勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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今回で大規模侵攻編終了です。
次章に入る前に書きたい番外編をいくつか書こうかと思っております。タイトルは

C級モブ日記
ボーダー隊員から見たモガミン
エピソード・オブ・レッドバレット
迅の望んだ未来

です。
反応次第では本編を優先するつもりですが、なるべく面白い話にするつもりです。
それでは、本編の方をどうぞ


第29話

 

 彼が目覚めて翌日。

 

「ほら、遠慮せず食え」

 

 無事に退院した彼は、約束通り三輪にとある店のA級ステーキセットを奢ってもらっていた。値段も肉厚もカロリーも、そんじょそこらの物とは比べ物にならない代物で、しかし店に入るのに気後れした彼が一度も食べたことのない――言わば彼の憧れ。

 それが今彼の目の前にあり、そして食べることが許されている。

 思わずこれは夢なのではないのか、と思ってしまいそうで……。

 

「――!!!」

「……そんなに美味いのか」

 

しかし、口に入れた時に感じるこの圧倒的存在感が――彼に現実だと教えてくれた。

濃厚なソースで味付けされた肉は、米などと共に食べるとより一層美味しく感じるが、これは肉だけで完成された旨みを持っていた。

むしろ米など不要。

 むしろ肉だけで良い。

 

 などと彼は乏しい語彙力でA級ステーキを頬張りながら三輪に感謝した。

 今までスーパーの惣菜やボーダーの学食でしか食事を取らない彼は、一人で外食をすることがほとんどない。しいて上げるとすれば三輪隊の面々と行う焼肉くらいだろうか。

 

(……あれほど落ち込んでいた奴がな)

 

 ここまで幸せそうな顔を見たことがない三輪は、目の前の彼に苦笑した。

 しかしそれと同時に違和感を感じていた。

 

(……ったく、無理矢理笑いやがって)

 

 ……記憶を失った人間が、好物を食べただけで気を取り戻す訳がない。

 三輪は、彼と言う男がそこまで単純だと思っていないし、だからこそあの時病室で悩んで、苦しんでいた。

 しかし目の前の彼からは全くそれらを感じられず、あの時のことを他の者に教えても笑って一蹴されるだけであろう。

 だが、三輪からすれば笑っている彼――外面上は無愛想で、雰囲気が和らいでいるくらいだが――は違和感しか感じられず、そして何故そう感じるのか、何故彼が笑っているのか何となく当たりを付けていた。

 

(俺に気を使っているのか……)

 

 できるなら、そんなことするなと怒鳴ってやりたい。

 しかし、彼は傷ついている。今はそっとしておこう。

 そこまで考えて、三輪は己に苦笑した。

 あの雨の日から近界民(ネイバー)を殺すことだけを考えていた自分が、随分と丸くなったものだと。

 

 だが……。

 悪くない――。

 

 

 

 ――しかし、現実は違った。

 

 彼はこの一時だけは、記憶を失った際の苦しみや悩みなど綺麗さっぱり忘れていた。

 普段からサイドエフェクトを使っているせいか、彼は一つのことに集中する癖がある。一度に二つ以上のことを考えるのが苦手で、子どもの頃から数分経てばケロッと機嫌を直す程度には単純だ。

 記憶を無くす前は、ある程度人と関わったり、自分を成長させる可能性のあったとある目的の存在によって改善しつつあった。

 しかし今の彼はリセットされてしまった状態で――。

 

 つまり、肉食ったら記憶喪失とかどうでも良くなった、と考える程度にはポンコツである。

 

「そう言えば、風刃を返すそうだな」

 

 そんなことなどつゆ知らず、三輪は一つの話題を彼に振った。

 それはボーダーが所持している一つのブラックトリガー――風刃のことだ。

 

 彼は目覚めて自分のランクを聞いて大いに驚き、そしてすぐに手放すことに決めた。

 S級隊員というのは、確かにA級同様固定給与もあって魅力的だが、防衛任務をぼっちで受けるのは正直なところ辛いものがある。

 記憶喪失前の彼なら問題ないレベルまでに達していたが、今の彼は違う。

 記憶と体のズレで上手く戦えず、下手をすれば敵に捕らえられる可能性がある。

 そんな状態で一人で防衛任務を受けるなど――御免こうむりたい。

 ついでに言えば、ブラックトリガーとは一人の人間が命と全トリオンを使って作り出したものだ。それを少し前――彼視点から見て――に知った彼は、幽霊か何かと同列視してしまい、少し怖がっていた。

