B級ランク戦前半
ガロプラ戦
B級ランク戦後半と続いていきます
第30話
己を、超える(キリッ)。
などと似合わないシリアス調で言い、A級を目指していた彼だったが、早速一つの壁にぶち当たった。
オペレーターになってもらえそうな人が居ないのだ。
正確に言うと、フリーで何処の部隊にも所属していないオペレーターが、である。
彼は祖父と電話をした後、早速勧誘をしようと本部に向かったのだが……。
「ひい!? 悪鬼羅刹ゥ!?」
「ひい!? 近界民殺し!?」
「ひい!? 冷血の王!?」
フィルターをかけて、かなりオブラートに包まれた記憶だが……彼はだいたいこのような感じで逃げられた。
オペレーターの大半は可愛らしい女の子ばかりなので、余計に彼は傷ついた。
涙目になって距離を取られて、何とか用件を言えたかと思えば泣かれながら逃げられる。
ぼっちな彼は当然異性との交流は少なく、密かにそういう青春というものに憧れていた。しかし現実は非情である。任務中は普通に接すことができるのに、何故プライベートになるとこうなるのだろうか。恐らく永遠に解明されない謎だ。
彼は、思わずボーダーを止めて実家に帰りたくなったが、何とかギリギリ踏み止まった。
彼にはまだプランがある。プランAが破られた以上、プランBを始動させるしかない。
「あら? 珍しいわね、最上君」
早速彼は目的地である三輪隊の隊室に向かった。
そして出迎えたのは、彼とよく話すランキング二位の月見蓮だ。背後には、報告書を書いているのか、三輪隊の面々が机に座って作業している。米屋は難しそうな顔をして唸っていた。どうやらこういう事は苦手らしい。彼がやって来たことに気が付いた彼らは、それぞれ軽く挨拶をし、彼もそれを返す。
彼女は突然訪問した彼に気を悪くした素振りを見せず、薄く笑って招き入れた。
「丁度、良いコーヒーがあるの。良かったら飲む?」
彼女の気づかいに対して、彼は申し訳なく思いながらも断った。
彼は、どうもコーヒーの苦さが好きになれない。いわゆる子ども舌だ。
月見は、それを了承すると冷やしてあった麦茶を出して使われていない机の上に置いた。
彼の話を聞く、ということだろうか。
促されるまま彼は部屋に入り、椅子に座って月見と向かい合った。
「それで、今日はどうしたのかしら?」
彼が此処にやって来た理由に興味があるのか、丁度休憩しようとしていたのか、三輪たちはそれぞれ飲み物と菓子を出した。
月見の問いに対して、彼は先ほどまでフリーのオペレーターの子たちに放った言葉を、そのまま目の前の彼女に投げかけた。
――自分の隊のオペレーターになってくれませんか?
「ブフォオ!?」
その言葉を聞いた三輪はコーヒーを吹き出し、饅頭を食べた米屋はむせ、書類をまとめようとした奈良坂は紙吹雪を作り、古寺は眼鏡をずり落とした。
対して、言われた本人である月見は……。
「え……?」
呆然としていた。
あ、かわいいと最もダメージの少なかった古寺が、普段見られない月見にギャップを感じていると、三輪が高速で彼の元に飛び掛かり問い詰めた。
「ど、どういうことだ最上!」
三輪の剣幕にビビりながらも、先日のステーキの一件からか、彼は答えることができた。
自分は過去の自分を超えたい。
「ああ。なんとなく分かる」
そのためにも、自らBからAに上がるべきだと思っている。
「ああ。それも分かる」
そのためにはランク戦に出ないといけない。
「ああ。その通りだ」
だから月見さんを誘って部隊を作りたい。
「な ぜ そ う な る。
何処かの部隊に入れば良いだろう! なのに何故貴様は一人で! ソロで! 単独で! 殴り込もうとしているんだ!!?」
この時期に募集をかけても集まる者などいないだろう。寄せ集めのチームなど、ランク戦経験のある彼らにとっては良いカモだ。
つまり、彼は三輪の言うように一人でランク戦に挑むことになっている。
やはりあの時話題作りに振ったあの言葉がいけなかったのだろうか。変な知識を付けてしまったのが原因なのだろうか。
少なくとも、三輪にも原因があり、だからこそ強制的に辞めさせることなどできなかった。
「落ち着いて三輪くん」
そんな彼を諫めるのは月見だ。
彼女は彼の瞳をジッと見ると……ふうと息を吐いた。
放っておけない、と思ったのだろうか。彼の瞳からは幼馴染の彼と似たような輝きがあった。だからこそ――支えたくなった。
「良いわ。受けましょう、その話」
「月見さん!?」
「三輪くんたちも十分強くなったし、丁度良いのかもね。後続の子を見つけたら、正式に最上隊のオペレーターをしましょうか」
それは、事実上の三輪隊からの脱隊宣言だった。
しかしそれは、三輪たちの成長を認めた上での発言であり、優しい物であった。
