勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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久々の更新


第39話

 

 ラウンド4まで、数日の猶予が生まれた。

 その間、対戦相手の情報を集めつつ修行し、暇な時間を見つけては防衛任務に赴いている。

 特にこれと言った変化はない――彼はそう思っていた。

 

「……」

 

 彼の視線の先にはA級一位の部隊に身を置いている男――唯我尊が居た。彼との防衛任務は気を遣う必要が無いので、こうして組んだ日は伸び伸びと仕事に励むことができる――そう思っていたのは昨日まで。

 いつもなら、場を和ませるための会話を繰り広げる唯我だが、ここ最近の彼はそういう素振りを全く見せない。真面目になったというか、殺気立ったというか、必死というか……。

 

 何かあったのだろうか?

 疑問に思い、心配する程度には親交のある相手だ。それに、日頃から良くしてもらっているので、聞いてみようかと考えるも――どう声をかけようかと悩む彼。

 

 そもそも、こういう経験が皆無――相手が居なかったから。無情――なのだから、変に緊張して、色々と考えてしまう。

 もしかして、自分が近界民(ネイバー)を狩りまくっているから給料を貰えないと不満に思っているのでは?

 もしくは気づかないうちに失礼なことをしたのではないか?

 悶々と彼の中で思考がループしていき、さてどうしたものかと唯我と二人揃って悩む。

 

(ゲート)が発生したよ~。誤差は1.2。二人ともすぐに現場に向かって貰っても良い?』

 

 そんな時、門が開いてトリオン兵が現れた。

 サイドエフェクトを使ってなかったからか、珍しくオペレーターの指示に彼は従い、未だに悩んでいるであろう唯我に声をかけようとして――。

 

「何をしているんだい? さっさと行くぞ最上くん!」

 

 すでに現場へと向かっていた。

 ……どうやら仕事には支障がないようだ。

 とりあえず次の部隊との交代まで集中しよう。

 気を取り直した彼は、唯我の後を追ってトリオン兵を殲滅するべく駆け出したのであった。

 

 

 

 

「納得できません」

 

 ピシャリッと女性の冷たい声が会議室に響いた。

 女性――月見蓮は氷のような射貫かれた者が凍え死んでしまいそうな視線で、己を呼び出した上層部たちと対峙していた。

 

「先日頂いたメール――アフトクラトルの捕虜ヒュースを最上隊に入れるなど、正気とは思えません」

 

 珍しいな、と反論を続ける月見を見て沢村は思った。

 常に冷静沈着である彼女のこのような――新たに入った隊の長のために激情を表に出すのを見るのは、彼女が新人時代以来だ。

 それだけ彼のことを大事に思っているということであり、しかしだからこそ月見は上層部の命令を受けるべきだ。

 

「そう怒らないで欲しいなぁ月見くん。これもボーダーのためなんだ」

「そしてこれは最上を守るためでもある。そう憤慨するな」

 

 根付、鬼怒田が月見を諭す言葉を発し、それに続くように城戸が口を開いた。

 

「……もちろん、何も対策をしないというわけではない。ヒュースにはエンジニアたちが開発した特殊なトリガーを常時付けて貰うことになっている。いざという時には、こちらでしっかりと対処するつもりだ」

「……その対策とは?」

「こちらの操作一つで強制的にスリープモードにし、緊急脱出(ベイルアウト)が発動する。そうなれば、彼は独房へと送還され、コードを入力しない限り永遠に眠り続けることになる」

「彼がトリガーを外した場合は?」

「――その可能性は低いだろうが……一応自分で取り外せないようにしている」

 

 ――やはり、納得できない。

 先ほど聞かされたヒュースが最上隊に……ボーダーに入隊を希望する理由。

 彼が()()()()性格なら理解はできる。

 しかし、何故上層部は取引に応じたのだ。

 これでは、まるで――。

 

「――あなたたちは、そこまでボーダーという組織が大切なのですか?」

『――!』

「組織を守るためなら、今まで必死に――いや、今もなお頑張っているあの子を切り捨てるのは訳もないということですか?」

「――口を慎め月見! 貴様は事の重大さが分かっておらんのだ!」

 

 ダンッと鬼怒田は力強く拳を机へと振り下ろした。

 激昂した彼の顔は真っ赤に染まっており、どれだけ激しい感情を抱いているのかを妙実に表していた。

 

