勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第22話

『戦闘隊活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

「はっはー! これで八人目だ!」

 

 基地東部に転送されたランバネインは、己の強化トリガー『雷の羽(ケリードーン)』で次々とボーダー隊員を葬っていた。

 

「ちっ……加賀美! 次は誰がやられた!?」

『どうやら漆間くんみたい。絨毯爆撃でダミービーコンごと撃ち抜かれて……』

「くそ!」

 

 シールドを貫通する威力を持つ弾。連射性能。そして何よりも厄介な飛行能力。

 それらを豪快に使い、ランバネインの餌食になった隊員はこれで八人目。

 このままでは人型近界民(ネイバー)に振り回される形になり、市街地にトリオン兵が辿り着いてしまう。

 事実ランバネインの目的はそれのようで、まるでトリオン兵を追う荒船隊、柿崎隊を阻むようにして陣取っている。

 

『荒船。こうなったら俺たちの仕事はA級が来るまで足止めすることだ』

「――! でも、それじゃあ市街地に向かっているトリオン兵が」

『そっちは非番の部隊――影浦隊、生駒隊、弓場隊、王子隊が向かっている。

 最悪なのは、あいつが市街地に向かうことだ』

「……」

 

 柿崎の言葉に荒船は思わず押し黙る。

 彼の言うことは最もであり、ランバネインのトリガーを使えば大量の民間人に被害は及んでしまう。それだけ凶悪な物だった。

 荒船はスコープ越しにランバネインを見る。彼は笑みを浮かべて次の標的を探している。今はボーダー隊員に意識が向いているが、それが何時逸れるか分からない。

 

 荒船は覚悟を決めた。

 

「……分かった。じゃあ、これから俺たちと柿崎隊は――」

 

 

 

 

 

『足止めなんて、そんななまっちょろいこと言っている場合じゃないと思うけど?』

 

 そんな彼らに待ったをかける者が居た。

 

「この声は……香取か?」

 

 

 

 B級07位香取隊隊長――香取葉子。

 彼女は、既に基地東部に辿り着いており、視界にランバネインを収めている。すぐ背後にはチームメイトである若村と三浦もおり、それぞれ注意深く敵を見据えている。

 

『しかしだな香取……俺たちB級が束に掛かっても敵わなかったんだ。既に三つの部隊がやられている』

「それはそいつらがB級中位以下の奴らだからでしょ。それに時間稼ぎって言っても、此処でモタモタしていたら、そのうち飽きて柿崎さんが言ったみたいに市街地に飛んで行くわよ?」

『……』

「安全策で切り抜けるほど、安い相手じゃない……」

 

 思わずスコーピオンを握り締める力が強くなる。

 今回の大規模侵攻は、彼女に()()()を思い出させる。

 あの時に感じた感情が沸き起こり、そしてそれは親友である彼女も同じ筈だ。

 

(腹立つわね……笑って街を壊されると)

 

 今回攻めてきた近界民(ネイバー)が、四年前の大規模侵攻と関係しているのかは分からない。しかし、そんなことがどうでも良くなるほどに、へらへら笑っているランバネインが許せなかった。

 もしかしたら、染井の両親もあんな奴にああやって殺されたかと思うと――どうしても、この手で殺したくなる。

 

「相手を倒す気で行った方が丁度良いと思うけど?」

『……分かった。やろう』

 

 荒船隊、柿崎隊、香取隊はランバネインを討つべくそれぞれ動いた。

 

 

 

 

 強者との闘争を好むランバネインは、内心不満を抱いていた。

 己の雷の羽(ケリードーン)がどこまでクロノスの鍵に通じるか腕試しをしたかったが、ヴィザが出る以上自分は必要無いことは分かっていた。

 それに、任務のことを考えると己よりもヴィザの方が適していることは明白だ。

 だから、せめて任された戦地で強者と戦えることを願いつつ転送されたのだが――。

 

「どうした? もう終わりか? 玄界(ミデン)はこの程度なのか!?」

 

 挑発するも効果なし。

 それに舌打ちしつつ、ランバネインはゆっくりと歩き続ける。

 

