勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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投稿が遅れてしまってすみません。
言い訳はしません
なので、一話分書いた外伝を同時に投稿することにしました。


第33話

 中位グループ入りまで目前。

 今期こそは上に昇ってみせる。

 決意を新たにB級ランク戦に臨んだのは常盤隊のリーダー、常盤守。

 先日の大規模侵攻を無事に生き残り、心機一転部隊皆で頑張ろうとしていた彼だったが……。

 

 第二戦目にして心が折れそうだった。

 

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

『伝達系破損、緊急脱出(ベイルアウト)

 

「くそ!! 斉藤がやられた!」

「隊長! やっぱり此処は一度退くべきです! このままでは私たち――海老名隊、早川隊全員彼に狩り尽されるだけです!!」

「そんなこと、分かっている!」

 

 だが、此処で背を向けた瞬間トマホークで一掃されるのは分かっている。

 だからこそ、彼らは距離を取って攻撃し続けていた。いや、そうせざるを得なかった。

 

 初めは、自分たちにも勝機があると思っていた。

 最上秀一は狙撃に弱く、彼の隊には狙撃手が居る。海老名隊、早川隊を上手く使って包囲網を敷けば、運が良ければ彼を倒すことができるのかもしれない。

 実際、途中までは作戦通りに事が進んでいた。早川隊が一人倒された時は焦ったが、周りからの集中攻撃に防戦一方の彼を見ていけると思った。

 だが――。

 

「っ!!?」

「宇都宮!!」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 彼の放った旋空がチームメイトを真っ二つにし、最上はそれを一瞥すると素早く転身させて弧月を振るう。そして背後から放たれた弾丸トリガーを全て撃ち落とすと、バイパーを使って最も近い海老名隊に急襲。

 それを見た常盤は、顔を青くさせたまま後ろに向かって走る。

 

「逃げるぞ!」

「え!?」

「このままじゃ、俺たちまであいつの餌食だ! それくらいなら緊急脱出(ベイルアウト)した方がマシだ!」

 

 不意打ちに弱いと聞いていた。しかし、彼はそんなこと知らんとばかりに四方八方から襲い掛かる攻撃を全て叩き落とし、そして狙撃手を妙に長い旋空弧月で斬り裂いた。

 もう、彼に勝てる気がしなかった。

 こうして逃げている間にも海老名隊だと思われる緊急脱出(ベイルアウト)の光が空を駆け――それを追うように二つの光が走る。

 

 俺たち(B級下位)じゃあ足止めすらできないのか……!

 

 背後から来る恐怖に、彼は冷や汗を大量に流す。

 自分たちは負けるだろう。

 今期も中位に行く事はできないだろう。

 ただ、それでも……このままやられるのは嫌だ。

 せめて一矢報いてやる!!

 もう一人のチームメイトも同じ気持ちだったのか、顔を強張らせて立ち止まり振り返る。

 彼は弧月を居合いの形で構えており、長い旋空――生駒旋空を放とうとしているのが分かった。

 相手の動きが分かっているのなら、最善手を取りやすい。

 常盤隊の二人は身を寄せ合ってメイン、サブ両方を用いたシールドによるフルガードを発動させる。なるべく面積を小さくして防御力を上げるために。

 防いだ後に二人で襲いかかる。

 そう考えていたが――。

 

 ――ギギッギィイイン!!

 

「……え?」

 

 甲高い音が()()鳴ったかと思うと、彼の視界は天地逆さになっていた。

 変わりゆく景色の中、彼が最後に見たのは……。

 

 

 刺突を受けたかのように穴の空いたシールドと、首から上を無くして倒れていく己の体だった。

 

 

 

 

「やっぱ何回見てもエグイなあ、モガミン」

 

 B級ランク戦ラウンド2にて、己以外の敵を全て倒し12点という大量得点を得た彼。最上隊の勝利を誰よりも喜んだ三輪が、鈴鳴支部の近くにある焼き肉店『寿寿苑』で祝勝会を開いた。今回は彼の奢りなようで、三輪隊の面々は嬉々として参加した。