「この作戦が成功しなければ、ボーダーだけではない――この地球という星そのもの危険に晒されることになるのだぞ!?」

「大勢の人を救うためなら、彼の命は安いと言うのですか!?」

「価値の良し悪しではない! それに、貴様の言う()()は奴が最悪の場合であって――」

「――落ち着きたまえ、二人とも」

 

 激論を交わす二人を止める城戸。

 両者共にまだ言い足りないのか、肩で息をして興奮している。

 こうなることが分かっていたのか、城戸は特に態度を乱さずに冷静に月見に述べた。

 

「とにかく、これは既に決まったことだ。ヒュースは一般人と同じように次の入隊式から入って貰うことになる。その後、B級になり次第最上隊に入隊……」

「……」

「……それと、当然ながら彼にヒュースが近界民(ネイバー)であることは極力バレないようにしてほしい。

……これも彼のためだ。分かってくれるな? 月見隊員」

「……失礼します」

 

 

 席を立ち、この場を去っていく月見。

 そんな彼女を見送りながら、今まで静観していた忍田本部長は深いため息を吐いた。

 やるせない、と思う。

 彼女の怒りは当然のものだ。しかし、それを受け止めるだけの余裕が、今のボーダーにはない。

 

(だが……)

 

 このままではダメなのだ。

 あの時のような惨劇を繰り返すわけにはいかない――。

 

 重い空気が会議室を包み込んだ。

 

 

 

 

 防衛任務を終えて唯我と別れた彼は、真っすぐと三輪隊の作戦室へと向かっていた。

 これから米屋と模擬戦をする約束をしており、そこで面白い物を見せてやると彼からそう伝えられたのだ。

 その面白いものが割と気になっていた彼は、少しだけ周囲に対する注意が散漫していた。よって、曲がり角からやってくる人物に気づかずに衝突した。

 ドンッと強い衝撃が伝わり彼の体が少しだけ揺らいだ。どうやらぶつかった相手が急いでいたのか走っていたようで、彼と衝突した相手は尻もちをついていた。

 

「いてて……どこ見てんだコラ!?」

 

 彼が助け起こすよりも早く相手は起き上がり、その男は絡んできた。

 白い隊服を着ていることからC級隊員のようで、加えて彼を見て恐れないことから最近入隊した新人だということが分かる。

 彼よりも背が高いことから年上らしく、立ち上がったC級隊員もそのことに気付いたのか上から睨みつけながら凄んできた。

 

「なに突っ立ってんだボケ。舐めてんのか、ああ!? 正隊員だからって調子乗ってんじゃねーぞ!?」

 

 どうやら彼は正隊員に対してあまり良い感情を抱いていないらしい。

 自分が上にいけないことから来る妬みか……。

 加えて、先ほどゴッソリポイントを搾り取られて苛立ちも募っているようで、八つ当たり気味に彼に声を上げている。

 対して彼は……。

 

「――」

 

 ――無心になっていた。

 この三門市に来る前までは、特に珍しくないことだった。

 言っては何だが、彼の故郷は治安が悪く家に引き籠っていなければカツアゲ件数が凄いことになっていただろう。

 そもそも、治安が悪い原因が祖父だったりするが……。

 話を戻すが、彼はこういうガラの悪い輩に絡まれた時は、サイドエフェクトを使って時間の流れを速めて、無心でやり過ごすことにしている。何を言っても、何をしても相手を刺激するだけなのだから、こうやって無抵抗で居れば大抵の相手は気味悪がって自分から離れていく。

 ……結果、不良に目をつけられてぼっち化に拍車が掛かった訳だが。

 

「何無視してんだゴラァ!? 調子乗ってるとぶち殺すぞ!? ちょっと強くて有名だからって――」

「――テメエが調子乗ってんじゃねーか」

 

 しかし、今回彼は運が良かったらしい。

 またはボーダーの隊員はお人よしが多いと言うべきか。

 突如C級隊員は背後から現れた男にグイッと肩を掴まれ、そちらを見た瞬間――。

 

「――は?」

 

 首が落ちた。

 伝達系を切断されたトリオン体は、そのエネルギーを維持することができずに解除され、C級隊員は何が起きたのか理解できずにその場で尻もちをついた。

 一瞬だけ感じた首の違和感から斬られたことを察すると、それをしたであろう男を睨みつけようとして――顔を青くさせた。

 

