日浦 来馬
村上 ぼっち 那須
熊谷 本物の悪
解説席に座った風間隊の万能手歌川は、今回の実況役の東隊オペレーター人見摩子が来るまでの間思考に没頭していた。その思考の先は今期のB級ランク戦の嵐の一つ、最上秀一だ。
彼は、歌川から見て危なっかしい後輩だった。
彼と初めて会った時――防衛任務の時は特にそう思った。こちらの制止を振り切ってトリオン兵に突撃し、スコーピオン片手に獣のように襲い掛かる。当時の彼を風間は「突っ込んで死ぬのはあいつの自業自得だ」と、菊地原は「自分を抑えられないんじゃ所詮B級止まりだよ」と冷たく評価した。言い過ぎではないのか、と歌川が一応のフォローを入れるも、オペレーターの三上の指示を無視したり、何度
当の本人はぼっちをこじらせて真面に会話できなかったが。
しかし、一度だけ彼と会話が成立したことがある。それは、彼が歌川の戦闘スタイルについて聞いて来たことだ。シュータートリガーとスコーピオンを使う歌川は、彼の目指すポジションに近かったのかもしれない。
だからこそ歌川が驚いた。あの最上が自分に質問をするなど、と。三輪以外には教えを乞おうとしないと良く知っているだけに。
歌川が彼を見る目が変わったのは、夏に行われた合同チームによる四つ巴の模擬戦だ。最初は乗り気ではなかった風間が、途中からは彼の力を認め、そして粘っていく彼の姿に魅せられた。その後に彼を鍛えるように言われて、戸惑いつつも歌川は受け入れた。
今にして思えば、歌川はあの時間が好きだったのかもしれない。
自分たちの力をどんどん吸収していく彼に、喜びと同時に負けられないという気持ちが蘇り――だからこそ記憶を失ったと聞いた時はとても悲しく思えた。
それは菊地原も同じようで。
「なんで
と珍しく弱々しい声で呟いていたのが印象的だった。
かと言って自分たちに何かできるという訳でもなく、歌川は彼のことを気の毒に思っていた。
そう思っていたのだが……。
「……どうした歌川?」
「いえ、何でもないです奈良坂先輩」
どうやら彼は自分が思っているほど弱くはないらしい。
大規模侵攻での自分に戸惑っていたようだが、今ではそれを乗り越えてさらに強くなろうとしている。取り戻す、と言った方が正しいのかもしれないが。
そして、そんな彼の背中を押せる三輪隊の面々と彼の絆は固いものだと思った。
今回の試合、最上秀一は勝ち目がほとんどないと思われている。
そしてそれは歌川も同様で、頑張っている彼が再び壁に激突するのではないかと考えている。しかし隣の奈良坂はいつも通りのようすで、まるで彼が勝つことを信じているように思えた。
「あの、奈良坂先輩」
「なんだ?」
「最上は、今回の試合に勝つことができるでしょうか」
それどころか点を取るのも難しいのでは。
その言葉を飲み込んで歌川は奈良坂を見る。
奈良坂は彼の言葉を聞いていくらか考えると――。
「まあ、難しいだろうな」
「え、そんなあっさり……」
「だが、そんなことはあいつ自身分かっている。だからこそ今日まで対策を練っていたし……それに」
この程度の壁を乗り越えられないようじゃ、三輪に着いて行くことなどできやしない。
そう言って、奈良坂は試合開始を待つ。
――五分後、試合が開始された。
◆
全隊員の転送が完了され、彼の目に飛び込んできたのは囲むようにそびえ立つ建設物。どうやら今回那須隊が選んだのは工業地区のようだ。
バッグワームを展開しつつ、彼はレーダを見る。試合前に月見に言われたのだが、このマップは他のマップに比べると狭く、試合時間も少ない。
点在する他の隊員の反応から、彼は思わず舌打ちした。
『運が悪いわね。囲まれているわ』
月見の言うように、彼は相手部隊に囲まれるようにして転送されてしまっている。
これでは狙撃手を倒しに行く前に、那須か村上に阻まれてしまう。
ゆえに、彼が取れる行動は速攻。
バッグワームを使ったことで空いた空間に向かって、彼は建造物を足場にして駆け抜けた。トリガー構成の問題上、今回はグラスホッパーを入れていない。よって普段よりも機動力が落ちているが、那須隊、鈴鳴第一のどちらの狙撃手も彼よりも足が遅い。気づかれる前に近づくことができれば生駒旋空で斬り倒すことができる。
――だが、彼はとことん運が悪いらしい。
「旋空弧月」
狙撃を警戒し、サイドエフェクトを使用していなかったおかげで、その声は聞こえた。
彼はバッグワームを解いてサイドエフェクトを発動。そしてメイン・サブを用いた集中シールドを展開。
すると左から力強い剣戟の音が鳴り響く。トリオン体にダメージは無いが、空中で攻撃を受けた彼は体勢を崩す。それだけの威力があるということは、先ほどのシールドを削ったのは剣先だということ。もしメインだけでシールドを展開していたら、そのまま抜かれていたのかもしれない。
射線が通るのを嫌った彼は壁を足場にし、素早く地面に着地して目の前の相手を見据える。
そこに居たのは鈴鳴第一の攻撃手、村上鋼。左手にシールドモードのレイガスト。右手には弧月を構えて、静かにこちらを見ていた。
