勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第42話

 分割されて放たれた誘導炸裂弾(サラマンダー)は、秀一たちの頭上にある木々をその驚異的な破壊力をもって爆破していく。総合二位・二宮が造り出したその魔弾は轟音と衝撃を周囲に響かせながら秀一たちを襲う。

 障害物となって降り注ぐ木片、それらに混ざって爆滅せんと襲い掛かる合成弾。爆風によって晴れた霧の代わりに視界を埋め尽くすそれらを見て――二人は動いた。

 

 秀一の視界がモノクロに変わり、己の世界のみへと意識を飛ばす。遅くなった時の中、彼が狙うのは自分を脅かす火の粉だ。それらを振り払うため彼はサブトリガーにセットしてあるバイパーを起動。最低限の威力と十分な速度と射程に割り振れた弾丸をできるだけ多く分割。そして解放。

 迎撃するために放たれた彼のバイパーは、二宮の誘導炸裂弾(サラマンダー)と激突し、爆発。確かに二宮の放った合成弾は強力だ。生半可なシールドでは防ぐことなどできず、そのまま吹き飛ばされてしまうだろう。しかし、その触れた物を爆破させる性質を逆に利用すればどうだろうか? 自分を吹き飛ばす前に誘爆させてしまえば良い。そのためには襲い掛かる全ての弾丸を撃ち落とす必要があるが、体感速度操作のサイドエフェクトを持っている彼からすれば造作もない。秀一は次々と火蜥蜴の名を冠する弾丸を無力化させていった。

 

 一方遊真はと言うと、彼は秀一のように撃ち落とすための射程が無い。唯一の攻撃用トリガーはスコーピオンのみ。これらを使って触れたら爆発する魔弾を斬ればどうなるかなど子どもでも分かることだ。かと言って足を止めてシールドで防ぐにはあまりにも凶悪すぎる。ゆえに、遊真に残されている選択肢は『回避』のみ。メイン、サブ両方のグラスホッパーを起動させて、遊真はすぐさまその場から離脱する。

 

「――! 追ってくる……ゴウセイダンというヤツか」

 

 先ほどまで立っていた場所を吹き飛ばす光景と、曲線を描いて追いかけてくる弾の性質から遊真は修の言葉を思い出す。太刀川隊の射手・出水公平から教えて貰った射手だけができる強力無比な手札の一つ。映像を見たり、話を聞いただけではいまいち理解できなかったが、今こうしてその力の一端を見せつけられると否応にもその厄介さを実感できる。

 

「仕方ない。ここは一度態勢を立て直すか」

 

 遊真としてはこの混乱に乗じて秀一を討ち取っておきたい所だが、それをするにはこの爆撃の雨が苛烈すぎる。

 バッグワームを起動させてハウンドの特性であるトリオン反応を探知して追跡する機能を無効化し、グラスホッパーと木々を使ってサラマンダーの効果範囲から離脱した。

 そして迂回しつつ合成弾を撃ったであろう敵へと向かって突き進む。

 

(で、これを撃ったのは……)

 

 今回の試合で合成弾を扱えるのは二人だけ。一人は先ほどまで斬り合っていた秀一。そしてもう一人は二宮匡貴。先日玉狛支部に訪れていたのを覚えている遊真は、その時見た長身の男を思い出しつつ、厄介な状況になったと内心舌打ちをする。

 このまま突っ込んでもすぐに獲れるとは限らない。地の利は遊真にあるが、それでも先ほどの大質量の弾幕を浴びせられてしまえば、いくら障害物があるとはいえ……。

 ベストなのは秀一と二宮をぶつけさせて消耗したところを掻っ攫うか、その間に取れる点を取りに行くかだが……。

 

(それは向こうも同じこと。どっちかが此処から抜け出そうとすれば妨害し、そこをさっきみたいにニノミヤさんが横から撃って来る……)

 

 チラリと遊真は秀一が居る方へと視線を向ける。自分に向かって襲い掛かる爆撃を次々と撃ち落としていく様は流石としか言いようがない。視界が悪い中よく正確に狙えるものだ、とため息が出る。

 遊真がバッグワームを展開したからか、誘導炸裂弾(サラマンダー)のほとんどは秀一の方へと襲い掛かる。密度が上がったのを実感したのか、秀一は額に冷や汗を垂らして右手の弧月も抜いた。旋空を放って捌き切れない弾を落としに行く。

 つまり、それだけ余裕がなくその場から動けないということだ。

 遊真はすぐさま近くに潜伏している千佳へと通信を繋げる。彼女は現在比較的高い巨木の太い枝の上に陣取っている。そしてその巨木は遊真たちの戦場から僅か20mの位置に――しかも二宮を挟んだ場所に居る。本来なら見つからないように移動するべきなのだが、彼女の右方向には遊真が発見した二宮隊の二人が居り、転送位置がマップの端だったためエリアオーバーになる可能性があった。ゆえに、修の指示の元こうして静かに身を潜めていたのだが……。

