ヒュースは裏切り者だ。
仕えるエリン家の為に、彼はアフトクラトルを裏切った。主君に顔見せ出来なくても良い。自分がどう思われようともうでも良い。ただ、主君が生きてくれれば──喜んで泥を被ろう。
だからこそ、裏切り者の意味を持つ『プロドスィア』を自分に刻み込んだ。
『何故だ! 何故オリジナルであるお前がアフトクラトルを裏切る!』
過去の自分と同意義である存在が罪を問いかけてくる。巨大な車輪が壁や床を削りながらヒュースへと襲いかかる。 それに対してヒュースは回避を選んだ。
自分の記録を植え込んでいるとはいえ所詮はトリオン兵。余裕を待って安息地帯に身を入れて、サブに入れているトリガーを発動させる。
「バイパー」
ボーダーでも類を見ない大きさのトリオンキューブが形成され、分割され複雑な軌跡を描きながらラービットHへと殺到する。
弾道を複雑にしたのは、相手に対応させてどの程度動けるか分析する為。倒すためではない。
『小賢しい!』
ラービットHは分厚い両腕を掲げてバイパーの雨を受け止める。弾痕が残るが、突破されない。その事を学習したラービットHは、備えられた固有能力を発動させて磁力片をヒュースへと放つ。しかしそれを見てもヒュースに危機感は無かった。
先程のように軌道を見切り、安息地帯にトリオン体を動かし回避する。そして拳を床につけた。
「エスクード」
彼が発動させたのは消費トリオンが高いが、その分硬い盾トリガー。
しかし今回ヒュースが使ったのは相手の攻撃を防ぐ為では無い。このトリガーの特徴には硬い以外に、接している地面や壁から作るというものがある。
つまり、廊下というこの狭い空間においてエスクードは
『なっ』
ラービットHの右足の下から壁がせり上がり、バランスを崩して転倒。そこに天井からエスクードが降りてその巨体を挟み込んだ。
「オレの心情を機械相手に語っても意味がない。だから、過去のオレに言おう」
弧月を手に持ったヒュースが走り出す。
「オレは変わらない。昔からずっと」
そして、トリオンを注ぎ込み、力一杯振り下ろした。
◆
別の戦場では、ラービットRが東隊攻撃手二人と香取隊と戦闘を行っていた。
戦況は……ラービットRが有利。
『オリジナルの
「いちいちムカつくわね……!」
空けた空間に移動し、ラービットRの砲撃を避けては攻撃を繰り返す彼女達だったが、先の戦いでこちらのトリガーの性能を分析したのか的確に防ぎ、そして反撃してくる。
香取がグラスホッパーで近付こうとした時など、まるで彼女の動きが分かっているかのように対処してみせた。
機械的だが正確な攻撃。人の様な判断能力。
ラービットだということを差し引いても、やり難い相手だった。
「ふひー。前の侵攻の時よりも明らかにツエーな」
「下手に動けば撃たれる。警戒しろよ」
ラービットRの放つ砲撃をエスクードの影に隠れてやり過ごしながら、東隊二人は機会を伺った。
そしてトリオン体の内部通信で奥寺が香取隊へと繋がる。
『で、どうする香取。このままだとジワジワ削られるだけだと思うけど』
『……』
沈黙を返す香取。そんな彼女にチームメイト二人がさらに言葉を掛ける。
『葉子。奥寺の言う通りだ。やっぱり増援が来るまで退き気味に戦った方が良い』
『そ、そうだよ葉子ちゃん! このままだとあの時みたいに──』
「うるっさいわねぇ……そんなの私が一番分かっているわよ!」
雑音を払い除けるかのように香取が叫び出し、ハンドガンでアステロイドをぶっ放す。
それを腕で防ぐ姿を見ながら、彼女は近付きスコーピオンを発動。
そしてそのまま懐に入り込み斬りかかる。
「葉子ちゃん!」
「あのバカ……!」
香取の無謀とも取れるその行為に若村たちが思わず声を上げ、東隊は弧月を抜いていつでも援護ができるように構える。
しかし彼らの心配をよそに、香取はすぐに懐から抜け出して若村たちの元へと下がった。
「おい。よう──」
「アイツのシールド、正確だし硬い」