『こちら村上。最上と接敵しました。予定通りに抑えますので、来馬先輩と太一は日浦を獲りに――』
『トリオン反応増大!!』
『――爆撃注意!』
相対する二人の元に、オペレーターからの警告が入る。
不規則の軌跡を描きながらトリオンの弾丸が彼らに降り注ぐ。
それを確認した二人は目の前の相手を無視し、各々回避行動に移る。
瞬間、先ほどまで居た地面のみならず、周りの建造物までもが爆撃によって粉砕されていく。
不規則の弾道とこの破壊力から、彼はすぐにトマホークだと気づく。そしてそれができるのはあの人しか居ない。
巻き上がる砂埃のを抜けて、彼は建造物の屋上に降り立つ。離れた位置にはレイガストのスラスターで上まで昇って来ていた村上が、彼ともう一人の相手を見据えていた。
「――くまちゃん、茜ちゃん。援護、お願いね」
那須隊のシューター、那須玲が己の体にバイパーを纏わせてそう言い放った。
◆
「試合開始早々、各隊のエースが激突しました。しかし戦況はおそらく最上隊が苦しいでしょう」
マップ中央では那須、村上、彼が集結していた。
先ほどの攻防から分かる通り、那須隊、鈴鳴第一は彼狙いのようだった。
「エースを援護するべく他の隊員も動きます」
「最上を挟んでそれぞれの狙撃手が位置に着いたな」
奈良坂の言うように、狙撃手はすでに狙撃ポイントに到着し、いつでも彼を撃てるようにしている。鈴鳴第一の来馬、那須隊の熊谷もマップ中央に迫りつつある。
「それだけ最上隊長がマークされているということですね」
「はい。最上は元々足が速いですから。今回はグラスホッパーを持っていませんが、足場の多いこのマップならすぐに狙撃手の元に辿り着けます」
「那須隊も鈴鳴もそれが分かっているから、最上以外を極力無視しているのだろうな。初めの転送位置を考えれば、熊谷隊員も来馬隊長も敵狙撃手を討てていた」
逆に言うと、そうでもしなければ彼を止めることができない。
もっと言えば彼にサイドエフェクトを使わせてしまう、と言ったほうが正しい。
彼の強さの根底には体感速度操作があり、それを如何に
◆
「最上くん……!」
そんな試合を見て苦悶の表情を浮かべるのは唯我だった。
自分の可愛がっている後輩のピンチに思わず彼の名前を呼んでしまい、それを隣で聞いた出水が静かに彼を見た。
出水は思った。こいつも変わったな、と。
昔の彼なら「まだまだ修行が足りないね」だとか、己の力量を弁えず、自分をイラつかせる言動を繰り返していたのだが、それも減ったように思えた。
そして、そのような言動をするのは決まって彼の前であり、こうして本人が居ない時はただ真摯な態度で彼を見守っている。
何故なのか。その辺りの唯我の心境の変化に正直出水はさほど興味は無い。
ただ、唯我が彼のことを気にかけていることは知っている。
何時からだろうか。彼がボーダーになってから? A級部隊と防衛任務をするようになってから? 特別訓練をするようになってから? 大規模侵攻で記憶を失ってから?
詳しい時期は分からない。だが――。
(こいつも、随分と成長したものだ)
少なくとも、ボンボンだった頃に比べるとまだマシだ。
◆
いじめられすぎて
那須のバイパーをバイパーで撃ち落とし、こちらに突っ込んでくる村上から距離を取りながら彼は内心空笑いしていた。
試合前から散々言われていたことだが、かと言って納得できるかと言えばそうでもなく。自分とぶつかる前にドンパチしてくれないかなあ、と期待するも尽く裏切られて最悪の事態に。
転送位置も悪く、マップも狭い。まるで彼を負かそうと神様が運を操作しているかのようだ。
「バイパー」
「旋空弧月」
しかし、嘆いていても状況は変わらない。
襲い来るバイパーと旋空弧月を前に彼はサイドエフェクトを使う。しかし使うのは一瞬(現実時間)だけだ。
すぐさまバイパーの弾道を二人を牽制するように設定し、生駒旋空の連撃でバイパーを落とす。
そしてサイドエフェクトを解いてその場から跳び上がり、頭上に固定型のシールドを展開。それにスコーピオンで引っ掛けて跳び上がった勢いを利用して逆上がりの要領で体を捻り、足元に展開したシールドに足から出したスコーピオンで蹴って再び地面に戻る。
『くそ、外した!』
『いや、あれは仕方ないさ』
『すみません那須先輩!』
『気にしないで、茜ちゃん』
グラスホッパーの代わりにシールドを使用した空中移動はどうやら成功のようだ。
おかげで狙撃手との
しかし、そんな彼の考えとは裏腹に戦況はさらに不利になっていく。
「鋼! 遅れてごめん!」
「いえ、こちらこそ初撃で仕留められなくてすみません」
「玲、まだ平気?」
「うん、大丈夫だよくまちゃん」
……これ、詰んでね?
そう思ってしまうのも無理はない。
前方の鳥籠、後方の№4攻撃手。加えて二人の狙撃手。
それら全てが彼だけを狙い、全力で潰しにかかっている。
『……踏ん張りどころよ、最上君』
月見の言葉に彼は頷くしかなかった。
以下、ネタバレ注意
今作の主人公→二週間で正隊員ってすげえ!
今週のヒュース→0日で正隊員!!!???
なんか、主人公が大した奴じゃないように思えた。