勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第38話

 ――少し用事ができたから。はい、これ宿題。

 

 そう言って月見は一枚のプリントを彼に手渡すと、作戦室を出て何処かへと行ってしまった。呆然とそれを見送っていた彼は首を傾げつつ宿題とやらを見る。

 そしてすぐに顔を顰めた。レポート形式で構成されており、サイドエフェクトを使ってもすぐに終わらせることはできそうにないものだった。月見が自分のことをよく理解していて涙が出そうだ。三輪の場合はガクブルである。

 とりあえず食堂で書こう、と彼は作戦室を出た。

 

「試合、残念だったな」

 

 それと同時に聞きなれた声が彼の耳に届いた。

 そちらを見ると、解説を終えて彼のようすを見に来たであろう奈良坂と歌川が居た。

 どうも、と彼がペコリと頭を下げると奈良坂は意外そうに目を細めて。

 

「……それほど堪えてはいないんだな」

 

 と落ち込んでいないのか? と訪ねる。

 奈良坂が心配するのも無理はない。ラウンド1で負けた時、一人で戦う厳しさとA級への険しい道に彼の表情に影が差していたのだ。奈良坂だけでなく、他の三輪隊のメンバーも気にしていたし、しかし優しい言葉は彼には逆効果だと判断したのでその時は見守るだけだった。

 そのことがあり、奈良坂は彼のようすが気になって此処まで来たのだが……。

 切り替えが早いというか前向きというか、彼は既に次の試合に向けての準備をしているようであった。

 余計なお世話だったか、と心の中で苦笑した奈良坂は食堂に行くという彼に着いて行くことにした。解説役を担っていた彼が居れば、客観的な視点からのアドバイスができるからだ。と言ってもあまり口出しをするつもりは無いが。

 歌川もこの後は特に予定が無いのか、はたまたお人好しなのか彼の手伝いを自分から申し出て、三人で食堂に向かうこととなった。

 

「それにしても、良く最後まで粘ったな」

 

 歩きながら歌川は彼にそう言った。

 昔の彼なら相手を倒そうと攻めに出て、そこを突かれることが多かった。

 大規模侵攻前の特別訓練の時もそうだったし、その時はサイドエフェクトを限界以上に使って強引に捻じ伏せていたが……。

 今回の試合を見た歌川は、どちらかというと守りに徹していたように思えた。常に余裕を持たせて相手の攻撃を捌いたり、させないようにしたり、長時間の相対を避けたりと。それでも基本的には点を獲りに行っていたが、ダメージを受けていないことからかなり自分を抑えたのだろう。

 歌川の問いに彼はこう答えた。恐らく参考にしたとある人の影響だろう、と。

 その人は敵を倒すというよりも自分が落ちないように戦っており、最近確認した試合でも興味深い立ち回りをしていた。己と同じ戦闘員が一人なので、自然と注目してしまった。

 

「一人……なるほど、漆間隊か」

 

 納得した歌川は頷き、彼はそうだと肯定する。

 漆間隊の戦い方は彼にとって目から鱗が落ちるような思いだった。完全に模擬できているわけではないが、それでも落とされない戦い方は学ぶことはできた……気がする。

 

「しかし、よく研究しているんだな。月並みな言葉だが、頑張ってくれ」

 

 歌川の激励の言葉に彼は返事をし、内心で呟く。

 

 ――元々は玉狛の戦いを見ていた時に目に入ったんだけど……、と。

 

 

 ◆

 

 

「――後は自分で気付いたところを書けば良いだろう」

 

 奈良坂のお許しの言葉を受けて、彼は凝り固まった体を解すために腕を伸ばした。

 骨の鳴る軽快な音が彼の耳に届いて、どれだけの時間をレポートに費やしていたんだろうかと、ふと食堂に備えられている時計を見る。……意外と時間が経っており、いつの間にかサイドエフェクトでも使っただろうか? とアホなことを考える彼。

 そんな彼の腹部からグー……っと音が響き空腹を訴える。

 

「そう言えば小腹が空いたな……何か、軽い物でも食べますか?」

「そうだな。あまり良い時間と言い難いが、これから俺たちは防衛任務だ」

 

 そう言って三人は席を立ち食券を買い各々軽食を購入する。

 そして先ほどまで居た席に戻ろうとし……。

 