 

 彼は、己の心情をぼかしつつ目の前の三輪に言った。

 三輪としても、風刃は状況に合わせて使い手を選んだ方が良いと考えていた。風刃は好き嫌いが少ないのだから尚更に。

 しかし、一つだけ納得できないことがある。

 

「だからと言って、わざわざBに戻らなくても」

 

 そう。彼ははっきりと言った。B級に戻ると。

 彼は迅のようにA級隊員になるのではなく、B級隊員に戻る事にした。

 やはりぼっちで死ぬのが嫌なようだ。

 しかしその辺りの考えを知らない三輪からすれば、あまり良い気分ではない。

 今回の大規模侵攻で、彼は十分すぎるほどに働いた。例え彼が覚えていなくとも、せめてその証を残してやりたい……と考えるのはお節介だろうか。

 が、彼からすれば疑われているように感じ、思わずごくりと肉を飲み込んだ。

 防衛任務でぼっちになるのが嫌ですなんて、とてもではないが言えないだろう。

 ゆえに彼はそれっぽいことを言った。

 

 自分はまだその領域に達していない。

 少なくとも、今の自分はB級で、AでもSでも無い。

 

 彼はそう言ってステーキを頬張る。

 しかし内心は三輪の顔色を伺っている。

 昨日の件から随分と苦手意識が削がれたが、しかし苦手なものは苦手。

 一体何時になったら彼らは通じ合うのだろうか。

 

「……なるほど、確かにな。俺からも司令に口添えしておこう」

 

 ほっと一息吐いて、彼はステーキを食べようとして――ふと視界の隅にとある人物を見かけた。

 窓の向こうの人物はこちらに気が付いていないのか、そのまま信号を渡って人混みの中に消えていったが……彼は酷く気になった。

 それに、よくよく思い返してみれば、何処かで会ったことがある気がする。それが記憶を失う前なのか、記憶を失ってからなのかは分からないが。

 彼は目の前の三輪に聞いてみることにした。

 

「ん? どうした?」

 

 彼は聞いた。三雲修という男を知っているか? と。

 すると三輪の機嫌が一気に下がり、彼のよく知る三輪秀次が現れた。

 彼は後悔した。しかし既に地雷は踏んでしまっている。

 

「……奴がどうした? 何かされたのか?」

 

 おそらく心配しての態度だろうが、彼からすれば説教中と同じでただ萎縮するのみだ。

 彼は昨日見舞いに来てくれたことを話した。

 ちなみに、その際に自分を問い詰めたことは黙っておいた。三雲修という人間が、目の前の男に打ち殺されそうだからだ。

 それを聞いた三輪は目を鋭くさせて舌打ちをし、しかし知らないと嘘を吐いても何時かバレると判断したのか、ぽつぽつと話し出した。

 

「……奴は玉狛所属の人間で、お前と同じボーダー隊員だ」

 

 それから三輪は己が知る限りで伝えられるだけの情報を彼に教えた。

 彼と同期で、同じ中学で、おそらく今シーズンのランク戦に出るであろうことを。

 それを聞いて彼はうへえと声を出しそうになった。

 自分と似た経歴を持つのに、ここまで差があるのだろうかと。自分は他人とチームを組むのが苦手で、ずっとソロなのに。

 

 勝手に落ち込んでいる彼を尻目に、話題を変えるためか三輪がふと話を振った。

 

「そう言えば、お前は今シーズンのランク戦には出ないのか?」

 

 それを聞かれた彼は無理だと答える。

 彼は女性受けが悪く、オペレーターの知り合いは月見くらいだ。海老名は敵だ。

 ランク戦に出るにはチームを組む必要があり、それには最低オペレーター一人、戦闘員一人必要だ。

 ぼっちの彼に人を集めることなど不可能だ。

 

「いや、やろうと思えばできるぞ」

 

 しかし、それを裏付けるかのように三輪が言葉を零した。

 

 ――後に三輪はこう語る。

 この馬鹿にこんなことを教えるべきではなかった。

 

「月見さんに兼任してもらうという手もある。玉狛もそうしているし、上層部もお前が一人で居ることを問題視していたしな」

 