 ジュージュー焼ける肉を待っている間、米屋はスマホで保存していた今日のランク戦を見つつ呟いた。己の試合を何度も再生する米屋に彼は抗議する。何だか恥ずかしかったのだ。誰が編集したのかは分からないが、映像の中の自分は弧月片手に無双しており、何かの映画のワンシーンのようだった。

 

「でも、戻って来たって感じはするなあ」

 

 そんな彼の抗議を無視して米屋はさらに続ける。

 大規模侵攻前に戦った彼は強かった。

 上位ランカー以外では相手にならず、よく太刀川や風間相手に喰らい付いていた。あの時は、いつの間にか己を追い越し、どんどん高みに昇っていく彼を見るのが好きだった。そのことにちょっとした悔しさを覚えながらも、しかしやはり弟分の成長は自分のことよりも嬉しかった。

 だからこそ、大規模侵攻でそれら全てを失ったと聞いた時は――心が締め付けられた。それと同時に、自分では助けることができないことが腹立だしかった。

 自分はお世辞にも頭が良いとは言えない。だから慰めようとしても不用意な言葉を言って逆に傷つけるだけだ。

 だから自分に出来るのは見守ることか模擬戦をして感覚を取り戻す手伝いをするくらいだ。

 それが今回形に現れたようで嬉しかった。

 だからこそ、こうして本音が漏れてしまい、三輪に睨まれる。

 

(やっべ……失言だった)

 

 心なしか他の隊員の視線が痛い。月見の氷のような視線も、狙撃手師弟コンビの無言の抗議もヒシヒシと彼の体に突き刺さる。今この瞬間だけは影浦のサイドエフェクトが発現したかの錯覚を覚えた。幸い彼は気にしていないようだが、隣の鬼ぃちゃんの顔がやばい。鬼を超えて阿修羅になりそうだ。

 

「そ、そう言えばいつの間に生駒旋空を使えるようになったんだ?」

 

 話題を変えるためか、米屋は彼にそう尋ねた。

 その場をしのぐための言葉とはいえ、実際のところ気になっていたことだ。

 生駒旋空はとにかく扱うのが難しい。剣を振るタイミングと旋空のタイミングが合ってなければ動く相手に当てることなど不可能だ。

 まあ、彼の場合はサイドエフェクトでその問題を解消したようだが。

 聞かれた彼は、ランク戦初日を終えた夜に生駒に捕まって、その日の次の日に教わったと述べた。それを聞いた三輪が『余計なことを……』と呟いているのが見えたが、米屋は無視した。

 しかし、彼の才は凄まじいなと米屋は舌を巻く。

 そしてそれは古寺も同じなのか、頬に汗を伝わせながら言葉にして出した。

 

「たった数日であの旋空弧月を自分の物にしたのか? 相変わらず凄いな……!」

 

 一番最初に生駒旋空で狙撃手を落とした時は驚いたものだ、と米屋はスマホの画面を見ながら思う。

 これだけでも凄いのに、さらに頭のオカシイことをしているのが目の前の少年だ。

 

「でさ、モガミン――コレ、ナニ?」

 

 そう言って米屋が見せたのは試合の終わりくらいだ。

 常盤隊の二人が身を寄せ合って両防御するが、次の瞬間彼が弧月を一振りすると複数の剣戟の音が鳴ると相手の首が斬り飛ばされていた。

 シールドに穴が空いていること、弧月を振ったことから旋空を使ったのは分かるが、それでも不可解なことがある。

 何故、シールドに複数の穴が空いているのか? ということだ。

 

「あ、本当だ。シールドの破られ方がおかしいですね」

「おそらく、生駒旋空の応用だろう」

 

 古寺も同じように疑問に思い、その問いに答えたのは三輪だった。

 焼けた肉を彼の皿に移しながら、不可解な旋空の種明かしをする。

 

「生駒旋空の応用?」

「ああ――0.1秒以下の旋空を何度もな」

『な!?』

 

 剣を振るい、剣先の延長上に相手の急所が瞬間、彼は三輪の言うように0.1秒以下の旋空を何度も発動させていた。それによって弧月の最も威力の高い位置である剣先がシールドを襲い、そのままぶち抜いて相手の首を斬り飛ばしたのだろう。

