勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第46話

「――通達は以上だ。各員、準備に取り掛かってくれ」

 

 会議が終わり、それぞれ動き出した。

 自分の隊員たちに報告しに行く者。己の仕事に取り掛かる者。シフトを見直し、今回の試合に参加できる部隊の選別に取り掛かる者……。

 そんななか、三輪も自分のできることをしようと席を立つが……そんな彼に絡みに行く青年たちが居た。

 

「よう三輪。最近お前の弟分大活躍じゃないの。やっぱりお兄ちゃんとしては嬉しい?」

「太刀川さん、あんまりからかわないの」

 

 迅と太刀川だ。

 彼らは、三輪にとって苦手な部類の人間だ。それが二人揃って絡みに来るなど、以前の彼だったら我慢ならないことだったが……。

 三輪は、あくまでお気楽な二人にため息を吐き、視線を迅へと向ける。決して、太刀川のからかいの言葉にイラっと来たからではない。相手をするのなら、こっち()の方がまだマシだと思ったからだ。

 

「迅」

「ん? なに?」

「今回、本当にあのバカには何も無いんだな?」

 

 会議中に何度も確認されたこととはいえ、気になることは気になる。

 「あれー。俺は無視ですかー?」と総合一位がボヤいているが、三輪の耳には何も聞こえなかった。

 問われた迅は、笑みを浮かべて肯定した。

 

「うん、大丈夫。そもそも、人が死んだり連れ去られたりすることが無いからね。それだけは確定している。だから、安心してくれ。もし何かあれば、おれが助けに行くよ」

「……いつもの『おれのサイドエフェクトがそう言っている』と言う奴か?」

「――いや、()()()そう言っているんだ」

「……」

 

 かつて、三輪は迅の言葉を信用できなかった。

 おれのサイドエフェクトがそう言っている――果たして、そんな言葉を信じられようか? それが正しいことなのかどうかを知るのは迅のみで、もしそれが嘘だとしても他人は気づくことはできない。

 しかし、今の彼の言葉は――。

 

「――ふん。以前のような情けない姿を見せたら、蹴飛ばすからな」

「……おう!」

 

 秀一が記憶を失い、そのことを後悔していた迅だったが――今の彼は幾分か表情が晴れやかだった。

 全てを背負い、暗躍を続ける迅にしては珍しいその姿に、傍から見ていた嵐山はホッとする。誰かが、迅の心の取っ掛かりを払ったのだろうか。なんにしても、落ち込んでいなくて安心する嵐山であった。

 

「お? なんだなんだ? お前らいつの間に仲良くなってんの?」

 

 無視されて少しだけ落ち込んでいた太刀川が、面白いものを見つけたかのように顔を輝かせて再びからんでくる。それを三輪は迅に押し付けることで逃れ、己はさっさと部屋から逃れようとする。背後から「迅と三輪と最上で三人兄弟?」と彼にとって聞き逃せない単語が聞こえたが……ここで反応すれば太刀川の思う壺なので我慢して歩を進めた。

 

「秀次」

 

 そんな彼に声をかける者が居た。

 東だった。先ほどまで談笑していた沢村から視線を移した彼は、三輪の顔つきを見て一つ頷く。噂で不安定な状態な時期があったと聞いていたが……見る限り健康そうであった。

 

「久しぶりだな」

「はい」

「……前より、良い顔をするようになった。どうだ? 今度焼肉にでも行くか? 三輪隊の皆や……最上も誘って」

「……はい、ありがとうございます。あいつも、喜ぶと思います」

 

 表情は変わらないが、彼の声は穏やかなものだった。

 そんな彼を優しい瞳で見る東の横で、沢村が「いいなー」と焼肉に行く彼らを羨ましそうに見ていた。

 それを盗み見た迅は、忍田を誘えば良いのにと考え――垣間見た未来に人知れず涙を流した。

 まぁ、あれだ。想い人の前でバクバク食べるのは、控えた方が良い。後でそれとなく伝えようと迅は暗躍することにした。

 

(――まっ、その前に次の相手を集中しないとな)

 

 なにせ、どのような相手なのかも分からないのだから。

 

 

 

 

「ふん、来たか」

 