 だが、三輪はこの手はあまりよろしくないと考えていた。

 確かに二人だけの部隊というのもある。漆間隊がそれだ。

 しかし、オペレーターが兼任している人間である以上、彼は本当の意味で一人で戦っていることになる。

 それに、いざと言う時に困るのは彼で、このような裏技を使うくらいなら他の部隊に入った方が良いだろう。

 

(だが、もうすぐランク戦。上を目指す連中が今のこいつを欲しがるとは思えん)

 

 人が増えればオペレーターの負担が増え、連携に乱れが生じる。

 そして相手の部隊にそこを突かれて敗北することなどざらである。

 ゆえに、彼が誰かとチームを組むのは、ランク戦が終わってからになるだろう。

 

 ――ただ、一つだけ彼を受け入れることができそうな部隊が、三輪の脳裏を過ぎった。

 

 遠征部隊を目指し、今期に作られた部隊故に連携も新たに作りやすい……そんな部隊が。

 

(……なにを馬鹿なことを)

 

 しかし、彼は近界民(ネイバー)嫌いだ。

 そんな彼を、正反対の人間が居るところに放り込むなど……。

 妙なことを考えた、と三輪は頭を振ってその考えを振り切った。

 

 ――だが、もし彼に記憶があったなら……あり得たのかもしれない。

 

 彼が玉狛第二に入ると言う未来も。

 

 

 

 

『おいおい、そんな怖い顔をするなよ。オレはお前らのために言っているんだぜ?』

 

 エネドラの発言を受けて激昂しそうになった林藤支部長。そんな彼に対してエネドラはニヤニヤと笑みを浮かべながら挑発を続ける。

 しかし、林藤は直接手を出さない。否、出せないと言った方が適切だろうか。何故なら……。

 

『落ち着くんだ林藤支部長。彼は口は悪いが、おそらくこの発言には深い意味がある』

 

 林藤支部長と共にエネドラの尋問に協力しているレプリカは、その無機質な目をエネドラに向けたまま彼を諫めた。

 レプリカは、エネドラの情報に嘘が無いということを十分に承知している。

 己を裏切ったアフトクラトルに復讐をするために、自分たちに協力をすると言った言葉に、遊真のサイドエフェクトは反応しなかった。

 もう一人の捕虜であるヒュースが協力的ではない以上、自分から己のトリガー角をトリオン兵に移植するよう進言した彼から情報を抜き出すしかない。

 実際、アフトクラトルに関する情報はほぼ聞き出せた。

 だが、一つだけ分からないことがあり、それを聞いてもはぐらかすばかりで答えず、秀一を始末するように進言するのみ。

 

『……けっ。やっぱ話さないといけねえかなあ』

 

 しかし、ようやく折れたのか、または別の理由か、エネドラはようやく口を開いた。

 

 ――神の名を冠する国が恐れるその訳を。

 

『こちらの見解では、クロノスと言う名のブラックトリガーに関連する何かだと推測している』

 

 この世界では、時を司る神をクロノスと呼んでいる。

 それに加えて、秀一の体内()()操作のサイドエフェクトと()という単語から、秀一にはクロノスというブラックトリガー――それも時間を操る能力を有した――を作る、または使うことができる人間、だと推測した。

 そうすれば辻褄が合う。

 確かに時間を操る敵など、抹殺するに限るが――。

 

『ああ? そりゃあ勘違いだ。そもそもクロノスという言葉自体に深い意味は無えよ』

「なに?」

オレ達の国(アフトクラトル)がそう呼んでいるだけで、クロノスの名は近界(ネイバーフット)内で様々な名で広がっているんだよ。例えば――ロンギヌスの槍』

『ロンギヌスの槍だと!?』

「……知っているのか、レプリカ先生?」

『……ああ。ユーゴも全てを知ることは出来ていなかったが――なるほど、これで合点がいった。アフトクラトルが彼を執拗に狙うわけだ』

 

 他には――。

 創世の光。

 災厄の種。 

 パンドラの箱。

 

 何れも本質を捉えていない物ばかりだが、一つだけ共通点がある。

 それは、決して手に入れてはならない禁断のトリガーだということ。

 一時の繁栄をもたらすが、後に破滅をもたらす危険な代物で、過去アフトクラトルもそのトリガーによって滅亡の危機に瀕したことがあったそうだ。

 だからこそ、アフトクラトルはその力に恐れ、封印した。

 そして、他の国も決して手に入れようとはしなかった。

 

「それほど強力なブラックトリガーなのか……」

『ブラックトリガーなんてチャチなモンじゃねえよ』

 