「あ、透くん」

「玲か」

 

 バッタリと、先ほど彼と戦ったもう一つの部隊――那須隊と出会った。

 

 

 

 折角だからご一緒に、と那須のお誘いを受けて奈良坂達三人は那須隊の三人(オペレーターの志岐は帰宅済み)と相席することとなった。

 

「……」

「……」

 

 しかし、彼と同年代である少女、日浦茜は彼のことを怖がっているのか口数が少なく、それを気にした熊谷もつられるように閉口していた。

 だが、決して彼女たちは悪くなく、原因はこの雰囲気を作っている彼にある。

 三輪隊と関わるようになって改善されたものの彼は根っこの部分はぼっちだ。そんな彼がプレイボーイのように女の子と会話できるだろうか? できない。

 異性どころか同性相手にも真面に対応できない彼に、女の子に対して隣の奈良坂のように自然体で居られるだろうか? できない。

 慣れない相手とは目を合わせることができず緊張し、しかしそれを悟られまいと無表情を装うことで生成される亜空間。戦闘時に見せる暗殺者のような冷たさ。先ほどの試合もあり、彼女たちは居心地悪く感じていた。

 

(こ、こわいよー……)

(なんて目をしているんだこの子は……)

 

 手に持ったジュースに集中しているフリをして、ひたすら時間が過ぎるのを待つ熊谷と日浦。チラリと見れば鋭い眼がこちらの心臓を見ている気がして体を縮こませる二人。

 

「さっきはお疲れ様、最上くん」

 

 ちょ、おま。

 思わず自分たちの隊長へと視線を向ける熊谷たち。

 体は病弱でも肝っ玉は凄まじいようで、彼を真正面から見つめている。

 彼はコクリと静かに頷くと、頼んでいたサンドイッチを食べる。

 嫌われちゃったかな? と最後のバイパーを思い出しながら那須が呟くと、奈良坂はいつも大体こんな感じだとフォローする。

 

「それにしても、本当に強いよね最上くん。最後の狙撃も弧月で茜ちゃんごと斬っちゃったし」

 

 那須の言葉を聞いて、日浦は試合後に確認した記録(ログ)を思い出す。

 彼女の撃ったアイビスの弾丸は彼の弧月――旋空弧月で斬り裂かれ二つに別れた。そのうちの一つは彼の腹部に直撃し、彼が落ちたきっかけだと言える。もしあれが当たらなければ……。

 

「あれは俺も驚いたぞ。まだ使う予定では無かった筈だが……」

「予定……?」

 

 奈良坂は……というよりも奈良坂と古寺は狙撃手対策の仮想的として彼の相手をしていた。動きを取り戻して来たとはいえ、それでも狙撃手は彼の天敵である。そこで彼らが月見の頼みで手伝いをし、その際に生まれた一つの技が――対狙撃手のカウンター技だ。

 飛来する弾丸をサイドエフェクトで見切り、その直線上に居る相手を生駒旋空で弾丸ごと斬る。自分に向かって放たれた弾丸は狙いやすく、狙撃をした直後の狙撃手に当てやすい。しかし、死角からの狙撃には対処不可能な少し使い勝手の悪い技だ。

 

 彼から別に話しても良いと許可を得た奈良坂は、那須たちにそのことを話した。

 すると当然と言うべきか、その反則技に彼女たちは驚き、そして呆れた。

 

「なんというか……」

「凄すぎて笑えていくるわ」

 

 

 

「でも、それだけ本気でA級を目指しているってことよね?」

 

 那須のその言葉に、今まで混乱していた彼の頭がスッと整理されていく。

 そして彼女の言葉を理解すると、那須の眼を真っ直ぐ見てそうだと断言した。

 

「……本当は」

 

 那須は、彼の眼を見て何となく理解した。

 何故、試合を終えて自分は彼と話したいと思ったのか。何故、そこまでしてB級に戻ってまで、大規模侵攻で得たポイントを返上してまで這い上がることを選んだのか。

 何が彼をそこまで駆り立てるのか気になっていた那須だったが――やめた。

 

「色々と聞きたかったけど、忘れちゃった。でも」

 

 ――頑張っている男の子に理由なんていらないよね?