 彼と相対している敵はいずれも消極的だ。

 真面に戦おうとせず狙撃をし時間稼ぎをする。しかしそれだけの実力を持っている者は居らず、彼は既に八人の的を撃ち抜いていた。

 

 兄であり、隊長であるハイレインから出された命令は、今の所完遂していると言って良い。

 彼は余計な戦力がクロノスの鍵やラービットに行くのを阻む謂わば囮だ。

 こうして適当に敵を引き付けているだけで、仲間は仕事をし易くなる。

 

 だが、それでも物足りなかった。

 

「――お?」

 

 そんな彼の元に幾つもの弾丸が降り注ぐ。

 それらを防ぎながら、ランバネインはやっとやる気になったかと笑みを浮かべる。

 敵は建物を使って曲線を描くようにして射撃をしてきた。

 そこから逆算して、ランバネインはエネルギー弾を目の前の建物に向かって放つ。

 遮蔽物ごと撃ち落とすつもりだ。

 爆音を辺りに響かせながらランバネインの弾は砂埃を立てる。しかし、今までのような手応えを感じず、彼は辺りを警戒した。

 

(威力は弱いが、妙な絡繰りがありそうだな……)

 

 さらに三つの銃撃がランバネインに襲い掛かる。

 それをシールドでガードしつつ、ランバネインは視線を三度ほど動かし、此処からでは自分の弾が届かないことを察する。

 どうやら敵はランバネインの射程を把握しており、彼の攻撃が届かない所から狙撃をしているようだ。ただ、射程外なのは相手も同じようで、二発ほど逸れている弾がある。

 

「そして、これは俺の気を引くための囮――本命は」

 

 ランバネインの体に影ができる。

 ――上だ。

 彼が見上げると、そこにはスコーピオン片手に斬りかかって来る香取の姿があった。

 

「粗末な不意打ちだ!」

 

 ランバネインの手に球体状のエネルギー弾が生成される。

 それは、ボーダーのシールドトリガーを貫通する威力がある射撃。

 彼はそれを空中に居る彼女に向かって放った。

 しかし――。

 

「当たらないわよ」

「む!?」

 

 突如香取は空を蹴って方向転換した。

 ランバネインのエネルギー弾は空を切り、その隙を突いて彼女のスコーピオンが襲い掛かる。

 が、硬質的な音が響き、彼のトリオン体にダメージは無い。

 どうやらマントで防がれたようだ。だが、これで終わりではない。

 香取はグラスホッパーを使ってランバネインの周りを跳び回り狙いを定めないようにする。緑川の使う乱反射(ピンボール)とまでは行かないが、それでも高速で動き回る彼女はランバネインにとって鬱陶しい。

 

「小賢しい!」

「っ!!」

 

 地面に向かって弾を放つことで、衝撃波を発生させる。するとランバネインの思惑通り、香取は巻き添えを嫌って彼から距離を取った。

 するとランバネインは、すぐさま地面に降り立った香取を討とうとエネルギー弾を生成する。

 

「麓郎! 雄太!」

 

 しかしそれを阻むようにして、カメレオンで姿を消していた香取隊のメンバーが追撃をする。

 ランバネインの左から若村の突撃銃が、後方からは弧月が襲い掛かる。

 奇襲に対応するため、ランバネインは弾を消してシールドを展開して防ぐ。

 

「全員。総攻撃!」

 

 そこを狙うようにして柿崎隊が物影から飛び出してアステロイドを、荒船隊もイーグレットによる狙撃を行う。

 直接的なダメージには繋がらないが、ランバネインの足を止めることはできた。

 柿崎たちはこのまま物量差を活かして攻め続けることを選択。強化トリガーと言えどトリガーはトリガーだ。このまま行けばトリオン切れを起こすだろう。

 

「流石に、敵が多いな」

 

 しかしそれが分からないランバネインではない。彼は多少のダメージを覚悟して、無理矢理ブースターを起動させて上空に飛び上がる。

 その際に右足をやられるが、飛行能力を有する彼からすれば大した問題ではない。

 

「ここは豪快に行こう」

 

 ランバネインからエネルギー弾が雨あられと降り注ぐ。先ほどのお返しと言わんばかりに。

 その集中砲火の的にされた香取隊の二人、柿崎隊はそれぞれ身を寄せ合ってシールドを展開して耐え凌ぐ。

 しかし、それも時間の問題だ。トリガーの性能差があり過ぎる。

 それを分かっている荒船隊は援護しようと狙撃を続ける。

 

「ちっ。当たらねえ」

 

 だが、彼の機動力が高く、荒船達の狙撃は躱され、その間も地上に向けての爆撃を止めない。

 

 これで一気に六人!