 

「そっちの方はどうだ?」

『霧で良く見えないけど……レーダーを見る限り交戦中だと思う。数が少ないからバッグワームを使っているんだと思うんだけど……』

 

 その報告を聞いて遊真が思い出すのは、今回の試合の要注意人物の一人、影浦雅人。ランク戦室で見せたスコーピオン……一目見ただけではよく分からなかったが、今まで戦ってきた隊員たちの中でもトップクラスの実力を持っていると言ってもいい。そんな相手が身を隠している現状を彼は不気味に思っていた。

 

『ねえ、遊真くん。やっぱり私が撃った方が良いんじゃ――』

「いや、今撃っても誰も取れない。いたずらに場所がバレるだけだ」

 

 修がやられたことを気にしているのか、千佳は自分の砲撃で一気に逆転しようと提案するも遊真はそれを却下した。今戦場に残っている者たちの中に、千佳の派手な砲撃を避けれない愚鈍な輩は居ない。もし今彼女が狙われたら遊真も不利になる。

 

「でも、撃とうと思ったのは良いことだ。一歩前進だな、チカ」

『う、うん。ありがとう……』

 

 言葉では礼を述べられるが、その声には申し訳なさでいっぱいだった。

 どうやら自分が人を撃てないことを気にしているらしい。こればかりは本人の問題なのですぐにどうこうできる問題ではないが……。

 

(……さて)

 

 爆撃が止み霧の晴れた方角を見る。幾つもの木片が地面に散らばり、しかしその中央に立つ秀一の周囲にはポッカリと空間ができていた。どうやら全ての誘導炸裂弾(サラマンダー)を捌き切ったらしい。

 しかしそのせいで相手の接近を許してしまったらしく、遊真が向けるその視線の先には、アステロイドを展開する二宮と弧月を構える秀一が対峙していた。

 

 

 

 

『二宮隊長の誘導炸裂弾(サラマンダー)が戦場の一角を吹き飛ばすも、これを最上隊員、空閑隊員それぞれ退けた!』

 

 モニターには威風堂々と佇んでいる二宮が映し出されており、観覧席は興奮に包まれていた。彼らが期待していた通りに、戦場では各々の技が繰り出され、戦況が一転二転と変わる様は見ていて面白い。

 

『別の戦場では影浦隊の絵馬、北添隊員が二宮隊の犬飼、辻隊員と交戦中!』

『最上たちの方の戦場も実質膠着状態に陥っているな。バッグワームで身を隠している空閑の奇襲を警戒して、どちらも踏み込めないでいる』

 

 風間の解説通り、二宮と最上は互いに牽制しつつも空閑の動きに注意している。それが分かっているのか、空閑も飛び出さずに位置を変えて様子を伺っている。

 

『それぞれがA級の力を持っているだけに下手に動けないようね』

『だが、時間が経てば経つほど最上が疲弊し二宮が競り勝つ。そうなれば次に狙われるのは空閑だ。先ほどまでは地の利があったが、あそこまで破壊し尽くされるとそれもほぼ無い』

 

 そうなると射程の無い空閑は二宮の弾幕に押し潰されて削られてしまうだろう。

 風間も加古もモニターを見ながらそう評し、二宮もそれが分かっているのか長期戦を見越した戦い方をしている。

 このまま進めば風間たちの言う通りの展開になるだろう。

 

 ――しかし。

 

『でも、今回は違うみたいね』

 

 そんな展開はつまらない、と言わんばかりに一人の男がその戦場に強襲を仕掛けた。

 

 

 

 

「――アステロイド」

 

 四角錐に分割されたアステロイドが獲物に向かって解き放たれる。

 それを同量のトリオンが注ぎ込まれたバイパーが彼の元から離れ、魔王の弾丸を受け止める。しかし弾の性質の差か、二宮のアステロイドの幾つかは彼のバイパーに削られつつも突き進む。

 それを横に跳んで躱しながら、彼はノーマル旋空を放つ。

 と言っても彼はこの斬撃が当たるとは微塵も思っておらず、現に二宮は余裕を持って回避した。シールドを使わないところから見ると完全に見切られてしまっているようだ。太刀川と訓練していたのも理由の一つだろう。二宮からすればライバルの剣技が数段落ちたようなものだ。彼からしたら悪夢そのものだが。

 

 それにしても本当にやりにくい、と彼は破壊されていない周辺の木々を盗み見る。奇襲と横取りを警戒しつつ、総合二位の相手をするのは相当な集中力が必要だ。その気になれば二宮は両攻撃(フルアタック)ハウンドでこちらの動きを制限し、シールドをぶち抜く弾丸を撃ってくるのだから手に負えない。それをしないのは空閑の存在があるからだが……現状最も劣勢なのは彼だ。

 もし空閑がこの戦場を後回しにして点を取りに行けば、二宮はすぐに彼を片付けるだろう。空閑を止めようとすれば背後から撃たれるか、逆に斬り殺されるか……。先ほどの空閑の動きを見た彼は、森の中で相手をしたくないと思った。いくら時間を遅くして見切ることができるとはいえ、視界から消えたらそのままズバッと首が落ちる。

 さて、どうしたものか……と彼が現状を打破するための策を考えていると、視界にとある人物が現れた。その男は、先日自分を助けてくれた先輩で、でもすんごい怖い人だ。

 その男――影浦はバッグワームを解除すると、手に持ったスコーピオンを背後から二宮に向かって投げつけた!