 

 綺麗な笑顔を浮かべる彼女の言葉に彼はしばし呆然とし。

 

「私たちも頑張るから、お互い頑張ろうね」

 

 しかし、すぐに目をそらして恥ずかしそうに「はい」と呟いた。

 見惚れていたのを隠すために。

 

(なんか……)

(思っていたよりも……)

 

 怖くないのかもしれない。

 年相応な態度を見せる彼に、熊谷と日浦は先ほどまでの感情は無くなっていた。そして自然と彼を見る目が微笑ましいものとなり、ますます居心地悪そうにする彼に全員クスリと笑った。

 

 ちなみに奈良坂はその顔をこっそりと撮っていたりする。

 それをどうするのかは本人しか分からない。

 

 

 ◆

 

 

『ああ? なんだよヒュースの奴ゲロッたのかよツマんねーな』

 

 本部から知らされた情報を聞いた林藤は、遊真を引き連れてエネドラの尋問を行った。

 彼にアフトクラトルが再度侵略してくるのは本当なのか? と訪ねるとエネドラはこのように述べた。遊真のサイドエフェクトも反応もしないことから、ヒュースから得た情報は信憑性の高い物だということが分かった。

 

「なんで黙っていたの? やっぱり自分の国は大事?」

『は! オレ様を裏切ったあのクソ国家がか? 笑わせんな! オレはあの犬ッコロとは違えんだよ!』

「じゃあなんで?」

『んなもん決まってんじゃねーか』

 

 ――人の心は、時として兵器よりも危険なものとなる。

 今のエネドラはトリオン兵の物だが、彼の機械の眼からはドロリとした()特有の悪意が滲みだしていた。

 

『共倒れさせるためだよ。そうすりゃ、クロノスの鍵も壊れて、ハイレインの野郎どもも死んで万々歳だ』

「――」

『今頃着々と準備が整っていると思うぜぇ。なんせ起動前で見つけたんだ。ワールドトリガー化する前に潰すために、ハイレイン以外の領主たちもこぞって攻めてくるだろうよ。そうなりゃあ総力戦だ。お仲間を大事にするテメエらは全力で戦い、派手に潰し合うだろうよ!』

 

 ギリッと遊真は拳を握り締めた。

 

『何人が死ぬだろうなぁ。何人が黒トリガーになるだろうなぁ。それを見た今代のクロノスの鍵様はどう思う? 聞く限り情に篤い奴だ。嬉々として()()()()()! そうなりゃアフトクラトルも、テメエら玄界(ミデン)も終わりだァ! 全員仲良く地獄に――』

 

 ――それ以上の言葉を、エネドラは続けることができなかった。

 突如彼の頭部から鈍い音が鳴り響き、ギシリッと骨に衝撃が伝わる。

 林藤は、痛む拳を気にせずに下ろして静かに呟いた。

 

「遊真……その拳はとっておけ」

「……うん」

 

 紅い瞳をギラつかせていた遊真は林藤の言葉に従って拳の力を抜いて――素早く振り上げた足をエネドラの頭部にぶつけた。先ほど林藤の拳よりも鈍く、そして重い音が部屋に響いた。それだけではなく、エネドラの頭にはへこみ、機能停止はしていないがかなりの威力で繰り出されたことは窺える。

 

『い……って……!』

「殺しはしないよ。大事な情報源だからね。でも、今日は止めよう。おれもボスも尋問できるほど冷静じゃないし」

「……だな」

『くそ猿どもがぁ……! そもそもテメエらがあいつをさっさと始末しねぇからっ!』

 

 ブツリッとエネドラの臀部から伸びていたコードを遊真は引き抜いた。

 トリオン供給を断たれたエネドラは尚も喚くも、徐々にその瞳を閉じてそのまま眠りに着いた。

 それを確認した二人は部屋を出て、林藤は大きなため息を吐いた。

 感情に任せての自分の行いと、遊真の行動に対しての物だろう。

 

「お前まであんなことしたら、誰が尋問するんだよ」

「大丈夫だよ。記録を消せば良いだけだ。確かボーダーにはその技術があったよね?」

「あー、だから躊躇なく蹴ったのか」

「……まあ、思いついたのは今なんだけど」

 

 そう言って口を尖らせる遊真に林藤は苦笑した。

 彼の白い頭をガシガシと撫でつける。

 