 そう思っていたランバネインだったがふとあることに気が付く。

 

 ――あの女の戦士は何処だ? と。

 

 彼が気付いた時には、既に彼女はランバネインの背後を取っていた。

 グラスホッパーでここまで跳んで来た彼女は、確実に獲れるとスコーピオンを力強く握り締めていた。

 相手は今香取の存在に気付いて、あのエネルギー弾を放つ時間が無い。

 

(くたばれ――近界民(ネイバー)!)

 

 

 

 

「――隊長」

 

 ラービットとランバネインを投入したハイレイン。

 しかし、秀一が引き気味に戦うせいで彼の思惑通りに事が進まないでいた。

 ラービットも上手く対応されてしまい、基地東部に送ったラービット等たった一人の剣士によって抑え込まれてしまっている。

 市街地に向かっているトリオン兵たちの数も随分と減ってしまった。次々と戦場に駆け付けたボーダー隊員によって駆除されてしまったからだ。

 

 まるでこちらの動きを読まれているかのような違和感を感じていたハイレイン。そんな彼にミラが声を掛ける。

 

「どうした?」

「先ほど、一体ラービットが破壊されたのですが……その際に計測器がエラーを起こしました」

「……新たなブラックトリガーか?」

「いえ……」

 

 ミラの見ているモニターには一人の少女が居た。

 C級隊員を捕らえようとしていたラービットの上半身をアイビスで吹き飛ばした――雨取千佳が。

 その威力は敵だけではなく味方にとっても驚愕物のようで、C級隊員のフォローに来ていた東隊、鈴鳴第一の面々はラービットと相対しつつ彼女を驚きの表情で見ていた。

 ミラは、ノーマルトリガーでラービットを討伐した雨取を見て笑みを浮かべた。

 

「金の雛鳥を発見しました」

 

 

 

 

 獲った。

 

 勝利を確信した彼女の一撃は――届かなかった。

 

「九人目だ」

 

 今まで空を飛んでいる時はシールドを展開していなかった。

 だからこそ、彼女は今この瞬間が絶好のチャンスだと思いこうして奇襲をかけたのだ。

 しかし、結果は防がれてしまい――こちらが致命的な隙を作ってしまった。

 

「ヨーコちゃん!」

 

 三浦の警告の声と香取がランバネインに撃ち抜かれるのは同時だった。

 何とかシールドを張るも、ランバネインの強化トリガーはそれを無視し彼女の心臓を貫く。

 

「ちくしょう……」

 

 香取のトリオン体に罅が入るなか……彼女は見た。

 

「ちくしょおおおお!!!」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 こちらを見て余裕の笑みを浮かべるランバネインの姿を。

 

「ヨーコちゃん!」

「バカ、逃げろ!」

 

 隊長をやられたショックで三浦は気付かなかった。

 次に狙われているのが自分だということに。

 ランバネインは腕を銃に変形させて狙いを三浦に向ける。そしてそれをカバーしようと若村が三浦の前に出てシールドを展開。

 

「これで二匹!」

 

 ドゥンッ! ドゥンッ! と二つの重い銃音を響かせてランバネインは撃った。

 ランバネインの弾は若村のシールドを貫き、彼のトリオン体を破壊する。さらにもう一発の弾が若村の背後に居た三浦を貫いた。

 

「……っ!」

「くそ……!」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 一気に三人やられてしまい、その場に居た柿崎は思わず冷や汗を流す。

こいつは強い。

香取隊はA級予備軍と呼ばれるB級上位のチームだ。それがこうもあっさりとやられてしまい――このままでは自分たちも全滅だ。

 