 開発室へとやって来た最上隊一同。そんな彼らを招き入れたのは鬼怒田であった。遠征部隊が持ち帰ったトリガーを解析しているのか、開発室内は騒がしく、エンジニアたちが目元に隈を作った状態でパソコンを操作していた。

 月見曰く、最後の仲間が此処に居るとのことだが……こんなに忙しいのに引き抜いても良いのだろうか? そんなことを考える彼だが、鬼怒田は部屋の奥を示すと。

 

「奥の方で雷蔵の奴と遊んでおる。さっさとあの小僧を連れて行け」

 

 一瞬、もしかして新しいメンバーは雷蔵なのかと思っていた彼であったが、鬼怒田の口ぶりから察するに違うようだ。彼らは鬼怒田に言われた通りに部屋の奥へと進む。その際に、月見がお土産に持ってきた和菓子を渡しておく。それを受け取った鬼怒田はフンッと鼻を鳴らすだけであったが、何となく喜んでいるように思えた。

 

「失礼します」

 

 ガチャリと扉を開くと、そこにはパソコンを覗き込む雷蔵と以前此処で見かけた青年が居た。

 

「……なるほど。つまり、グラスホッパーはこういう構造をしているのか」

「そうそう。ちなみに、此処のシステムが無ければトリオンの流れが乱れて上手く跳べないんだ。その辺はメテオラとかレイガストのスラスターと同じだね」

 

 どうやらトリガーについて談義しているようだが、彼からすれば何がなんやらさっぱりだ。

 とりあえず話しかけづらいので、月見にはどうにかして貰いたいところ。

 そんな彼の願いが届いたのか否か、月見が一歩前に出て雷蔵の名を呼ぶ。

 

「雷蔵さん」

「ん? おぉ月見さんか。そうか、そういえばもうそんな時間か」

「……」

 

 彼女に呼び掛けられて振り返る雷蔵。月見の……というよりも彼の姿を確認すると、彼らが来た目的を知っているのか頷きながらそう呟いた。雷蔵の隣にいる青年――ヒュースはジッと彼を見つめる。視線を送られた彼は居心地悪そうにし、落ち着かない模様。

 

「月見さん、もしかして……」

 

 そんななか、先ほどの鬼怒田の発言を聞いていた唯我は、最上隊に加入する最後の一人が目の前のヒュースだと気づいたようだ。

 月見は、彼の言葉にそうだと頷いて、己の隊長に紹介した。

 

「最上くん。彼はヒュース・プロドスィア。雷蔵さんの部下で、名前から分かる通り……」

「うん。彼はカナダ人なんだ。それで、今回君を呼び出したのは――」

「――オレを最上隊に入れる、という話だ」

 

 直球に、ヒュースは用件を述べた。

 まるで最上隊に入るのは確定しているかのような言い方に、彼は少し戸惑う。しかし、月見が反対していないことから、ヒュースを入れるのに間違いはないのだろうと判断する。

 だが、これは困った。

 彼は、生粋のぼっちだ。日本人の友達を作るのに苦労するのに、外国人と上手く行けるのだろうか? それに、外国人は日本人と比べてフレンドリーと聞く。そのノリに着いていけるのかが不安だ。

 しかし、それらの感情を表に出さず、彼は握手をしようと手をあげようとして――。

 

「――ちょっと待ってくれ」

 

 唯我の言葉に止められた。

 彼と同じように戸惑いの表情を浮かべていた唯我は、前髪をかきあげると不遜な態度で目の前のヒュースに視線を送る。

 あ、これメンドクサイ奴だ。そう思った彼はそそくさと後ろへと下がった。長年培われた処世術である。

 

「きみ、年齢(とし)はいくつだい?」

「16だが」

「ふむ、同い年か……。だが、それは関係ない!」

 

 だったらなんで聞いたのか? と思ったが彼は口にしなかった。

 

「僕たち最上隊に必要なのは、上を目指す向上心と絶対的な力だ!」

 

 それを聞いた彼は目を丸くさせた。視線を月見に向けて、そうなの? と尋ねる。

 彼女はそうなんじゃない? と何処か投げやりに応えた。

 そういうことらしい。そういうことになった。そういうことなんだ。

 

