勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第36話

 建物の屋上から、遮蔽物の多い下へと戦場を移した三部隊の戦いは、彼が不利のまま勢いを増していた。

 

「バイパー!」

 

 展開していたバイパーを那須は一斉掃射した。

 空間を縦横無尽に走る彼女の弾丸は、幾つもの光の軌跡を描いて彼へと殺到する。彼に叩き落とされないように設定した弾道は、見る者を魅了する美しさがあった。

 しかし、この戦場でそれに見惚れる者は居ない。

 

 サイドエフェクトを発動させて、一直線上に並んでいる弾丸をノーマル旋空で斬り裂いてなるべく多くのバイパーを減らす。

 一閃二閃三閃と斬撃を飛ばし、それでも搔い潜って来る弾丸はシールドで相殺する。

 このようにして彼は弧月とシールドを駆使して那須のバイパーを次々と相殺していき、一つの弾丸も残さない。

 リアルタイムで弾道を設定できる彼女のバイパーは、放って置けば後ろから撃たれる可能性がある。ゆえに全て無効化させないといけない。

 

「はあっ!!」

 

 だが、彼が戦っているのは那須だけではない。

 弧月を持った熊谷が那須のバイパーを掻い潜って彼に斬りかかった。いや、予め彼女が彼に攻撃するための空間を作っていたのだろう。おかげで不自然な穴を見つけていた彼は、熊谷の一撃を防ぐことができた。もしそちらの方へと体を潜り込ませていれば、ダメージを負っていたのかもしれない。

 しかし、それでもできたのは防御のみで、反撃をすることができなかった。熊谷もそれが分かっているからこそこうして攻めているのだろう。

 

「スラスター・オン」

「アステロイド!」

 

 さらに横からの村上の攻撃が迫る。ブレードモードにしたレイガストを投げつけられ、それに続くように来馬のアステロイドが彼を襲う。

 

「――!」

「っ……!」

 

 那須隊がこのまま抑えていれば、彼は鈴鳴の集中攻撃で緊急脱出(ベイルアウト)するだろう。

しかし、突如那須が攻めるのを止めて、熊谷も彼から距離を取った。

バイパーの雨が無くなり、両手が空いた彼はすぐさま転身してレイガストを弧月で弾く。すると運良く敵の狙撃とぶつかり、何気に落とされかけていたことにヒヤリとする彼。射線を遮るために来馬のアステロイドをシールドで防ぎながら彼は物陰に身を隠した。

それを見た那須隊は鈴鳴からの不意打ちを警戒しながら、彼を見失わない程度の距離まで退がり、鈴鳴はそれを見送った。

 

「なかなか村上先輩を狙ってくれないわね」

「こっちの狙いはやっぱりバレているみたいね」

 

 那須隊にとって村上も彼も格上の存在だ。

 普通に真正面から戦っては実力で押し切られてしまう。特に彼は射手としても攻撃手としても強く、ペースを取られれば一気にひっくり返す怖さがある。

 そしてそれは鈴鳴も同じであり、だからこそ那須隊を狙わない。

 

『それにしても、さっきのは危なかったですね。狙撃で落ちたかと思いました』

『ごめんなさい……。タイミングを失敗(ミス)しました』

「気にしないで茜ちゃん。でも、これからはもっと慎重にお願い。最上くんと村上先輩には、もっと削り合ってもらわないと……」

 

 先ほど那須隊が突如攻撃を止めたのは、これが理由だ。

 もしどちらかが健在のまま、どちらかを落としてしまえば一気に那須隊が不利になる。

 

 村上が残れば真正面から潰され、彼が残れば(ポイント)を根こそぎ取られていく。

 ゆえに、那須隊は二人が削り合うように戦っていた。

 

 

 

「そう仕向けるのなら、それを援護に一気に落とせば良い」

 

 一方鈴鳴第一は、当然ながら那須隊の思惑を見抜いていた。

 最も厄介な存在である彼さえ倒せば、後はいつも通りに試合を続ければ勝てる。射手の距離から延々と削ってくる戦法を取って来るのかもしれないが、それは既に対策済みだ。先日の諏訪隊との試合とこのステージのおかげで然程問題は無い。

 

「そうなると、やっぱり今回の要は太一だね」

「オレは防御重視で行くから、隙を見てライトニングで仕留めろ。多分それが一番確実だ」

『え~。でもさっき日浦ちゃんの狙撃、ライトニングでしたよ? それを弾くとか変態すぎる……』

『グズグズ言ってないで狙撃位置に着きなさい!』

 

 はーい。と不貞腐れながら移動する太一に村上と来馬は苦笑する。

 しかし、すぐに気を引き締めると彼らは那須隊の隠れている方とは別の方へと視線を向ける。

 

(予想していたよりも動きが鋭いな……)

 