「二人とも、退くぞ!」

「了解」

「了解」

「荒船隊! 距離を取る! 援護を頼む!」

『了解』

 

 柿崎は撤退しつつ頭を働かせる。

 こちらに向かって来る近界民(ネイバー)をどうすれば倒せるのか。

 いや、それよりもA級が来るまでどうにか時間稼ぎをするしかない。

相手は一対多数に慣れていて、しかもそれに適したトリガーを使っている。さらに大雑把に見えて香取の狙いを冷静に読み、それに対処するだけの頭もある。

 

 ここに来て、初めて柿崎は相手の強さを実感した。

 数を揃えて全力で当たれば勝てる……そんな軽い相手ではなかった。

 

「倒そうと考えるな! 時間を稼ぐことだけを考えろ!」

 

 基地東部の戦況が――崩れ始めた。

 

 

 

 

「助かったよ、えっと確かく…」

「玉狛所属の雨取千佳です」

 

 C級に襲い掛かって来ていた数体のラービットを撃破した東は、こちらに向かって来る大量のラービットとの衝突を避けるため、基地西部へと迂回していた。

 彼の他にも部下の奥寺と小荒井。鈴鳴第一も一緒で、周囲を警戒しつつC級隊員の避難誘導を行っていた。

 

 先ほど戦闘を行ったのだが、千佳のアイビスによる砲撃のおかげですぐにトリオン兵たちを撃退することができた。

 そのことに関して礼を言うと、雨取は恐縮して逆に礼を言う。

 

「それにしても、凄い威力だった。太一ではできないな」

「いや、あんなのできる奴自体居ませんって」

 

 鈴鳴第一所属の村上鋼が彼女を見つつそう言い、彼の後輩である別役太一は唇を尖らせつつ反論した。

 しかし彼の言うことは正しく、このような芸当ができるのは彼女以外には居ない。

 

「でも、あれだけのトリオンを持っていたら敵に狙われるんじゃ――」

「ああ、その通りだ。来馬。恐らく、敵も先ほどの砲撃を見ているはずだ」

 

 それに……と東は連れているC級隊員たちを見る。

 上からの情報では、ラービットはトリガー使いを捕らえるためのトリオン兵。

 そんな高性能なトリオン兵がC級を狙うということは――初めから狙いは彼らだったということだろうか。

 加えて膨大なトリオンを有する雨取が居る以上、敵は執拗にこちらを狙ってくることは確かだ。

 ゆえに、東は基地西部に居る天羽の元に向かっていた。

 基地周辺にラービットが陣取っている以上、ボーダーにおいて最強戦力を誇る彼以外に頼れることができる者は居ない。

 

「――っ!!!!」

 

 東の考えは正しかった。

 しかしいくら敵の目的を読んでいようと、それで思惑を防ぐことができるかと言えば――否だ。

 雨取は、突如悪寒を感じて振り返る。

 何かが居る。まるで、人の命を啄む烏のように不吉な何かが――。

 

 ――居た。

 

「どうし――あれは……!」

 

 彼女の異変に気付いた東も、捨てられたスーパーの屋上にいる人影に気が付いた。

 空を飛ぶ無数の鳥。そしてその中央に居るのは黒い角を携えた人型近界民(ネイバー)――ハイレイン。

 東は敵を視認すると同時に手に持ったイーグレットを構え、そして引き金を引く。

 

「――なに?」

 

 しかし、彼がスコープ越しに見えたのは己の弾丸が敵に直撃する光景ではなく、鳥の形をした弾によって防がれるものだった。

 

「弾丸がキューブに……?」

 

 キューブと聞いて東は諏訪を思い出す。彼はラービットに捕らえられた結果、キューブ状になって腹の中に居たそうだ。

 そして今の光景。

 キューブ化された諏訪と弾丸。これの意味することは――。

 

「――全員、警戒しろ! あの鳥の弾丸に触れるな! キューブに変えられてしまう!」

「――なに!」

 

 東の警告と共に鳥の大群が東達に襲い掛かる!

 

(思ったよりも速い!)