 確かに製造方法はブラックトリガーと似ているが、その力の規模は比較にならない。

 黒にも染まらず、白にも染まらない。

 何者にも縛られない。

 

『多分、これが一番広まっていて、本質を捉えているだろうよ』

 

 

 手にする者には災厄と繁栄をもたらし、世界を支配する力を与え、神すら殺す禁断の引き金。

 その名は――。

 

『ワールドトリガー、だ』

 

 

 

 

「ワールドトリガー、ね」

『ああ。ただ、何故彼がその担い手なのかはエネドラ自身も知らないそうだ』

「ふーん……」

『……ユーマ』

 

 エネドラから得た新たな情報を聞いても、遊真は何処かうわの空で夜空を見上げていた。

 しかし、それも仕方の無いことだとレプリカは思っていた。

 二度目だ。親しき者を失ったのは。

 秀一は確かに死んでいないが、忘れられた遊真からすれば、それは死んだと同じことだ。

 彼は遊真のことを知らないし、遊真の知っている彼はもう居ない。

 少なくとも、今のボーダーでは彼を蘇らせることはできない。

 

「オサムがさ、近界(ネイバーフット)に記憶を呼び起こす技術が無いかって聞いて来た。相変わらずのお人好しの鬼だ」

『だが、それが彼の強さだ……ユーマ』

「ん?」

『こう考えていないか? ――生きているのだから良かった。仕方の無いことだと』

「――!」

 

 その言葉を受けた遊真はピクリと反応し、しかしすぐに薄く笑って言った。

 

「別に。そう思うのは勝手だろう?」

『なるほど――ユーマ、つまらない嘘を吐くようになったな』

「……なにそれ? おれの真似?」

『いや、成長したと言っている――ユーマ、己を偽り、我慢するくらいならしたいことをすれば良い。今までもそうしてきただろう』

「……」

 

 遊真は押し黙った。

 しかしすぐに大きく息を吐いて、もう一度夜空を見上げて――ただ一言。

 

「敵わないな、ホント」

 

 遊真はギュッと拳を握り締めると――未来を見据えて言った。

 

「遠征部隊を目指す理由が一つ増えたな」

 

 己の我儘のため、友の記憶のため――少年は立ち上がった。

 

 まだ、諦められない、と。

 

 

 

 

『――随分と久しいの、秀一や』

 

 電話越しに聞こえる声に変わりは無く、彼は思わず笑ってしまった。

 周りが変わっても、己の祖父だけは常に味方で居てくれる。

 そのことがたまらなく――嬉しい。

 彼は色々と話した。

 己に起きたこと、三門市に起きたこと。

 正直変化に着いて行けず、疲れてしまったことに。

 

『ふむ……ところで秀一や』

 

 一通り聞いた祖父は、突如声質を変えて彼に問うた。

 

『――お前は、それで良いのか?』

 

 え? っと思わず声が出た。

 

『確かにお主の苦しみは分かる。だが、そのまま立ち止まって蹲ったままで良いのか? 己に負けたままで、何も知らず、何も知ろうとせず』

 

 彼は、祖父の言葉に反論できなかった。

 何故なら、彼があの日病室で真っ先に考えたことだからだ。

 彼はぼっちである自分が嫌いだ。だからこそこの街に来て、変わろうとした。過去の自分を捨てるために。

 しかし、今の彼は未来の自分に捨てられ、苦しまされている。

 そして何よりも。

 

『己に負けたままで良いのか?』

 己に負けたままで居たくない。

 

 ――祖父の言葉は、彼の心だ。

 

『どうすれば良い、だと?』

 彼は分かり切ったことを聞いた。

 

 ――彼は何時だって、自分のやりたいようにしてきた。

 

『――存分に暴れ回り、頂点(A級)を目指せば良かろう』

 ――己を、超える。

 

 

 

 ――二月一日、二つの嵐が激突する。

 




次章、もがみんB級ランク戦に突入す。

なお、この時のB級部隊の面々の反応


下位チーム
「まともに当たるのは良くないね。マッチングしないことを祈ろう」
「落ち着いて行け! 通り過ぎるのを待とう!」
「どうわああ!?」

中位チーム
「こっちくんな」
「マジかよ終わったわ」
「す、スナイパーならワンチャン……」

上位チーム
「ナスカレー」
「は?なにそれ?なめてんの?」
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