制をする。

 

『これから私があなたのサポートに入るから、援軍が来るまで何とか持ち堪えなさい』

 

 それを聞いて彼の視界に色が戻り、トリオン体の動きが回復する。

 今の彼にとって援軍という言葉ほど恋しいものはない。

 倒すのは無理だが、時間稼ぎは彼の得意分野だ。

 複数人の格上相手に模擬戦をしていた彼にとって、例えブラックトリガーであろうと三人程度なら一時間は持たせることができる。

 

『それと、あなたの記録(ログ)と各地に出現している新型から敵のトリガーの能力が分かったわ』

 

 月見はそれぞれのトリガーの性能を彼に伝える。

 それを聞いて彼はえげつないと思った。

 あともう少し近くに居れば、彼は気体ブレードで斬り裂かれたり、磁力で捕まって斬撃の餌食になっていたのかもしれないのだ。

 弱腰で戦っていた彼の判断は、偶然にも英断だったらしい。

 

『忍田本部長によれば、あなたが負ければこちら側が一気に不利になるそうよ。……援軍が来る前に負けちゃ駄目よ?』

 

 責任重大だな、と彼は薄く笑う。もしくは引き笑い。

 

「笑ってやがる……!」

「ちっ」

「勇ましい……そしてそれだけの力はある」

 

 まあ、勝てと無茶ぶりされるよりはマシだろう。

 彼は折れかけていた心の芯をしっかりと持ち直し、こちらに向かって来る近界民(ネイバー)を強く見据えた。

 




モガミンが絶対に言えない台詞

ああ、時間を稼ぐのは良いが――別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?

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