「その点、君はどうだい? 何を思ってエンジニアから転向して、我が最上隊に入ろうとするのかは分からない。それは個人の自由だ。かく言う僕も、A級一位太刀川隊から移って来た身――」

「御託は良い。用件を言え」

「なに、簡単なことだ。君の力を僕たちに見せて欲しい。ただそれだけだ――最上隊に相応しいかどうか、ね」

「ほう……」

 

 蚊帳の外に居る最上隊隊長の彼は、どんどん進んでいく展開に着いて行けなかった。

 というか、唯我さん絶好調じゃないですか? 太刀川隊に居た時と変わらないな。

 そんなことを思いつつ、とりあえず状況を見守ることにした彼。なんだかんだ言って、ここまで自分の隊のことを考えてくれている唯我を嬉しく思っていたり……。

 それに、どうやら相手も乗り気な模様。表情は変えていないが、声質から何となく感じ取れた。

 

「良い機会だ。オレもライゾウ相手だけでは不満に思っていたからな。それに……この組織のトップの部隊の実力も、気になるしな」

「ふふふ……君に現実を教えてあげよう。前線に出ている隊員()がね……」

 

 来たまえ、訓練室で戦おう。

 そう言うと、唯我はヒュースを連れてその場を後にした。置き去りにされた月見と彼は追いかけるべく歩を進めるが、その前に一つ気になったことがある。彼は、雷蔵へと振り返り、こう尋ねた。

 彼、どのくらい強いんですか? と。

 まるでヒュースが強い人間だと分かっているかのような口ぶりに、雷蔵はニヤリと笑みを浮かべてこう答える。

 

 ――久しぶりに戦って、楽しいと思えるくらいには……と。

 

 

 

 

「む……? なんか騒がしいな」

 

 基地内で迷ってしまった空閑は、次の対戦相手である柿崎国治の案内の元個人ランク戦室へと辿り着いた。しかし、その目的地が何やら騒がしい。

 その場に居る周りの隊員たちはモニターを見ており、とある模擬戦を見ている。空閑は何となく入隊したての頃を思い出し、自分も習って視線をモニターへと向ける。そこには……。

 

 ヒュース○○○○○○○

 唯我  ×××××××

 

 と示されており、どうやら一方が一方に圧勝しているようであった。ただ、その模擬戦をしている人物の名前が問題だった。

 

(ヒュース? ヒュースって……)

 

 その名に見覚えのある空閑は、何故彼がこんなところで模擬戦をしているのか疑問に思う。林藤から聞いた話では、()()()()開発室から自由に出れない筈なのだが……。

 そんな風に思っていると、突如頭部を力強く掴まれる。そしてそのままギリギリと圧迫されていき、トリオン体の空閑は「むお!?」と声を上げた。

 いったい誰がこんなことを……そう思って振り返ると……。

 

「よぉ……空閑ァ」

「あ、カゲウラ先輩」

「テメェ、オレ無視して何してんだ?」

 

 どうやら、道に迷って遅刻し、着いた後も影浦の元に行かず試合を観戦したことに一言申したいらしい。

 それはつまり、自分よりもこの試合を長く見ていることで……。

 

「ねぇ、カゲウラ先輩。あれって……」

「あぁん? あのつまんねー試合がどうしたんだ?」

「いや、つまんないって……」

「見りゃあ分かんだろうが。あの外国人が、相手イジメてるだけのクソつまんねー試合だ。

 さぁ、もう良いだろう。さっさと戦るぞ」

 

 そう言うと影浦はランク室へと空閑を引っ張っていく。

 ヒュースが此処に居ることが気になっている空閑だったが、これでは仕方ないと判断して頭の隅に置いておくことにした。それに、監視役くらいは居るだろうと思ってのことだった。

 それに、これ以上グダグダしていると、目の前の先輩に首を飛ばされるかもしれない。

 空閑は思考を切り替えていつも使っている部屋へと向かった。

 そんな彼に視線を送っている者が居たことに気づかずに。

 

 

 

 

「……」

「? どうしたの、最上くん?」

 

 視線をあらぬ方向へと向けていた彼に、隣の月見が声をかける。彼は何でもないと首を横に振り、モニターを見る。予想通りというか何というか。結果はヒュースの圧勝で、終始唯我は動く的と化していた。