 

「――!」

 

 オペレーターの警告が聞こえたのか、元々予想していたのか。二宮はシールドで奇襲を防ぎ、振り向きざまに弾丸を放射! それを影浦は軽い身のこなしで避けると、もう一つのスコーピオンを展開して接近。そのまま勢いを利用して下から上へと斬り上げた!

 

「ガキ相手に威張ってそんなに楽しいか、二宮ァ?」

「影浦……!」

「久しぶりにオレと遊ぼうぜッ!」

 

 シールドを変形させて何とか受け止めるも、いつものすまし顔に陰りを見せる射手の王。

 それに対して鋭い牙をむき出しにして喰らい付く狂犬。

 ギリギリと音を立てて刃と盾がせめぎ合い、力が拮抗する。

 しかし二宮としては、このまま張り付かれるのはごめんだ。にも拘らずこうして影浦の距離で居るということは――。

 

 突然の乱入者に呆然としていた彼は、上空から降り注ぐ弾丸を視界に捉える。

 その弾丸は彼と影浦を穿とうとそれぞれの対象に突き進む。

 いったいいつの間に? と疑問に思う彼だったがすぐに気づいた。先ほど影浦に放ったハウンド。速度があったためにアステロイドだと思っていたが、それは勘違いだったのだ。二宮が放ったハウンドは弾丸速度に割り振ったハウンドだ。速度に割り振られたハウンドは追尾性能が著しく落ちるが、このような時間差攻撃ならば有効!

 彼はすぐさまシールドで防ぎ、影浦もサイドエフェクトで何となく分かっていたのか舌打ちをしつつも後方へと下がってシールドを展開。

 

「ちっ!」

「……俺に奇襲をするなら、もっと上手くやるんだな」

 

 二宮はそう言うと、アステロイドを展開し――振り向いて背後へと放った。

 

「おっと」

 

 それを木々から飛び出した空閑はグラスホッパーを使って回避し、地面へと着地する。

 奇襲に失敗し姿を見せた空閑はバッグワームを解除して、いつでも動けるように構える。攻撃手にとってバッグワームはシールドやグラスホッパーを使うのに邪魔だ。こうして表に出た以上展開する必要はない。

 空閑は警戒しつつ口を開く。

 

「やっぱりバレていたか」

「影浦が気にしていたようでな」

 

 どうやらつば競り合いになった時に、影浦が二宮の背後を気にしていたことを見抜いていたらしい。いや、もしかすると気づかせるためにそうした可能性がある。

 

『乱戦になってしまったわね。こうなると、この場を切り抜けないと点を取りにいけないわよ』

 

 サイドエフェクトを解いた彼の耳に月見の言葉が届く。奇襲の心配が無くなった以上、少しでも回復するために意識を元の時間へと戻したのだろう。

 彼は深く息を吸い、大きく吐いた。

 視線の先には総合二位、№4攻撃手が勝ち越せない元ランカー。新星の如く現れた白い悪魔。そんな彼らに勝てなければ点を取れない。そしてその点も一筋縄ではいかない実力者たち。

 

 ――今回も厳しい戦いになるな。

 

 知らず知らずのうちに彼は笑みを浮かべ――視界が再びモノクロへと変化した。

 

 

 

 

(遊真くん……!)

 

 一方、試合開始からずっと潜伏していた雨取千佳は、己の手にある狙撃銃を持って葛藤していた。

 このまま何もせずに居るのは嫌だ、と。しかし人が撃てない自分はただの足手まといだ。遊真もそれを指摘しており、今回彼女得意のアイビスの砲撃は、このマップのせいで役に立たなくなっていた。

 

(修くんが頑張ったのに、遊真くんが頑張っているのに……!)

 

 もう何もしないで後悔するのは嫌だ。

 自分で何とかしたい。自分で兄や友達を助けたい。その思いでボーダーに入り、大規模侵攻では戦うことができた。

 彼女に必要なのは『覚悟』だけ。

 

「――ッ!」

 

 そして今。その覚悟が試される時が来た。

 彼女は狙撃銃を持ち替えて走り出した――自分たちの隊が勝つために。

 




多分次でラウンド4が終わると思います。

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