言葉を遮る香取の手には、刃こぼれしたスコーピオンがあった。分厚い腕を潜り抜けても、その先には正確無比に展開されるシールドがある。突破するには、巧い連携かシールドを無視できる程の威力を持ったトリオン攻撃が必要。
だが、それよりも気になるのは……。
「アンタ、トリオン兵にしては臆病ね」
『ほう?』
「よ、葉子ちゃん?」
突然、ラービットRに話し掛ける香取に、三浦がいきなりどうしたと声を掛ける。
しかし彼女の視線は目の前のトリオン兵に向けられており、それを受け止めたラービットRもまた興味深そうに目を向ける。
「その角のお陰と言う割には、機械的。でもトリオン兵にしては正確過ぎる」
『元々性能が良いからな、ラービットは』
「──違和感あるのよ」
飄々と受け流すラービットに、香取は嫌な事を思い出したのか顔を歪めながら吐き捨てる。
「
「え?」
それが本当なら厄介だと。
それが本当なら《彼》を相手にしている、と。
『……』
「似ているのよ……夏に私をボコボコにしたアイツと同じ……」
「それって……」
「もし、そうなら──」
『アイツとは、クロノスの鍵の事か?』
ラービットRの問い掛けには確信があり、そして香取の沈黙が答えを出していた。それと同時に彼女の中で浮上して仮定が現実へと昇華し……大きな舌打ちが戦場に響く。
「最悪……」
『まぁ、そう言うな。こちらも苦労したのだ。──クロノスの鍵のサイドエフェクトを再現するのは』
「はっ。何言ってんの。アイツのサイドエフェクトだから、再現できたんでしょ」
アフトクラトルは、大規模侵攻前から彼の存在を知っていた。さらに戦いで彼のデータは充分に取っていた。故に、香取の言うようにこの結果は当然と言えよう。
体感時間操作……ではなく。
伝達経路に過剰なトリオンを注ぎ込み、処理能力の爆発的な向上。それを補うのは人格を再現する角に付けられたデータだ。
『止まって見えるぞ、貴様らの動き!』
『トリオン反応増大。みんな、回避して!』
染井の警告に全員が一斉にその場を動いた。それと同時にラービットRから幾多ものレーザーが放たれる。その数、一人五本。
それを冬島が設置したスイッチボックスで転移したり、二人で集中シールドを展開して防いだり、グラスホッパーの高速移動で回避したりとそれぞれ行動する。
だが……。
「華、被害状況は?」
『三浦君は右腕。若村君は左足。小荒井くんと奥寺くんは掠っただけ』
「そう」
左腕を吹き飛ばされた香取が、ラービットRを睨みつけながら報告に耳を傾ける。
厄介な力が相手に渡ったものだと、香取は内心毒づいた。
『もっと粘ってくれよミデンの戦士達よ。オレはまだまだ戦える!』
まるで人間のように笑い続けるラービットRの声は、廊下の先まで響いた。
◆
そして──。
『ならば、お前はもうヒュースではない』
ラービットRに備え付けられているシステムを、ラービットHが付けていない筈が無かった。
ラービットHを捉えていたエクスードが破壊され、駆け出したヒュースに向かって車輪が襲いかかる。
まるで、聞きたいことはもう聞いたから、用済みだと言わんばかりに。
「ちっ」
足を止め、回避するヒュースだが……バチンッ! と何かが弾かれる音が右腕から響いた。
視線を向ければ磁力片。まさかと思い振り返れば、先ほど回避した磁力片が浮き上がりこちらに向かって襲い掛かって来た。
「エスクード!」
ヒュースを包囲するように壁が迫り上がるのと、磁力に引き寄せられるのは同時だった。壁に激突したヒュースの耳に、壁越しからたくさんの衝突音が届く。
だが、彼が気になるのは反対側の壁にいる己の模擬ラービット。明らかに動きが変わった。さらに磁力片の扱いも上達している。
思考が巡る中ヒュースは磁力片が付いた腕を斬り落とし、しゃがむ。それと同時に車輪がエスクードを根こそぎ刈り取った。
『ミデンのノーマルトリガーでは、このオレには勝てない。──せめて潔く散れ裏切り者』
ヒュースに向かって磁力片が雨霰のように襲いかかった。
◆
「ハウンド!」
王子隊攻撃手の樫尾が放つハウンドが、敵に喰らい付こうと襲いかかる。