『シールド』

 

 その場にいる全員でシールドを広範囲に、何重にも展開していく。

 しかし、シールドに触れたところからキューブ化されていく。彼らは己の自身のトリオン体がキューブ化されないようにと何度も何度もシールドを再展開する。

 だが……。

 

(マズイ……このままでは……)

 

 ――やられる!

 

 

 

 

「――スラスター、オン!」

 

 一人の少年の声が響いた。

 

「――!」

 

 ハイレインは、己に向かって飛来する剣を卵の冠(アレクトール)でキューブ状に変え――背後からの斬撃によって地面に叩き落された。

 

「エスクード」

 

 さらに分厚い壁が地面からせり上がり、ハイレインの卵の冠(アレクトール)の弾丸を防いだ。

 

「どうやらあれはトリオンにしか効かないみたいですね」

「そのようだな」

「レイジ、烏丸!」

 

 さらに二つの人影がレイジたちの隣に降り立つ。

 

「テレポートによる奇襲は良いと思ったんだけど……何よあのトリガー。私の双月が削られたんだけど」

「小南先輩……それに――」

 

 雨取は、目の前の二人の存在に心底安心した。

 一人は、チームメイトである遊真の師匠であり、玉狛第一のエースアタッカーである小南桐絵。

 そしてもう一人は――。

 

「――助けに来たぞ、千佳」

「――修くん!」

 

 玉狛第二の隊長であり幼馴染である三雲修だった。

 

 

 

 

「――新手か」

 

 あの後、狙撃を繰り返す荒船隊の穂刈と半崎を撃ち落としたランバネインだったが、どうも目の前の柿崎隊の三人を倒せないでいた。

 どうやら三人分のシールドでランバネインの弾丸を上手く逸らしているようで、今もこうして耐えられている。良い連携だと素直に感心した。

 ゆえに、ランバネインはどうやって柿崎隊を落とそうかと考えていたのだが――突如殺気を感じてシールドを張った。

 硬質的な音が響き、後方から斬りかかって来た三人の男がランバネインの前に降り立つ。

 

(姿を消すトリガーか……先ほどの戦いで見ていなかったらやばかったな)

 

 しかも、目の前の三人は今までとレベルが違うと、彼の歴戦の勘が告げている。

 そしてその勘は特に真ん中にいる小さな子どもを警戒している。

 

(どの国にも居るものだな……年若くして力を得る者というのは)

 

 見る限り年は十二かそこらくらいだろうか、とランバネインは予想する。

 斬られたシールドと相手の位置から強さを、そして他二人の態度から彼がリーダーだと悟る。

 ランバネインはエネルギー弾を生成して構えた。

 

「柿崎隊、荒船、時間稼ぎご苦労だった」

「風間さん!」

 

 駆け付けたA級部隊――風間隊は柿崎隊を庇うようにしてランバネインを睨み付ける。

 風間たちの到着に柿崎はほっとした表情を見せる。

 

「調子に乗ってやられた奴らが居るみたいだけどね」

「おい、菊地原」

「敵の強さを見誤ってやられたんじゃん。僕たちが来るまで粘っていれば、今ごろトリオン兵の掃除くらいはできたと思うけど」

「だが、情報を得ることができた」

 

 風間はスコーピオンを構える。

 

「こいつは俺たち三人でやる」

「な!? でも、人型相手に三人なんて無茶です!」

「まだ分からないの? 邪魔なんだよ」

 

 相手の強さを痛感した柿崎隊の照屋が忠言するが、それを菊地原が斬って捨てる。

 彼の辛辣な物言いに彼女はぐっと押し黙り、しかし菊地原はそちらを見ず目の前をずっと見据える。

 

「大丈夫だ。何も勝算が無くて言っているわけじゃない」

「歌川さん……」

「お前たちはこのまま市街地に居る影浦隊たちの援護に向かってくれ。どうやら新型相手に手間取っているらしい」

「だからあんた達はさっさと行っちゃてよ」

「――了解! 二人とも行くぞ!」

 

 風間たちの言葉を聞いた柿崎隊は反転して市街地に向かう。

 それを見たランバネインは背後から撃とうとして――止めた。

 目の前の相手にそんな隙を見せればやられると判断したからだ。

 