 今までのランク戦の記録(ログ)を見ていた村上が感じていたのは戦慄だった。

 あれだけの猛攻を受けていたら、狙撃の一つや二つは命中すると考えていた。大規模侵攻で怪我をして入院し、しかしすぐに退院してランク戦に参加したことからまだ本調子では無いと思っていた。来馬はそれを気にして今回のような集中攻撃にあまり良い気をしていなかったが、それは逆に彼に対して失礼だと村上の言葉で全力で戦ってくれている。自分なら、怪我を理由に手を抜かれるのはこれ以上ない侮辱だと感じたからだ。

 彼は全力で手を抜いて欲しかったのだが。

 しかし、村上の予想に反して彼の動きのキレが戻ってきている。ラウンド1からラウンド2の体の動きの変化から理解していたつもりだったが……。

 

(知らず知らずのうちに気を使っていたのか……? いや、違うな。あいつが対応しているのか)

 

 剣の才能なら、彼は村上以上だ。それが開花した時、自分の勝ち越せない相手の一人に彼の名前が刻まれることになるだろう。

 だがそれは今じゃない。

 

(お前がなんでそこまで必死になって上を目指すのか……俺はそれを知らない。だが――)

 

 ――上に行きたいという気持ちは()()()()も負けていないさ。

 

 弧月とレイガストを持ち替えた村上は、壁越しに居る彼を強く見据えて――静かに闘志を燃やした。

 

 

 

 

「最初の激突は各部隊大きなダメージを負わず膠着状態に陥りました」

 

 彼が二つの部隊から距離を取ったことで起きたこの時間の間に、試合の解説を務める三人は開始からの今までの流れ。各部隊の狙いなどを観覧室に居る隊員たちに分かりやすく実況した。それを聞いたC級隊員たちは、彼がそれだけ警戒されていることに驚き、これからどうなるのだろうかと各々話し始める。

 

「やっぱり鈴鳴だろ。№4攻撃手の村上先輩が居るんだし」

「でも那須先輩のあのバイパーも凄かっただろ? それに初めに使ってた合成弾を使えば勝てるんじゃね?」

 

 総じて共通しているのは『最上隊はまず勝つことができない』ということだった。

 マークのされ方から考えても、人数の差的に考えても、彼が勝つ可能性はほとんど無い。それが彼らの見解であり、事実このまま試合が進めばそうなるだろう。

 今のところは大きなダメージを受けていないが、相手にもダメージを与えることができていない。

 

「お二人は、今後どのような試合結果になると思いますか?」

 

 周りの声を聞いた人見が解説席の二人にそう問うた。

 それを受けて歌川は冷静に己の考えを述べる。

 

「おそらく、この後もエースを中心とした乱戦が行われると思います。その中で最も落とされやすいのは……最上隊長ですね」

「まあ、両部隊から総攻撃を受けていますからね」

「それでも何とか凌いでいますが、それも時間の問題でしょう。

 で、他の二つの部隊ですが……今のところ優勢なのは鈴鳴第一です。彼らは今のところは最上隊長を狙っていますが、彼を無視して日浦隊員を討つのも手です」

 

 実際、試合開始直後は彼女を狙おうとする動きを見せていた鈴鳴第一。

 膠着状態の今、流れを変えるという意味ではそれもまた一つの手だ。

 

「ならば、何故それをしないのですか?」

「最上が別役の所に行くからです」

 

 人見の問いに答えたのは奈良坂だった。

 

「鈴鳴第一が日浦を、あいつが別役を狙えば少なくとも集中攻撃は免れる。

 那須隊が最上を追うにしても、日浦を援護するにしても……。

 そうなれば後は最上の独壇場です。足の速さを活かして各個撃破し、場合によってはそのまま雲隠れするのも有り。あいつの戦闘スタイルは奇襲向けですし」

 

 ここで前回の大量得点が彼に味方をした。

 もし彼が勝てなくとも、他の試合結果によるが上位に上がる可能性は高い。

 

「しかし、獲れる(ポイント)を減らされたくない鈴鳴第一はそれをしない、と」

「付け加えると那須隊もですね。鈴鳴と違うのは、自分たちの隊だけでは確実に彼を倒せないことくらいです」

「狙撃手も確実に当てることができる位置に着きました。ライトニングで仕留めるつもりなのでしょう。――おそらく、次の激突で試合が決まります」

 

 歌川の補足に奈良坂がそう付け加え、観覧室に居た隊員たちはモニタへと視線を集中させた。

 

 

 

 

 彼からすれば、那須や村上に付き合う道理は無く、相手をすればするほど時間もトリオンも減ってしまう。二つの部隊が同時に狙っているのなら尚更だ。

 

 ならば、さっさと狙撃手を落としに行こう。

 

 先ほどの狙撃は運良く弾いたレイガストに当たったことで被弾はしなかったが、逆に言うと彼が気付くことができない狙撃が現れ始めているということ。月見曰く、弾速と威力からライトニングだと思われる。つまり相手はいつもよりも近づいているということ。

 それならば、何とか村上たちを振り切って狙撃手を落とせば試合が楽になるのかもしれない。ただ、相手も確実に当てるために近づいたのだから注意が必要だが……。

 それでも、乱戦中に何度も狙われるよりはマシだ。

 

 そうと決まれば話は早い。弧月を鞘にしまって両手を胸の前で掲げる。

 すると彼の手から二つのトリオンキューブが生成され――それらは一つキューブへと合成された。

 バイパー+メテオラ――トマホーク!