最上隊に入るためにここ最近は真面目に自分を鍛えていた唯我は、弧月一本で完封されたことにショックを受けているらしく目元から涙が零れ落ちていた。……後でそれとなく慰めよう、と思った。

 

「おい、なんだあの外国人。あんな奴居たか?」

「というか、あれって唯我先輩だよな? 惨敗じゃん」

「やっぱりあの噂って本当だったんだな。コネでA級一位に入ったって言うの」

 

 ……周りから嘲笑の言葉が聞こえた。視線をチラリと向けてみると、あまり見かけない隊員……つまり交流のない隊員だった。しかしそのこと自体はどうでも良い。

 問題は、彼らの言い放った言葉。彼らの言っていることは……本当のことだ。太刀川や出水たちから聞いていたし、本人の反応を見れば事実だということも分かる。つまり、彼らの言っていることに間違いはない。

 では、何故彼はあの隊員たちに視線を向けて――イライラしているのだろうか?

 単純な理由だ。自分の仲間をバカにされたからだ。彼とあの隊員たち、どちらが正しいかと問われればあの隊員たちだろう。だが、それでも――。

 

「――やめておきなさい」

「……」

「その行為は、ただの自己満足。本当に唯我くんのことを考えるのなら我慢しなさい。

 だから、そのトリガーは仕舞いなさい」

「……」

 

 月見に諭されて、彼はドカリッと席に着いた。

 彼女の言葉の意味を理解している。納得はしていない。

 それでも、今は月見の言葉を信じることにした。

 そんな彼を見て、月見を優しい笑みを浮かべた。

 

(意外な顔もあるのね……)

 

 フフッと笑う月見に、彼は頭上に疑問符を浮かべた。

 そうこうしているうちに、ランク戦を終えた唯我とヒュースが出て来た。

 

「ふ、ふふ……け、結構やるようだねヒュース君。認めよう、君は強い。僕たち最上隊は歓迎するよ」

「貴様は鍛え直した方が良い。このままではただの足手まといだ」

「な、なに!? ぼ、僕の力はチームプレイで発揮されるんだ! し、知ったような口をきくのは――」

 

 意外とメンタル強いなぁ、と唯我の強さに感心する彼。

 というか、あの二人もう仲良くなってね? このままだとチーム内であぶれてぼっちになりそうなんだけど。ほら、小学校の時に班を作ったら自分だけ疎外されて――。

 やめよう。これ以上は心が砕ける。

 忌々しい記憶を封印し、彼はお疲れ様ですと労いの言葉を送る。そして月見は……。

 

「唯我くん、メニュー五段階くらい上げるから」

「そんな!?」

「当然でしょう。大方、チームに入れて浮かれていたのでしょう。次の試合まで時間が無いのだから、ビシビシ行くわよ」

「は、はい……」

 

 メニューとやらに心当たりは無いが、とりあえず唯我のご冥福を祈る彼。それに、強くなって貰えばバカにされない……そのためにも頑張って欲しいものだ。

 

 とりあえず、ヒュースの実力は……全てを見ているわけではないが、動きから察するに一般の隊員よりも動けるのは分かった。観戦していた隊員たちもそのことに気づいているのか、ひそひそと囁いている。

 

「最上関係か?」

「それっぽいな。もしかして隠し玉か?」

 

 ……彼にとって聞き捨てならない言葉が聞こえたが。まるでトラブルメイカーか何かみたいな言い方だ。

 納得いかないと心の奥底で思っているとヒュースがふと零した。

 というよりも、既にヒュースのことがバレている件について。早くも関係性を疑われている。試合は隊室でした方が良かっただろうか。

 

「問題ない。この剣のことしか広まらないだろうしな。その点は、唯我に感謝している」

「そ、そうかい? まぁ、先輩として当然だ」

「……フン」

 

 皮肉が通じないのか、あえて流しているのか……前者だろうな。

 というよりも、ヒュースの言い様から察するに、彼にはまだ知られていな手札があるようだが……。

 ともかく。

 

 彼は改めて手を差し出して言った。唯我先輩共々、頼りにしている、と。

 ヒュースはそれを一つ見ると無言で、彼の手を取った……。

 




というわけで、最後の隊員はヒュースでした。
まぁ、バレバレでしたけどね(汗)

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