しかし、間に現れたヒトと同じ形をしたトリオン兵アイドラたちに阻まれてしまう。
それを見てならば接近戦だと近付こうとするが……バシャリと水音がしたかと思うと、物陰からスライムが襲いかかる。
「チッ!」
それを見た樫尾はグラスホッパーで空を跳ね、十分な距離を保って回避する。
民家の屋根に降りた彼の元に、通信が入る。
『あまり前に出るなよ樫尾』
『隊長。でも』
『王子の言う通りだ。それに、あのスライムとこちらのブレードトリガーは相性が悪い』
王子隊は、人型近界民を見つけると同時に攻撃を開始したが攻めあぐねていた。
相手のトリオン兵の扱い方がうまいと言うのもあるが、スライムトリガーの特性によるところが大きい。
スライムで覆われた弧月は攻撃能力を失ってしまう。
故にこうして三人別れて敵を囲むように陣取り、退き気味に戦っていた。
『多分、アレに触れるとまともに動けなくなる』
『だろうな』
『しかし、地の利はこちらにある。焦る必要は無い。連携を取って、何もさせず、逃さないようにすればこちらが勝つよ』
『樫尾、了解です』
『蔵内、了解』
慎重に動く王子隊を見て、スライムトリガー『黒壁』の使い手コスケロはため息を吐いた。
敵の狙いは何となく理解している。そしてそれに付き合わせる事が相手の目的。
しかしそれを無視して仕事を全うしようとすれば、遠慮なく背中から撃つ準備をしている。
このままだとレギンデッツの負担が増える一方だ。
故に、彼は。
「レギー。もしこのままだったら……」
レギンデッツに一つの指示を出した。
◆
「未来……結構動いているなー……」
「何だ? また未来が変わったのか?」
「と言うか、視える未来が増えたって感じかな」
ゲート誘導装置がある部屋の前にて、四人の男女が居た。
迅悠一。太刀川慶。小南桐絵。村上鋼。
全員が攻撃手としてボーダーの中でも高い実力を誇る隊員達。敵の狙いである装置を守る最終防衛ラインだ。
当初はこのメンバーに秀一が追加される予定だったが、連携の拙さが前回行われたランク戦で露呈し、基地内部で暴れて貰っている。
ちなみに、そのランク戦を見た太刀川と出水は揃ってため息を吐いたという。
それはともかく。
気になるのは迅の言葉の意味。
「突破されるのか?」
「さぁね。それはおれ達次第だな」
「だろうな」
「無駄口はそれくらいにしたら? 来たわよ」
小南の視線の先にある壁に穴が空き、そこからガロプラの戦士達三人が侵入はしてくる。
先回りされる事は読んでいたのか、それほど驚いていない。
「さて……俺に風穴開けるのはどいつだ、迅」
「あの真ん中の人だよ」
「──っ」
『隊長。これは……』
『情報が漏れている……?』
『詮索は後だ。まずは──』
ガトリンは、振り向きざまにシールドを展開する。次の瞬間、ギャリッと削れる音が響きシールド越しに風間の瞳と相対する。
それを見たラタリコフとウェン・ソーが迎撃に出るが、素早い身のこなしで風間は回避し太刀川達の側まで後退した。
「随分とこちらの事を調べて来ているようで……だが、この先に行くには少し辛いぞ?」
太刀川が笑みを浮かべて弧月を構える。それに続くように他の面々もトリガーを構えた。
対してガロプラもまた、戦意を滾らせる。
「アレを使う。やるぞ」
「了解」
「了解」
ガロプラの面々もトリガーを起動させて戦闘態勢に入る。さらに、彼らの顔にバイザーが装着された。
それを見た迅が反応を示す。
「みんな、気をつけろ」
「……」
「あのバイザーで……一気に未来がヤバくなった」
引き攣った笑みを浮かべて、思わず迅は毒づいた。
──アフトクラトルの皆さん、研究熱心すぎでしょうに。
未来を変える為、迅は風刃を構え直した。
皆さんお久しぶりでございます。
この度、厨二なボーダー隊員とコラボをし、そのコラボ最終話に更新しようとして失敗したカンさんです。
今までお待たせしてすみません。匿名という仮面を剥がされて風邪ひいて更新遅れました。嘘です。
他にも色々と作品を抱えてしまっていますが、更新していきたいと思います。