そして、彼らが成長したのは、できたのは目の前の彼だ。
別に恩返しというわけではない。ただ、彼と一緒に暴れるのも楽しいかも、と思ったからだ。
「と言っても、急な話だから今シーズン中は三輪隊との兼任になると思う。それでも構わない?」
彼女の問い掛けに、二人とも頷いたのであった。
◆
――二月一日。B級ランク戦初日。
彼は、控室に向かって歩いていた。月見からそろそろランク戦が始まるから来いとメールが来たからだ。
「――最上君」
ふと、背後から声をかけられる。
彼が振り返ると、そこには意外な人物が居た。
ボーダーの最高責任者――城戸司令。
彼は軽く挨拶をすると、城戸司令も返した。
「結成おめでとう、と言った方が良いのだろうか」
その言葉に対して彼は素直に礼を述べ、しかし城戸司令は瞠目すると……口を開いた。
「……やはり、許せないか」
それは、彼に対しての問いなのか。独り言なのか。
しかし、彼はその言葉の真意を察することができず、頭をかしげる。
許せない……その言葉は、彼とはほど遠いものだ。
ふと頭に過ぎったのは周りの人々……しかし、それはお門違いだとすぐに払拭する。
「……いや、何でもない。ランク戦、頑張りたまえ」
城戸司令はそう言うと、その場を後にした。
結局何をしに来たのか分からないまま、彼は月見の待つ控室に向かった。
――今日の相手は手強いのだから。
◆
「よし、もう一度作戦を確認するぞ」
控室にて、玉狛第二は最後のミーティングを行っていた。
今日が彼らの……そして彼のデビュー戦だ。
初めてのランク戦に、修は緊張し、それを見た他の二人は逆に落ち着いていた。
「
彼がランク戦に参加すると聞いた時、修は驚いた。
何故この時期に? 彼が記憶を無くした今、何を考え、何を想ってそう選択したのか修には分からない。
しかし、一つだけ分かるのは……彼がA級への道の一番初めの壁で、そして何れ超えなくてはならない存在だということ。
だからこそ、修は……いや、修たちは何としても彼に勝つ必要があった。
「記憶を無くしているとはいえ、あいつは強い。ぼくの知る限り、入隊時点で緑川に10対0で勝ち越している」
「ふむ……おれもまだトリガーに慣れ切っていないから、勝てるかどうか微妙だな」
一応全員彼の動きを
「狙撃に弱いみたいだけど……」
「ごめんなさい……私、まだ」
確実に彼は倒す方法ならある。しかし、玉狛第二にはそれをすることができない。
千佳の謝罪に修と遊真は気にするなと言う。
彼女の力を頼らなくても、彼を倒す方法は他にもあるからだ。
話し合った結果、その方向性で行く事に決まり、しかし修はまだ迷っていた。
「でも……良いのか空閑? お前は――」
「おれたちはA級を目指すだろ? そしてこの一戦は絶対に勝たないといけない……それに――」
自分はもう迷わない。
全力で当たり、そして勝つ。
それが、友に対しての礼儀だ。
遊真は、心中でそう呟いた。
◆
誰もがこの一戦に注目していた。
誰もがこの戦いを待ち望んでいた。
――誰もが、彼らの存在に高揚していた。
「皆さんこんばんは! 海老名隊オペレーターの武富桜子です!
B級ランク戦新シーズンいよいよ開幕。初日、夜の部を実況していきたいと思っています!」
桜子の明るい声が多くの者の耳に届き、今か今かとランク戦の開始を待ち望む。
「今回、解説席にお越し下さったのは、『オレのツイン
「どうもー。佐鳥賢でーす」
「そして、その佐鳥先輩と同じ隊である……」
「木虎藍です。よろしくお願いします」
「はい、どうぞよろしくお願いします!」
注目度の高さから、非番のA級隊員の姿がちらほらと会場に見え、席に着けず立ったまま観戦している者も居た。
「それにしても、何で最上はいきなりB級ランク戦に参加したんだ?」
「やっぱ、あの三雲修が出るからじゃあねえの?」
「なるほど。壁として立ち塞がる、って感じか」
噂を信じている隊員たちは、桜子の実況を聞きつつそう判断した。
あまり彼らを知らない人間からすれば、今日の戦いはライバル同士の激突……となっている。
しかし、件の彼らを知っている者からすれば話は変わって来る。
仕事を終わらせて観覧席に着くことができた嵐山は、周りの話を聞きつつ隣の時枝に視線を向ける。
「充はどう思う?」
「そうですね……正直、噂の方はデマだと思います」
「ふむ……何でだ?」
「彼は、玉狛第二のメンバーに対して思入れが無いからです」
最上秀一の記憶喪失を知っている者は少ない。
A級以上の隊と一部のB級隊員と少人数だ。
彼は今大勢の人間に注目されている。大規模侵攻の際に、彼の戦闘風景がネットに流出してしまっているのだ。
