どうやら他人視点を物凄く期待している人が多いようで。
なので、もう少し焦らすことにしました。(笑)
まあ、冗談はさておき。
後二話ほど主人公視点の話を投稿して原作前に行ったら、そこで他人視点を挟もうと思っています。
それまで楽しんでください
時は移ろい七月末。
彼の通う中学校が長期休暇――つまり夏休みに突入した。
宿題をサイドエフェクトを有効に使い、それらを一日で終わらせると、彼は大きなバックに荷物を詰め込んでいった。
帰省である。
彼の祖父が夏休みの間には帰って来いと懇願したために、彼は最初の一週間を向こうで過ごそうと決めたのだ。
そのためにシフトに希望休を書き込んだのだが……やはりいきなり一週間空けるのは迷惑のようで、彼は忍田本部長に呼び出されてしまっていた。
彼は何とか説得したが、いつもは温和な表情を浮かべる彼が難しそうな顔をしていたので、少し申し訳なく感じていた。管理職も大変なのだろう。
それを察して彼はこちらに帰って来た後のシフトを少し増やしておいた。
さて、彼の実家は県外である。
電車で一時間、バスで三時間の少し長い道のりだ。
サイドエフェクトを使える彼の前では特に問題ないが。
四時間の長旅を終えて帰って来た彼は、祖父に迎えられる。
がっしりとした体格の厳ついじいさんだ。
「秀一。よくぞ帰って来た!」
普段はおかしな服装をする祖父だが、今日は普通の和服だった。
久しぶりに会う孫を力強く抱きしめる祖父だが、男で十五歳の彼にとってはキツイお出迎えだ。
なんとか抜け出して、二人は居間で向かい合ってお茶を飲みながら世間話をした。
両親に自分のことを報告していないか。
ちゃんと自炊はできているのか。
勉強は着いて行けているのか。
友達はできたのか。
……ボーダーで変な奴に絡まれていないか。
心配性の祖父は矢継ぎ早に聞いて来て、彼は曖昧に答えることしかできなかった。
もし正直に答えれば連れ戻されることは想像に難しくない。
しかし流石は十五年間彼を育ててきたからか、何となく察した祖父は苦笑して言った。
もう無理に引き留めることはしないし、連れ戻さない、と。
彼が決めたことなら、自分は全力で応援すると言った。
その結果、彼が怪我をしようと、人道を外れようと……そして死んでしまっても。
親として最悪なことを言っているが、彼自身が決めたことなのだから、尊重したい。
でも、辛くなったり、投げ出したくなったら、遠慮なく帰って来い。
祖父はそう言うと、にっこりと優しい笑みを浮かべた。
そう言われた彼は、胸に込み上げてくるものがあり、目頭が熱くなる。
だが、何となくそれを見られるのが恥ずかしく感じた彼はただ一言こう言った。
じいちゃんよりも早死にする気は無い、と。
それから一週間彼は祖父、そして飼い猫と共に夏を満喫した。
スイカを食べ過ぎて腹を壊したり。
手に持った花火が祖父の長い髭に点火して大騒ぎしたり。
祖父の友人がやって来てバカ騒ぎしたり。
この時間だけは、彼はぼっちである自分のことを忘れることができた。
◇
彼のトリオン量は平均よりも多い。
従って回復するまでの時間がかかり、シフトを組む際は十二時間は空けなくてはならない。以前朝と昼ぶっ続けで防衛任務を組もうとしたら、それは無理だと鬼怒田開発室長に怒られたことがある。
よって、彼は意外と暇な時間が多いのだ。学校が無い分それは増し、ここ最近は自宅でボーっとすることが多い。
普段なら、彼はこのままサイドエフェクトを使って時間を飛ばすのだが、先日の祖父の言葉を思い出して止めた。何故だか祖父の心遣いを裏切っているような気持ちになったからだ。
彼はこのまま時間を浪費するなら、訓練でもしようと本部へと向かった。
C級の時は訓練を面倒だと思いB級を目指し、B級の今では時間を有効に使おうと訓練をする。
あまのじゃくと言うか、はたまた彼も成長していると言うか。
それでも未だに友達ができていないのは、もはや呪いだと感じていた。
本部に着き、ランク戦室に来た彼は視線を受ける。
もはや慣れ切ったそれらを無視してブースに入ろうとした彼を、呼び止める者が居た。
「あっ! 最上先輩!」
彼は一度足を止めたが、振り向こうとはしなかった。
明らかに彼を呼んだ声だったが、過去の経験から不用意に振り向こうとしなかった。
以前、急に背後から呼ばれて「久しぶりー」と言われた彼は振り返った。相手の顔に見覚えは無く、しかし向こうが知っているのかもしれないと思った彼はそれを返した。しかし実際には彼の後ろに居た別の人に向けてのものだったようで――苦い思い出だ。
だからと言ってこのまま立ち去るのもリスクが高い。実家に居る祖父もこれには苦笑い。
「無視しないでくださいよ最上先輩!」
しかし今回は彼のことだったようで、腕を引かれて再度声を掛けられた。
これで何の憂いも無いと振り返り……身に覚えのない顔に首を傾げた。
「もー。最上先輩あの日以来ランク戦に来ないから、ちょっと心配してたんですけど」
目の前に居るのは彼よりも年下であろう少年だ。
言動から活発の印象を受けるが、彼はそれどころではない。
相手はどうやら自分のことを知っており、尚且つ会ったことがあるご様子。
彼は全く心辺りが無いが