「ストイックな奴かと思えば、案外熱い奴だよなお前」

「それってどういう意味?」

「友達思いってことだよ。修や千佳のためにボーダーに入ったり、アイツのことで感情的になったり、な……」

「……別に普通のことだよ」

 

 ――友達のことをあんな風に言われたら、さ。

 

「……くっ」

「何がおかしいの?」

「いや、おかしいんじゃない。嬉しいんだ。お前()そう言ってくれてね」

「……それはそうとさ。上層部の人たちはなんて言っているの? あの国がまた攻め込んでくるなんてよっぽどのことだと思うけど」

「んー……正直どうしようも無いな。というかできることが少ない。戦力増強、トリガーの改造……色々と考えてはいるみたいだけど、元々していたことだしな」

「そりゃあそうだよね」

「ただ……向こうの捕虜――ヒュースが面白いことを言って来てね。それの判断次第では、なんとかなるかもしれない。まあ、城戸さんたちが受けるとは思えないが……」

「……?」

 

 首を傾げる遊真に、林藤はニヤリと笑みを浮かべて「特別だぞ?」と言ってとあることを教えた。

 それを聞いた遊真は徐々に顔を驚きの表情へと変化させて、次には不機嫌なものへと変わった。不満を隠さず、伝えただけである林藤に対して厳しい声で問うた。

 

「それって大丈夫なの?」

「さあな……まあ、意外となんとかなるんじゃないか?」

 

 お前を見ているとそう思うよ。

 林藤のその言葉に遊真はますます不機嫌になった。

 

 

 ◆

 

 

「では、ボクはこれで。今日はありがとうございました」

「うん。次の試合も頑張ってくれ」

 

 そう言って頭を下げる修の視線の先には嵐山隊の皆(佐鳥は居ない)が居た。

 次の試合に備えるべく、烏丸に無理を言った修。弟子の願いを聞き届けた彼はこうして銃手の専門家である嵐山たちの元へと訪れたのだが……。

 

「……」

 

 何故か木虎は終始機嫌が悪く、修に指導をする嵐山達に対して「甘い」と断言するほどだ。

 しかしそれも無理もない、と修は思う。

 現在嵐山隊は多忙な時期であり、そんななか修の相手をするのはよっぽどのお人好しであり、嵐山達はそのお人好しである。

 大規模侵攻を被害者ゼロという快挙をなしたせいか、ボーダーに入隊を希望する民間人が増えたのだ。結果毎月入隊式を行うことになり、嵐山隊はその対応に追われている。

 なお、秀一の勇姿を収めた映像も原因の一つだったりする。

 

 

 修はもう一度頭を下げて次の目的地へと向かった。

 目的地は太刀川隊の作戦室であり、そこに居る出水公平から合成弾について学ぶためだ。

 

 ラウンド3にて5点を獲得しB級6位まで上がった玉狛第二。そんな彼らが次に戦うのはB級1位二宮隊、B級2位影浦隊、そしてB級7位の――最上隊だ。

 当然相手のことを知るべく過去の試合をチェックした修だったが、どれも一筋縄では行かないことが分かっただけで、はっきり言って勝ち筋が薄い。特に最上隊――最上秀一は天敵と言える。

 遊真のグラスホッパーを用いた機動戦は秀一のサイドエフェクトの前では意味をなさず、人を撃てない千佳は彼の的でしかなく、修は地力で負けている。

 彼を仮想敵にした訓練をしているため、すぐに落とされないと思うが……それでも足を引っ張っていることは自覚している。菊地原にもその点を指摘されている。

 そのため、以前の試合で秀一や那須が使っていた合成弾を習うべく修は太刀川隊へとやって来た。

 手に持った土産を確認して、修は呼び出しボタンを押す。

 すると、中から声が聞こえて扉が開く。

 

「はいはいどちらさま……ってお前は確か」

「あっ、どうも初めまして。ボクは玉狛第二の……」

「知ってる知ってる。迅んとこの後輩の三雲修だろ? っで最上のライバルである男――ってな」

「あ、いやそれは……」

「まあ入れよ三雲。出水は今珍しいお客さんと会ってて……ああ、そうだ自己紹介してなかったな」

 