 ちなみに、この時の射程を彼も把握していない。よって、使いどころが難しく、遠距離の相手に当てるいうよりも、近、中距離の相手のガードを崩すための攻撃として使われている。

 

「でもそれなら、突きの方が当てやすくね?」

「こいつのサイドエフェクトなら振る時の方が当てやすい。最初から一点を狙うよりも、直線上の一定範囲で旋空を放てば良いのだからな。

 それに、相手に悟られにくいというのもある」

 

 実際はその発想に至らなかっただけだったりする。

 後日、彼は試してみたものの何度も練習したせいで変な癖が着いてしまったせいで、苦労することとなった。これもサイドエフェクトの弊害だろうか。

 

「ああ。確かにこんな攻撃予測して避けるとかめんどくさいわ」

「いわば、旋空弧月の狙撃ですね。肝心の射程距離が分かりませんが」

 

 それでも、この攻撃が通じない相手がいるだろう。

 例えば太刀川なら剣筋を見切って対応しそうだ。二宮はまず崩せるかどうか分からない。

 他にも未来を視る男や彼の剣技を学習している男等々……。

 そう考えるとボーダーの上位陣たちの実力は化け物だと実感した。

 だが、それ以上に……。

 

(この技も、こいつにとっては手段の一つでしかないことか)

 

 三輪の取った肉を食べる彼を見つつ、思わずため息を吐いた。

 

(だが――もう、あんな目に遭わせるくらいなら、まだマシか)

 

 話に夢中で食べ損ねたとごねる米屋の声を聞きながら、三輪は心中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

ふぉういへば(そう言えば)ふぎのふぁいせんあいへは(次の対戦相手は)ふぁれふぁんだ?(誰なんだ)

「汚いぞ、陽介」

 

 口いっぱいに肉を頬張った米屋に、奈良坂が苦言を零す。

 米屋の言葉を理解した月見は端末を操作して、次の対戦相手の情報を見る。

 

「次は、鈴鳴第一、那須隊との三つ巴ね」

「……んく。おー、マジか。こりゃあ手強いな」

 

 それを聞いた米屋は彼が次に戦う相手の姿を思い浮かべながらそう呟いた。

 鈴鳴第一にも、那須隊にも点を取るエースが居る。

 鈴鳴には№4攻撃手の村上鋼。強力なサイドエフェクトを持ち、彼は過去にボコボコにされた苦い思い出がある。彼のバイパーも、スコーピオンも村上には通じず、それどころか戦う度に勝てなくなるほどだ。……最も、それは夏から秋の頃までのことだったりするが、この話はまた別の機会に。

 那須隊のエースは隊長である那須玲だ。彼女はリアルタイムでバイパーの弾道を設定できる数少ない射手であり、また合成弾の使い手でもある。

 

「……最上、次の試合は多分苦しいものになると思う」

 

 そう言ったのは古寺だった。

 

「今の君は、攻撃手として村上先輩に、射手として那須先輩に負けている。今までの戦いから、そして順位から君は注目されるはずだ」

 

 つまり、これまでのようにこちらの思惑通りで勝つことが――いや、動くことができないのかもしれない。

 ごくりと肉と共に不安を飲み込みながら、次の試合を思う。

 ここを勝たなければAには上がれない。

 ここが踏ん張りどころだ――と。

 

 

 

 

「次の試合は、最上くんとか……」

 

 次に最上隊と試合をする鈴鳴支部の面々は、試合の記録(ログ)を見ながら険しい表情を浮かべていた。

 新たな技を身に着けた彼の強さは、決して侮ることができないものだ。

 ラウンド1の時は、怪我の後遺症のせいか動きが鈍かったが、ラウンド2ではまだぎこちないものの、彼らが良く知っている最上秀一がそこに居た。

 

「ど、どうしましょうーー! あいつ絶好調じゃないですかー!」

「ああもう。そこまで騒がないのっ!」

「でも、今先輩も見たでしょ!? あいつのあの旋空! あんなの狙撃手の天敵ですって~」

 