彼は脂汗をかきながら、灰色の脳みそをフル活用させる。
だが思い出せない。
「あれ? 珍しいなモガミン。こんな所に来るなんてよ」
そんな彼を救う神が居た。
三輪隊の米屋陽介だ。
彼はテクテクとこちらにやって来ると、よっ! と手を上げて挨拶する。
「お前、緑川と知り合いだったんだな」
「知り合いも何も、最上先輩は俺の目標の一人なんだけどね!」
初耳である。
米屋のおかげで過度な緊張が解けた彼は、緑川と呼ばれた少年を問い詰めようとする。
「あっ、そう言えば二人とも。今暇?」
「あん? まあ、今日は防衛任務は無いし、三輪曰くモガミンは夜から防衛任務だからそれまで暇なんだろうけど」
しかし緑川の勢いには勝てなかったようだ。
それはそれとして、何故三輪は彼のシフトについて知っているのだろうか。
これは後に分かったことだったが、シフトを
そんなことを知らずに、話は進む。
どうやら緑川は混成部隊によるチーム戦に、二人を誘いたいらしい。
米屋は面白そうと言って快く了承し、彼を見た。
緑川も何処か緊張したようすで彼を見ている。
断ろうにも断れない。
彼は渋々頷いた。
すると緑川はパアァ……と表情を明るくさせると一言お礼を言って人の集まっているところへと走っていった。
「良い傾向だな」
どういう意味だろうか。
米屋の言葉に彼が首を傾げていると、大きなどよめきが響く。方向的に緑川が走って行った方である。米屋は軽い足取りでそちらへと向かい、彼は重い足取りで着いて行く。
「マジかよお前緑川……あの最上を連れてきたのか!」
「え? 何か悪かったの諏訪さん?」
「いや、悪いと言うか何というか……全くお前は……」
そこでは正隊員が集まり、彼へと視線を向けていた。そこにあるのは困惑と驚き。
B級諏訪隊の諏訪など言葉にしており、同じくB級荒船隊の荒船は緑川に対して呆れ半分に戦慄していた。
B級同士のチーム戦に釣られてやって来た周りのC級隊員たちも、彼が参加するや否やざわざわと騒ぎ出し、中には携帯片手に何処かの誰かと連絡する者までいる。
「まっ、というわけで、俺たちも混ぜてくださいよ諏訪さん」
「別に構わねえが……」
「合わないな。人数が」
ここに集まった人数は九人。
元々二つのチーム戦をしようと考えていたので、必然と一人余る。
それを穂刈は指摘するも、同じ隊の半崎がそれならば三つ巴ならどうか? と提案した。
「人数合わせにまた人探すのダルいし」
「んじゃ、さっさとチーム分けて――」
「――諏訪さん、俺たちもそのランク戦混ぜて貰っても良いか?」
その提案に彼は不満はないようで、それで行こうと話が終わり、じゃあチーム分けは……となったところで待ったを掛けた者が居た。
遮られた諏訪は誰だと思い視線をそちらへと向けると――意外な人物の登場にポロリと咥えたタバコを落としそうになった。
それはギャラリーも同じようで、先ほどの騒めきはさらに大きなものへと肥大化していった。
黒のロングコートに身を包み、肩には己の隊の証であるエンブレムが刻まれている。顔に浮かぶのは、これから起きる戦いに対しての高揚感。
――A級一位太刀川隊隊長。太刀川慶。
「いやーはっはっは。いきなり押しかけて来てすみませんね諏訪さん。ぼんち揚食います?」
そう言って手に持った菓子を勧めるのは、特徴的なサングラスを首にかけ、暗躍と女性の尻が趣味と宣う胡散臭い男。
――実力派エリート迅悠一。
「……」
そして最後に現れたのは、不機嫌そうな表情を浮かべた小柄な男。しかし漂わせる空気は歴戦のそれであり、事実彼はこの中でトップクラスの実力を持つ人間だ。
――A級三位風間隊。風間蒼也。
その豪華すぎる人物の登場に周りは騒然とし、諏訪は何が起きているんだと混乱していた。
「迅さん!? どうして此処に!?」
「そりゃあ、おれだって本部に顔を出すよ」
子犬のようにじゃれついて来た緑川にそう言うと、迅は一瞬彼を見た。
当の本人は処理落ちして無表情に立ち尽くしているが。
しかし、迅の彼を見るその眼は、未来を見通す男のそれではなく、むしろ真逆の――。
「おいおい迅さん。今度は何を企んでるんだ」
「いやいや。おれも四六時中暗躍しているわけじゃないよ。ただ、太刀川さんがごねて、ノーマルトリガーかつ一戦だけなら許可してくれたってわけ」
「はっはっはっは」
その太刀川は何故か額に青筋を立てているが、大丈夫なのだろうか? と質問した荒船は心配する。
これは絶対何かある。
この場に居た全員がそう思った。
「……一戦だけだ。それ以降俺たちは邪魔をしない」
「……まっ、しゃあねえか。四つ巴にすれば良いしな。じゃあ、早速チーム分けんぞ」
堅物である風間が何も言わず、迅に同調している。
それを見た諏訪は追及することを止めて、改めてチーム分けを行うことにした。
「おいおいマジかよ、A級トップクラスも参加するのかよ」
「俺知ってるぞ。あの人昔太刀川さんとライバルだった人だ」
「マジかよ。俺此処にいて良かったわ」
「おい、早く来いよ! 今からおもしれえもの見れんぞ!」
場の興奮が最高潮に達する中、彼は呆然としつつこう思った。
――なんか、凄いことになっている。
大人しく家に居れば良かったと思わずにはいられない、彼であった。