 生成したトマホークを八分割し、それらを那須隊、鈴鳴に向かって解き放つ!

 

「――合成弾! しかも、これは――」

 

 合成弾を操る那須だからこそ気付いたのだろう。彼が解き放ったのはトマホークだと。

 シールドを張って防ごうとしていた熊谷を連れて、彼女は回避行動に移る。

 対して鈴鳴第一は二人がかりでフルガードをするも、炸裂弾の効果で周りの粉塵が立ち込め、遮蔽物が瓦礫となって降り注いでくる。

 

「――目くらましか!」

 

 一撃を加えた隙に、彼はサイドの壁を足場にして屋上へと上がる。

 そして爆煙に包まれた鈴鳴を見据えながら、再び二つのキューブを作り出す。

 

「させるか!」

 

 スコープ越しにそれが見えた太一は、引き金に指をかけて、そして引いた。

 合成弾を作り出す時、メインとサブを同時に使う。すると必然的にシールドは使用不可能となり、強力な攻撃をする反面、隙も大きい。

 しかし太一が見たのは相手の頭が吹き飛ぶ光景ではなく、メインサブを両方使った両防御(フルガード)で己の弾丸が弾かれる光景だった。A級一位太刀川隊の射手である出水が狙撃手を釣り出すためによく使う手であり、単純ゆえに効果を発揮しやすい。

 衝撃と音で片目を閉じていた彼は、グリンと太一の方へと顔を向け――。

 

 ――見 つ け た。

 

 と呟いた。

 

「ひ、ひいぃいい!?」

 

 思わず太一は悲鳴を上げた。顔を青くさせて膝がガクガクと震えている。

 しかし相手は待ってくれず、猛スピードで太一へと迫っていた。

 

「く、来馬先輩! 鋼さん! 助けてくださーい!」

 

 転身させて逃走を開始する太一だが、追いつかれるのは時間の問題だろう。それだけの足の速さがあり、もし逃げ切れようともマップの端に追い込まれてしまう。そうなれば袋の中のネズミだ。そうなれば彼に斬り捨てられるだろう。

 

「俺たちでカバーする! それまで持ち堪えろ!」

「り、了解!」

 

 村上と来馬が急いで彼の後を追う中、彼は通信でとある情報を入手していた。

 月見の言葉に彼は静かに頷き、持っていた弧月を鞘に納めて左手からバイパーのキューブを生成する。

 どうやら早急に太一を仕留めるつもりのようだ。

 サイドエフェクトで弾道を設定し、バイパーを太一へと殺到させる。背後、左右、から弾丸の雨が降り注ぎ、太一のシールドがどんどん削られていき、徐々にダメージが蓄積されていき……。

 

「うわっ!?」

 

 ついに彼のバイパーが太一の足を貫いた。

 結果、太一はバランスを崩して転倒する。

 それを見た彼はタンッと跳躍し、右手にメテオラを生成させてそれを太一無掛けてブン投げた。

 分割無しの最大威力のメテオラ。弾速も射程も無いが、シールドを削られた今の太一相手なら確実に仕留めることができる。

 迫りくる凶弾に思わず太一は目を閉じて――。

 

「バイパー!」

 

 しかし、彼のメテオラは太一に届くことはなかった。

 突如メテオラは、横から放たれた弾丸によって空中で爆発した。

 思わず彼は舌打ちをして、その場から跳躍して降り注ぐ弾丸を避ける。

 

「な、那須先輩!?」

 

 太一は自分を救った那須に驚きの声を上げる。彼女は地面に倒れ伏している太一を無視して、メインサブ両方を使ったフルバイパーで彼を攻め立てる。

 今までの消極的な動きとは一転して、彼が下手に動けないほどの猛攻。

 それを呆然と見ていた太一だったが、ハッと今の自分の状態に気付いてライトニングを支えに立ち上がる。

 今の内に逃げよう。

 そう思っての行動だったが――彼に追い詰められた時点で、足を撃たれた時点で彼の命運は決まっていた。

 グラリ、と太一の視界が揺れ動き、首を斬り落とされたと気付いたのは、己の体の背後に立つ熊谷を見つけた時。

 バッグワームを展開していた熊谷は、振り抜いた弧月を構えると那須を援護するべく自分を追い抜き、その光景を最後に太一は緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

 




話が長くなったので、キリのいいところで。
次回でラウンド3終了です。
なるべく早く投稿する予定です。








あとTwitter始めました。
裏設定とか呟いたり質問に答えたりしようと思っています。

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