 確かに、0.1秒で伸びてくる弧月を狙撃手が避けたり防いだりするのは難しいだろう。実際、海老名隊、常盤隊の狙撃手もやられた。

 そしてもし防げたとしてもシールドが持つかどうか……。

 今もそれが分かっているのか、珍しく太一に強く出れないでいた。

 

「鋼はどう思う?」

「……正直、五分五分かと。なるべくあの旋空を受けないように距離を詰めるつもりです」

 

 生駒旋空もあの特殊な旋空も確かに脅威だ。しかし、村上は過去の戦いの記憶から最適解を導き出していた。

 あの特殊な旋空は元々生駒旋空を応用したものだ。つまり、距離を詰めればあの旋空の利点を潰すことができる。

 

「それでも、今のあいつに勝てるかどうか分かりません。ラウンド1からラウンド2の成長速度が異常なので、普段通りに仕掛けると――オレでも危ないかと」

「そっか……」

「なるべくあいつはオレが引き受ける予定です。でも、できれば三人で倒したいところです」

「うん、そうだね。じゃあ、次は那須隊だけど――」

 

 

 

 

 

 そして、那須邸でも、那須隊の隊員たちが集まって作戦会議を開いていた。

 端末で彼の試合の記録(ログ)を見て苦い表情を浮かべている。

 

『相変わらずやばいですね。動きが変態すぎる』

 

 通信越しに那須隊のオペレーター志岐小夜子が感想を述べた。

 彼の異常性は直接戦闘をしないオペレーターでも分かりやすい。

 

『しかも、那須先輩と同じバイパー使いであり、合成弾の合成速度も速い。これは強敵ですねー』

「うー……」

『で、真っ先に狙われるのは――狙撃手』

「もう! 小夜子先輩酷いです!」

 

 志岐に不安を煽られて涙目になるのは那須隊狙撃手の日浦茜だ。

 先日の試合を見れば分かるが、彼は狙撃手を優先して狙っている。元々狙撃手は補足されたら狙われるものなのだが、ここで問題なのは相手が彼だということ。

 過去の行いで彼はボーダー内において女性受けが悪い。といよりも恐れられている。一時期流行った噂と彼の戦闘時の苛烈な行い、そして何といっても直視すれば思わず震え上がりそうになる無表情。それらがの三つの要素がまるで合成弾のように合わさった結果がこれだ。名付けるとすれば恐怖炸裂弾(ヒュドラ)だろうか?

 そんな彼が自分を斬りに来ると志岐に恐怖成分2割増しで言われた彼女は、こうして彼に怯えてしまっている。これでは次の試合で真面に戦えるかどうか怪しい。

 

「小夜子ちゃん、あまり茜ちゃんをイジメないであげて?」

『はーい』

「茜ちゃんも頑張ろう、ね?」

「うう……は、はぁい」

 

 この部隊の隊長である那須玲は、小夜子を少し注意し、怯える日浦を慰めた。従兄弟である奈良坂から彼のことは聞いているのだが……あまり接点が無いため判断できないでいた。

 

「でも、実際どうする? 正直勝てる自信がないけど……」

 

 そう零したのは那須隊の攻撃手熊谷友子。

 彼の弧月による怒涛の攻めを見て、自分では荷が重いと感じているようだった。そしてそれは鈴鳴第一の村上に対してもそうであり、対戦相手を知った時は思わず顔を顰めてしまったくらいだ。

 

「多分、最上くんは距離を詰めてくると思う。射手としては私の方が強いから」

『じゃあ、鈴鳴対策のあの作戦を彼に当てはめるということで?』

「うん。多分、鈴鳴も同じような形で彼の対策を立てていると思うから、私たちはそこを突いて――」

 

 

 

 古寺の言うように、次の試合は彼にとって厳しいものになる。

 何故なら、それぞれのエースが彼を倒そうとマークしているのだから。

 そのことを思い知るのは――B級ランク戦ラウンド3にて。

 

 

 




ちなみに、玉狛は生存点含む8点を獲得して合計14点で、9位になっています。

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