「菊地原、奴の心音は?」

「至って正常。特に緊張していないですね」

「それだけ自分の実力に自信があるということか」

「だが、どんな相手にも弱点はある。そこを突いて一気に叩き込むぞ」

「了解」

「了解」

 

 ――風間隊、戦闘開始。

 

 

 

 

 

「惜しいですな……」

 

 頬の斬り傷から微量のトリオンが漏れていることを気にせず、ヴィザは思わず呟いてしまった。

 

「もしあなたが同じ世界出身でしたら、もしあなたがクロノスの鍵でなければ――この星の杖(オルガノン)を継いで貰いたかった」

「……ヴィザ翁」

「……ジジイの戯言です」

 

 秀一の動きにキレが無くなって来た。

 しかし、それも無理もない。

 長時間のサイドエフェクトの酷使。風刃の乱発。格上との死闘。

 これで疲れを感じないのは人間を辞めた何かだ。

 彼の疲労がトリオン体にも影響を及ぼしているのか、彼の頭髪は白く染まり瞳も何故か赤くなっている。

 秀一は瓦礫を背にして風刃を構えるも、心なしか覇気がない。

 

「おいおい。そろそろやべえぞ」

「……そうですな。起きてしまう前に眠らせるとしましょう――永遠に」

 

 ヴィザが星の杖(オルガノン)を向ける。

 ゆっくりと彼の命を斬り取ろうと、その牙を剥きだしにし――。

 

 

 

『弾』印(バウンド)二重(ダブル)

 

 しかし、空から降って来た黒い弾丸に阻まれた。

 直前に殺気を察知したヴィザはガードするも、その上から強い力で地面に叩き付けられる。アスファルトが没落し、衝撃が戦場に伝わる。

 

「ヴィザ――」

「避けろエネドラ!!」

 

 奇襲されたヴィザに気を取られたエネドラの元に無数の斬撃が襲い掛かる。

 それをエネドラは後方に飛ぶことで回避するも、その際に下半身を切断されてしまい、その場に残った体は風刃の餌食となってしまう。

 

「くそ! ムカつくやろうだぜ!」

 

 執拗に狙われ、そして自分の攻撃は全く当たらないことにエネドラはどんどん苛立ちを募らせる。

 それを横目にヒュースは内心で舌打ちを打つ。

 

「あの威力――ブラックトリガーか」

 

 ヴィザを奇襲した者――遊真は秀一の隣に降り立つ。

 背中には『強』印(ブースト)の紋章が七重にかかっており、この奇襲でヴィザを倒すつもりだったようだ。しかし相手はそれを見事防ぎ切り、その実力を垣間見せる。

 

「……事情は、全て終わってから話す」

 

 遊真は視線を相手から離さず、しかし意識は秀一へと向けていた。

 秀一からは強い戸惑いの感情が感じられる。

 彼は遊真が何故此処に居るのか理解できていないようだった。

 

「でも、これだけは言わせてくれ――おれは、シュウイチに嘘を吐くつもりはなかった」

「……」

「つまんない嘘を吐かれる気持ちは、嫌ってほど知っているから。だから――」

 

 ――斬! と風刃が遊真の足元を斬り裂いた――エネドラの奇襲から遊真を守るために。

 二人は急いで距離を取り、それぞれ構える。

 そして秀一は言う。

 

自分には何が起きているのか分からない。

何故遊真が此処に居るのか分からない。

ただ、一つだけ分かっていることがある。

 

――自分を助けに来たのは、空閑遊真だということだ。

 

 それを聞いた遊真は目を見開いて、その言葉に嘘が無いことを確認すると今度こそ全ての意識を敵に向ける。

 

「本当、お前ってよく分かんなくて――面白い奴だ!」

 

 

 

 

 

 ――拒絶されても良い。

 ――憎まれても良い。

 ――それでも、そんなの関係なく本当の自分を教えたい。

 

 ――そして、できるなら――。

 

 

 

 

 ――友に。

 

 

 友を救うため、遊真はブラックトリガーの力を全力で使った。

 この先の未来で、何が起ころうとも……。

 




ヨーコ「ちくしょおおおお」もぎゃあああああ

しばらく香取隊の隊室で泣き続ける少女の声が響いたとか

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