その結果、彼に憧れて入隊を希望する民間人が増え、既に入隊しているC級隊員たちは意欲的に訓練に励んでいる。
そんな彼が記憶喪失だと判明するとどうなるのだろうか。
少なくとも、言いふらす必要はない。
そんな数少ない人間の一人である時枝は、木虎のランク戦の初歩的な説明を耳にしながら、自分の見解を己の隊長に述べる。
「彼は三輪隊以外にはあまり関心がありません。最近はそれも改善されていましたけど……。
そんな彼からすれば玉狛第二は初対面の相手であり、おそらく彼自身はノーマークです」
「ふむ……そうか」
嵐山は、あの時のことを思い出す。
自分の弟と妹の通う中学校にイレギュラーゲートが開き、隊務規定違反を犯すことを承知の上でトリガーを使った修。そして、そんな彼を助けた遊真。
あの時、秀一は修に感謝していた。自分が間に合わなかったことを気にして、上層部に訴えたほどに。
しかし、彼はそのことを覚えていない。
「……」
「嵐山さん」
「ん、何でもないよ。ただ――」
――結果はどうあれ、この戦いは見届けたい。
入隊時から何かと気にかけていた三人を思い出しながら、嵐山はそう言った。
試合が、始まった。
◆
それぞれの隊員たちが転送され、試合が開始される。
定石通りに合流を果たそうと、吉里隊と間宮隊は動いた。しかし、そんなものは関係ないと突っ込んでいく者たちが居た。
遊真と彼だ。
B級下位など相手にならない。自分の実力から来る自信がそうさせたのか、彼らは最速で接敵した。
間宮隊、吉里隊はそれぞれ自分たちに向かって来る敵を見据えた。
吉里隊の元には遊真が、間宮隊の元には秀一が向かっていた。
「動きが止まったところを集中攻撃だ! 落ち着いて行け!」
「はい!」
「はい!」
「全員、追尾弾の用意を!」
「了解!」
「了解!」
しかし、誰もが分かっていたのかもしれない。
「――な!?」
吉里隊は、遊真の動きを見切ることができずスコーピオンで斬り裂かれた。
遊真にとって、B級下位である彼らの動きは止まって見えた。
相手が反応する前に急所を斬り裂くその姿は、見事と言う他ない。
「バカな!? 三人分のハウンドを、見切ったーー!?」
間宮隊は、三人同時の両攻撃によるハウンドの嵐を叩き込もうとしていた。
しかし、彼のサイドエフェクト『体感時間操作』が、その嵐の中にある安全圏を彼にじっくりと教えた。
彼はハウンドの誘導半径を見切ると、グラスホッパーで前へと出た。
そして二つのスコーピオンを手に、すれ違いざまに間宮隊を一掃!
シールドを展開させる間もなく首を撥ね飛ばすその姿に、観覧席に居た隊員たちは首を抑えた。どうやら夏の思い出を思い出したらしい。
開始から五分と経たず、二つの隊がリタイアした。
玉狛第二、最上隊にそれぞれ3ポイント加算される。
そのことを聞かされた彼は、思わず眉を顰めた。当初の予定では、獲られる前に獲るつもりだったのだ。
だが、それでも想定内。
彼は、ゆっくりと背後を振り返る。
「……シュウイチ」
吉里隊を倒した遊真が、彼の前に立っていた。
既に戦闘準備に入っている彼は外界の聴覚情報を得ることができない。
油断なく二つのスコーピオンを構えて、目の前の小さな敵を見据える。
(……思えば、シュウイチと戦うのは初めてだ)
遊真も、スコーピオンを構える。
(なんでだろうな……こいつの記憶を取り戻すのに、なんでこいつを倒さないといけないんだろう)
なんて皮肉なんだろう、と思った。
救いたい、取り戻したいと思った友が、自分の前に立ち塞がっている。
いや、違う。自分たちもまた、彼の前に立ち塞がっているのだ。
何故彼がランク戦に出たのかは分からない。だが、記憶喪失のことと無関係ではないことは、何となく分かる。
そう考えると、酷く滑稽だと思う。
――だが。
(なんでだろうな……)
遊真は――笑っていた。
(なんで、おれはワクワクしているんだろうな)
大規模侵攻が終わった後、遊真は強く願っていたことがあった。
それは、彼と遊ぶこと。
彼の戦士としての実力は高く、遊真は戦いたいと思っていた。
病室で記憶喪失と聞いた時は諦めていた願いだが――今、それが叶った!
(――どっちみち、おれはこいつと全力で戦わなくちゃいけない。だったら!)
「今、この瞬間だけは――全力で行かせてもらう!」
――遊真が、駆けた。
エピソード・オブ・レッドバレッドが書けず
かと言って本編が書けるかと言えばそうでも無く
モガミンが玉狛第二に入るIFストーリーが書けた。
でも少なくとも、本編のB級ランク戦が終わらないと公開できそうにないです。
などと建前を書きましたが、投稿遅れてすみませんでした。
鬼ぃちゃんと主人公の出会い編はしばらく延期しそうです。