「て、てめえは……!?」

「ツマンネーことしやがって。見苦しいからさっさとどっか行けや」

 

 ボサボサした黒い髪にギザギザな歯。そして全てを斬り裂かんばかりに鋭い目でC級隊員を見下ろすのは――B級二位影浦隊、隊長影浦雅人。

 こちらを見上げる男に、影浦は何かを感じ取ったのか舌打ちをする。

 

「……ホントーにツマンネーことしやがって」

「な、何がだ影浦! そもそも、こいつが俺に――」

「あ? オレのこと知ってんのか? だがんなことどーでも良い。さっきも言ったが――」

 

 ――とっとと失せろ。

 ドッと冷や汗を流した男は、起き上がるとその場から走って行った。

 それをもう一度舌打ちして見送ると「女々しい奴」と吐き捨てる。

 

「……んだよ。何か言いてぇことでもあるのか?」

 

 そして、何時の間にかサイドエフェクトを解いてこちらを見ていた彼に対して、居心地悪そうに声を掛ける影浦。

 どうやら()()()()()をくすぐったく思っているらしく、彼の礼の言葉に対しておざなりに対応した。

 感情受信体質。それが影浦のサイドエフェクトだ。

 他人が自分に向ける感情を触感で感じ取ってしまう副作用。

 

「……なァ、最上。てめェ何で……」

 

 ――そこまで言って、影浦は言葉を飲み込んだ。

 彼から感じ取れる感情が突如薄れ――かと思えば嵐のように乱れる。まるでテレビのチャンネルを滅茶苦茶に替えているような……。

 それを受けた影浦は舌打ちを一つ。

 

(少しはマシになってるかと思ったが――やっぱ根っこの部分は変わらねえか)

 

 彼から感じ取れる感情を、影浦は言葉にできない。

 無理矢理言葉にするなら最も近い感情は恐怖だが……一秒後には諦め。次に焦燥。怒り。羞恥。憎悪――とコロコロ変わる。

 まるで己の本心を全く関係ない感情でコーティングしているかのようで、影浦は正直なところ、彼のことを不気味に思っていた――ふと触れた彼の本心に気づくまでは。

 

(他人に対しての諦め……このクソガキの奥底にあるのは、復讐とかそういうモンじゃねえ。理由は知らねえが、こいつは何故か他人と関わることに意義を見出していねえ)

 

 肝心なところで彼は自分の心に蓋をし、さらにその上から様々な感情という名の布で包み込む。もしこのことに気づかなければ、影浦は彼のことを機械人間か何かだと勘違いしていたのかもしれない。

 

(そして何故か戦闘の時は濃い意識を向けてくる……普通逆じゃねえのかねえ)

 

 これでは、まるで彼にとっては戦闘が日常、日常が非日常だと言っているようなものだ。

 もしそれが正解なら人を信じないのも納得できる。

 影浦は、それを自分の思い込みだと断じたようだが。

 

 ――つまり、結論から言うと。

 

「どうせ三輪隊んとこ行くんだろ? 暇だし送ってやるよ。代わりにいい加減うちの店来いや」

 

 影浦雅人は、どうにもこの少年のことが気に入らないらしい。

 女々しく自分の殻に籠るのも、何度誘っても実家のお好み焼きを食いに来ないのも――。

 

 

 

 

「なんとまぁ、敵も大胆なことするな」

 

 ボーダー内に設けられている食堂にて、迅は周りを()ながらそう呟いた。

 彼のサイドエフェクト『未来視』は目の前の相手の少し先の未来が視える。その能力をもってボーダー内にいる隊員を視たところ、どうにもきな臭いことが起きそうであった。

 かと言って、そこまで酷い未来ではない。

 人がたくさん死ぬ未来は見えず、かと言って攫われるということもない。そしてそれは街の住人に対しても言えることで……だからこそ、迅は疑問に思っていた。

 

「この未来は別に最悪ってわけじゃない――」

 

 ()()だけを見るなら、いままで通りに動けば良いのだろう。

 だが、経験が……長年連れ添ったゆえに感じる経験が言っていた。

 

 

「――この未来の先にある……未来が最悪だ」

 

 平穏な日常の裏に隠された未来を想い……今日も彼は未来を視る。

 




次回、ランク戦に入ります。

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