 そう言って男は――個人総合一位の男は己の名を名乗った。

 

「俺は太刀川慶。どうぞよろしく」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべて彼はそう言った。

 

 

 

 

 

「へえ、合成弾をねえ……」

「はい。ある試合を見た際に気になって」

(ある試合ねぇ……)

 

 ()()()()意識しているなぁ、と訓練を申し込んできた一人の少年を思い浮かべて太刀川はますます笑みを浮かべた。迅とバチバチやり合っていたのを思い出しているのだろう。彼は力に対して貪欲な奴は好きだ。それが復讐のためにしろ、友のためにしろ。

 

「ただ、あれはセンスがいるらしいぞ? 今までの試合を見る限り、お前じゃあ使いこなせないと思うがな」

「それは……」

「まあ手っ取り早く強くなるには新しい技を覚えるのが早いわな。最上もそうしていたし」

 

 太刀川はそう言ってカラカラと笑った。もし木虎がこの発言を聞けば「それが当てはまるのは極一部です!」と強く反論しただろう。嵐山も動きが固くなるからおすすめしないと言っていた。

 

「あの……太刀川さんは最上と何度も戦ったことがあるんですよね?」

「おう、あるぞ。なんだ? 弱点でも知りたいのか?」

「いや、そうではなくて……。太刀川さんは、あいつがA級を目指す理由を知っていますか?」

「……さあな」

 

 ふと、太刀川は笑うのを止めて息を吐いた。

 彼のその態度を見て何か知っていると思ったのか、修がさらに追及しようと試みるも――。

 

「――三雲。そりゃあ気になるのも分かる。だがな、あいつが風刃を手放して、B級戻るってことは――よっぽどのことだとは思わないか?」

「それは……」

「玉狛の連中から聞いたから知っていると思うが……あいつは大事な人を手放したんだ。お前の近くにも、それと同じことをした人間が居るだろう?」

 

 迅は遊真の入隊と引き換えに風刃を本部に渡した。

 並大抵の覚悟ではできないことであり、その時に彼がどう思っていたのか――。

 それは本人しか知らないし、他人がズカズカと立ち入って良い話ではない。

 

「……そう、ですね」

「まっ、別にそこまで辛気臭い顔して悩む必要はないさ。お前は全力でアイツとぶつかってやればいい」

 

 アイツを気にかけている、他の奴らみたいにな。

 

 太刀川の言葉に修は「はい!」と力強く答えた。

 

(やっぱりA級一位の人は凄いな。言葉の一つ一つに力がある)

 

 加えて、顎に生えた髭が太刀川の成人した顔つきと相まって知性ある男性に見えてきた修。

 ボーダーの頂点ともいうべき場所に居る男の言葉は力強い。

 目の前の男が戦闘しかできないことを知らずに……。

 

 そんな風に考えていると訓練室から三人の人間が現れた。

 一人は修が会いに来た出水公平。何故か彼は頬に冷や汗を垂らして居心地悪そうにしている。

 もう一人は太刀川隊の隊服を着た修の知らない少年。名を唯我尊。何故か彼は顔を青くさせて目に涙を溜めている。

 最後の一人はオペレーターなのだが……纏う雰囲気が刺々しく顔つきと相まって正直怖い。

 彼女……三輪隊兼最上隊オペレーター月見蓮は鋭い視線を唯我に向けると。

 

「あと一週間死ぬ気で頑張りなさい」

「……はい」

 

 そう言うと静かに退室すべく扉へと向かう。

 その際に修と目が合ったがすぐに逸らされて、彼は思わず呼吸を止めてしまった。

 

「……お邪魔したわね、太刀川君」

「は、はい」

 

 一位の男が思わず敬語になるほどの怒気を撒き散らしてこの場を後にした。

 

「……今日はこれで失礼します」

「お、おう。まあ、頑張れよ……?」

「……はい」

 

 そして唯我も続いて退室し、残ったのはどんよりとした雰囲気だけ。

 

「……何があった?」

「……三輪隊の面子は過保護だってことが分かりました」

 

 出水の言葉に太刀川は首を傾げ、修もまた訳が分からず混乱した。

 しかし気を取り戻して出水に声を掛ける。

 

 合成弾を教えて貰って、遊真や千佳の足手纏いにならないように。

 


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